第11話 役割を与えられないと必要とされてないのか不安だよね
屋敷に入った俺は、まずは互いに自己紹介をさせた方が良いだろうと思う。できれば、彼女が今屋敷にいる人相手にどんな印象を抱くのかを確認しておきたかった。同時に屋敷にいるみんなが受け入れてくれるかも。
そう考え、俺は中にいる子たちを全員、屋敷前の広大な中庭に集める。顔合わせも兼ねて、順番に自己紹介をさせていった。まぁ、神様とエレナだけは覗いているのだが……。
そうして自己紹介をしていくなかで、やっぱり個性が出るなとつい頬が緩む。互いが初めましてだからこそ、反応には若干素の部分が出る。
いつも明るい獣人族のルゥなんかは、常にわくわくした期待の目で見つめ。鬼人族のニィナのように、少し内向きな性格の子は、彼女をじっくり観察する。
エリシアも少し内向きだからだろう、みんなの様子をただぼんやり眺め、目の前の少女達に習うよう、簡潔に挨拶をする。
「エリシアと申します。よろしくお願いいたします」
そう言って、スカートの端を軽く摘まみ、滑らかに膝を折る。カーテシーの要領でお辞儀をした。それは染みついた動作だから咄嗟に出たもだったのだろう。やけに様になっている。なにより、彼女が身に付けているドレスの衣装も相まって、どこかの姫に見えた。
それは獣人族のルゥの目にも同様に映り、目を輝かして、はしゃぐ。
「すごい! お姫様みたい!!」
その言葉を皮切りに彼女に興味を持った子達が質問を沢山が投げかける。それに戸惑った彼女は重心を後ろに下げつつ、目を泳がせて狼狽える。
俺の方を見てどうしたらいいのか?なんて助けを求める。その戸惑う表情が愛おしいくて、少しおかしくてつい笑ってしまう。その様相に少し溜め息を吐きつつ、彼女は困ったような表情を浮かべながら応えていた。
少しづつ感情を見せる彼女。けれど、未だに寂し気な様子はまだ残っている。だからこそ、できれば笑った表情をみたいって思ってしまう。
目の前の少女たちは一度興味を持つと、質問攻撃が止むことはない。勿論、応えずらい質問が来ることもある。例えば、「どこから来たの?」という言葉。それには少し言い淀んでしまう。
そんな時には、周りをよく見ている、メイドのミアハがさっと質問を変える。
「それよりも、ご主人様と過ごした一週間の旅はどうでした?美味しいもの食べれましたか?」
的な感じで話題を逸らす。同時に俺に興味がいくようにしていた。幾人かの子が「お土産あるの?」って質問をしてきて、「後でみんなに渡すよ」と伝えると、嬉しそうにはしゃぐ。中には、庭という事もあり、走り回る物もいる。
より子供達が興味を持つ事へ話題を逸らすのは流石だなと感じる。だからこそ、安心して質問を投げかけさせることができる。賢い彼女は、その気づかいに当然気付き、少し安心したように肩の力を抜きながら答える。
ある時は、思い出すように宙を見つめたり、難しい質問には少し悩むように険しい表情になる。そんな新たな表情を見て、ついつい、嬉しいと感じる。
それは、彼女が徐々に自分の気持ちを出しても良いと、そう思ってくれている兆候だから。
どんな命令もできる主人という恐ろしい存在より、同じくらいの年代の子と関われば自然と、感情を出すようになるのではないか?その目論見は合っていたようだ。その事に内心ほくそ笑む。
にしても、少女たちが手を取り合ったりする姿ってなんでこんなに可愛いだろう。大人になると裏があるのでは。そう、疑ってしまうから?それとも少女たちの純粋無垢な笑みに自然と心が温まるから?もしくは、柔らかく可愛いものに囲まれた空間が癒しだからだろうか?
それが一番な気がする。あの中に挟まりたい。踏まれたい。という欲望が出てくる。出来れば生足だとなお良い。
……まぁ、しないけどね。けれど、この光景に癒されていると、屋敷に帰ってきて良かった~って心の底から思う。勿論、フェリシアとエリシアとの旅も楽しいのだが、やはり笑っている姿を見るのが一番だ。
改めて彼女達を見つめる。そこには白髪のエリシアを囲むように沢山の少女が囲んでいる姿。白髪で、白いドレス。それが天使の姿に見え、囲む少女たちというのも相まってどこか神話を感じる。描きたいと思う程に!!……まぁ、俺は絵、描けないんだけど……。
そんな絵になる風景を壊すのを躊躇いつつも、一度声をかける。
「ごめんね、エリシアには屋敷を案内する必要があるから、また後で声を掛けてもらってもいい?」
少し罪悪感を抱きながら、少女たちに首を傾げながら尋ねる。すると元気のいい声が返ってきた。
『は~い!!』
と手を上げながら答える。なかにはぴょんぴょん跳ねながら、応える子もいて……。やばっ、可愛すぎて鼻血出るかと思ったわ。そう口元に手を持って来ながら思う。
そんな中でも巨人の少女、グランネだけは、眠たげにこくりと首を上下に揺らしていた。今にも眠りに落ちそうな気配も苦笑しつつ、声を掛ける。
「グランネ、起こして悪るかったね。もういつもの場所に戻って大丈夫だよ」
「ううん……むしろ、いつも好きな時に眠ること、ゆるして、くれて、ありがと……」
間延びした声で、ふわりと笑う。眠気をまとったままのその表情は、どこか力が抜けていて、ぽわぽわしている。大柄な身体との不釣り合いさに、思わず視線が留まる。
言葉を飾る必要なんてない。ただそこにいるだけで、場の空気を柔らかくするような、そんな存在が彼女だ。……こういうところに癒されるんだよな。そう、心の中で小さく零す。
その視線に気づいたのか、あるいは別の理由か。エリシアが、俺とグランネを交互に見比べていた。驚きと、わずかな困惑。珍しいものを見るような目だった。
(……?)
グランネ本人はその視線を気にした様子もなく、中庭の一角——草むらのベッドまで歩いていくと、そのまま横になった。そうしてすぐに、規則正しい寝息を立てる。あぁ、確かに巨人族を目にする機会はあまりないよな。と思う。
というか、あのゆっくりと上下する身体を見ると、こっちまで眠くなってくるんだよな。それにつられて、一度だけ、隣で眠ったことがあった。ほんの出来心だった。
それがものすごい心地よかったのを覚えている。あたたかな日差しと、やわらかな風。遠くで聞こえる、子どもたちの笑い声。その音を背にすぐに眠りについていた。
起きたとき、周囲の視線に気づいて、二度とやらないと決めたけど……。けど、あの時は俺と同じように眠っている子たちも増えていて。意外にもニィナ自身も可愛らしく、自然な笑顔で寝ていたんだよな……。
そう考えると、もう一度やるのはありかもしれない。一人うんうんと頷いていると、エリシアの、次の所に行くのでは?という戸惑いの視線が刺さった。
(……それは、そう)
「それじゃあ、行くとしようか。悪いけれど、フェリシアも一緒に来てもらっていい?」
「はい! もちろんです!!」
そう返事をしてくれる。フェリシアとエリシア。二人を連れて、屋敷を回っていく。寝室、食堂、風呂場——ひと通り見せていく中で、彼女の視線は常に落ち着かず、周囲を警戒していた。
特に寝室に入ったときは、露骨だった。俺を警戒するような視線は強くなり、どこか逃げ道になりそうな場所を無意識に目をやっていた。
(……ほんと、フェリシアを連れてきて良かった~)
と安堵したほどだ。まぁ、フェリシア自身、少し警戒をされているが俺よりは全然マシだろう……。まだ、安心できる場所に出来てはいない。けど、最初にびくりと肩を震わせるような、酷く怯える様子はない。
少しずつでいい、慣れて貰えるならね。そう考えながら、最後の場所を訪れる。きっと彼女が気に入るだろう場所に。
そこは、沢山の知識を吸収できる宝庫——図書館だ。俺は少しだけ得意げに思いながら扉を開ける。それに最初は警戒していたエリシアも、足を止めて目を見開く。そうして、辺りを見渡した彼女は、どこか落ち着かない様子で、駆け出した。
「……すごい」
始めて見せた嬉しそうに微笑む表情。それにぎゅっと心を摑まれる。思わず胸に手を置きながら、(連れてきて、良かった~)と本気で安堵した。
「そっか、こういう風に分けるといいんだ」
彼女は本を見て周り、感心したように左右に目を動かす。……うん、本の内容じゃなくて、レイアウトに目が行くのね……。一応は前世を元に、日本十進分類法で並べている。まぁ、魔法という未知の技術をどう分類するのか迷った結果、新たに10類というのを作ってまとめた。
110:魔法理論
111:属性魔法
112:召喚魔法
的な感じでね。まさしく見様見真似なので、そこはおいおい考えるとする。
彼女は本棚の前を歩いて行き、ほんの少し笑みを零しながら指先でなぞっていく。そうして、一蹴した時にようやく自分の状況に目が言ったのだろう。顔を青くしながら俺を見つめた。
本来の立場なら自分は奴隷。それなのに主人を待たせてしまった。って思っているんだろう。何を要求されるか分からないとも……。
思えば俺はこの少女に与えることばかり考えていたが、違うんだろう。きっと、何を求めているのか明確にした方がこの子は安心する。
そういえば、俺も似たような気持ちを抱いたなと。ふと前世を思い出した。なら、
「エリシア、君に頼みたいことがあるんだ。いいかな?」
「なんでしょうか?」
彼女は唾をごくりと飲みながら、俺の表情を窺う。
「エリシアは本を読めるよね?それとかなり知識があるともみた?」
「……? はい、多少は読めますよ。それと、知識はそこそこになりますけど……」
いやいや、天才のいうそこそこは本当に当てにならない。それを俺は身を持って知っている。コルネリウスなんて、全然知らないと言っておきながら、聞いたこと全部に答えたるだ。もう、天才の謙虚した姿勢はあてにならないと学んでいる。
「ならさ、屋敷に来たばかりで悪いけど、ひとつ頼みたいことがある。あそこに座っているアイラに本を読んでもらえないかな?」
彼女はその言葉に戸惑いつつ、こくりと頷く。
「もちろん、いいですよ」
「そっか~、良かった~。一日三冊しか読めなかったのは悪いと思ってたから、助かる」
俺は少し大げさに肩を下ろしながら安堵する。その様子に彼女は目をぱちくりとした。彼女は俺が本心から言っていると伝わったのだろう。だからこそ、驚いていた。
確かに大げさにリアクションはしたが本心ではある。アイラに対して本を読めないことに罪悪感を感じていたのも、彼女が了承してくれた事にも安堵をしたこともどっちも本心だ。
「それじゃあ、悪いけど、エリシアお姉ちゃんに読んでもらってもいいかな?」
そこには少し遠慮がちに、自ら持っている本に視線を落としたアイラがいた。話が終わると思ってこっちに寄ってきたんだろうね。それにくすって笑ってしまう。
アイラは俺とエリシアを交互に見て、こくりと頷く。少しだけ、期待した目でエリシアの方を見ていた。
(……そうだよね。本を読んでもらえるなら、誰でもいいよね)
と逆に俺は落ち込んだけど……。思わず、肩を落としてしまったよ。そんな俺の様子をエリシアはじーっと見つめていた。そんな彼女の方を見て再度問いかける。
「それじゃあ、俺は用事があるから、本を読んでもらってていいかな? エリシア」
「……はい。問題ないです」
少し戸惑いながらも、彼女はしっかりと頷く。それに思わず笑みを零す。
「それじゃあ、頼んだ」
それだけ告げて、俺とフェリシアは一度その場を離れることにした。できれば、二人仲良くなってほしいなと思いながら。




