名付けと汚染
清水宿へ戻る道すがら、私の足取りは、さっきまでと別物だった。胸の真ん中に、一本、芯が通った気がする。
“倒す”じゃない。“戻す”。
昨日と今日、それができた。
清水宿の入口が見える。
中に入ると、囲炉裏の火がまだ生きていて、ほっと息が漏れた。
「……よし。まずは、落ち着こう。みんな、広間に集まって!」
広間というだけあって、人数が多い場合は重宝するね。……ずっとここで生活してたけど……小鬼たちが増えた今、この場所は他の用途でも必要だ。
小鬼たち――さっきまで餓鬼だった子たちが、おそるおそる入ってくる。
まだ目が泳いでる子もいる。けど、赤い目は消えているし、唾液も止まっている。
“黒いもや”も、もう見えない。
サツマが、みんなを先導するみたいに前に立った。
片言ながら、しっかり伝えてくれる。
「……ここ、あんぜん。ミコト、いる。だいじょうぶ」
それだけで、嬉しくなる。
さっき“名付け”たばかりなのに、もう“仲間”って感じがする。
「うん。ありがとう、サツマ。……じゃあ、ここでちゃんと整理しよう」
私は咳払いをして、広間の真ん中に立った。
「えっと……色々あって何とか、みんなを助けることが出来ました!そして、ここからが本題です」
にゃっぴーが、私の肩に乗った。
ヘレネも少し後ろで、静かに立っている。
「……“名付け”について、確認したいの」
小鬼たちが、きょとんとする。
サツマだけが、うなずいた。
「……なまえ。ミコト、くれた」
「そう。名前をつけると、私の“控え”に入る。……つまり、困ったときに呼べるかもしれない」
そう言いながら、私は広間の隅に座っている子たちを順番に見た。
さっきまで餓鬼だったとは思えない、素直な顔つきだ。
「それに……ね。名前がないと不便だし――みんなにも名前をつけたい」
小鬼たちが、ざわっとした。
嬉しそうな子と、戸惑う子。
サツマが一歩前に出て、短く言った。
「……なまえ。ほしい。みんな、うれしい」
……よし。頑張って考えるか。
「じゃあ……えっと、まずサツマ以外の関係性を教えてくれる?」
サツマが指を折るみたいに言った。
「……つがい、ふたつ。こども、ふたり。」
「ふむふむ……夫婦二組と、それぞれのお子さんが一人ずつね。じゃあ家族ごとに、順番に名前をつけるね。
まず、こっちのご家族から。夫は“トヨシロ”、妻は“ベニ”、女の子は“はるか”」
「次のご家族ね。夫は“ダンシャク”、妻は“こまち”、男の子は“とうや”」
にゃっぴーが、目を細めた。
「ミコト、今の名前、芋の――」
「にゃっぴー。いま“名付け”の儀式中だから静かにね!」
私は人差し指を唇に当て、しーっと、にゃっぴーを黙らせる。
ヘレネが、頷きながら言った。
「ミコトは、異世界初だった食事に引っ張られ過ぎてますね。仕方のない子です」
……ヘレネちゃんから、子ども扱いされてる……
小鬼たちは、よく分かってない顔で、でも嬉しそうにしている。
そういう“文化”がなかったみたいだから、意味は分かっていないかもしれない。
でも……これから、お互いを名前で呼びあっていると、その便利さに気付いてくれるはず。
「よし。これでみんな、“名付け”できたね」
――その瞬間。
視界の端に、例の“透明っぽい板”が浮かんだ。
やっぱり要所要所で出てくるんだね、キミは。
───────
※同一種族の“名付け”枠は上限に達しました
※召喚対象として登録できるのは、種族ごとに一体のみです
───────
「……そんなシステマチックな能力なのサモニャーって!?」
ふざけた職業名のくせに、無駄にお固いな!
……まぁでも、何となく分かる気もする。
“名付け”した、全ての子が控えに入っていたら、管理できなくなるもの……
緊急時に、この子どういう能力持ってたっけ?ってなると大変なことになるもんね。
小鬼たちが「?」って顔をしている。
サツマだけが、私の空気を察して、ちょっと心配そうに見上げた。
「……ミコト、だいじょうぶ?」
「……うん、大丈夫。改めての確認が終わっただけだから」
にゃっぴーが肩の上でゴロゴロ言い始めた。
慰めてるのか、笑ってるのか、分からない。
私は深呼吸して、気を取り直す。
「よし。今後、“召喚”で手伝ってもらうのは、サツマだけ。大変だと思うけど、頑張ってもらうよ。みんなも“サツマ”をサポートしてあげてね!」
小鬼たちが、うなずいた。
細かい理屈は分からなくても、ミコトが言うならそうなんだろう、みたいな感じで。
……そこで、ふと気付いてしまった。異世界なのに、“日本語”が通じてる?
“召喚”契約を結べたサツマだけだったら、そういうものだと思って、流せた。
だけど、そうじゃない子にも、しっかり通じている。
……今は、判断材料が足りない。頭の片隅にでも覚えておこう。
「そうだ、これからキミたち小鬼には、清水宿のお手入れを手伝ってもらいたい、って思ってるんだ。ただ、私たちとは生活様式が違うよね?まず、キミたちってどういう生活してたの?」
「もりで、なかまで、かたまって、みんなで、すごしてた。それから――」
ふむふむ……片言だから難しかったけど、要は森で原始的な暮らしをしてたってことね。木や石に多少の加工を施せて、それを使って狩猟や採集をして暮らしていた、と。片言だけど、言語でのやり取りができるから、それなりに上手くやれてたけど、最近は“澱み”みたいな急な変化が多くなってきて対応が難しくなってきてた。
だから、私が“オカシラ”になってくれて助かった、と。
うん……“オカシラ”呼ばわりはちょっと……
「そっか。でも、こうして町というか人里で生活することになるけど、それは大丈夫かな?」
「ミコトに、おんを、かえすため、がんばる」
「うん、そういってくれると助かるよ。じゃあまずは“水瓶座”の水をもうちょっと浴びて、しっかり身体を綺麗にしようか。ヘレネちゃん、お願いできる?」
「えぇ。任せてください。小鬼の皆さん、“湯殿”に行きますよ。着いてきてくださいね」
ヘレネちゃんに連れられて、小鬼たちがゾロゾロと移動していく。それを見送りながら、あれこれ考える。
……石と木の加工は少しだけど、できるのよね?
まずは、どの程度のことができるのか確認したいな。
それに――“牛乳”があるとはいえ、それだけだと絶対に飽きる。
森での採集や自衛の手段も必要だね。
……考えることが多い。その辺も含めて、夕方までは森に採集に行こうかな。
「にゃっぴー、ヘレネちゃんが戻ってきたら、サツマを連れて森に採集に行こうと思ってるんだけど」
「いいと思うにゃ。案内係のサツマと僕の“鼻”や“猫も杓子も”もあるし、まず夕暮れまでには帰ってこれるはずにゃ」
「ありがとう、にゃっぴー。お願いね!スキンケア用品の代わりとなる物も“頼んだ”よ」
「……ミコト、圧が強いにゃ。そっちは明日の朝からでも遅くはないにゃ。まず、今日はこれは“絶対”に必要ってものを探すにゃ」
……スキンケア用品も“絶対”に必要だけどね?
「……わかった。今回は譲歩するよ。明日は“絶対”だからね」
「わかったにゃ……じゃあ今日は何を集めるのにゃ?」
「岩塩や食料にできるものがあったら良いね。ただ、これは森に住んでいた小鬼たちですら食料確保に難儀していたってお話しだから見つかれば、で。あとは小鬼たちの加工技術がみたいから、石や木。そして薬草類もあった方がいいね。漢方薬そのものは作れなくても、“もどき”でいいから、あると助かると思う。……私は絶対に必要だし」
もう“そろそろ”だったはず。痛み止めもないし、衛生用品もない。大丈夫だろうか?不安になってきた……“ここ”には絶対に、ドラッグストアもないだろうからね……
にゃっぴーが心配そうに、顔を覗き込んできた。
「……ミコト、大丈夫にゃ?ちょっと顔色が悪くなったにゃ」
「うん……ちょっと、ね。そこも含めて、ヘレネちゃんが戻ってきたら、すぐ採集に出発しよう」
*
一旦、サツマ以外の小鬼のみんなには、“拠点”でくつろいでもらって、私たちは早速採集に出かけた。出かける前に“牛乳”を置いてきたから、お腹が空いたら飲んでくれるだろう。
森へ向かいながら、今回の採集についてヘレネちゃんとサツマに説明する。
私の不安な心中を察してくれたのか、ヘレネちゃんが言ってくれた。
「確かに薬草の類いは、あると助かりますね。まずはそれを中心に探しましょう。それに、食料や木、石……ですか。ちょうどいいです。私の“蟹座”を使いましょう」
……そういえば、“牡牛座”と同時に解放された能力があったっけ?
“牡牛座”のインパクトですっかり忘れていたけど。
「“蟹座”の能力は一言でいうと、動物以外の切断、となります。動物には一切危害を加えられませんが、石や木などは、どんなに硬いものでも切ることが可能です」
すごい能力だな!相変わらず戦いでは使用できないけど、採集で考えると無敵感がある。
「それはすごい!さすがヘレネちゃんだね!」
私がそういうと、にゃっぴーの顔が少し曇った。にゃっぴーの能力は、自分で発見しないと発現ができないみたい。だから、どんどん能力を開花させているヘレネちゃんと比べてしまっているようだった。
「にゃっぴーも、もちろんすごいよ!だって“猫も杓子も”がないと、どれが薬草か分からないじゃん!すっごい助かってるよ!」
そう言いつつ、にゃっぴーを抱っこして、肩に乗せる。この癒し効果……最高だね!
にゃっぴーは仕方なさそうに言う。
「ミコト、気にしてくれて、ありがとにゃ。今は“猫も杓子も”で頑張るにゃ」
うんうん、にゃっぴーはそれで良いんだよ!
だいたい能力云々を言い始めたら、私が一番役に立ってないからね。
……それにしても……
「なんか昨日と比べて虫多くない?私めちゃくちゃ苦手なんだけど……」
「“ぬめり”を浄化したことで、小川が元の状態に戻りましたからね。少しずつ以前の環境に、戻りつつあるのでしょう」
言われてみれば、そうか……“水”は全ての生命に必要な物だからね。
「虫……にゃ。これにゃ!」
「うわっ!にゃっぴー、急にどうしたの?」
「“猫の額”にゃ!これを使えば簡易的な結界を張れるにゃ!」
詳しく聞くと、ごく狭い範囲に虫や獣を寄せ付けない結界を張れる能力とのこと。
めちゃくちゃ便利じゃん!虫が苦手な私にとってはなくてはならない能力だよ!
「にゃっぴー、すごい!すぐに発動してもらっていい?」
「任せろにゃ!」
にゃっぴーが、そういうと高く細い音――高周波音?が、微かに聞こえ始め……周囲から虫がいなくなった。
「……ちなみに、“猫の額”を使ってる時は“猫も杓子も”は使えないみたいにゃ」
……採集がメインの今は厳しい能力だね……
「じゃあ、一旦そのまま“猫の額”を使ってもらって、サツマとヘレネちゃんに有用そうなものを見繕ってもらおうかな。そのあと、改めてにゃっぴーに確認してもらうってことで」
「おれも、がんばって、いろいろ、あんない、する」
「私も“AI”として、溜め込んだ知識がありますから、ある程度は有用なものがわかると思います」
みんな頼もしいね!私もできることを頑張ろう……
*
今日は、芍薬、当帰、薄荷、黒曜石、岩塩の採集ができた。
黒曜石と岩塩はサツマたちも利用していたらしく、簡単に見つけることができた。
他の薬草類はヘレネが見つけた物を、にゃっぴーに“鑑定”してもらい、採集ができた。
特に薄荷を見つけられたのは、助かった……これで天然の虫除けが作れるはず。にゃっぴーの“猫の額”は便利だけど、採集中だと色々難しいからね。
そして大したことではないのだけど、植生が気になる。こんな都合よく色々な植物があるものなのかな……というか季節はどうなっているのだろう。
気になりだしたら、色々キリがないのだけど。
また、イスノキと白樫も見つけたけど、丸太を抱えて帰る余裕はない。
ただ、イスノキだけは持って帰れるだけ、持って帰ろうと思う。既に落ちて乾燥しているように見える枝は、サツマの護身用の木刀として使おう。ついでに一部、枝も切り出して持っていく。
櫛としても使える素材らしい。ぜひ、小鬼たちには頑張って加工してもらいたい!
“蟹座”が簡単に切ってしまったから、硬さがイマイチ分からないけどね。
それなりの量になった採集物を見ながら、ヘレネに聞く。
「ヘレネちゃんに言われた通り、持ってきた布に素材を包んだけど……この後どうするの?」
「もちろん、“射手座”で送ります。一度に運べる量は五百グラムまでで、一日に六回までしか使用できませんが、封ができる荷物であれば“爆速”で届けてくれますよ」
……そういえば“射手座”ってそういう能力だったね……私の中では完全に、火種を作ってくれる焼き芋おじさんのイメージだったよ……
「じゃあ、ほとんどは清水宿に送れるね!お願いします、ヘレネちゃん!」
「承りました。では、“射手座”よ」
今回出てきたケンタウロスおじさんは、その威厳に満ちた顔を誇らしげにしながら、採集物をしっかりと送り、満足気に頷きながら消えていった。
ヘレネが少し首を傾げながら言う。
「火種作りよりも、本来の役割の方が性分に合っていたようですね……」
……そんなに、いやだったのか……火種を作らされたの……
*
帰り道でヘレネちゃんが改めて“蟹座”を呼び出した。清水宿に着くまでに、サツマ用の木刀をある程度かたちにしてくれるらしい
「“蟹座”よ。来なさい」
虚空から大きな蟹さんの幻影が現れる。
改めて見ると……じゅるっ……お腹すいてくるよね!
「!?」
何故か蟹さんの幻影が後ずさった。
「ミコト、私の能力を驚かすのはやめてください」
「ごめんなさい……」
やっぱり栄養が足りたとしても、芋と牛乳だけだと厳しいのよ……現代日本人には辛過ぎる。
そして、芋も今日でなくなってしまうだろう。小鬼のみんなにも分ける必要があるからね。
帰る道すがら、“蟹座”は黙々とイスノキの枝を整え続けている。微調整を繰り返すさまは、まるで職人のようだ。歩きながらなのにすごいな。
――そして清水宿が近付いてきた頃、とうとう加工が終わったのか、矯めつ眇めつしていた“蟹座”が、頷くような仕草をした後、私に木刀を差し出してきた。
……いや、すごいな!機械加工したみたいに綺麗な仕上がりじゃん!
「蟹さん、完璧な仕上がりです。ありがとうございました!」
深々と頭を下げて、お礼をいう。
まさか切るだけではなく、ここまでしっかり加工してくれるとは……ちょっと食べてみたいと思ってしまい、大変申し訳ございませんでした!
蟹さんは、一度深く頷くと虚空に消えていった。
最後まで職人みが深い蟹さんだったな……
木刀に感心しながら、歩き出してすぐ、私は立ち止まった。
視界の端に“丸い傘”が見えた……もしかして!
「にゃっぴー!あれキノコじゃない!?食べられるやつか確認お願い!」
陸のお出汁!牛乳と岩塩と合わせて簡単な洋風スープが作れる。文明の香りがする!
「落ち着くにゃ、ミコト。……椎茸って“視える”にゃ。天然物は希少なはずだけどにゃ。よく見たらキノコだけはアチコチに生えてるみたいにゃ」
マジで!?でも……なんで?小鬼たちが飢えるほど食料が採れなくなっていたはず。
その時、サツマが慌てたように、こちらにやってきた。
「ミコト、それ、あぶない。たべた、なかま、おなか、こわした。ほかにも、たべたら、しんだ、なかまも、いた。おれたち、ぜったいに、それ、たべない」
……そういうことか。似たような見た目のキノコも多いし、毒性が強いものが多いからね。
良く考えたら野生が強いほど、食べる機会がないのかもしれない。特に小鬼たちは言語によるコミュニケーションをとっていたんだし、尚のことキノコを食べるのは禁忌となっていたのだろう。
私だって、にゃっぴーに“鑑定”能力がなかったら食べようとは思わなかったし。
「そうなんだね……でも、にゃっぴーは食べられるかどうかを調べることができるんだ。だから、食べられるキノコは持って帰ろうと思う」
サツマはドン引きしたような顔をして、改めて私に考え直すよう訴えてきたけど……
ごめんよ、私の食欲がキノコをご指名なのよ。キミたちにも絶対食べて、とは言わないから持って帰らせてね。
それから、さらにしめじ、舞茸も手に入れることができた。にゃっぴーが言うには、天然だとどれも希少なものだとか。
ここにはいっぱい生えてたけどね……誰も食べなかったからかな?
……やっぱり、この森って“変”な気がする……
キノコ狩りという道草を食べてしまったおかげで、夕暮れギリギリに清水宿に辿り着いた。“拠点”の近くには“射手座”に送ってもらった荷物も届いているようだ。
「じゃあ、一旦採集したものを宿に運び入れようか。サツマ、小鬼のみんなを呼んできてくれる?」
*
採集したものをみんなで宿に運び入れたあと、サツマへの木刀授与式を始める。
「サツマ。あなたに渡すものがあります」
サツマは今から何が始まるのか、よく分かっていない様子ながらも、こちらに来てくれた。
「さぁ、サツマ。私からはそれを授けようではないかっ!」
サツマが、目を丸くする。
「……それ、さっき、つくってた、やつ?」
「木刀――いえ、それは妖刀!」
にゃっぴーが、口を挟んだ。
「木刀なのに妖刀ってどういうことにゃ」
「にゃっぴーくん、今は式典中だよ?」
私は人差し指を唇に当て、しーっと、にゃっぴーを黙らせる。(本日二度目)
そして、私は胸を張って、言い切った。
「銘は――妖刀“サツマハヤト”!」
「……さつま……はやと……?」
「そう!サツマハヤトというのはね……勇猛果敢な人物に与えられる“称号”なんだ。君の名前、“サツマ”もそこから取ったんだよ?」
本当は芋から取ったけど。
そこで、にゃっぴーが何かを言いかける。
「でもミコト、他の小鬼の名前もだけど、絶対に芋――」
私は全力で、聞こえない“ふり”をした。
「あァァァァ!!聞こえなァァァァい!!」
ヘレネが、静かに指摘してくる。
「……ミコト、都合が悪くなると、勢いでどうにかしようとするのはやめなさい」
「生きるためには勢いも大事なの!」
ヘレネは呆れたように首を振った。
諦められてる?
私はサツマの手に、木刀……いや、妖刀を握らせた。
「さて……ではサツマ、しっかり持ち手を握って、そのまま上段に構えて〜……全力で振り下ろす!――そう!その時に“チェスト!”って言うんだよ?分かった?」
サツマが、真剣な顔でうなずく。
「……ちぇすと……?」
「そう!そして、これからは、自分のことは“おい”、そして語尾に“ごわす”って付けるの。そういう慣わしなんだよ」
「どこの慣わしにゃ……」
「……おい……ごわす……?」
完璧だ!全て私の偏見の元だけど、見事な薩摩武士ができあがりつつある!
そして、何気なくサツマが“妖刀”を振り上げた。
「……ちぇ……」
私は身構える。
あ、これ、思ったより危ないやつだ。
サツマが“妖刀”を振り下ろす。
「チェェェェストォォォ!!」
床板が、みしっ、と鳴った。
「ちょっと待って!ここで全力は止めてよね!?」
サツマは、きょとんとする。
「……え?だめ、ごわす?」
「だめです!」
にゃっぴーが、肩で笑った。
「ミコト、自分で色々汚染したのに困ってるにゃ」
「私はね、サツマの成長を願ってるだけでね!ここの床板を割ってほしいわけじゃないの!」
小鬼たちが、じわじわ笑い始めた。
少し前まで“飢え”で苦しんでいた小鬼が、今は笑っている。
それを見て、私はふっと肩の力が抜けた。
……あぁ。
この子たちはちゃんと“戻った”んだ。
私は広間を見渡して、改めて宣言する。
「よし。今日はここまで。明日から、清水宿を立て直す。生き延びるためにも、“生活”を戻すんだ」
サツマが“妖刀”を胸に抱え、短く言った。
「……ミコト、まもる。おい、つよくなる、ごわす」
「うん。頼りにしてるよ、サツマ」
そして私は、にゃっぴーを抱き上げて、ついでに頬ずりした。
「にゃっぴーも、ありがとうね!」
「……くるしいにゃ」
「可愛いなぁ、もう!」
仲間が増えて清水宿の夜は、少しだけ賑やかになった。これからも、どんどん仲間を増やしていこう。仲間が増えれば、できることも増えて、色々な準備も進む。いまはまだ小さな火だけど、明日からこの宿は、もっと便利になる。
そして、準備が整ったら……近いうちに“紙”を求めて旅立つのだ――
【お知らせ】
次回5/4(月)の更新は、ゴールデンウィーク中ということもあり、7話・8話の2話分を続けて投稿予定です。
少し長めになりますが、お時間のある時にお楽しみいただけたら嬉しいです。(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”




