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第二十五話「火車」

翌朝。

私は、ひんやりしたすべすべの何かに抱きつき、その間にふわふわしたものを抱え込んだ状態で目が覚めた。


けれど――


あまりの心地良さにそのまま二度寝を――


「ミコト、それににゃっぴーさんも、そろそろ起きてください」


二度寝の誘惑を何とか振り払い、目を開けると……目の前にはヘレネちゃんの綺麗なお顔。


「にゃ〜……何か寝心地がやたらと良かった気がするにゃ……おはようにゃ」


私とヘレネの間から、ぴょっこりとにゃっぴーが這い出てきた。


「……おはよう、ヘレネちゃん、にゃっぴー」


……そういえば、抱き枕の刑に処したと思ったら、すぐに眠っちゃったんだっけ……


「おはようございます、ミコト。まずは朝の支度に行きましょう」

「うん、ありがとうヘレネちゃん、にゃっぴー。とっても良く眠れたよ」


この気候と相性が抜群だった抱き枕さんたちにお礼を言って、朝の支度に行く。


シロとフウはまだ寝ているみたい。

そのまま朝食の時間まで寝かせておくことにした。



*



朝食をいただいて、ニケちゃんのところに向かう。昨夜の作戦会議について、共有しておこうと思う。


ちなみに朝食のメインは、太刀魚の煮付けだった。

大変おいしかった!

というか、“霧凪”で出される食事は、基本的に何かしらの海魚が主役になるみたい。

“春霞”でもそうだったんだけど、常に旬のものをいただける環境って、めちゃくちゃ贅沢だと思う。

作ってくれた人たちには、しっかりお礼を言っておこう。


おいしいご飯に思いを馳せていると、奥の間に辿り着いた。


「ニケちゃん、おはよう!入って良いかな?……あれ?ニケちゃーん!」


返事がないね。“春霞”だと似たような時間には、唄ちゃんが奥の間に居たんだけど……

そう思っていたら、背後から声が聞こえてきた。


「ふわぁ〜……ミコト様……みゃ?」

「ミコト様か。おはよう。すまんな……ニケは朝が弱いんだ」


……朝だけじゃなくて、ほとんどの時間帯に弱いんじゃないかな……



*



「ニケちゃん、改めて昨夜話し合った作戦を共有しておくね」


まず、昨日と同じ布陣では捕まえられない可能性が高いこと。

それから、シロの“追跡”能力は“数日間”しか効果を発揮できないこと。

だから短期決戦にするために、妖狸族の現神託巫女と先々代神託巫女を召喚すること。

にゃっぴーの新たな能力とフウの“道塞ぎ”の能力を組み合わせること。

幻術と道塞ぎによって、逃げ場を限定して、灯明堂に追い込むこと。


「そして……灯明堂まで追い込んだら、そこで“苦悩”を聞いてみる予定なんだ。“水瓶座”の浄化の水さえ浴びてもらえれば、どうにかなる……と思う」

「……」


ニケちゃんは悩んだ様子で考え込んでいた。

何か懸念でもあるのかな?


「……ミコト様。火車様の“苦悩”を聞く時は、私も一緒にお願いしたいみゃ。本当なら、それはあたしの仕事のはずみゃ。だから一緒に……」

「もちろんだよ。一緒に火車の“悩み”を解決して、大団円といこう!」

「ミコト様……ありがとうみゃ……!」


やっぱり、できることなら自分で解決したいよね!ずっとお世話してきた間柄だもん。火車も知り合いの姿があった方が、安心してくれると思うし。


「……それにしても……妖狸族の先々代神託巫女が復帰したという話は本当だったのか……。曾祖父(ひいじい)さん世代の“英雄”だぞ。俺の世代ですら活躍を耳にしているくらいだ」


祭ちゃんが頑張ったから、ダイダラボッチ封印戦で誰も死者が出なかったってことだもんね!

それがしっかりと下の世代にまで伝わってる……さすが祭ちゃんだね!


「今から念話を入れてから、お願いするかたちになるから……今夜には会えると思うよ。……姿形は“その頃”と変わってるから、驚かないでね?」


お婆ちゃんじゃなくて、子どもの姿だからね……


「まぁ、俺は実際に会ったことがないからな。どんな姿でも驚かない、というか驚きようがないと思うぞ」


まぁ……曽祖父世代の“英雄”って聞いて、七〜八歳くらいの女の子が出てきても驚かないなら、それはそれで良いと思う……


「それじゃあ、念話を飛ばすから少し待っててね」


(唄ちゃん、祭ちゃん、聞こえるかな?今、少し話せる?)

(ミコト様?どうされました?何か問題でも起こりましたか?)

(……婆たち二人に協力して欲しいことがあるとすれば……火車様の件で何かあったのですかな?)

(おぉ〜、祭ちゃん当たりだよ。火車の“澱み”をどうにかしようと思ってるんだけど……逃げちゃうからお話も聞けなくてね……。だから、二人に幻術を使ってもらって、火車の逃げ道を制限して欲しいんだ。

そうやって、灯明堂に追い込んでから、“悩み”を聞かせてもらおうって作戦でね)

(ふむ……灯明堂といえば岬の辺りでしたかの?良いと思いますじゃ)

(私でもお力添えができるのなら、お呼びください。しっかりお手伝いしますぽん!)

(ありがとう、祭ちゃん、唄ちゃん!火車の活動時間が夜みたいだから、夜に呼ぶことになるの。だから、それまでに“春霞”の結界を強化するとか、準備をお願いね!)

(分かりましたぽん!)

(承知しましたじゃ)

(よろしくお願いします!では、また!)


「二人とも来てくれるって!」

「……さっきも思ったんだが……ミコト様、先々代はかなりの大物のはずだよな?そんな気軽に呼んで大丈夫なのか?」

「うん……会ってみたら分かると思うよ?じゃあ、イッシキさんもニケちゃんも準備をお願いね」


できれば今夜、決着をつけたいな!



*



夜も更けてきた。

空を見上げると、月が皓々と輝いている。

今夜は満月のようだ。


私たちは、社の外で里を見下ろしながら、準備を整えていた。


「……時間かな。唄ちゃんと祭ちゃんを召喚するね」


(唄ちゃん、祭ちゃん、召喚して大丈夫?)

(行けます!)

(準備万端ですぞ!)


「では……唄ちゃん、祭ちゃん、召喚!」


ぽん、ぽん、と二人が召喚されてくる。


「ミコト様、今日は頑張りますね!」

「ミコト様、ちゃんと呼んでくださいましたな」

「二人とも、来てくれてありがとう!」


うん、この二人を見ると安心するね。

お互いの能力もある程度分かっているし、私たちとの連携という面では、最適な仲間だと思う。


「唄ちゃん、こんばんみゃ〜」

「ニケさん、こんばんは!お久しぶりですね!」


二人は知り合いだったんだ。

神託巫女同士で集まる機会でもあるのかな?

何故か両手を握りあって、くるくる回っている。

思いのほか、仲が良いね。


「この子が……あの“英雄”殿か?……随分と……その、可愛らし……いや、すまん。俺には言い繕うことができないようだ。ミコト様の言う通り、想像以上の見た目だったな……」

「んん?お主は……“墨(スミ)”の系譜かぇ?」

「……!曽祖母(ひいばあ)さんの名前が“スミ”……です」

「おぉ、よう似とるのぅ。アヤツの撹乱の技術には世話になったぞ!前線を支えた功労者の一人じゃったな……懐かしいわぃ」

「……どうやら本当に“冴”様のようだな……曽祖母さんがお世話になりました」


イッシキはそう言って深々と頭を下げていた。

実際に活躍した人の名前を気安く呼んでる時点で、先々代本人だって嫌でもわかっちゃうよね。


さて……注目を集めるように、ぱん、ぱん、と手を叩く。


「では、そろそろ本格的に行動を開始するよ。今夜、火車の“澱み”を祓うんだ。気合いを入れていこう!」


それぞれに返事が返ってくる。

うーん……この凸凹パーティ感。良いね!


「じゃあ、シロ。お願いね」

「きゅっ!」


シロを撫でてから地面に降ろす。

すると、私の脛に一度“すりっ”と身体を擦り付けてから、里の方に向かって歩き出した――



*



シロが案内してくれたのは、里の中心部。

一際高い木造の塔のような建物があるところだった。

“火の見櫓”というらしい。長屋が多いことから、火事が起こった際に、迅速な消火活動が行えるように見張るための設備とのことだ。


耳を澄ませると……上の方から、微かに“みゅう、みゅう”と悲しそうな鳴き声が聞こえてくる。


「……確かにここにいるみたいだね。

祭ちゃんは東側、高台になってる方に大規模な幻術を張って欲しい。そっちは範囲が広いから、祭ちゃんにしか任せられない、だからお願い。

唄ちゃんは北側に幻術をお願い。

西側、港に出る道はフウとにゃっぴーに。

南側、こちらはイッシキさん、そして私、ヘレネちゃん、ニケちゃんで担当する。メインはイッシキさんにお願いして私たちはサポート」


そうやって各所を塞いで、西南西にある灯明堂に追い込む。


「ニケちゃん以外は持ち場についてね。準備ができたら念話をお願い」


そう言うと、みんながそれぞれの持ち場に散っていった。


「ミコト様……あたしは?」

「ニケちゃんには……火車への最初の説得をお願いしたいんだ」


それで説得できたら最良。もし無理だったとしても、あとは手筈通りに進めればどうにかなる……はず。


しばらくして――


(ミコト様、準備完了じゃ。既に幻術を張っておるぞ)

(ミコト様、私も大丈夫ですぽん)

(こっちも大丈夫にゃ)

(通せんぼしてるかべぇ!)

(ミコト、こちらも大丈夫です)

(みんな、ありがとう!こちらもそろそろ始めるよ)


「……みんなも準備できたみたい。じゃあ、ニケちゃん。頑張って」


ニケちゃんはこくりと頷くと、火の見櫓をするすると登って行った。


そして――


ぼんやりと光る“三毛猫”が、しゅたっと地面に飛び降りてきた。

長いこと手入れがされていないのか、毛がぼさぼさになっていて、薄汚れて見える。

そして……薄く“黒いもや”が立ち昇っているのが確認できた。


「……キミが火車?少し良いかな?」


私は慎重に声掛けをしてみた。


「あちしは、アンタに用はないみゅう」


そう言って、そのまま東側に去って行こうとしたんだけど――


「みゅっ!?蛟!?」


すぐに立ち止まって北側に進路を変えて走り去っていった。

……祭ちゃんの幻術がすごい。しっかりと壁のような幻術を張りつつ、リアルな蛟の幻影まで出現させてる……


祭ちゃんの幻術に驚いていると、ニケちゃんが降りてきた。


「……ミコト様、ごめん……やっぱりお話できなかったみゃ……」

「大丈夫だよ、ニケちゃん。今日中には、ちゃんとお話できるようになるからね!」


ニケちゃんを慰めていると、唄ちゃんから連絡があった。


(……ミコト様、火車様がこちらに来られましたが、私の幻術で迷ってしまったようで、港側に向かわれました)

(了解。ありがとう、唄ちゃん。にゃっぴー、フウ、頼んだよ)

(このまま道を塞ぎ続けるだけだけどにゃ)

(ここは絶対に通さないかべぇ!)


「じゃあ、ニケちゃん。私たちもイッシキさんたちと合流しよう」


ここまでは作戦通りだね。あとはこのまま上手くことが運べば――



*



それから、作戦通りに状況は進み――

灯明堂の前で、私たちは火車と対峙していた。


「なんで追いかけてくるみゅう!放っておいてみゅう!」


火車はそう、必死になって言う。


「火車様……!お願いだから話を聞かせてみゃ!」

「だから……!あちしの名前は“火車”じゃないみゅう!」


火車じゃない?

もしかして……!


「じゃあ……本当のお名前を教えてくれる?」


多分、飼い猫だった頃の“苦悩”が再燃している。

だから……“火車”ではなく、“本当”のお名前で呼ばれたいんだ……!


私はそう言って、近付こうとしたんだけど――


「近寄るなみゅう!!」


突如、私たちと火車を断絶するように炎の壁が出現した。


でも……このまま放っておくことはできない。

何かに、悲しんでいるんだ……この子は。


「ヘレネちゃん、私に“水瓶座”を最大水量でお願い。水温は五度で」

「ミコト?急に何を……」

「良いから。早く!」

「……“水瓶座”よ、来なさい」


虚空から水瓶の幻影が現れて、私に向かって清い水を降らせる。

めちゃくちゃ寒い……!


けれど――


私は水を被った勢いのまま、走り出した。


「「ミコト!?」」


にゃっぴーとヘレネちゃんが、止める間もなく動き出した私に驚いている。


本当ならみんなと相談して、何かしらの安全な策をとった方がいいんだろうね。


けれど――正直相談している時間すら惜しい。


ここで迷って時間を浪費すれば……逆にミケちゃんの方が、ここから逃げ出す策を思い付くかもしれない。

だからこそ……今回は、拙速が求められる。

“ここ”は引いてはダメな場面なんだ。


それに、しっかりと勝算はある。

この子は、私たちを故意に傷付けようとはしていない。もし、この子が本気でこちらを傷付けるつもりであれば、私たちはとっくに灰になっていただろうから。

なんていったって、彼女は、“火”を司っている五行妖怪だからね。


だから……ごめんね、にゃっぴー、ヘレネ。

心の中で“家族”に謝りながら、私は炎の壁に突っ込んだ。


熱い……!熱い……!!

でも!もうちょっと!!


そうやって無理やり炎の壁を突破すると――


目の前には驚いた顔をした“三毛猫”さん。

すかさず、そのまま抱っこする。


「離してみゅう!」


“三毛猫”さんは暴れたけど――

離すもんか!困ってる子は放っておけないの!


引っ掻き傷だらけになりながら、そのまま抱っこし続けていると……だんだんと大人しくなってきた。


そして――


「……ぬしさまみたい……」


安心してくれたのか、動きが止まった。

これで……ようやくお話ができるかな?



*



少し落ち着いた様子だったけど、念の為に“水瓶座”を使いながら、お手入れをする。

私の“櫛”をにゃっぴーに“収納”から出してもらい、暖かい“水瓶座”の水を使ってのブラッシング。


おぉ〜……抜け毛がすごい!大きい毛玉ができあがった!それにやっぱり結構汚れていたみたい。

“水瓶座”の浄化効果で、みるみるうちに綺麗な毛皮になっていき……よく見てみると、右目は青色、左目は黄色のオッドアイの美猫さんだ。


「……ごめんなさいみゅう……怪我させちゃったみゅう……」


そう言いながら、ぺろぺろと引っ掻き傷を舐めてくれる。くすぐったい。


「うん、大丈夫だよ。落ち着いたかな?……それで、“本当”のお名前は何て言うの?」

「あちしの名前は“ミケ”。ぬしさまが付けてくれた大事な名前みゅう」

「そうなんだ。ミケちゃんね。よろしく!それで……何に“悩んで”いたの?」


そこで、ミケはぽつぽつと語り出した――


元々は飼い猫で、大好きな“ぬしさま”と一緒に暮らしていたけれど……“ぬしさま”が流行り病で亡くなったこと。

亡くなった“ぬしさま”に寄り添っていたかったのに、家人に籠に閉じ込められてしまったこと。

籠から出された時には、“ぬしさま”は既に荼毘に付されていて……“ぬしさま”がちゃんと弔われたのか分からなかったこと。


「……その地方の迷信で……猫と死者を同じ部屋に置いておけないって言われたみゅう……」


何かの資料で見たことがあるかも?

確か、猫が死者の上を跨ぐと……死者が“化け物”になるとか。


「……そうだったんだね。それは、つらかったね」


そう言って、ミケちゃんをゆっくりと撫でる。

だけど、この“悩み”を解くのは難しいかもしれない……今いるのは別の世界で……既に亡くなっている人に今さら何かできることなんて――


あ、そうだ。別の世界だからこそ、どうにかできる可能性があるんだ。


何故なら――


“ここ”は“黄泉の国の女王”が創った世界なのだから。


「ニケちゃん、少し良い?イザナミ様にミケちゃんの飼い主について、聞いてみてもらっても良いかな?」

「……!分かったみゃ!」


ニケちゃんはそう言って両手を組んで、イザナミ様に祈り始めた。


……少し待っていると、顔を上げたニケちゃんが言った。


「そのまま伝えるみゃ。

“本来であれば、そのような死人一人一人について調べることはない。だが……蛟の澱みを祓ってくれた礼だ。それに……火車のため、ひいては、この箱庭世界のために骨を折ってもらっておるのだ。しばし待て。”

とのことみゃ」


ありがたい!これで……ミケの“澱み”を完全に祓えるかもしれない。


再び待っていると……神託が降りたのか、ニケちゃんが目を瞑って精神を集中させた。


「“この娘に直接降ろす。あとはそちらで、どうにかせよ”……伊邪那美命様、よろしくお願いいたしますみゃ。あたしも、ミケ様のためにできることがあるのなら……たとえ、負担が大きくても……身体を貸すことくらいなんてことないみゃ!」


ニケちゃんはいつもの眠たげな目をしっかりと開き――覚悟のこもった声で、そう宣言した。


――良い。その覚悟、受け取った――


どこかから……畏怖を感じさせる女性の声が――聞こえた気がした。


そして……ニケちゃんが、再び目を開いた時には、別人のような雰囲気になっていて――

自分がどこにいるのか分かっていないようにきょろきょろと辺りを見回し……


そして――


私が抱っこしているミケちゃんと目が合った。


「ミケ!」

「!ぬしさまぁ!!」


ミケちゃんが私の腕の中から抜け出して、“ぬしさま”の元に駆け出した――



*



久しぶりに再会した二人は、しばらくの間、お互いのことを話し合っていた。

そうしていると、ミケちゃんの“澱み”が徐々に薄くなり、ほとんど見えないくらいになった。


良かった……これで、どうにかなりそうだね。


「それにしても……ミケ、アンタそんな喋り方だったのかい」

「ぬしさまの真似みゅう!だから“あちし”!」


それを聞いた“ぬしさま”が笑う。


「あはは!ミケはそう覚えちゃったんだ!“あたし”だよ、“あたし”」

「……あちし?」

「もう、ミケは可愛いんだから!」


そう言って“ぬしさま”はミケちゃんを抱え上げ……優しく、優しくミケちゃんを撫でた。


そして――


「……そろそろ時間みたいだね。ミケ、また会えて嬉しかったよ」

「ぬしさま……もういってしまうみゅう……?」

「ごめんね……あたしはもう死んじゃってるからさ!ここで会えただけでも、奇跡みたいなものだよ」

「……あちしも……ぬしさまのために何かしてあげたかったみゅう……」


ミケちゃんはそう言って、しょんぼりする。

……そろそろ私の出番かな?


「じゃあミケちゃん。“ぬしさま”のために“送り火”をしてあげたら、どうかな?」


無事に黄泉に帰れるように。迷わないように。

ぬしさまのための道しるべを。


「……!“送り火”!やるみゅう!ぬしさまが“絶対”に迷わないくらい、特大の送り火を灯してあげるみゅう!」

「うん。じゃあ灯明堂に入ろっか。そこで一緒に“ぬしさま”を見送ろう」


イッシキさんに灯明堂の鍵を借りて、私とミケちゃん、そして“ぬしさま”と一緒に二階に上がる。


「ぬしさま、今のあちしは火を司る“火車”みゅう。だから……あちしのことは心配いらないみゅう」

「まさかミケがそんな妖怪になるなんてねぇ……何が起きるか分からないもんだ!そして……イザナミ様から聞いたよ。ミコト様、ありがとう。おかげでミケとまた会うことができたよ」

「いえ……そんな。イザナミ様のおかげです。その……お元気で」

「ぷっ!死者に言う言葉じゃないけど気持ちは受け取ったよ!じゃあね!ミケも達者でね!」


そう言って、“ぬしさま”は黄泉路に旅立とうとする。そのタイミングで――


ミケ、いや“火車”が、灯明堂自体が燃え上がるような規模の炎を立ち上げた。

私まで炎に包まれているのに、熱さを感じない不思議な火だった。


灯明堂の外からは、慌てるような声が響いてきたけど……すぐに収まった。実際に建物が燃えているわけではないって気付いたんだろう。


その火は、何も燃やすことのない優しい炎で――

“ぬしさま”の黄泉路を盛大に照らしていた。



*



そして、“ぬしさま”が旅立ったあと……炎は徐々に収まっていき――そこには“澱み”が完全に解けた“三毛猫”、そして眠っているニケちゃんが残った。

良かった……完全に“澱み”を祓えたみたい。


「……ミコト、ありがとうみゅう。おかげで“今度”は“ぬしさま”をちゃんと見送れたみゅう」

「うん……良かったね、ミケちゃん」


本当に良かった。これでミケちゃんが悲しい声で鳴くこともなくなるだろう。

それに……これで“霧凪”の悩みも解決したのかな……

そう思ったら、安心したのか少しふらついてしまった……さすがに今日は疲れたからね……。


「ミコト?大丈夫みゅう?」

「大丈夫だよ。少し疲れちゃっただけ」


そうしていると、灯明堂が燃え上がったことで、私を心配したにゃっぴーとヘレネちゃんが、慌てた様子で二階に上がってきた。


「ミコト!大丈夫だったにゃ!?」

「ミコト!無事ですか!?」

「大丈夫大丈夫!ニケちゃんもミケちゃんも問題なし」


実際には燃えていないとはいえ、灯明堂自体が炎に包まれていたからね。それは心配にもなると思う。


「良かったにゃ……それに、ミケの“澱み”も完全に見えなくなってるにゃ」

「ではミコト、“名付け”を」


そうだ……それもあったね。


「ねぇ、ミケちゃん。ミケちゃんのお名前そのままで“名付け”を行っても良いかな?

そうすることができれば、私がミケちゃんを召喚できるようになるんだ。ダイダラボッチの“澱み”を祓うためにも、ぜひ協力して欲しい」


私がそう言うと、詳しい事情は分からないまでも、ミケちゃんは頷いてくれた。


「ミコトには世話になったみゅう。それにダイダラボッチの“澱み”も祓おうとしているのなら……あちしの方からもお願いしたいみゅう。協力したいみゅう」

「ありがとう、ミケちゃん!じゃあ……キミは“ミケ”。これまで通り、ミケちゃんって呼ぶね!」


“名付け”を行うと、ミケちゃんに淡い光が降り注ぎ――世界に同意が刻まれた。


───────

サモニャー

スロット1:にゃっぴー LV.3(※送還不可)

スロット2:ヘレネ LV.3(※送還不可)

スロット3:唄(送還可能)

スロット4:祭(送還可能)

スロット5:空き


控え(“名付け”済み):キヨ(水妖“清水”)、サツマ(小鬼)、カク(河童)、シロ(すねこすり)、リュウ(蛟)、フウ(ぬりかべ)、ミケ(火車)

───────


「これからよろしくね!ミケちゃん!」

「こちらこそ、よろしくみゅう!」


そうして、ミケちゃんが仲間に加わった。

これで、完全浄化ができた五行妖怪は二体目だ。

この調子で油断せず、少しずつ進んでいこう。


私は、そう決意しながら、お布団に思いを馳せた。

今日は本当に疲れた……色々と後始末が終わったら、さっさと寝よう――

次週8/31(月)は第二十六・二十七話を同日更新いたしますので、お間違えのないようよろしくお願いいたします(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

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