第二十一話「道を塞ぐもの」
牛車でのんびり、“霧凪”へ向かう砂利道を進む。相変わらず、乗り心地は良くない。“春霞”でいただいた布のおかげで、だいぶマシにはなってるんだけどね。
そして――数時間が経ち、お昼過ぎ頃だろうか。
朝から、若干の倦怠感があったことには気付いていたのだけど――
「……ヘレネちゃん、“来ちゃった”みたいだから、少し牛車を止めて、“水瓶座”をお願いしていいかな……?」
意識不明の一ヶ月を過ごしたり、それなりに激動の日常を送っていると、日にちの感覚がなくなっていた。まさか旅に出てすぐに“来る”とは……
「ミコト、大丈夫ですか?今なら“春霞”に戻ることも可能ですが……」
「……うん、もう結構進んじゃったし、このまま旅を続けようと思う。基本的に牛車の中にいるから、激しい運動もしないと思うし」
多少怠くて、お腹が痛くて、少し気分が沈むってくらいだし……いや、やっぱりだいぶキツいかもしれん……
道の状態が悪いのも響くし。
お昼休憩も兼ねて、牛車を砂利道脇に停める。
周りの目が遮られるくらいの草むらと、それから木陰になっているところで、にゃっぴーに見張りをしてもらいながら、ヘレネちゃんと色々と“処置”する。
「すみません、ミコト。私も失念していました……スマホの中にいた時は、時間感覚も“正確”で、里を出る前に指摘できていたはずなのですが……」
“生身の身体を得て、時間感覚が生き物寄りになっているようです”、とヘレネは続けた。
それは仕方がないと思う。普通であれば経験し得ないことだからね。とりあえず、下着にも“自動修復”機能が付いていたことをイザナミ様に感謝しなきゃ。
「ミコト、痛み止めにゃ」
そう言って、にゃっぴーが“収納”から、和漢薬を出してくれる。妖狸族の皆さんからいただいた、“もどき”ではない、ちゃんとしたお薬だ。
本当に助かる……。
早速お薬を口に含み、“水瓶座”から暖かい水を出してもらう。
「……ふぅ。ありがとう、ヘレネちゃん、にゃっぴー。とりあえず、このままお昼休憩にしようか」
「きゅー……」
シロも心配してくれたのか、とことこと私に近寄ってきた。
「シロもありがとうね」
そう言って、もふもふの身体を抱き上げて膝に乗せ、毛並みに沿って撫でる。
うーん、癒される。
相変わらずの春の陽気のもと、木陰に座って、ぼーっと周りの風景を眺める。
心地よい風が吹いており、“さわさわ”と木や草が揺れる音が聞こえてくる。
良い風……このまま眠っちゃいそう。
とはいえ、眠ることは牛車で進みながらでもできるので、一旦お昼ご飯にしよう。
前日に出しておいた“牡牛座”の牛乳で、お昼ご飯を済ませる。
「外の風景を眺めながら、この牛乳を飲んでいると……改めて旅に出たって感じがするね」
「確かににゃ。清水宿を出た時もそうだったにゃ」
「そこまで前のことでもないのに、少しだけ懐かしく感じますね。あの時は……ミコトの“紙”問題があったので、少し忙しない出発でした」
それはそうなんだけど……仕方なくない?
お手洗いで使う“紙”は、人としての“尊厳”的には重要なんだよ?
「今回は、あの時とは違うからね!“紙”は里の皆さんのおかげで、しっかり補充できるようになったし、今の旅には“ちゃんとした”目的がある!」
「……まぁ、そうにゃ」
「最初とは違い、使命とも言える重い目的になってしまいましたけどね」
“紙”と世界を救うための浄化の旅……。
目的の落差がすごいな。
*
小一時間ほどゆっくり休めたし、そろそろ休憩は終わりにしよう。
痛み止めも効いてきたみたいだし、日常生活程度の動きをするくらいなら、問題ない……かな?たぶん。あまりにキツい時はちゃんと伝えよう。
とはいえ、今日は牛車の中でゆっくりするかな。旅も始まったばかりだし。
いつの間にか、眠ってしまったシロを抱き上げ、牛車に戻る。
「じゃあ、そろそろ出発しよっか。今日の予定は、蛟の住処への分岐を、“霧凪”方面に進んだ辺りまで、になるかな?」
「えぇ。今日はそこまで進みましょう」
再び、牛車で砂利道をガタゴトと進む。今日はこのまま何事もなく進めそうだね。
*
「……ミコト、起きてください」
……私もどうやら、眠っていたみたいだ。
痛み止めは効いているみたいだけど……やっぱり本調子ではないんだろうね。
外を見ると……夕暮れ時のようで、空は茜色に染まり、少しずつ周りの風景に影を落としてきていた。
私はこわばった身体を伸ばしながら、ヘレネにお礼を言った。
「うーん……!ありがとう、ヘレネちゃん。じゃあもう少し進んだら、晩御飯にしよっか」
既に、蛟の住処までの分岐路に差し掛かっていた。
「このまま山脈方面に向かえば、“リュウ”の住処だね。元気にしてるかな?」
そういえば“気軽”に呼べ、って言われてたけど、あれから一回も召喚してないね。
「……やっぱり寂しがってるかも……」
「“気軽”に呼べって、やたら強調してたからにゃ」
「……とはいえ、五行妖怪を呼ばなければならない事態は、そうそうありませんからね」
ヘレネちゃんの言う通りなんだよね……
「でも、せっかく近くまで来てるんだし、野営の警戒係として呼んじゃおっか」
「警戒係が豪華過ぎるにゃ……」
「絶対に危険が及ばない野営になりますね……」
でも、何かしらの理由をつけないと呼ぶ機会がなさそうだし。
*
辺りに夜の帳が下りて少し経った頃、牛車を道脇に停め、晩御飯の準備を進める。
もちろん、“火”の用意には“射手座”を用いる。
そろそろ、火を用意できる妖怪とも契約したいな。“射手座”おじさんの不満顔がデフォルトになってるもの。
今日はせっかくだし、豆ご飯にしようかな。いただいた食材の中に実えんどう――グリーンピースがあったし。
まず、木の器の上で、さやから実を取り出す。
そして、鍋に入れ浸水していた玄米を、にゃっぴーに“収納”から出してもらう。
本来なら、ここで豆に塩を振るんだけど……シロの分もまとめて作る関係で、そのまま玄米の上に乗せ、ゆっくり炊く。
でき上がったら、各自の好みで塩を振ってもらえば良いと思う。
炊いている間に、そろそろ“リュウ”を呼ぶことにした。
(リュウ、聞こえるかな?今、大丈夫?)
(おぉ!ミコトではないか!なんだ、寂しくなったのか!?今すぐ召喚しても問題ないぞ!)
……まだ何も要件を言ってないんだけど……
(うん、まぁそうだね。今近くを通りがかったから、せっかくだし夜の間、警護してもらいたいなって思ってね)
(脆弱な人間らしい願いだな。良いぞ、呼ぶがいい!)
本当に呼ぶ理由、そんなんで良いんだ……五行妖怪さん……
「“リュウ”来てくれるって。では、“リュウ”、召喚!」
私が指定した場所に、ぽん、と巨大な影が現れる。
「ぐははははは!俺様、参上!」
登場シーンをずっと考えていたんだろうか?
ずいぶんと堂に入った召喚のされ方だ。
「しばらくぶりだね、“リュウ”」
そう言って、“リュウ”の大きな手にタッチしようとすると、そっと手を差し伸ばしてくれた。
その手に、いぇーい!とばかりにタッチする。
良く分からないノリになってしまったけど、“リュウ”は嬉しそうだ。
「ミコト、もっと呼んでも良いんだぞ。思いのほか、時間があってな!」
「“リュウ”ってこの世界の水を司ってるんだし、大変でしょ?だから気を遣ってね」
大きいから呼ぶ場所にも気を遣うし。
「そこまで気にしなくても良いんだがな。有り難くその気遣いは受け取っておこう!」
「ありがとう、“リュウ”。じゃあそろそろ、ご飯もでき上がるから一緒に食べよっか」
豆ご飯を木の器に盛り、各自の好みで塩を振り、手渡す。
え?シロも少し塩分欲しいの?じゃあ少しだけね。
そしてシロ以外には、切り分けたきゅうりのぬか漬けも、配っていく。
「では、いただきます」
「いただきますにゃ」
「いただきます」
「きゅ!」
「いただくぞ!」
そう言って、晩御飯を食べ始める。
うん、美味しい。
ただ、“リュウ”は一口で平らげてしまったようだ。やっぱり少な過ぎたか……。
「“リュウ”、ごめんね。足りなかったよね?この牛乳も良ければ足しにして」
そう言いながら、にゃっぴーに“収納”から牛乳を出してもらい、手渡す。
「“水気”がある場所なら、全く問題ないんだが……貰えるのならば、いただこう」
そういえば、前にもそう言ってたね……。
*
食事を終え、後片付けをしたら、今日はもう眠る時間だ。
「じゃあ、“リュウ”。申し訳ないんだけど、夜の間、警護をお願いするね。何かあれば起こしてもらって良いからね」
「気にするな!もし俺様がいる時に襲ってくる、間の悪い妖怪がいたなら起こしてやろう!」
まぁ、そんな妖怪はさすがに居ないと思う。
牛車を囲うように、“リュウ”が寝そべる中、みんなで牛車の中に入る。
「そういうことだから、にゃっぴーもヘレネちゃんも今日は眠って、回復してね」
「里の中に、居る時以上の安心感だからにゃ……」
「えぇ。有り難く、今日は休息を取りましょう」
「……きゅー……」
そう、みんなで言い合いながら横になり、私はゆっくり目を閉じた――
*
翌朝――
朝の身支度を終え、改めて“リュウ”にお礼を言って送還する。
「“リュウ”、昨日はありがとう。おかげでゆっくり休めたよ」
「ぐはは!有り難く思うが良い!また呼びたくなったら“気軽”に呼ぶんだぞ!」
“リュウ”はそう言って、ぽん、と送還され、元の場所に戻って行った。
「気さくな五行妖怪で良かったね」
「ゆっくり休めたし、今日も元気いっぱいにゃ」
「えぇ。では、改めて出発しましょう。今日も順調に進むことができれば、明日には“間の宿”に着くはずです」
再び、牛車で砂利道を進み始める。
今日は山道に入って本格的に峠越えだ。さらに、道の状況が悪くなるだろうし、“リュウ”を呼んでしっかり休んだのは正解だったかもね。
*
朝食はみんなで軽くクルミを食べて済ませ、昼前くらいには山道に入った。
今までと比べ、道が細く、周囲も木に囲まれているため薄暗い。
木々の合間から、何か鳥の鳴き声のようなものが聞こえてくる。
「……ガードレールがないから、めちゃくちゃ怖いんだけど……」
こんなのちょっと進路がズレたら、真っ逆さまに落ちちゃうじゃん……
「“牡牛座”に引いてもらうのは正解でしたね。何かに驚いて、進路を外れることもありませんし」
ヘレネちゃんが恐ろしいことを言った……
そこは本当に良かったよ!
なるべく、外側を意識しないように道だけを真っ直ぐ見る。
この状況だと食欲も湧かないし、このまま進めるところまで進もう。
*
ようやく、峠を越えて後は下るだけ、となった辺りで異変が起きた。
続く道は見えているのに、“何故か”それ以上進むことができない。
一旦牛車から降りて、触れて確認してみると……透明な壁があるみたいだ。
いくら箱庭世界だからって、こんな普通の道がいきなり行き止まりになることはないだろうし……。
その時、にゃっぴーが何かに気付いたように、耳を伏せ目を凝らした。
「危険度“小”の何かが、そこにいるにゃ。……“道塞”って見えるにゃ」
聞いたことがない妖怪名だね。もしかして“凶暴化”してる?だけど……透明な姿のせいなのか、“澱み”も見えない。
夜道で透明な“何か”に道を塞がれるってシチュエーション。“ぬりかべ”?
「もし、凶暴化していて名前が変わって視えてるのなら……“ぬりかべ”の可能性が高いかも?確か脇道に逸れたり、下の方を棒で払ったりすれば解決できる……はず。だけど――」
それは、私たちの問題が解決するだけで、“この子”の問題は解決しない。
「そうだね。やっぱり、一旦“水瓶座”を浴びせてから……そこからは臨機応変に動こうか。ヘレネちゃん、お願い」
何が起きても良いように、“道塞”がいる場所から少し距離を置いて、ヘレネちゃんに“水瓶座”をお願いする。
念の為、にゃっぴーが私を守れるように、前に進み出てくれた。
「えぇ、分かりました。“水瓶座”よ」
“何もないように見える空間”へ向かって、清い水が降り注ぐ。
やはり、そこに“何か”がいるのか、降り注ぐ水の広がり方がおかしい。
そのまま、清い水を浴びせ続けていると――
「“ぬりかべ”って視えるようになったにゃ」
よし。これで少なくとも、いきなり攻撃されるようなことにはならないはず。
とはいえ、一応距離を保ったまま声をかけてみた。
「ねぇ!私の声、聞こえてる?どうして道を塞いでいたの?他にも困ってることがあったりする?」
「……」
返答がない。
「ぬりかべって、喋ることができたっけにゃ?」
「そもそも道を塞ぐ透明な何か、ですからね。会話が可能なのかどうかも分かりません」
「凶暴化が解けたとしても、本人が会話ができないタイプの妖怪さんってことかぁ……」
こういうパターンは初めて……いや、良く考えたら水妖――キヨちゃんの時と似てる?
「とりあえず、“名付け”てみるのはどうかな?“名付け”に関しては、本人の同意も込みだから、意思表示にはなるはず。それに、キヨちゃんみたいに会話ができるようになるかも?」
「そういえば、キヨは“名付け”でサモニャーとの繋がりができたから、会話できるようになったんだったにゃ」
「良いアイディアだと思います。では、ミコト。早速、口頭で契約内容を伝えて“名付け”てみてください」
ヘレネちゃん……保険の勧誘みたいな言い方しないで欲しい。いや、大事な部分ではあるんだけど。
「ねぇ、キミ。今からキミに“名付け”ても良いかな?私が“名付け”た妖怪さんは、私が呼んだら、いつでも私の傍に来れるようになれるの。
そして、私たちはキミみたいに“澱み”に侵されている子を助ける旅をしているんだ。だから、キミにも協力して欲しい。今から私がキミに“名付け”を行うから、もし良ければ同意して欲しい」
「……」
やっぱり応えは返ってこないけど……何となく、私を注視してくれているような気配がある、ような……気がしなくもない。
「それじゃあ――道を塞ぐ、“封”鎖するって特性から拝借して。キミは、“フウ”。フウって呼ぶよ」
すると――
ぬりかべがいるであろう空間に、世界に同意が刻まれた証拠の、やさしい光が降り注いだ。
良かった。同意してくれたみたいだね。
───────
サモニャー
スロット1:にゃっぴー LV.3(※送還不可)
スロット2:ヘレネ LV.3(※送還不可)
スロット3:空き
スロット4:空き
スロット5:空き
控え(“名付け”済み):キヨ(水妖“清水”)、サツマ(小鬼)、カク(河童)、シロ(すねこすり)、祭(山姫)、リュウ(蛟)、唄(妖狸)、フウ(ぬりかべ)
───────
しっかりと“控え”にも入ってくれている。
そう、安堵していると……透明だった景色が徐々に“剥がれて”いき――
そこには、額にもう一つの目があり、二メートルサイズ。三ツ目の大きな白猫さんが出現した。
昔ネットで見た妖怪絵巻っぽい姿だ。
うろ覚えだけど……ぬりかべって猫っぽかったよね?多分。
そして、未だに少しだけ、“澱み”が見えた。
“澱み”が残っていても、同意があったら“名付け”て控えに入れることができるんだ……初めて知ったよ……
「改めて、私の声が聞こえるかな?お喋りできる?」
「……かべぇ……」
壁ぇ!?透明だった割りには、やたら自己主張が強いな!
「あれ?声が出てるかべぇ……それに、おらが見えるかべぇ?」
「うん。見えてるし、キミの声も聞こえてるよ」
“フウ”はそこでようやく気付いたみたいに、自分の前足や身体をきょろきょろと見回した。
「わ!おらが見えるかべぇ!こんな身体だったかべぇ!ふさふさで、それに足もあるかべぇ!」
他人から見えていないだけではなく、本人すら自身の姿が見えてなかった?
本人が自身の姿が見えていないにしても、身体の感覚はあるはずだ。その感覚すら、今、感じるようになった?
まさか……私が“名付け”たから、その姿になった……?
これは……もしかしたら、私の“名付け”の本質は、“名付け”た存在の再定義ってことなのかもしれない?
祭ちゃんの場合は“苦悩”の核となっていたダイダラボッチを助けたいという“願い”から、ダイダラボッチと交流が盛んだった幼い時の姿に立ち返った。
“ぬりかべ”の場合は……本来であれば透明な姿だったけど、私の認識によって、その姿になってしまった……?
イザナミ様の加護でそうなったのか、サモニャーの能力によるものなのか分からないけど……
私が思ってるより、“名付け”は強力な能力になってるのかもね……
おっと。今は考察より、フウのことを優先しなきゃね。
「ねぇ、フウはどうして道を塞いでいたの?事情を教えてもらえる?」
フウは私に向かって嬉しそうに説明してくれた。
今まで、誰からも認識されず、自分ですら姿が見えないことが寂しくて仕方なかったこと。
どうしても気付いて欲しくて、色々な妖怪の進む道を遮ってみたけど、結局誰にも気付いてもらえなかったこと。
そうしているうちに、いつの間にか“澱み”に侵されて、私たちの道まで塞いでしまったこと。
事情を聞いているうちに、薄く残っていた“澱み”も完全に消えたみたい。
ということは、おそらく“ぬりかべ”の“苦悩”は、“誰にも気付いてもらえない寂しさ”辺りだったんだろう。こうして、しっかりと対話していただけで、“澱み”が消えたってことは。
「改めて……おらは、“フウ”かべぇ!よろしくかべぇ!そして、名前を付けてくれて、ありがとうかべぇ!」
「よろしくね、フウ」
「よろしくにゃ」
「よろしくお願いします」
「きゅっ!」
早速シロがフウの頭の上に乗って、勇ましく見えるポーズを取っている。
安全だと分かったら、毎回やるみたい。可愛い!
「よし、一旦このまま山を下ってしまってから、野営にしよう。フウは……後ろからゆっくり着いてきてね」
「おらが、“それ”引いても良いかべぇ?」
「……うん、有り難いんだけど、山道は怖いからね。平地に入ったらお願いするよ。今日は山道を下り終わったら、そのまま休むつもりだから……明日からお願いしようかな?」
さすがにこの細い道を、今まで自分の姿すら認識できなかったフウに引いてもらって進むのは怖い……。
*
夜も更けてきた頃、ようやく平坦な道に出ることができた。
「あぁー……疲れたし、お腹空いた!牛さんもありがとう!」
そう言い、牛さんの背をゆっくり撫でる。
そうしていると、牛さんは私の顔をひと舐めし、虚空に消えていった。
「あの道幅で、ガードレールもない道を進むのって神経使うにゃ……」
「正直に言うと私も緊張しました……身体がこわばっている気がしますね……」
みんなお疲れみたいだね。いつもの主食の炊いた玄米に加えて、もう一品何か作ろうかな?
いつものように“火”を準備して、にゃっぴーの“収納”から材料を出してもらう。
たけのこの水煮、菜の花、かつお節、お醤油、みりん。
手早く、“お浸し”を作り、みんなに振る舞う。
あ、シロにはもちろん、たけのこの水煮と菜の花に軽くかつお節をかけた、塩分なしのものを食べてもらう。
お浸しを摘んでもらいながら、玄米の準備を済ます。今日は水多めで“お粥”にしてみよう。
ついでに処理済みの栃の実もいただいていたので、それを入れ、“栃粥”にしてみた。
「ミコト、お浸しのおかわりが欲しいです。気に入りました」
「僕も欲しいにゃ。しゃくしゃくして、歯ざわりが良いにゃ」
よほど気に入ったのか、おかわりのリクエストだ。
栃粥もそろそろ食べられそうだし、火から下ろす。
そして再びお浸しを作り、にゃっぴーたちの器によそった。
「はい、栃粥もでき上がったから、こっちも食べてね。では、私もいただきます」
そういえば栃の実って初めて食べたな。ナッツみたいな感じで、おいしい。お粥の食感に、ほど良いアクセントを加えてくれてる。
こちらは、シロとフウが気に入ったみたいで、器に顔を突っ込む勢いで平らげていってる。
「初めて、食べ物を食べたかべぇ!」
「きゅっきゅ!」
“初めて”?フウが透明だった頃は、ご飯が必要なかったんだろうか……。
*
みんな満足して食事を終え、後片付けをして牛車に入る。
そして、牛車に背を向けるようにフウが横たわった。
「おらの真正面は誰も通れなくなるから、ミコトたちは安心して休むといいかべぇ!」
見た目は大きな猫さんだけど、“ぬりかべ”としての能力も健在みたいだね!
「フウ、ありがとう!何かあったら起こして良いからね。おやすみなさい」
「おやすみかべぇ!」
「良かったね。二日続けて、見張ってくれる子が居て」
「本当に助かるにゃ。今日も疲れたし、さっさと寝るにゃ」
「えぇ。フウに感謝して早めに休みましょう」
そう言い合って、横になる。シロは既に眠っちゃってるようだ。
明日はいよいよ、“間の宿”に辿り着けるはず。
着々と文明が近付いていることに、内心喜びながら、私は目を瞑った――




