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第十九話「新能力の検証とサツマの成長」

牛車に入って、すぐに祭ちゃんへ“念話”を入れた。


(祭ちゃん、今大丈夫かな?)

(ミコト様!ご無事で何よりですじゃ!)

(うん、ありがとう!蛟の“澱み”だけど、完全に浄化できたよ。蛟の住処から続く川も確認したんだけど、流量や流れの速さも、最初に見た時とは違って見えたから、いずれ春霞の水の問題も解決すると思う)

(おぉ、それはありがたい!)

(じゃあ、詳しい話は帰ってからするね。今日はこのまま牛車で一晩明かして、明日は“無理をしない”日程で戻るつもりだから、帰り着くのは夜遅くになると思う)

(承知しましたぞ。お帰りをお待ちしておりますじゃ)


そこで念話を切り、私はにゃっぴーたちにも、祭ちゃんへ報告したことを伝えた。


「祭ちゃんにも、蛟の“澱み”を祓えたことを伝えておいたよ。そして明日は“ゆっくり”戻るってこともね!にゃっぴーとヘレネちゃんも新しい能力を覚えたでしょ?今後のためにも、検証しておきたいんだ」


これから先、“何か”が起こっても対応できるように、早めに確認しておきたい。


「それが良いにゃ。特に“今回”は、発現した能力も今までとは傾向が違うみたいだからにゃ」


「私も、早く試したいと思っていたところです。ミコトの認識に変化が出たことが原因なのかもしれませんが、“護衛”寄りの能力が発現しましたので」


多分、ダイダラボッチと遭遇してしまったことが原因なんだろうね。


だけど――


「これで、“ようやく”イザナミ様の想定通りの流れに乗れた、って感じかな?にゃっぴー、ヘレネちゃん。私もなるべく、自分の身を守れるように動くつもりだけど……それでも難しい時は、守ってください!お願いします!」


私はそう言って、しっかり頭を下げた。

杖術も始めたばっかりだからね。頼らせてもらうよ!


祭ちゃんへの連絡も済み、今できることもないので、そのままシロを抱っこして眠ることにした。


「じゃあ、そろそろ寝るね。にゃっぴー、ヘレネちゃん、申し訳ないんだけど……念のため警戒お願いします!」


にゃっぴーもヘレネちゃんも、元AIだから眠る必要はないとはいえ、やっぱり少し申し訳ない。


「ミコト、そこまで気にしなくて良いにゃ」

「えぇ。そのあたりの感覚も、人間とは違いますので大丈夫ですよ」

「ありがとう!にゃっぴー、ヘレネちゃん!」

「きゅっ!」


シロも、お礼を言うみたいに鳴いた。

頼れる“家族”がいると、本当に助かるよね……。


シロの暖かさとふわふわに包まれながら、私はゆっくり目を閉じた――





翌朝。

目が覚めてすぐ、ヘレネちゃんにお願いして“水瓶座”で顔を洗う。


「ヘレネちゃん、ありがとう。サッパリしたよ」

「では、そのままお手洗いに向かいましょうか」


確かにいつもそういう流れなんだけど、そう言われると介護されてるみたいに聞こえる……。

でも野外だと、実態としてはそれに近いんだよね。


せっかくなので開示しよう。野外でのお手洗い事情を!


まず、“蟹座”親方に作ってもらった木製のスコップを、にゃっぴーの収納から出してもらう。

それから周囲の視界がある程度遮られる草むらを探し、穴を掘る。

紙は前もってにゃっぴーから受け取り、“致す”。

そして“致した”後は使用した紙ごと、ちゃんと埋め戻す。

その間、周囲の警戒をにゃっぴーとヘレネちゃんにお任せする。


……うん。これには、しっかり羞恥心を持ち続けなければならない。

でないと現代日本に帰った時、うっかり同じことをやりかねないからね!


こんなことで警察のお世話になるわけにはいけない……女子として。自戒し続けよう。いや、本当に。





そうだ。サツマの都合が良ければ、にゃっぴーとヘレネちゃんの新能力の検証を手伝ってもらおうかな。

あれから“妖刀”を振り続けているなら、しっかり“適応”して強くなっていそうだし、帰り道の護衛という意味でも頼りになるはずだ。

できれば、私の杖術の訓練相手もお願いしたい。


(サツマ、今大丈夫?)

(ミコト、久しぶりごわす)

(うん、久しぶり……って、サツマ!おしゃべりがだいぶ滑らかになったね!)

(他の群れと合流したことで、だいぶ上手になりごわす)

(おぉー!良かったね。さすがだよ!仲良くしてる?)

(みんな仲良くしてるごわす。ところで、何か用があったごわす?)

(あ、そうそう。にゃっぴーたちが新しい能力を覚えたから、それを試すのを手伝ってほしいんだ。それと、今から妖狸族の里に戻るところだから、ついでに護衛もお願いしたいの)

(分かったごわす。みんなに伝えて来るので、少し待ってほしいごわす)

(うん、ありがとうサツマ!あ、ほぼ一日がかりになるから、そこも伝えてあげてね。それと……申し訳ないんだけど、椿の実も持てるだけ持って来てもらって良い?)

(分かったごわす)

(ありがとう、サツマ。お願いね!じゃあ、呼んでいいってなったら念話よろしく)


そこで一旦、念話を切る。

私は、にゃっぴーたちにもそのことを伝えた。


「今、サツマに念話してたんだけど、こっちに来てくれることになったよ。検証の手伝いと、帰り道の護衛ってことで」

「確かに、サツマなら適任にゃ」

「仮に突発的なアクシデントが起こっても、“今の”私たちとサツマであれば、だいぶ時間を稼ぐことができます。その間にミコトが“リュウ”や“祭”さんを呼べれば、磐石と言っても良いでしょう」

「よし。じゃあサツマから連絡があり次第、出発しよう。朝ご飯は、道すがら木の実でも食べようかな」


妖狸族の里で色々もらったんだよね。クルミとかどんぐりを粉にしたやつとか、栃の実のアク抜きしたやつとか。秋の物もあるけど、それは妖狐族の里からの輸入品みたい。

まぁ、そのまま食べようと思ったら、クルミしかないんだけど、それでも十分だ。


(ミコト、準備出来たごわす)


「サツマの準備が出来たって!では、サツマ召喚!」


ぽん、と、鍋いっぱいの椿の実を抱え、背に“妖刀”を差したサツマが現れる。


「サツマ、元気だった?それに、椿もありがとう!」

「元気ごわす。それでは、にゃっぴー殿、これをお願いするごわす」


サツマはそう言って、鍋ごとにゃっぴーに渡し、収納してもらう。


「じゃあ、早速で悪いんだけど出発しようか。ヘレネちゃん、“牡牛座”をお願い」

「えぇ。“牡牛座”よ、来なさい」


虚空から幻影が現れ、そのまま何も言わず、慣れた様子で牛車の軛に身を入れた。

ごめんよ……最近、牛車を引かせることが多すぎて、本来のお仕事をさせてないよね……。

牛さんと軛をしっかりと繋いで、牛さんを労う。


「本当にごめんね、牛さん。ありがとう、いつも助かってます」


そう言って、背をゆっくり撫でてから、みんなで牛車に乗り込む。


「牛さん、“春霞”まで“いつも通り”でお願いね。ゆっくりで大丈夫だよ」


牛車がゆっくり動き出し、いつものペースで“春霞”までの道を進み始めた――





お昼を少し過ぎた辺りに、見晴らしの良い丘を見つけたので、そこで休憩と新能力の検証を行うことにした。


「じゃあ私はお昼ご飯の準備をするから……サツマ、火を起こしてもらって良いかな?」


火打ち石や火口(ほくち)、焚き付け材、薪を“収納”から出してもらい、サツマに火起こしをお願いする。

またにゃっぴーに、鍋に入れて水に浸し続けていた、たっぷりの玄米も取り出してもらう。

妖狸族の里で教えてもらった、“びっくり炊き”というのを試してみるつもり。いただいたぬか漬けと合わせて、お昼ご飯にしよう。

もちろん、シロには味を付けていない炊いた玄米のみだ。

……いや、妖怪だから塩分も大丈夫かもしれないけど、私が気になるからね……






みんなで、でき上がったお昼ご飯を食べる。


「うん、やっぱり白米とは違うね。だけど、玄米に慣れてきたら、こっちの方が美味しく感じるかも」


合間に大根やきゅうりのぬか漬けをポリポリと。


「美味しいにゃ。ぬか漬けの歯ごたえが良い感じにゃ」

「私も歯ごたえが気に入りました。何故だか、食べ続けてしまいます」


確かに、このポリポリ感は続けたくなるかも……私は塩分的に無理だけど。


「とても美味いごわす!」

「きゅっきゅー!」


サツマは、きゅうりのぬか漬けを一本丸ごとかじりしながら、その合間に玄米をかっ込んでいる。

シロも気に入ったのか、器に顔を突っ込んでガツガツと食べていた。


うん。念の為、玄米をたくさん用意して良かった。そう思いつつ、私はゆっくりご飯を食べ進めた。





お昼ご飯の後片付けも終わり、新能力の検証の時間だ!


「まずは、僕からお願いしたいにゃ。サツマ、僕と立ち会って欲しいにゃ」


にゃっぴーはそう言って、サツマと対峙する。

サツマが上段に“妖刀”を構え、じりじりと摺り足で距離を詰め……


そして――


「チェェェストォォォ!!」


見ていて、ひやり、とするくらいの勢いで、サツマは“妖刀”をにゃっぴー目掛けて振り下ろす。

それを冷静に観察していたにゃっぴーが、ひらり、と躱し、側面からサツマに向かって攻撃を仕掛けようとした――けれど、サツマはバックステップで距離を空け、再び上段に構える。


「……“サーバル”くらいかにゃ?サツマ、ありがとうにゃ」


にゃっぴーがそう言って、立ち会いが終わる。

……見ていてハラハラしたよ……


「それで、にゃっぴー。それはどういう能力なの?」

「“猫にもなれば虎にもなる”にゃ。対峙した相手によって、僕の攻撃力や身体能力が、猫から虎まで変化するにゃ。ちなみに“蛟”は虎級だったにゃ。だけど、どう考えても“蛟”には虎では勝てないにゃ。だから、“蛟”みたいに虎では勝てない相手でも、“虎”の強さが上限になるみたいにゃ」


最高で、虎と同等の能力になり、それ以上には強くなれないとのことだ。“今は”。

それ以上は……条件があるみたい。

それでも十分に強い能力だね!


「にゃっぴー、すごい!」


私はそう言って、にゃっぴーを抱っこして頬擦りする。


「ちなみに、私だとどのくらいの強さなんだろう?」


少しワクワクしながら尋ねる。

杖術も始めたし、ほんの少しくらいは強くなってるんじゃないかな!?

にゃっぴーが私を少し見つめて、すぐに目を逸らした。


「ミコトは……猫にゃ。変化なしにゃ」


…………だと思ったよ!!





続けて、ヘレネの新能力のお披露目に移る。


「次は私の番ですね。サツマ、よろしくお願いします」


今度はヘレネがサツマと対峙する。

ヘレネの能力は自身を強くするものではなく、私と同じ召喚タイプなはずだ。

そう思うとこっちの立ち会いも、やっぱりハラハラするね……


先程と同様、サツマは“妖刀”を上段に構え、摺り足で距離を詰める。


「チェストォォォ!!」


サツマもヘレネちゃん自身が強くないのは察しているようで、にゃっぴーの時とは違い若干控えめに振り下ろしを行う。


「“獅子座”よ!」


ヘレネが掌を翳しながら、そう言うとライオンほどの大きさの、錆柄の猫さんの幻影がヘレネの前に現れ、大きく鳴いた。


「にゃおぉぉぉぅん!!」


すると、“獅子座”の前に半透明の壁が現れ、サツマの振り下ろしとぶつかる。


そして――


「――ッッ!!」


サツマの振り下ろしが弾かれ、さらにサツマ自身も大きく後退させられた。

それと同時に、猫さんの幻影も虚空に消える。


「これが“獅子座”の能力です。連続での使用はできませんが、相手の“如何なる”攻撃も一度だけ防ぎ、その攻撃に乗った衝撃を相手に返すことが出来ます。しかし使用条件があり……効果は“獅子座”の背後にいる場合のみ発揮され、再使用には一分を要します」


これは……素直にすごい能力だと思う。相手がどれだけ強くとも“一度”は絶対に攻撃を防ぐことが出来るのだから。

もし、“あの時”にゃっぴーとヘレネにこの能力があったのなら……ダイダラボッチの攻撃を防いで、“水瓶座”を当てることも可能だったはず。

これから先も、似たようなアクシデントが起こるかもしれない。これは、その“保険”になる能力だ。


「ヘレネちゃんも、すごい能力だね!」


そう言ってヘレネちゃんにも抱き着く。


……!!今さら気付いたけど、ヘレネちゃん……何もお手入れしていないはずなのに、さらさらのすべすべだ!AIか!これがAIの力なのか!!


「……なにか、別の気持ちも感じ取れますが……ありがとうございます。ミコト。では、続けてもう一つの能力も確認しましょう。ミコト、離れてください」

「うん。ヘレネちゃん、その極意を聞きたいから、後でよろしくね」


もし、私が見ていないところで、お手入れをしているようなら、その極意を知りたい。


「はい??極意?何のことかは分かりませんが……では、“魚座”よ、来なさい」


ヘレネがそう言うと、虚空から、どこかで見たことがあるような二メートルサイズの“鮫のぬいぐるみ”が宙に浮いて現れた。しかも、何故かそのぬいぐるみの尾とヘレネの手首が、三メートルほどの長さのピンク色のリボンで結ばれている。


……だいぶ、メルヘンチックな姿だね……。


「あ、その……ヘレネちゃんめちゃくちゃ可愛いと思うよ!」

「ミコト、変に気を遣った言い方をやめなさい」


さすがにヘレネちゃん自身も、微妙な絵面になっているのが気になるのか、若干眉を顰めている。


「それでは、“魚座”の能力なのですが――」


その時だった。


シロが何を思ったのか、ヘレネちゃんの肩へ飛び乗り、そこからするするとリボンを伝っていく。


「えっ、シロ?」


そのまま鮫のぬいぐるみの上へちょこんと乗ると、胸を張るみたいに顔を上げて――


「きゅっ!!」


と、勇ましく……見えなくもないポーズをとった。

何それ。めちゃくちゃ可愛い!!


「わぁ!シロ、可愛い!抱っこさせてー!!」


思わず私は、鮫のぬいぐるみごとシロを抱き上げようと突撃して――


次の瞬間、どごんっ!とすごい勢いで弾き飛ばされた。


「ぐへぇ!!なに!なに!?」


マジでなに!?何が起こったの!?


「ミコト……女子が“ぐへぇ”はないにゃ……」


にゃっぴー!?まずは私の心配が先でしょ!?


「詳細を伝える前に、ミコトが実践してくれましたが……それが、“魚座”の能力です。“鮫のぬいぐるみ”とぶつかった“動物”を弾き飛ばすことができます。ただし、一切のダメージも与えられません。弾き飛ばすだけ、です。効果を及ぼせる範囲は、この“鮫”が届く範囲、“鮫”の大きさとリボンの長さを足した……五メートルほどになります」


そういうことね。とりあえず立ち上がり、付いた草を払う。


「でも、シロには何も起きていないみたいだけど?」

「弾き飛ばせるのは、真正面からぶつかった場合です。それ以外は……普通のぬいぐるみと変わらないようですね」


……確かに、正面から突っ込んじゃったけど……


「その能力ってサイズ差や重量差があっても、発揮出来るの?」


例えば、私の身長は百六十五センチメートルで、体重は五十二……いや、五十キログラム切ってた気がする。そうに違いない!

それを……その大きさのぬいぐるみなら二キログラムくらいかな?それだけの“差”があるにも関わらず弾き飛ばすんだもん。

実際にどこまで効果を発揮出来るのか、気になる。


「相手が動物でさえあれば、どれだけの“差”があろうとも弾き飛ばすことが出来るようです。理論上は。もちろん相手の大きさによって、弾き飛ばせる距離は変わりますが……それと一応お伝えしておきますが、動物には人間や妖怪も含まれます。ですが、植物は含みませんよ?」


いや、動物と植物の違いくらい分かるんじゃないかな……

もちろんミドリムシさん相手に使う場合は?とか聞かれたら困るだろうけど。使う場合があるのかな?“魚座”をミドリムシさんに……。


「“魚座”もすごい能力だね!」

「えぇ。これで、にゃっぴーさんが前衛を務め、私が中距離からサポート、そしてミコトが状況に応じて、誰かを召喚するという体制が整いました。次、以前と“同じ状況”に陥っても、誰も傷付くことなく生還出来るでしょう」


そうだね。もちろん油断は出来ないけど、安心感が段違いだ。

サツマも前と比べると太刀筋が鋭くなったように見えるし、みんな強くなってきてるんだ。

私自身も負けていられないね。


「よし、じゃあサツマ、次は私と立ち会って……いや、私に当たらない程度の位置で、振り下ろしてもらって良いかな?」


さっきの勢いで来られると、杖術を一切使うことなく負けるどころか、大怪我するのが目に見えているからね!


「日和ったにゃ……でも、それで正解にゃ」

「ですね。仮に杖術での“受け”が間に合ったとしても、それごと潰されてお終いです」

「……猫、だからにゃあ……」


おい、にゃっぴー。自分が猫の強さから脱したからって言いたい放題が過ぎるぞ!


「では、改めて……サツマ、よろしくお願いします!」


頭を下げて、立ち会い――というか、寸止めをお願いする。

先程と同様、サツマは摺り足で距離を詰め……私のだいぶ手前で止まった。

うん……素人の私に向かってだと、寸止めすら怖いものね……


そこからサツマは軽く上段に構え――


「チェスト」


掛け声すら!あまり気合いが入っていない振り下ろしが来た。

私はそれを冷静に見極め――


……見極められなかった……


「ありがとう、サツマ。私はまだ、全然戦えないことが分かったよ」


サツマが額の汗を拭い、手を振って応えてくれる。にゃっぴーやヘレネとの立ち会いより、緊張させてしまったようだ……


「絶対に当たらない距離だと分かっていても、ハラハラしたにゃ……緊張感がすごかったにゃ」

「そうですね……私にまで緊張が伝わってきました」

「きゅー……」


みんな言いたい放題だな!もっと頑張って練習して、絶対に「あっ」と言わせてあげるからね!





それから、“水瓶座”の水で濡らした手拭いで軽く汗を拭い、後片付けを行う。

そして改めて、“春霞”に向けて牛車を走らせた――





夜も遅くなってきた頃――

ようやく“春霞”周辺まで戻ってこれた。


「やっぱり、通常の速度だと時間がかかるね」

「それでも、普通に歩くよりはマシです。疲労もしませんし」


うん、それはそうだね。


「あ、そうだ。祭ちゃんに連絡を入れないと……私たちだけだと“春霞”に入れな――」


そう思ったところで、明かりが見えた。目を凝らして良く見ると……どうやら提灯を持った祭のようだ。


「祭ちゃんだ!ただいまー今帰ったよー!」

「ミコト様!無事なお姿を見れて、安心しましたぞ!ここからは婆が案内しますので、ご安心くだされ」

「そうだ、祭ちゃん、私たちが帰ってくるのが良く分かったね?」


確かに昨日連絡を入れたけど、細かい到着時間は分からないはず……


「唄に神託が降りたんですじゃ。伊邪那美命様はよほど“蛟”様の“澱み”が祓われたことを、喜ばしく思っておられるようですのう……わざわざ、ミコト様が帰り着く頃合いに、知らせていただけたんですじゃ」


そうだったんだ……イザナミ様に感謝しなきゃね!


「ついでに、晩御飯とお風呂の準備も整えておりますぞ。……そちらの小鬼殿も、どうかご一緒に」


あ、まだ紹介してなかったね。


「サツマ、こちらは祭ちゃん。えーっと、元は妖狸族の神託巫女で……今は“山姫”って種族になってるね」

「祭どの、よろしくお願いするごわす」

「それで、こちらの小鬼はサツマ。清水宿で“澱み”を祓って仲間になってくれたんだ。今は清水宿で小鬼たちの代表をしているんだよ」

「サツマ殿、こちらこそよろしくお願いいたしますぞ」


うん、礼儀正しい人同士だと、お話がスムーズだね。


そう思っていたら――


「……嘘にゃ……虎級にゃ……」


にゃっぴーが祭を見て、ポツリ、と言った。


「ねぇ、にゃっぴー、それって――」

「ミコト様、そろそろ門に着きますので、軽く幻術を解いて来ますぞ」

「あ、そうなんだ。ありがとう、祭ちゃん」


聞きそびれちゃったけど、まぁ良いか。

これでようやく一息つけるね!


そのまま門の幻術を少しの間解いてもらい、牛車を進め――ようやく社に帰ってこれた。


「ミコト様、お帰りをお待ちしておりました。蛟様の“澱み”を祓っていただき、誠にありがとうございます」


唄ちゃんが、そう言って出迎えてくれた。

そして舞さんも――


「ミコト様、おかえり!腹が減ってるだろ?まずは飯にしよう。それから、ありがとうな!これで農業の問題も解決するぜ!」


と、大層歓迎してくれた。

……うん、蛟も、妖狸族の人たちも助けられたんだ。私も素直に喜ぼう。


「そう言ってもらえると嬉しいです!あ――唄ちゃん、舞さん、ただいま!」

「ただいまにゃ」

「ただいま戻りました」

「きゅうきゅ!」


ちゃんと、“ただいま”って言わなきゃね!


みんなに暖かく迎え入れられ、社の中に入る。

そして用意された晩御飯を食べ、お風呂に浸かって今日の疲れを解す。


それから、サツマたち小鬼用に食料などを用意してもらい、それを背負子に背負ったサツマを送還する。


「サツマ、今日は助かったよ。ありがとうね!他のみんなにも、よろしくね」

「こちらこそ、ありがとうごわす。食料まで用意してもらい……ミコトの元気そうな姿も見れて良かったごわす」

「なんの、気にしなさんな!ミコト様の仲間に渡すくらいの量なら、痛くも痒くもないくらい在庫があるからね!」

「それでも、ありがとうございます。舞さん!大変美味しくいただいています。作ってくれた皆さんにも、改めてお礼を言いに行きますね」


そう言って深々と頭を下げて、お礼を言う。

私たちの食事の文明度が上がったのは、間違いなく妖狸族の皆さんのおかげだ。


「それじゃあまたね!サツマ!送還」


ぽん、とサツマが元いた場所に戻って行った。


「では、ミコト様、本日はお疲れでしょうし、早めのお休みを。詳しいお話しは明日にでもお願いいたします」

「唄ちゃんも、ありがとう。おやすみなさい」

「おやすみなさいませ」

「おやすみ!ゆっくり休んでくれよな」


そう言って、いつも私たちが使っていた客間に通される。


「きゅー……」


部屋に入った途端、眠そうな声で鳴いたシロが、用意されていた布団に一直線に潜り込んだ。


「シロもだいぶ疲れていたみたいだね」

「そうだろうにゃ……僕も疲れたにゃ。今日は眠るにゃ」

「私も、それなりに疲れましたね……元がAIだというのに疲れるものなのですね。学びがありました」


珍しく、にゃっぴーとヘレネが疲れを露わにする。私が意識不明の状態から脱した後の、初めての里の外だったからね……精神的な負担も大きかったんだろう。


「にゃっぴー、ヘレネちゃん、ありがとう。大変だと思うけど、これからもよろしくね」

「僕たちは一蓮托生にゃ」

「えぇ。これからもみんなで支え合って、進んで行きましょう」


そうして、みんなで同じ布団に潜り込む。

みんなの体温が伝わってくることに安心して、私はすぐに眠りに落ちた――


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