第十八話「蛟」
里の外へ出ると、牛車はいつも通り、のんびりと進み始めた。
でも、私の胸の中は全然のんびりしていない。
ダイダラボッチの一時的な封印が保てるのは、もって一年。
そう聞いてしまった以上、どうしたって焦る。
もちろん、焦ったところでどうにかなる話じゃないのは分かってる。分かってるんだけど……。
「ミコト、“急いては事を仕損じる”という教訓もあるにゃ。焦りすぎてもダメにゃ」
「うん、分かってはいるんだけど……どうしても、ね」
「ミコト、にゃっぴーさんの言う通りです。ですが……この場だけであれば、急ぐことも可能です。何せ“実例”があったのですから」
「ホント!?でも、実例?」
どういうことなんだろうか。
ヘレネちゃんは、静かに頷いてから、すっと前を向いた。
「“牡牛座”よ――走りなさい」
「!?」
ヘレネちゃん……牛さん、すごくびっくりしてるからね?
いきなりその命令はどうなの?
けれど、“牡牛座”はすぐに気を取り直したみたいに蹄を鳴らすと、そのまま牛車を引いて駆け出した。
「うわっ!?」
一気に景色が流れ始める。
速い。速いんだけど――
高速で景色が流れていく。
――それ自体は良いのだけど……めちゃくちゃ揺れるんですけど!?
腰にダイレクトに振動が来る……!!
「ヘレネ、ちゃん!この、振動は、どう、にもならない、の!?」
揺れで言葉が上手く出てこない!
何かほら、あるでしょ!異世界ものの物語で、サスペンションを改良して――みたいなやつ!
「どうにもなりません。ミコトが急ぎたいようだったので、こうなっているのですよ」
そう言われると、我慢するしかないね……。
「にゃはは!速いにゃ!」
「きゅっきゅっきゅー!」
にゃっぴーとシロはやたら楽しそうだ。
とりあえず、楽しそうな二人を見て気を紛らすことにしよう。
途中から若干、“牛車酔い”してきたので、物見から外の景色を眺めることにした。
そうしていると、ダイダラボッチが封印されていた社が、遠目に見えた。
こうして改めて見ると、何故あんなに気になったんだろう。
困っている妖怪がいるかもしれない――って、無意識に思ってしまったのかな……。
「ミコト、どうしたにゃ?」
「うん、“社”が目に入っちゃって……にゃっぴーたちは止めてくれてたのに、本当にごめんね……」
それまで、ずっと上手くいっていたから、余計に油断していたんだろう。
――でも、痛い目に遭って学んだ。次があれば、絶対に――
「ミコト、思い詰めないでください。あの時は全員が油断していたのです」
「そうにゃ。それに、ミコトはもう間違わないにゃ。大丈夫にゃ」
「きゅ!」
「みんな、ありがとう」
優しい“家族”たちに、改めて感謝した。
*
しばらくして、とうとう蛟の住処近くの、川沿いの道に辿り着いた。
すごいな。一日がかりの想定だったのに、夕方になる前――たぶん、まだ午後二時か三時くらいには着いてしまった。
だけど――
「ぜぇ……ぜぇ……かひゅっ」
牛さんの消耗が激しすぎる!
いつもの“モゥ”すら言えず、やっぱり痩せ細って見えるじゃんか……。
「本当にありがとう、牛さん」
私はしっかり頭を下げてから、労るように頭と背中を撫でた。
ゆっくり、ゆっくり撫でていると、少しだけ呼吸が落ち着いてきたみたいで――
「……モゥ……」
と一声だけ鳴いて、牛さんは虚空に消えていった。
本当にありがとう、牛さん。ゆっくり休んでね。
「ヘレネちゃん、牛さん、めちゃくちゃ頑張ってくれたね!こんなに早く到着するってびっくりだったよ」
ただの能力だったら、ここまで融通は利かないと思うんだ。
ヘレネちゃんは難しい顔をしていたけど……観念したかのように、がっくりと肩を落とした。
「……分かりました。認めましょう。どうやら、私の能力には感情が備わっているということを……」
「今さら!?」
清水宿で生活してた時には、もうとっくに分かってたよね!?
ヘレネちゃんの衝撃の告白で、一瞬いろいろ忘れそうになったけど――そうじゃない。ちゃんと準備しなきゃ。
「にゃっぴー、“杖”を出してもらって良いかな?」
「はいにゃ」
この杖は、リハビリ期間中に“蟹座”親方に作ってもらったイスノキ製の、私専用の杖だ。
私の重心や取り回しに合わせて作られていて、とても手に馴染む。
そして――
(祭ちゃん、聞こえる?今、蛟の住処近くに辿り着いたんだ。呼んでも良い?)
(もう着いたのですかな?いくらなんでも早すぎる気がしますが……まあ良いでしょう。大丈夫ですじゃ。呼んでくだされ)
「祭ちゃん、召喚」
何もない空間から、ぽん、と祭ちゃんが現れる。
「今度はしっかり呼んでくれたようですな、ミコト様」
「うん。今度はちゃんとね。じゃあ、蛟の元へ向かおっか」
*
牛さんは帰ったので、牛車は一旦ここに置いて、徒歩で蛟の元へ向かう。
この川を上流へ辿り、滝があるあたりが蛟の住処になっているらしい。
「ふむ……確かに、川の流れが悪いようじゃの」
「そうなの?私は初めてだから、あまり分からないけど」
でも、言われてみれば少し流れが滞っているようにも見える。
「婆がここへ来ていた頃は、もっと流れが速く、水量も多かったんですじゃ。間違いなく、蛟様に何か異常が起こっておるようですのう」
念のため警戒しながら慎重に進んでいくと、やがて滝が見えてきた。
そこには――
瓢箪を三つ、水の上に浮かべ、悩んだ様子でぶつぶつ独り言を呟いている、大きな龍のような妖怪がいた。
人間の数倍はある、五メートルほどの巨体だというのに、その姿はどこか“途方に暮れている”ようにも見える。
何か、めちゃくちゃ悩んでいるみたいだけど、その悩みを話してもらわないことには始まらない。
とりあえず、声をかけてみよう。
「すみませーん!何を悩んでるのでしょうか!良ければお手伝いできるかもしれませんよー!」
「……まず……鹿に……だが……一つしか……」
“鹿”?
ていうか、聞こえてないのかな?
「すみませーん!聞こえてたら、お返事くださーい!」
「三つ……同時は……」
ダメだ!全然反応してくれない!
こうなったら――
「ヘレネちゃん、“水瓶座”をお願いして良いかな?」
「あの、いきなりですか?」
「こっちの声、聞こえてないみたいだし。仕方ない!祭ちゃん、何かあったら幻術をお願いね!」
「ミコト様は度胸がありますなぁ……。五行妖怪様に向かって、そんな……。婆にはできそうにありませんわい」
水に属してる妖怪さんだから、“水瓶座”くらいの水量なら問題ないと思うよ?
「それでは――“水瓶座”よ、来なさい」
清い水が、“蛟”に降りかかる。
「んん?誰だ、俺様にちょっかいをかけてくる不届き者は」
ようやく顔を上げて、こちらを認識した蛟は、しばらく視線を彷徨わせ――やがて、ある一人に目を留めた。
「おぉ……“冴”ではないか!久しぶりだな!最近見なかったが、どうした……いや、待て。貴様、死んだのではなかったか……?」
蛟は、何故か恐る恐る問いかけてきた。
いや、気のせいだろう。
五行妖怪が、こんなんでビビるわけ――
だけど祭ちゃんは、悪戯心が出たのか、無言で――
“にたり”
と笑った。
そして――
「ひぇっ!悪霊退散!祓え給え、清め給え!伊邪那美命様、ここに悪霊がおるぞ!!」
めちゃくちゃビビってるね……。
すっごく覚悟して対峙したのに……この子が五行妖怪なのか……。
「冗談じゃて、蛟様。婆のほんのお茶目じゃよ」
「貴様、冗談で死んでたの!?どういうこと!?」
なんだろう。
このツッコミには、若干のシンパシーを感じる。
「では、蛟様。まずは婆の事情から話しましょうかの」
本当に一度は亡くなったこと。
それからイザナミ様に願い、この世界に留まっていたこと。
それを里の者に見られ、噂となり“山姥”となってしまったこと。
そして――浄化によって救われたこと。
積もる話でもあったのか、そこから細々とした近況を、お互い話し合っているみたいだ。
久しぶりの再会だろうからね。
このまま少し待っておこう。
それから少し経ち――
「そうだったのか……貴様も大変だったのだな。そして、ダイダラボッチの封印まで……」
「そうですじゃ。だからこそ、“澱み”を完全に浄化できるミコト様たちが、各地を巡っておられるのです」
改めて、蛟の視線が私に向いた。
「人間よ、先ほど俺様に水を浴びせたな?あの後から、周りを見る余裕が出てきたのだ。“澱み”を祓えるという“冴”の話にも納得がいった。だからこそ、俺様の悩みを聞いてくれるか?」
そういえば、ずっと何かに悩んでいる様子だったね。
「うん、ずっと悩んでたのは見て取れたんだけど、一体何に悩んでいたの?」
“水瓶座”の水を浴びせた段階で、立ち昇る“澱み”の量は減ったように見える。
あとは、その“苦悩”を解決できれば――
「実はな、俺様がこの箱庭世界に来る前のことなんだが……俺様はこの問題を間違えてしまったことで、“ある人間”に切り殺されたのだ。“澱み”に侵されてから、その問題の答えをどうしても知りたくなってな。ずっと悩んでいるのだが、答えが分からぬのだ……」
切り殺された?
でも、生きてるように見える。里に戻ったら、どういうことなのか唄ちゃんに聞いてみよう。
とりあえず、解けるかは分からないけど、その問題を聞かなきゃね。
「そんなことがあったんだね。それで、どういう問題を出されたの?」
「“川に浮かべた三つの瓢箪を沈めてみせよ”、と。もし出来れば撤退する、出来ねば斬って成敗する、と。その時は鹿に化けて沈めようとしたのだが、失敗してな」
そもそも、鹿に化ける必要ってあるのかな……?
「その……なんで鹿に化けたの?」
「その問いかけをしてきた男がな、ようやく聞こえるくらいの小っちゃい声で、“不味いなぁ……鹿に化けられたらこの勝負、負けちゃうなぁ”とぶつぶつ呟いておってな。“馬鹿め!答えを喋っておるぞ!”と!」
……残念ながら、お馬鹿さんはキミの方だったみたいだね……。
「わざわざ鹿に化けなくてもさ、キミほどの大きさなら、その瓢箪三つとも抱え込んで川に潜れば勝ちだったじゃん」
その瞬間、蛟は雷に打たれたみたいに固まった――
鹿に化けるって前提で答えを探そうとするから、答えが出ないんだよ。
「そしてさ、キミって“龍”みたいなものなんでしょ?そんなに硬い鱗に覆われているキミを害することなんて、普通の刀剣でできるわけないでしょ?だから、“わざと”鹿に化けるように仕向けてきたのでは?」
再び衝撃を受けたような顔で固まる蛟。
この子、もしかして、口が悪くて相談できる仲間がいなかっただけなのでは……?
「そうだね、そういう時は“仲間に頼る”ってことも大事なんだ。キミは物理的には“強い”。でも、自分じゃどうにもならない問題にぶつかることもある。そういう時、物理的には“弱くて”も、別の形で問題を解決できる仲間がいると、案外あっさり突破できたりするんだよ。お互い様ってやつだね!」
私は、この世界に来てから、それをより実感している。
私だけでできることは少ない。
でも、にゃっぴーとヘレネちゃん、それに……他のみんなのおかげで、ここまで何とか乗り切ってこられたんだ。
蛟にも、そういう仲間が必要なんだと思う。
その言葉に対して、蛟は俯いて答えた。
「だが、俺様の仲間は……その男に、全員斬られてしまった……俺様は、どうすれば良いのだ……」
そういうこと。
自分のせいで仲間まで斬られてしまったから、余計に“苦悩”になっていたんだね。
この子は“私”だ。
もし、にゃっぴーがあの時、死んでしまったとしたら――
うん、悲しくなってきちゃうから、これ以上は考えないようにしよう。
まずは、蛟のことだ。
「今、私が呼べる、水に属する仲間が二人いるんだ。良ければ、お話してみない?」
キヨとカクなら……きっと親身になってくれる。
二人とも、とても優しい子たちだから。
「良いのか……?俺様は口が悪いぞ。それでも呼んでくれるか……?」
「自覚しているのなら、大丈夫。私が上手く伝えてあげるよ。少し待っててね」
そこで私は、祭ちゃんの方へ向き直った。
「祭ちゃん、ここまでありがとう。蛟もちゃんと話をしてくれたし、ここからは私たちで大丈夫そう」
最初から蛟は襲ってくる気配もなく、祭とも知り合いで、歴代の妖狸族神託巫女と交流があったんだ。元々、口が悪いだけの妖怪だったんだろう。
祭ちゃんは一度蛟を見て、それから私へ頷いた。
「ふむ。承知しましたぞ。蛟様、ミコト様たちを困らせるでないですぞ?」
「誰が困らせるものか!」
「では、婆は戻りますじゃ」
「うん。祭ちゃん、送還」
祭ちゃんの姿が、ふっと消えた。
よし。これで二人を呼べる。
(キヨちゃん、カク、二人とも聞こえるかな?)
(ミコト、ひさしぶりー。なにか、ごよう?)
(ミコト姐さん!お久しぶりっす!自分たち二人を呼ぶってことは、“水”関係で困りごとでもあるっすか?)
(うん、カクの言う通り、“水”関係で協力してほしいことがあってね。五行妖怪の“蛟”のことなんだけど)
(姐さん……蛟様でも解決できない問題は、自分たちにも無理だと思うっす)
(あ、違う違う。蛟自身に悩みがあってね。カクにも言ったよね?困ってる妖怪をどうにかしたいから、協力してほしいって。蛟はね、ずっと昔に仲間がいなくなってしまったんだって。だから、何かあった時に相談できる仲間がほしいみたい)
(うん、わかったー。いいよー)
(え!?キヨ、即答っすか!?……分かったっす。キヨが行くなら、自分も覚悟を決めるっす!)
(うん!ありがとう、二人とも!)
「二人にも確認が取れたから、呼ぶね。キヨ、カク、召喚!」
ぽん、ぽん、とキヨとカクが現れる。
「キヨちゃん!カク!久しぶり!元気だった?」
(うん、げんきー)
「ミコト姐さん、お久しぶりっす!」
良かった!二人とも元気そうだ!
「じゃあ、二人にも紹介するね。こちらは“蛟”。ちょっと口が悪いけど、少しお話ししてみてくれるかな?」
蛟、ものすごくガチガチなんだけど!?
そんな緊張する場面じゃないでしょ!?
「あ……お……貴様らがミコトが呼んだヤツらか……ずいぶん弱そうだな!」
緊張しすぎて、ダメな方向に向かってる!
「えっとね、“よろしく”ってさ」
(よろしくー)
「え!?そういう感じで行くっすか!?あの……よろしくっす!」
所々、私が“通訳”に入りながら会話を続けていく。
そうしているうちに、蛟も緊張が解けてきたのか、だんだん普通に喋れるようになっていった。
カクも、“ただそういう話し方をするだけの妖怪なのか”と分かったみたいで、少しずつ打ち解けてきたらしい。
私は少しその場から離れて、様子を見守る。
「良かった。“澱み”も、ほとんど無くなってる。蛟の“苦悩”は、たぶん斬られた原因になった問題の解決と相談できる仲間の存在、その二つだったのかもね」
「ミコトには本当に驚かされるにゃ……まさか、言葉だけで解決してみせるなんてにゃ」
「彼は、五行妖怪と呼ばれるほどの存在です。それは“神話時代”からの“苦悩”であり、そう簡単に解決できるとは思いませんでしたが……」
「きゅっーきゅー……」
何故かシロまで、驚いているみたいな反応だね!
実際は、ただ私はツッコミを入れていただけ、というか。“仲間”に頼っただけ、というか……。
いや、蛟が必要としていたのは、そういうことだったのだろう。
今はもう三人とも仲良くなれたのか、お喋りが盛り上がってきているみたいだ。
(みずちさまは、はなしがわかるね!)
「キヨ!?あの、蛟様。申し訳ないっす!キヨはちょっと幼くてっす」
「ガハハ!俺様に対して中々の言葉遣いだな!構わんぞ!」
(かく、かまわんぞ!)
「キヨ……いえ、分かったっす!蛟様はこんな感じで接しても大丈夫ってことっすよね!もう自分たちは“水”仲間っすよ!」
キヨが蛟の頭に乗り、カクが蛟と握手をしている。そんな、のんびりした光景を眺めていると――
蛟の“澱み”が、完全に消えた。
――その瞬間、“透明っぽい板”が目の前に浮かんできた!
───────
にゃっぴーのレベルが上がりました。
にゃっぴー:未確認スキルが2つ解放されました。
ヘレネのレベルが上がりました。
ヘレネ:獅子座/魚座が解放されました。
サモニャーの召喚スロットが拡張されました。
───────
「いつも通り、スキルの“詳細不明”にゃ!あれ?でも、なんか分かるにゃ。“猫にもなれば虎にもなる”……?
そういうことかにゃ。これで、僕も、みんなを守れるにゃ!」
「これは……!私にもようやく、守れる力が……!!」
「やっぱり、にゃっぴーとヘレネちゃんのレベルが上がると、サモニャーの召喚スロットも広がるみたいだね」
にゃっぴーたちの新能力の検証は、明日にでもやろうかな?
そして……これで、さらにダイダラボッチの浄化に一歩近付けたはずだ。
このまま、油断せずに、みんなで進んで行こう。
それからしばらくして――
「ミコト!助かったぞ!いつの間にか“澱み”も完全に消えたようだ!それに、コイツらは気の良いヤツらだな!気に入ったぞ!」
(きにいったぞ!)
「自分も気に入ったっす!」
うん。よく分からないノリで仲良くなったみたいだね。
「良かったね、蛟!これもキミが一歩を踏み出したから、“澱み”を浄化することができたんだ。それと、私からもお願いしたいことがあるんだけど、良いかな?」
「もちろんだ!貴様には世話になった。協力することは吝かではないぞ!」
(ないぞ!)
「キヨ、やたら気に入ってるっすね。その続けて言うやつ」
(なんか、たのしい?)
「そっすか……」
キミたち、本当に楽しそうだね?
「それじゃあ、蛟。キミに“名付け”をしたいんだ。そうすれば、私が呼べばいつでもその場に来ることができるようになる。そして――ダイダラボッチの“澱み”を完全に祓いたいんだ。協力してほしい」
しっかり蛟と目を合わせて、協力を呼びかける。
すると、蛟は大きく頷いた。
「良かろう!俺様に“名付け”てくれ!それに……言われずとも、ダイダラボッチの浄化にも協力しよう。アイツが居ないと“澱み”問題が大変だからな!今度はアイツ一人には任せん。俺様も最初からアイツに力を貸してやろうではないか!」
蛟……。この少しの間で、協力の大切さに気付いてくれたみたい。本当に良かった!
「ありがとう、蛟!それじゃあ、えっと……キミの名前は……“リュウ”……“リュウ”って呼ぶね」
ヤバい!“澱み”の浄化に集中しすぎて、急には良い名前が思い付かなかった!
大丈夫かな……?
「いくらなんでも単純すぎるにゃ……」
「間違いなく、何も候補を考えていなかったパターンですね」
にゃっぴー、ヘレネちゃん、しーっだよ!
ここは変にツッコまなくて良いのよ!
「ふむ……“リュウ”か。頭が悪そうな単純な名だな。ちなみに、どういう理由でその名前が出てきたんだ?」
やっぱり、ダメだったかな……?
「それはね……私から見たキミは、完全に“龍”にしか見えないんだ。だから、“リュウ”」
「……ほほぉ……“龍”にしか見えない、か」
蛟はそこで一度言葉を切り、やがてにやりと口元を歪めた。
「人間にしては、中々分かっておるではないか!そうか、俺様は“龍”に見えるか!そうかそうか!!」
良かった。めちゃくちゃ嬉しそうだ。
そうしていると――“リュウ”に“同意”の光が降り注いだ。
───────
サモニャー
スロット1:にゃっぴー LV.3(※送還不可)
スロット2:ヘレネ LV.3(※送還不可)
スロット3:キヨ(送還可能)
スロット4:カク(送還可能)
スロット5:空き
控え(“名付け”済み):サツマ(小鬼)、シロ(すねこすり)、祭(山姫)、リュウ(蛟)
───────
良く考えたら……五行妖怪ほど格の高い妖怪も“控え”に入るんだ。
さすが、イザナミ様の加護だね!
それから――
みんなに魚を獲ってもらい、“射手座”で火を起こして、焼いて食べる。
“リュウ”は見た目の大きさ的に、これで満足できるのか分からなかったけど……五行妖怪はそこまで食事の量を必要としないみたいだ。
“水気”がどうこう言ってたけど、全然分からなかった!でも、よし!
“リュウ”に問題がないなら、それで良いのだ!
「それじゃあ、キヨちゃん、カク。めちゃくちゃ助かったよ!ありがとう!」
(ぼくも、たのしかったから、よかったー)
「……ミコト姐さん、次呼ぶ時は、もうちょっと控えめな場面で呼んでくれると嬉しいっす!」
そういえば、事情があってカクを召喚するのは初めてだった。
いきなり五行妖怪の前に連れて来られても、そりゃ戸惑うよね……。
「それに関しては、ごめんよ。でも、キミたちのおかげで“リュウ”の“澱み”が祓えた。改めて、ありがとう!それじゃあね、キヨちゃん、カク!」
(またねー)
「それでは失礼するっす!」
「キヨ、カク、送還!」
こうしてキヨとカクは、元の場所へ帰っていった。
「ミコト、必要な時以外でも、寂しくなったら“気軽”に呼んで良いんだぞ!良いな、“気軽”に呼ぶんだぞ!」
やたら気軽って強調するじゃんね……。
寂しいのかな?
……寂しいんだろうね……。
「うん、その時は遠慮なく呼ばせてもらうよ。またね、リュウ」
「またにゃー」
「それでは、失礼します」
「きゅっきゅー!」
手を振りながらリュウに別れを告げると、私たちが見えなくなるまで見送ってくれた。
「ちょっと口は悪かったけど、悪い子ではなかったね」
「たぶん、自分を守るために徐々に口が悪くなっていったんじゃないかにゃ?」
「おそらく、そうなのでしょう。もうリュウの扱い方は覚えました」
扱い方て……。
いや、私も何となく言いたいことは分かるけども。
「でも、これで五行妖怪の“澱み”も、完全に祓えることが分かった。希望が見えてきたね」
「まだ一体目だけどにゃ。それでも自信を持って良いにゃ」
「えぇ、見事な交渉でした」
「きゅー!」
みんなが褒めてくれる。
そして、シロまで褒めてくれているみたいだ。
だけど――それは確かな“自信”となって、私の踏み出す一歩を少しだけ力強くしてくれた。
「あ、そういえば川の流れも良くなってるみたい。ここに来た時に見た川より、明らかに水量も流れの速さも違うね」
「ホントにゃ」
「こうして前後を見比べると、確かに分かりやすいですね」
これで、おそらく妖狸族の“水”の問題も解決できたんだろう。
五行妖怪の一角は、“元に戻せた”。
これからも、油断せず、一歩ずつ進んで行こう。
大きな問題を一つ解決できたことに安堵しながら、私は今夜ここで一泊するため、牛車までの道を急いだ――




