第十二話「祭」
朝、目が覚めると、囲炉裏の方から小さく薪の爆ぜる音が聞こえてきた。
私はシロを抱えたまま、しばらくぼんやり天井を見上げる。
雨はもう止んでいるみたい。
家の外は静かで、代わりに漂ってくるのは、何かを煮たり下ごしらえしたりする匂いだった。
「……朝?」
「きゅー……」
シロを抱えたまま起き上がり、私はとりあえず囲炉裏のある部屋へ向かった。
囲炉裏のそばには、にゃっぴーとヘレネ、そしてサエさんが既に揃っている。
シロ以外、全員起きてるね。
「おはよう……みんな早いね」
「僕たちは、別に眠らなくても問題ないにゃ」
「眠るのは、どちらかといえば娯楽に近いのです。疲労していたら回復を早めるため、眠る必要もありますが……」
うーん……眠るのが好きな私には何とも言いづらい。
サエさんは、朝から山菜のアク抜きをしていたみたい。
昨日のうちに採ってきたのだろうか。
こごみやタラの芽、うるいらしきものが木皿に並べられている。
「おはよう、サエさん」
「……おはようございます、ミコト様。昨日はよう眠れましたかな?」
「うん、ぐっすり」
そこまで言って、私は少し首を傾げた。
なんとなく空気が固い気がする。
みんな昨日と同じように話しているはずなのに、ほんの少しだけ間がある。
もしかして、私が寝たあと何かあった?
「どうかしましたか、ミコト様?」
「え?あ、ううん。なんでもないよ」
まぁいいか。
空気が少し変でも、朝ごはんを食べれば大体どうにかなる。
シロはまだ私の腕の中で寝ぼけている。
小さく「きゅ……」と鳴いて、また丸くなった。
一旦シロを囲炉裏の近くに布を敷いて寝かせ、ヘレネにお願いをする。
「ヘレネちゃん、顔を洗いたいのと……お手洗いについて来てもらって良い?」
何と、ここには“お手洗い”がないことが昨日判明した。だから茂みでのお手洗いを余儀なくされているんだ……
サエさんは“怪異”だったから、“食”以外は必要なかったとのこと。
存在しているようで存在していなかった文明に、私は涙した……
*
あれこれを終わらせて、改めて囲炉裏のある部屋に戻ってくる。
せっかくだから一日、ここに留まることに決めた。だから牛乳は使い倒そうと思う。
旅立つ前に検証した中で発見した、星座能力の有用な組み合わせをここで披露しよう!
「というわけで、今日は朝から“牡牛座”と“蟹座”の合わせ技を使うよ!」
「朝から元気にゃ……」
「元気があるのは良いことです」
サエさんは、まだ少し警戒と戸惑いの混じった顔で私たちを見ていた。
昨日の夜、私が眠ったあと、にゃっぴーとヘレネがどんな会話をしたのかは知らないけど、少なくとも完全に打ち解けたわけではないらしい。
でも、こういう時はとりあえずご飯だ。
ご飯は大事。団欒ができれば空気も和らぐ!
「それじゃあヘレネちゃん、お願い!」
「えぇ。では“双子座”よ、来なさい。そして――融合せよ、“牡牛座”、“蟹座”」
ヘレネの幻影がヘレネと重なるように現れ、次に乳牛の幻影が現れる。続いて“蟹座”親方も現れた。
「モォ~!!」
牡牛座がひと声鳴くと、いつもの牛乳が現れた。
その瞬間、“蟹座”親方が鋏を一閃する。
しゃっ――
次の瞬間、牛乳は二つに分かれていた。
片方は、なぜかアルミホイルに包まれたバター。
もう片方はバターミルク。
ちなみにバター使用後、アルミホイルは消える仕様だ。
……“牛乳創造”と“切断”という能力が合わさった結果、牛乳の成分の“分離”ってかたちになったんだと思う。多分。
アルミホイルは……分からん!でも便利だし、良い仕様だと思うんだ。
「……これが、へれね殿の能力の一端……。無から有を生み出すとは……」
サエさんが、真顔で呟いた。
「慣れてくると、とっても便利なんだよ」
「便利、という言葉だけでは済ませられない事象ですじゃ……」
まぁ、冷静に考えるとそうなんだけど……便利なんだもの。これからも使い倒すと思う。
昨日に引き続き、台所を使わせてもらう。
火はサエさんが用意してくれたので、竈での煮炊きだ。
私は戻しておいた干しきのこと、サエさんがアク抜きした山菜を持ってきて、鍋肌でバターを溶かした。
そこへ山菜ときのこを入れて、じゅわっと炒め、岩塩で味を整える。
台所のそばに、良い香りが広がった。
「おぉ……」
サエさんが、ちょっと目を丸くする。
「まずは朝ごはんだから、軽めにね。山菜と干しきのこのバター炒めと、バターミルク!」
「これは……また、珍しい食べ物を……牛の“酪”を使用した料理は初めて食べますのう」
“らく”?昔の言葉でバターを表す単語かな?
また、シロには別で、兎肉を細かく刻んだものを用意し、バターミルクを別皿に注いだ。
ご飯の匂いで目が覚めたシロは、器を見た瞬間に目をきらきらさせる。
「きゅっ!」
「はいはい、シロの分だよ」
みんなで木皿を手にして、朝食にした。
「……これは、香りが良いのう」
サエさんが慎重にひとくち食べ、それから目を少し見開いた。
「うまいのう」
「でしょ?」
「ばたーというやつ、恐ろしいのう……」
「なんで恐ろしいの?」
「こんなに香りが立つ油、食べすぎたら戻れん気がしますぞ」
それはちょっと分かる。
「私はやはり、バターミルクの方を気に入っていますね」
ヘレネが器を傾けながら言う。
「牛乳よりさっぱりしてるけど、ちゃんと栄養ありそうだよね。にゃっぴーはどっちが好き?」
「両方にゃ」
知ってた。にゃっぴーは意外と食事を楽しんでるもんね!
*
朝食が一段落したころには、囲炉裏のまわりの空気も少しだけ和らいでいた。
私は木皿を片づけながら、改めてサエさんの方を見た。
「じゃあ……昨日の話の続きをしようか」
サエさんは静かに頷く。
「うむ。婆も、そのつもりでした」
囲炉裏の火が、小さく揺れる。
「昨日の話を聞いて、ちょっと考えてて、サエさんに聞きたいことがあるんだけど」
「何ですかな?婆に答えられることであれば、何でもお聞きくだされ」
「ダイダラボッチが暴走する前って、“澱み”はどういう扱いだったの?もしかして、他にも封印されてしまった妖怪がいたりする?」
そもそもダイダラボッチ以外にも、“澱み”に侵された妖怪がいたら、完全浄化は無理でもある程度の対処法が確立できていたはず。
それが、封印だったのだろうか。
もしくはそういう強力な妖怪以外は別の対処法があったのか。
「……それが……初めて“澱み”と呼ばれる現象が確認されたのが、ダイダラボッチ様が暴走したときなのですじゃ。その際に、“黒いもや”に便宜的に名付けられたのが“澱み”と言いましてのぅ」
ダイダラボッチの時が、初めての観測?
じゃあ、守り神的な存在だったってお話しだし……
「もしかして……ダイダラボッチって、それまでこの世界の“澱み”を一人で受け止めてたんじゃないかな」
その言葉に、サエさんが顔を上げた。
「何故、そう思われましたか?」
「だって、サエさんの話だと、ダイダラボッチが暴走する前には、“澱み”が妖怪に溜まって困るなんて話、なかったんでしょ?」
「……たしかに、そうですじゃ」
「それなのに今は、私たちが浄化してきただけでも、水妖に小鬼、河童やすねこすり、さらにはサエさん自身にも“澱み”が溜まってた。ってことは、前は誰かが受け止めてたんじゃないかなって」
にゃっぴーが尻尾をゆっくり揺らす。
「それがダイダラボッチだった、とにゃ?」
「うん。もともとこの世界を整えるために呼ばれた存在なんだよね?だったら、大地に溜まる“澱み”を抱え込むのも、整えることの一部だったのかも」
サエさんは囲炉裏の火を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……あり得ますのう」
しばらく場に沈黙が落ちる。
そのあと、私はここまでの経験を思い返しながら言葉を続けた。
「あ、そしてもう一つ。“澱み”を完全に祓うには、基本的に二段階の浄化が必要なんだ」
「二段階、ですか」
サエさんが聞き返す。
「うん。まず一つは、本人に直接まとわりついてる“澱み”そのもの。これは“水瓶座”の水で浄化できる」
これにはヘレネも頷き、
「えぇ。それは、これまでの実例からも間違いないでしょう」
「でも、それだけじゃ減らせるだけで、完全には消えないんだよね」
私は指を折りながら数えた。
「小鬼たちは“渇き”と“飢え”。河童は相撲をしたいって気持ち。サエさんは……一つは山姥になってしまったことかな?もう一つは、ダイダラボッチを助けたいって願い」
水妖は少し特殊で、本人に溜まった“澱み”のみだったけど……多分、その妖怪の力もしくは意志の強さも関係しているんだと思う。
「……うむ」
「つまり、その人の中にある“苦悩”とか“引っかかり”とか、そういうのを解かないと、完全浄化が成らないんだ」
サエさんの目が、わずかに見開かれた。
「苦悩、ですか……」
「しかもそれが解決に向かうと、目に見えて“澱み”も減る。推察の手がかりにはなるよね」
これは小鬼たちでも確認済みだ。飢えを満たすと“黒いもや”の量が減り、“水瓶座”の水で完全に消えた。
ヘレネが小さく頷く。
「物理的な浄化と、因果的な解決……その双方が必要、ということですね」
「では……」
サエさんが、ゆっくりと言葉を継いだ。
「ダイダラボッチ様の“苦悩”とは、一体なんじゃろうか……」
それからしばらく、私たちは皆で考えた。
この世界を整えるために呼ばれたこと。
“澱み”を大地から受け止め続けていたかもしれないこと。
近隣の妖怪たちと、かつては交流があったこと。
でも、いつの頃からか、そういう交流が途絶えてしまったこと。
「もしかしたら……」
サエさんがぽつりと呟いた。
「他の妖怪との交流、それ自体が必要なのやもしれませぬ」
「孤独だった、ってこと?」
「あるいは、ですじゃ」
私は腕を組んだ。
「でも、サエさんが死んでから五十年は経ってるんだよね。その間に何があったか、私たちは全然知らない」
「妖狸族の里の者や、今の神託巫女……あるいは他の里の者からも話を聞いた方がよいかもしれませぬ」
「うん。情報集めは必要だと思ってる」
そこで、サエさんは一度姿勢を正した。
「じゃが、そのためにも……ひとつ、願いがあります」
「願い?」
「婆を、ミコト様たちの旅に同行させて欲しいのですじゃ」
私は目を瞬いた。
「……確かに、このまま浄化の旅を続けていたら、いずれダイダラボッチと会えるかもしれないけど……」
……言いにくいけど、お婆さんが旅に着いて来れるのだろうか。さすがに体調が心配になる。
一度亡くなってるみたいだから尚更――
そうだ!
「サエさん。良ければ苗字も教えてくれない?」
もう既に名前も持ってるみたいだし、そのままを“名付け”ることができれば、召喚できるようになるし、違和感もないはず。
そうすればずっと旅を続けるよりは安全だ。
「何故、名前を?婆……というか、里の者は苗字は持っていませんですじゃが……」
先ずはそこからだね。
「これは、私の能力になるのかな?私が“名付け”て、相手から同意が得られたら、遠く離れていても、その場に呼び出すことができるんだ」
そう、“サモニャー”の能力のことだ。
人に近い見た目だけど、妖怪さんだし、“控え”に入れるはずだ。
サエさんは大きく目を開いた。
「そのような能力をお持ちだったとは……では、お願いしたいですじゃ。ただし――新しい名前を付けてくださらんかのう」
「今のままの名前じゃダメなの?」
サエさんは、静かに首を振る。
「婆はもう、以前の“冴”ではありませぬ。霊として留まり、山姥へ変じ、澱みに侵され……今の婆は、もはや昔の妖狸族そのものではありませぬ」
その声音は穏やかだったけど、はっきりしていた。
「じゃから、改めて新しい名をいただきたい。そして、いざダイダラボッチ様と対峙する時には、どうか婆を呼んでくだされ。あの方を知る者として、苦悩を推し量る助けになれるやもしれませぬ」
私は少し考えて、それから頷いた。
「……分かった」
昨日からずっと思っていた。
この人はもう、ただの“山姥”じゃない。
そして、昔の“冴”のままでもない。
なら、新しい名前が必要なんだろう。
私は指先で空中に字を書くような仕草をしながら、ゆっくりと言った。
「神事には欠かせない、“祭”って字を当てて、“サイ”ってお名前はどうかな?」
サエさんが、静かに息を呑む。
「“祭”……」
「前のお名前に音を近くしてみたんだけど、どう?」
「……その名で、お願いしますじゃ!」
その瞬間だった。
サエさんの身体から、眩しいほどの光が溢れた。
「えっ!?」
「にゃっ!?」
「これは……!」
光は家の中を白く染め、私は思わず目を細める。
囲炉裏の火の色すら、一瞬だけ見えなくなった。
……やがて光がゆっくりと収まっていく。
そこに立っていたのは――もう、“老いた巫女”ではなかった。
狸耳と狸尻尾を持つ、小さな子どもの姿。
見た目は七つか八つくらい。
でも、立ち姿は妙にしゃんとしている。
その子は、裾を整え、深々と頭を下げた。
「改めまして、祭と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」
驚いた……まさか若返るとは……
「……なんで子どもになったの?」
祭は少し考えてから、静かに答える。
「おそらく……ダイダラボッチ様と交流しておった頃の姿に近づいたのかと……」
なるほど。
理屈は何となく分かるような……いや、やっぱり良く分からないや。
不思議がいっぱいだね!
───────
サモニャー
スロット1:にゃっぴー LV.2(※送還不可)
スロット2:ヘレネ LV.2(※送還不可)
スロット3:空き
スロット4:空き
控え(“名付け”済み):キヨ(水妖“清水”)、サツマ(小鬼)、カク(河童)、シロ(すねこすり)、祭(山姫)
───────
山姫?
……一旦、霊体になって山姥の噂と結びついて実体化したってことだったよね……?
もしかして……私が新しく“名付け”たことによって、擬似的な生まれ変わりが起こったってことなの……?
*
その後は、改めてお互いの能力の確認をすることになった。
まずは祭への説明からだ。
「“名付け”済みの相手なら、念話みたいに事前に声を掛けることもできるんだ。それに同意を得られたら、その場に呼ぶことができる」
「では、いざという時には、それで呼ばれればよいのですな」
「うん」
次に、にゃっぴーとヘレネの能力をざっくり説明する。
にゃっぴーは鑑定や虫・獣避け、工程補助に空間収納、それと危険察知。
ヘレネちゃんは浄化の水に、配達、牛乳、加工、複合、それと鍼治療。
……そういえば……改めて能力の数を確認すると、にゃっぴーには“もう一つ”備わった能力があると思うんだけど……未だに不明なんだよね。
祭は真剣に聞いていたけれど、最後には微妙な顔になった。
「……よくここまで無事でしたな……」
「否定できないにゃ」
「私も否定しません」
……改めて一覧にすると、ほとんどが生活寄りだね。これから旅を続けることができるのか、不安になる構成だ……
「祭ちゃんの能力も教えてよ」
その言葉に、祭は小さく頷いた。
「婆の能力は幻術ですじゃ」
祭は、家の柱にそっと手を触れた。
「この家そのものが、既に幻術ですじゃ。ですが、触れば分かる通り、感触もあるでしょう?」
私は柱に手を当てる。
たしかに、木の感触がある。冷たさも、ざらつきもある。
「うん。普通に本物みたい」
「極まった幻術は、現実にも影響を及ぼせますじゃ。炎の幻なら熱を持ち、水の幻なら濡れた感触を持たせることも可能ですのう」
「それ、かなりすごくない?」
「こと幻術においては、最強と言っても過言ではないかと」
ヘレネが、珍しく素直に評価した。
祭は少しだけ得意げに胸を張る。
「幻術を得意とする妖狸族であることに加え、幻術を扱うことができる山姥という怪異を経たことで、その辺りはさらに研ぎ澄まされたのでしょうな」
その時だった。
「きゅっ!」
シロが、やたらと自己主張し始めた。
「どうしたの、シロ?」
シロはきりっとした顔で、私の脛にすりすりした。
それから前足で自分の目を覆い、「きゅっ、きゅー」と鳴く。
「……ん?」
私は何となく、その意図を感じ取った。
「えっと……シロから見えない場所に行けばいいの?」
「きゅっ!」
たぶん正解っぽい。
私は一度、家の外へ回り込んだ。
すると少しして、中から「きゅっ!」という元気な声が聞こえる。
次の瞬間、シロが私のいる方へ一直線に走ってきた。
「おぉ」
シロは迷いなく私の足元まで辿り着くと、再びすりっと身体を擦り付けた。
「追跡、かな」
「身体を擦り付けた相手を追える能力、にゃ?」
「きゅっ!」
シロが、誇らしげに頷いた。
かわいい。
「すごいじゃん、シロ!」
「きゅーっ!」
褒められて満足したのか、シロはそのまま私の足元でくるくる回った。
*
そうこうしているうちに、日が傾いてきた。
「そろそろ、夕ご飯を作ろうか」
せっかく一日ここに留まるのだ。
昼のうちに考えていた“時間のかかる料理”を、今こそ作る時である。
「祭ちゃん、兎の骨って残ってる?そして、ネギや生姜辺りの香りが強いお野菜はあるかな?」
「ありますぞ。生姜と……“のびる”ならありますな」
ノビル……確かネギに似たお野菜だったはず。
「よし!」
私はまず、兎ガラの下処理から始めた。
一度茹でこぼして血合いを落とし、綺麗にした骨とノビル、生姜を鍋に入れて、じっくり煮る。
灰汁を丁寧に取りながら煮込めば、じわじわと良い香りが立ってきた。
「これは、出汁ですかな?」
「うん。兎ガラから取れる出汁だね!」
その間に、もう一度“牡牛座”と“蟹座”を使って、バターとバターミルクを作る。
今度はバターで兎肉を焼き、そのまま戻した干しきのこと山菜も炒める。
焼き色がついたところへ、兎ガラスープを注いで煮立たせ、岩塩で味を整え、最後にバターミルクを加えて、さらにゆっくり煮込んだ。
鍋の中が、少しずつ白くまろやかに変わっていく。
「……これは」
祭が鍋を覗き込み、目を丸くした。
「ホワイトシチューっていう、白い煮込み料理だよ」
色々材料が足りてないから、あくまで“もどき”だけどね。
「しちゅー……!」
この時点でもう、祭の好みに合う料理なんだろうなって空気を感じる。
出来上がった兎肉と山菜の簡易ホワイトシチューを、みんなで囲炉裏のそばで食べる。
シロには、また別で一口大の焼いた兎肉とバターミルクだ。
「……うまいのう」
ひとくち食べた祭が、しみじみと言った。
「これが、しちゅー……」
「美味しい?」
「美味しすぎて困りますな」
困るほどなんだ。
にゃっぴーも夢中で器を舐めているし、ヘレネも珍しく無言で食べ進めている。
どうやら今日の夕食は、大成功だったみたいだね!
*
寝る前に、残りの牛乳を三セット分出してもらった。二百ミリリットルずつの瓶が、十五本。
明日の分の食料として確保しておく。
それから水瓶座の水で軽く身を清める簡易行水を済ませ、奥の間に入った。
今日も色々あったなぁ。
でも、かなり大事な一日でもあったと思う。
祭が仲間になり、ダイダラボッチを救うための道筋も、少しだけ見えた。
それとシロの能力も分かった。
明日はいよいよ、妖狸族の里へ向かう。
私は横になりながら、眠気の中でぼんやりと思った。
「……妖狸族の里かぁ……どんなところなんだろうね」
「幻術まみれの里にゃ」
「怖い言い方しないでよ……」
でもきっと、そこには次の景色が待っている。
そう思いながら、私は静かに目を閉じた――




