表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/16

第十一話「怪しい家」

目が覚めた。

朝の空気は、少し冷たく感じる。

山の麓で一晩を明かした私たちは、朝食を軽く済ませると、早いうちに出発することにした。

今日はいよいよ山越えだ。

ここを越えれば、その先には“妖狸族”の里があるらしい。


「……山道ってだけで、ちょっと身構えるね」


牛車の前板に座りながらそう言うと、にゃっぴーが尻尾を揺らした。


「昨日みたいに、極小の何かが寄ってくるくらいなら可愛いもんにゃ」

「シロ基準で危険度を語るのはよくないと思うんだ」


私の膝の上では、そのシロが丸くなっている。

昨日はだいぶ弱っていたみたいだけど、牛乳と休息が効いたのか、今朝はかなり元気そうだ。


「きゅーっ」

「ほら、だいぶ元気になったみたい」

「可愛いにゃ」

「その子は、可愛いだけではなく、元々はミコトの脛を削ろうとしていたのですが」

「それだけはちょっと気になるんだけどね……」


まぁ非力過ぎて、すりすりしてただけなんだけど。

牛車はきしきしと音を立てながら、山道を登っていく。

道幅は昨日までより狭くなったけれど、完全に獣道というほどではなく、どうやら人や荷車が通れる程度には整えられているらしい。

とはいえ、登りは登りだ。

ただでさえ木組みの荷車は揺れるのに、坂道が加わると身体への負担がなかなかきつい。


「牛さん、ありがとうね」

「モォ……」


今日も今日とて、物悲しい声だ。

ヘレネは平然とした顔で言った。


「そもそも、その“牛”は私の能力ですから。外見だけで一切の“翳り”はありません」

「……そういうことじゃないんだよなぁ……」


このやり取りも二度目なんだよね……





山頂が見え始めたのは、昼を少し過ぎた頃だった。

木々の密度が少し薄くなり、視界が開けてくる。

私は一旦牛車を止めた。

牛車から降りて大きく伸びをする。


「んん〜っ……着いたー!」

「まだ“山頂”にゃ」

「でも、だいぶ頑張ったでしょ?」


……牛さんがね!


「まぁ、それはそうにゃ」


山の上から見える景色は思ったより広かった。

木々の向こうに、遠くまで連なる森と、ぼんやりとした大地のうねりが見える。

……でも、目的地らしい里はどこにも見えない。


「妖狸族の里って、本当にこの先にあるんだよね?」

「小鬼たちはそう言っていましたが……」


ヘレネがそう答えた、その時だった。

ぽつり。

頬に、冷たいものが当たった。


「……あれ?」


ぽつ、ぽつ、ぽつ。

続けて数滴。

空を見上げると、さっきまで曇っていた空が、暗くなってきていた。


「雨にゃ」

「雨だね……」


そういえば、この世界に来てから、ちゃんと雨が降ったことはなかった。

雨対策なんて、当然していない。

一応、牛車には屋根もあるけど……前簾のところから降り込んできそう。

今くらいの弱い雨ならまだ平気そうだけど、本降りになったら厳しい気がする。

私は荷台の上から周囲を見回した。


「とりあえず、どこかで雨宿りした方が良いかな」


山頂から少し先へ目を凝らすと、下り坂の途中に、ひときわ大きな木が見えた。

あれだけ大きければ、木の下に入るだけでも多少はしのげそうだ。


「よし、あの木のところまで行こう」


私たちは再び牛車を進め、山頂を越えて、ゆるやかな下りへ入っていった。





大きな木のそばまで来て、私は思わず目を瞬いた。


「……え?」


木の真下には、家があった。

まるで“最初からそこにあるのが当然”みたいな顔をして、一軒の家が建っている。

江戸時代あたりにありそうな民家。

整えられた外観に縁側、綺麗な引き戸。

山の途中に突然あるには、あまりにも整いすぎているように見える。


「……これは、さすがに怪しいにゃ……」


にゃっぴーが、低く言う。


「ですね。山道の途中に、都合よくこのような家があるとは思えません」


ヘレネも明確に警戒していた。

私はその家を見て、そして空を見上げる。

雨脚はまだ弱いけれど、少しずつ強くなってきている。

牛車で雨をしのぐのは心もとないし、身体も疲れている。

できれば屋内で休みたい。文明的な休憩がしたい。

……旅二日目にして、もう普通にしんどい。

現代女子に車も宿もない旅はつらい。


「……でも、さ」

「ダメにゃ」

「まだ何も言ってないよ!?」

「言う前から分かるにゃ」

「雨も降ってるし……にゃっぴーの索敵も、反応してないんでしょ?」


その言葉に、にゃっぴーが一瞬黙る。


「……反応は、ないにゃ。ないけど、それが逆に気持ち悪いにゃ」

「そうだとしても、今のところは何も起きてないし……ちょっと声を掛けるくらいなら……」


ヘレネがじとっとした目で私を見る。


「ミコト。そういう思考で罠にかかるのですよ」

「いや、本当に普通の家かもしれないじゃん」

「山道の途中の、あまりにも整いすぎた普通の家、ですか?」

「そう言われると怪しいけど……でもほら、山小屋みたいな施設かもしれないし!」


雨は降っているし、私はお疲れだし、今のところにゃっぴーの索敵にも反応はない。

大丈夫かもしれない……気がする。

私は牛車から降りると、そのまま家へ近づき――


「ごめんくださーい!誰かいませんかー!?」

「「ミコト!?」」


二人の声が重なった。

ごめんよ……できれば屋内で休みたいんだ……

すると、家の中から、しわがれた声が返ってきた。


「誰ぞ、おるのかぇ?入っておいでぇ……」


返事があった。

やっぱり少し怪しい気はしたけど――

そのまま引き戸に手をかけた。


「お邪魔しまーす!」

「ミコト!いくらなんでも思い切りが良すぎますよ!」

「普段ビビりのくせに、度胸だけはあるにゃ……」





家に一歩踏み込んだ私は、動きを止めた。

入ってすぐのところは土間になっていて、奥には囲炉裏のある座敷。綺麗に整えられた室内だ。


そして、その奥に立っていたのは――


白装束の、お婆さんだった。

白いハチマキを締め、しかもそのハチマキの両端には、火のついた蝋燭を一本ずつ差している。

さらに何故か手には、包丁を持っている。

そして……“澱み”が立ちのぼっているのも確認できた。これは……会話可能なパターンなのかな……


「……」

「……」


その……変なお婆さんと見つめ合う。

なんで無言なんだ……なにか言ってほしい。

というか、情報量が多すぎて処理が追いつかない。


何故、頭に火のついた蝋燭を。

何故、包丁を。

何故、その組み合わせで出迎えるの。


私は一瞬だけ笑いそうになってしまったけど……とりあえず一番気になったことを口にした。


「……あの、その蝋燭には何の意味が……?」


するとお婆さんは、にたりと笑った。


「それはねぇ……」

「…………」


それは……?


「オマエを食べるためさぁ!!」

「どういうこと!?」


蝋燭関係なくない!?

お婆さんは包丁を振り上げ、そのままこちらへ駆けてきた。


「ヘレネちゃん!水瓶座!」

「えぇ――“水瓶座”よ、来なさい!」


清い水が、お婆さんへ降り注ぐ。


「ぎゃぁぁぁ!蝋燭が!!」

「蝋燭!?」


気にするのそこ!?


お婆さんは慌てて頭を押さえ、火の消えた蝋燭を恨めしそうに見上げた。

その瞬間、顔に貼りついていた鬼気迫るような気配が、揺らぎ――立ちのぼっている“澱み”の量も減ったように見える。

それに……さっきまでの、食い殺されそうな雰囲気が少しだけ薄れているし、表情もどこか人間味を取り戻したように見えた。



私は、何故かそこで急に申し訳なくなった。


「あの……ごめんなさい。そこまで蝋燭の火を大事にしてるって思わなくて……火、着けましょうか?」


こちらには“火種おじさん”もいるし、囲炉裏もあるのなら、火口(ほくち)もあるだろう。

多分どうにかなるはず。


お婆さんは、ぽかんとした顔で私を見た。


「……うん?というか、(ばあ)が怖くないのかぇ?」


怖くない、というか……。

私は少しだけ言葉を選んで、それから答えた。


「……なんというか、頭に蝋燭差した面白お婆さんって印象が強すぎて……怖いっていうより、面白い?」


あっ。

そのまま答えちゃった……


「…………」


お婆さんは呆然としている。

……もう少し、言い方があった気がする。

でも、もう口に出してしまったし……引き返せないね!

にゃっぴーとヘレネが、後ろで同時に固まった気配がした。


そして――


「……ふえっふえっふえっ!」


一瞬の沈黙のあと、お婆さんは突然、大笑いした。


「そうかい!面白いかい!中々豪気なお嬢ちゃんじゃ!」

「え、あ、はぁ……?」


許された……のかな?

後ろで、にゃっぴーがぽつりと呟く。


「ミコトのコミュ力、どうなってるにゃ……」

「信じられませんが……仲良くなってしまいましたね……信じられませんが」


なんで二回言ったのかな、ヘレネちゃん。





座敷に通され、囲炉裏のそばに座らせてもらう。

雨音が、屋根を軽く叩いている。

外はもう、すっかり雨宿りせずにはいられない天気だった。

お婆さんは向かいに座ると、一度深く頭を下げた。


「……改めて名乗るとしようかの。婆は“妖狸族”の“元”神託巫女、(サエ)と申す。この度は“澱み”を祓っていただき、心より感謝申し上げる」

「妖狸族の……元神託巫女?」


私は目を丸くした。

改めてよく見ると、さっきよりも表情はずっと穏やかだ。

しかも頭の両脇には狸耳、着物の裾からは狸の尻尾まで見えている。


でも――


「にゃっぴー、この人……」

「……“山姥”って視えるにゃ」


やっぱり、まだ完全には祓えていないらしい。

薄くだけど、“黒いもや”も見える。

サエさんは、そんな私たちの様子を見て、小さく笑った。


「元神託巫女とはいえ、まだ完全には戻りきれておらぬようじゃの。じゃからこそ、お主らに頼みたいことがある」


そう言って、サエさんは静かにこれまでの経緯を語り始めた。





五十年前。

元々はこの世界の大地を整えるために、神様から一番最初に呼ばれた原初の妖怪、守り神的な存在でもある“ダイダラボッチ”が、“澱み”に侵されて暴走した。

それに対し、妖狸族、猫又族、妖狐族、鬼人族の四種族が力を合わせて戦ったけれど――相手はこの世界の守り神。

暴走していたとはいえ、それを“殺す”という判断を、誰も選べなかった。だから封印した、と。


「封印そのものは、成った。じゃがの……」


囲炉裏の火を見つめながら、サエさんはぽつりと言った。


「その時、封印の立役者であった妖狐族の神託巫女が、こう言ったのじゃ。“次は、殺すという選択も必要かもしれぬ”と」


その言葉の意味を、サエさんは詳しく聞けなかった。

何故ならその直後に――自分が死んでしまったから、とサエさんは言った。

……生きているように見えるけど……今はサエさんの話を聞こう。


「……婆は、子どもの頃に一度、森で迷ったことがあってのう」


その瞬間、サエさんの姿がふっと揺れた。

一瞬だけ、小さな子どもの姿が重なる。

姿が揺らいでいる……?

私は思わず息を呑んだ。


「その時、助けてくれたのがダイダラボッチ様じゃった。それから何度か、遊んでもろうてのう……じゃから婆はどうしても、あの方を殺したくはなかった」


死んだあと、冴さんは“神様”にその思いを打ち明けた。

すると、この世界にしばらく“霊体”として留まることを許されたのだという。

けれど、留まっているうちに妖狸族の里の者に姿を見られ、噂が噂を呼び、“山姥”という怪異の像と結びついてしまった。

その結果、今のような姿に変じてしまったのだと。


「しかも、その果てに……婆自身まで“澱み”に侵され、おかしくなっておった」


サエさんは、自嘲するように笑った。


「そこへ、お主らが来た。清め、救うた」


そして、私たちをまっすぐ見た。


「この世界にはなかったやり方で、“澱み”を祓うお主らなら……ダイダラボッチ様も、救えるやもしれぬ」


囲炉裏の火が、小さく揺れる。

その時また、サエさんの輪郭が揺らいだ。

老いた巫女の姿の奥に、幼い子どもの姿が一瞬だけ重なる。


私は、その姿を見て、小さく息を吸った。


「……うん」


にゃっぴーとヘレネが、私を見る。

そんな強大な相手に対して、絶対にどうにかする、とまでは言えない。


けれど――


私はサエさんを見返して、はっきりと言った。


「手伝うよ。ダイダラボッチを、助けよう」


もし……私が手伝うことで、少しでも解決の希望が見えるのなら――

その言葉に、サエさんの目が少しだけ見開かれた。

それから、深く、深く頭を下げる。


「……かたじけない」


私が協力を申し出ると同時に――サエさんから立ち昇っていた“澱み”が消えた。

その“願い”を受け止めてもらうことが……サエさんの最後の“引っかかり”だったんだろうね。





その後の詳細を詰める話は、明日に回すことにした。

ここまでの話だけでも十分に重かったし、何より、私たちもサエさんも疲れている。

今日はこの家に泊めてもらうことになった。

そして、こちらの自己紹介も済ませる。


「私は“比良坂 命”。ミコトって呼んでください。こっちの可愛い猫さんが“にゃっぴー”、そっちのキラキラした女の子が“ヘレネ”、そして私が抱っこしている子が“シロ”です」

「ミコト様、にゃっぴー殿、へれね殿、シロちゃんかぇ。何とも珍しい組み合わせじゃのう。そもそも、人間を見たのは初めてじゃ」


そういえば昨日出会った小鬼たちも、“初めて見た”って言っていたな……よほど人間は珍しいらしい。


「そうだ!先程、元神託巫女って言ってましたよね?何か私についての神託を聞いてないですか?」

「……済まぬが、“元”なのでな。今は神託は降りて来ぬのじゃよ」


“神託巫女”以外には、神託が降りない?


でも、昨日の小鬼たちは――


「“あの御方”はお優しいでなぁ。神託巫女以外に神託を降ろすことは、滅多にない。負担が大きいらしくての」


……ということは、私がこの世界に来たのは、その“滅多にない”ことに該当する……?


「ここに来る途中で出会った小鬼たちが、その“滅多にない神託”があったことを話してくれました。サエさんはご存知ですか?」

「それは……!ちなみに、何と?」

「近いうちに我が呼んだ人間、つまり“私”が来るので危害を加えるな、と」

「婆には全く……“澱み”に侵されていると神託を受け取れないのかもしれんのぅ……」


サエさんは小さい声で、“これもあの御方の導きじゃったか……”と呟いている。


「先程から仰っている“あの御方”とは、どなたのことでしょうか?」


そこも気になっていた。果たして、どんな神様が私を呼んだのか。


「本来であれば、神の名を呼ぶことは憚られるのじゃが……“あの御方”がわざわざ招かれた貴女様には、お伝えしましょう」


そう言ってサエさんは背筋を伸ばし、凛とした表情で答えてくれた――


「“あの御方”とは……」


外では雷も鳴り始めたのか、ゴロゴロ、ゴロゴロと音がする。


「“伊邪那美命”様のことじゃよ」


どこか遠くで――雷鳴が激しく轟いた。




結局気になることが多く、色々お話ししてしまった。

一旦深い話は忘れて食事にすることにした。

明日も詳しくお話しする時間はあるのだ。


台所でサエさんが用意してくれた兎肉と山菜を、そしてこちらからは、干したキノコと川魚の干物を提供し、みんなで調理する。

干しキノコを戻した汁に、焼き目をつけた兎肉、川魚の干物、アク抜きをした山菜を入れて、ゆっくり煮る。それだけで、まわりに良い香りが広がった。

うん、干物から塩気も出てるから、岩塩は使わなくて大丈夫そうかな?

必要だったら自分で使ってもらおう。


また、せっかくだし少し贅沢をしよう。

椿油をそれなりの量使って、タラの芽、こごみ、うるいを素揚げにし、軽く岩塩を振る。


そしてサエさん用で川魚の干物を炙っておく。……すっごい食べたそうな雰囲気を感じたからね!


一日ぶりの文明だ……おかえり!

各料理を囲炉裏のある部屋に持っていく。


「これは、また……豪勢じゃのう。ミコト様は料理もお上手じゃの!」

「サエさんからも、色々と食材をいただけたからね!せっかくだし、豪勢にしてみたよ!」


あ、シロはさすがに塩分が濃そうだから、兎肉を食べやすいように、小さく刻んで木皿に盛ってあげて、お水も用意する。


「きゅきゅ!」


シロは私にお礼を言うように鳴いて、そのまま兎肉に夢中になった。お肉が好きなのかな?


「では、私たちもいただきましょうか。にゃっぴーには私がよそってあげるから、食べたい物があったら言ってね」


にゃっぴーは目をキラキラさせながら言う。


「全部にゃ。素揚げは初めて食べるにゃ!」


はいはい、全部ね。各種木皿に盛ってから、にゃっぴーの前に置く。

それから、みんなで少しずつつまみ始める。


「お鍋も美味ですが、私は山菜の素揚げが気に入りました。このほろ苦さと香りがたまりません」


珍しくヘレネが絶賛している。

よほど気に入ったようだ。ただ……“油”は貴重だからね……次は余裕ができたら、作ることにしよう。

……うん。本当に美味しい。というかお野菜を久しぶりに食べた気がする。


「素揚げもおいしいし、この鍋も良いにゃ!色んな味がするにゃ!」


にゃっぴーは複雑な味がする方が好みのようだ。

雨に降られたせいで身体が冷えていたからね。

温かいものは余計に美味しく感じるよね!


「婆は久しぶりに食べた干物がおいしゅうて……やっぱり素揚げもおいしいですじゃ!」


……喉に詰まらせないか、心配になる勢いで食べてるな、サエさん。久しぶりの団欒みたいだし、仕方ない面もあるか……一人は寂しいからね。





水瓶座の水で身を清めて、簡易お風呂代わりにし、サエさんと二人で特製化粧水を使い、にんまりする。


そして――そうこうしていると夜が更けてきた。

私はシロと一緒に奥座敷で横になった。

雨音はいつの間にか弱くなっていて――

そのまま眠りに落ちた私は知らない。


そのあと、囲炉裏の火を囲んで、にゃっぴーとヘレネ、そしてサエさんが、静かに言葉を交わしていたことを。





「なにか企んでるわけではないにゃ?」


囲炉裏の火を見つめながら、にゃっぴーが低く言う。

サエは、その問いに真正面から頷いた。


「企みなど、今さらできる身ではない。じゃが、疑うのは当然じゃろうな……」

「……僕とヘレネは、人間に“似てる”生物は特に警戒してるにゃ」

「えぇ……人間は大変“難しい”生物ですからね」


ヘレネが静かに続けた。


「ミコトに危害を加えないと、誓えますか?」

「誓おう」

「……もしミコトを害そうとすれば」

「「全力をもって排除します」」


にゃっぴーとヘレネの声は、いつになく低かった。

しばし沈黙したあと、サエは、すっと背筋を伸ばした。


「……もし婆が裏切った場合は、如何様な処罰も望むところでございます」


その声音は、先ほどまでの飄々としたものではなかった。

古い巫女としての、張った声だった。


にゃっぴーとヘレネは顔を見合わせ、それから小さく頷いた。


外ではまだ、細い雨が降っていた――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ