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【連載再開】どうも、当て馬令嬢です。過保護な従者が邪魔するせいで、お見合いの相手だけが幸せになっていくのですが。  作者: 紫嶋桜花
【第三部】新天地で、学園生活の始まりです!

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ちょっとした御殿

 学園には寮がある。

 貴族や皇族であっても、原則的には入寮する決まりだ。

 だが、収納や設備も高位貴族には物足りない。

 というわけで、だいたい伯爵クラスから上の貴族子女は、休日には王都の自宅に戻るという。


 アルベリアからの留学生もそれに倣い、ビアンカやクラリスは貴族用の宿を借り上げていた。

 で、コンスタンスは、というと。


「…………」

 馬車を降りて、絶句していた。


 目の前には、立派な邸宅の玄関がある。

 白い石造りのアーチがいくつもシンメトリーに並び、よく手入れされた庭園の植栽は、これもまた線対称だ。

 まるで先程見てきた学園をスケールダウンしたかのようだが、細部の装飾は、こちらのほうが数段手が込んでいる。

 帝国が用意した、コンスタンスのための一軒家だった。


「壮麗なお屋敷だね……」

 どう考えても、コンスタンス一人を迎えるには豪華すぎる。アルベリアなら公爵家級の建物ではないだろうか?

 しかし、横に立ったオリヴァーは平然としていた。

「まあ、当然でございましょう」

 なんでそんなしれっとしてるのか。信じられない気持ちで見上げると、オリヴァーは肩をすくめた。

「お嬢様は皇孫でいらっしゃいますからね」


「……そういえばそうだった」

「忘れられるんですか、そういうの」

 思い切り呆れられたが、これは仕方ないと思う。

「忘れてはない……けど、お母様の話があんまり自由すぎたから……」

「ああ……」

 シルヴィアには、あれからいくつか話を聞かされていたが、しきたりしがらみ何それといった武勇伝──武勇伝と呼ぶしかないものが満載だった。

 皇都おすすめスポット一覧もしっかり渡されている。


 などと言っているうちにいつの間にか玄関扉が開けられて、ホールが目に入る。

 そこには、ずらりと並ぶ使用人たちの姿があった。

 先頭に立った、美しい白髭の初老の男性が腰を折る。

「お帰りなさいませ、お嬢様」


 つられてこちらも背筋が伸びる。

「皆、出迎えありがとう。しばらくお世話になりますね」




 エドゥアールと名乗った執事に案内されて、まずはサロンに向かう。

 ……内装もすごい。

 階段の手すりは黄金色でぴかぴかだし、踊り場に飾られていた絵はあれ、国宝級じゃないだろうか……。さらには、どこもかしこもいい香りがする。




「こちらで、まずはおくつろぎください」

「ありがとう」

 執事はサロンに二人を案内して、さっと辞去した。

 このサロンもなかなかの(しつら)えである。家具はすべて飴色だし、控えめに飾られている人物画は、おそらく皇族のご先祖を描いたものだ。

「わぁ……」

 さすがにオリヴァーも無言である。


 部屋の中を見回しているうちにノックの音がして、どうぞと返事をすると、見慣れた顔がワゴンを押して現れた。

「アンナ!」

「はい、お嬢様」

 コンスタンスのアルベリアから連れてきた侍女だ。先に別の馬車で荷物とともに到着していたらしい。


「荷解きはもう済んでおりますわ。まずはお茶にいたしましょう」

「うん、ありがと」

 コンスタンスはそそくさと一人掛けのソファの一つに座った。とても柔らかい座面に身が沈む。

「わああ……」


 無心で座り心地を堪能してしまったが、傍らではオリヴァーがアンナにたしなめられていた。

「あなたもお座りください」

「いや、でも……」

 たじたじとなっているオリヴァーは珍しい。


 はぁ、とアンナはため息をついた。

「こちらでは従者ではないのでしょう?」

「……まあ、そうですね」

 オリヴァーは渋々と言った様子でコンスタンスの対面に座る。あ、なるほど。


 オリヴァーはその服装の通り、青年貴族として帝国に来ているのだから、コンスタンスと同じテーブルにつくのが道理なのだ。

「……ふふ」

 なんだか昔に戻ったみたい。

 子供の頃は、オリヴァーとコンスタンスは同じ卓で勉強したり、お茶をする間柄だったのだ。


「……何ですか」

「ベっつにー?」

 オリヴァーからじっとりとした目で見られたが、コンスタンスは楽しい気持ちでそれを受け流した。


 が。

「──というか、お嬢様だけでなくなんで俺までこのお屋敷なんですか。それこそ子爵家のせがれなんて安宿でいいでしょうに」

「えっ」

 思いがけないことを言われ、びっくりした声を出してしまう。


「……なんですか、えって」

「え……えっと、一緒に住むの嫌だった?」

 コンスタンスとしてもこの豪邸に一人で住むのは気が進まない。

 いや、アンナがいてくれるので一人ではないか。でも、気心の知れた相手が一人でも多くいてくれた方がいいのは確かで、それがオリヴァーだというなら申し分はなかった。


 だが、オリヴァーにとっては不本意だったのだろうか。考えてもみなかった。

 不安になって彼の顔を見返すと、大きなため息をついて目を逸らされた。

「…………帝国側の思惑がわからない、というだけで、一緒に住まないとは言ってません」

「よかった!」


「何を言いますやら。お嬢様から離れる選択肢なんてないでしょうに」

 アンナは辛辣である。

「まあ……それはそうですがね」


 おやおや。さっきもそうだったけど、オリヴァーはアンナに弱いのだろうか?

 コンスタンスだといつも丸め込まれてしまうから、逆にやり込められているさまは新鮮だ。本邸ではあまり絡んでいないので気づかなかったが、やはり同年代で、序列もほぼ同格の者同士、気安かったりするのかも。

 コンスタンスとしても、部下同士の気心が知れているのは喜ばしい。


「(うん。将来、私がフルーセルを継いだ時には)」

 この二人には、今オリヴァーの両親がしてくれているように、影のまとめ役として自分を支えてもらわなくては……、


 支えて……あれ?


 自分で思い描こうとした将来像が、うまくつくれない。


 なんでだろう。

 そこに、オリヴァーの声がかけられる。

「……お嬢様? いかがなさいました」


「えっ!?」

 コンスタンスは焦った。

「──あっ、キャシーのこと考えてて」

 嘘ではない範囲の言い訳をぎりぎり考える。


「母の? またどうして」

 オリヴァーの母、キャサリン・ソーンフィールド。

 『影』の中でも凄腕で、特に変装の名手だ。

「ほら、この前はブレイダムにいたでしょう。でも、そろそろまた移動してるかな、って」

「なるほど……? まあ、あの人の居場所は旦那様と父しか知りませんからね」


 ごまかせただろうか。

「うん。このお屋敷の使用人も、半分くらいは帝国の隠密でしょ? だから思い出して……」

 先程彼らがホールにずらりと並んでいた様子を思い返して、コンスタンスはそう言ったのだが。


「半分? まだまだですね」

 オリヴァーはにっこりした。

「まだまだ?」

「全員ですよ」

「ひえっ」

 令嬢らしからぬ声を出してしまった。

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