68 招聘
久々の自宅……。と言っても、丸一日も経ってないのだが、なんだか懐かしささえ覚える。
なにせブラッドムーンだけで一仕事なのに、それ以外にも色々あったからなぁ……。
帰ってきて自宅が全壊してた、なんてことがなかったのは不幸中の幸いだろう。
まぁ、魔物たちも誰も居ないボロ小屋を襲う理由がないから、見逃されたんだと思うけどな。
そんなボロながらも落ち着く我が家で、俺は寝そべるケンタに背を預けくつろいでいた。
今後ルーヴが元の姿に戻った時にと、入り口を改築して大きくしておいたのだが、思わぬ形で役だったな。
しかし、リビング自体が広がったわけじゃないので、ケンタのおかげでえらく窮屈になってしまったが……。
そうしていると、あたたかく大きな手が、俺の頭をわしわしと撫でる。
「ん? どうした?」
「いえ、昔はよくこうしていたものだと……」
「ま、ガキの頃はな。懐かしいな」
「えぇ、本当に……」
二人で旅して、こんな風に野営したのも、もう昔の話だ。
このまままどろみに呑まれ、眠ってしまいたい……。
そう思ったのもつかの間、徹夜明けの頭に声が響く。
「って、なにまったりしてんだよ!?」
「クロウ、そうはしゃぐな」
「はしゃいでねえっての! それより大丈夫なのかよアレ!」
「アレ?」
「そうだよ! 師匠を追放したっていう冒険者だよ!」
「あぁ、リビィな。追放というか、正しくは……。まあいいか」
クロウが指さす浴場には、今リビィとルーヴたちが居る。
帰る道すがら、ボロボロの状態のリビィと出会ってしまい、放っておくわけにもいかず、ルーヴたちに頼んだのだ。
「アレか!? 復讐にきたとかそういうんじゃないのか!?
なら俺が返り討ちにしてやるから、師匠は安心しろよ!」
「ん-、どうだろ。アイツはそんな奴じゃないと思うけどな」
「じゃあ、なんのために来たって言うんだ?」
「ま、そのへんは話聞いてからだな」
◆ ◇ ◆
と言っていたものの、風呂から上がってきたリビィは、何を言っていいのかわからず、困惑した様子だった。
「…………」
「久しぶりだな」
「あの……、うん……」
テーブルを挟んで向かい合うが、視線は合わない。
俺の記憶とは全然違う、自信や気品をどこかへ投げ捨ててしまったような、伏し目がちな女がそこにはいた。
これはあれかな、俺の後ろにぴったりとケンタがくっついて立っているせいかな。
なんたって、俺が背中に体温を感じるほどに近いのだから、相当の圧が出ているだろうしな。
なんて事を考えていれば、リビィは見た目と同じく、弱々しく口を開く。
「お風呂……、ありがとう……。私、もう行くね……」
「行くってどこに?」
「それは……」
「大体の話はケンタから聞いた。他のやつらとは別れたんだろ?」
「…………」
「行くアテないなら、しばらくここに居たらどうだ?」
「って!! 旦那様!? またですか!?」
もういつものことではあるが、やはり口を挟んだのはルーヴだ。
言ってくるとは思っていたが、今回は早かったな。
「ルーヴ、いきなりどうした?」
「どうしたもこうしたも! もう何人いると思ってんですか!
「俺含めて5人、リビィ入れると6人か……。大所帯になったもんだ」
「あ、俺も入ってるんだ」
「ちょっとーーー!! そのガキまでなんで入れてんですかーー!!」
「え? 弟子入りってことは、一緒に住むんじゃないのか?」
「村から通いでいいでしょうがっ!! って、そうじゃなくてですねっ!!」
「あのっ……! 私はそういうのじゃないから……。それじゃ……」
やいやいと捲くし立てるルーヴをさえぎり、リビィはそう言って立ち去ろうとした。
その腕を掴み、俺は引き留める。
「お前、昔っからそうだよな」
「なに……?」
「人の顔色うかがって、自分が我慢すればいいって思ってるだろ?」
「そんなこと……」
「俺は、そういうの大嫌いだ」
「っ……!」
「けど、そうやって自分を殺して、それでも頑張ってるヤツは好きだぞ」
「へっ……?」
「お前は頑張りすぎだ。ここらでちょっと休んでけって」
「…………」
リビィはうつむき、そしてぽたりぽたりと涙を床に落とした。
そして小さく、俺以外の誰もが気づけないほどに、ほんのわずかにコクリとうなづく。
そんな良い感じの雰囲気をぶち壊すように、声にならぬ声が後ろから聞こえているのは、気づかないふりしていようかなぁ……。
「―――!! ―――!!!!」
「ほら、落ち着けって! 邪魔しちゃだめだって!」
そこには、ルーブを全力で抑えるクロウの姿があった。
口を塞がれたルーヴは、それでも必死に何かを訴えている。
まったく、何をそんなに心配しているのやら……。
テイマーってのは、逃げられると追いかけたくなる性分なのさ。
もしくは、それはテイマーの性分ってわけでもないのかもしれない。
「ホント、俺の事全然分かってねえな……」
ここまでお読みいただきありがとうございました!
とりあえず10万字ちょっと過ぎたのもあり、第一部完という事で……。
完結設定にはするものの、また書きたくなったら書きます!
もしくは続きが読みたいという人がいるなら、早急に準備します!
ということで、どうぞブクマ&評価をお願いします。
またいつかお会いしましょう! さらばじゃ!




