46 戦いの後に
「ほら、わかっただろ? 負けを認めろって……」
「やだ……。絶対認めない!!」
「お前が敵う相手じゃねえって……。相手はあのタツミ様だぞ?」
「本物かどうかわかんないだろっ!!」
長老のまだ負けを認めてない発言に、見物人たちは少年を取り囲み、降参するよう促している。
もはや、試合どころではないな。ただ子どもをあやしているだけだ。
あやすなら、ボケ老人あやした方が早いと思うんだけどな〜。
そんな村のやつらのことなどどうでもいいと、タツミは俺の前へとやってくる。
そして膝をつき、深々と頭を下げた。
「申し訳ございません、イーナム様。
整備していただいた訓練場を、荒らしてしまいました」
「あぁ……」
言われて眺めれば、穴ぼこを均した地面はひび割れ、修理した訓練用の的も……。
こっちは跡形もないと言った方がいい壊れっぷりだな。
「ま、気にすんな。また作りゃいいことさ」
「お気遣いありがとうございます。私も、お手伝いいたします」
「ちょっーーーとっ!! そうやってうまいこと理由付けて、旦那様と二人きりになるつもりでしょうがー!!」
今まで状況を見守っていたルーヴは、ここぞとばかりに割って入ってくる。
ま、こいつなりに気を使ってたんだろうな。発端はこいつだし。
今までも、神妙な面持ちで試合を見守ってたしな。
しかし、どうしたものか。
事実上決着はついたとはいえ、ごねられるとルール的には続けることになる。
だからって、本気でやってしまうと、次に爆散するのはあの子だ。
うん、それは見たくないな。
「しかし、あの子も強情だな。明らかに勝てないのに」
「それも仕方のないこと。あの子の親は、魔物に殺されたらしいのです。
ですので、魔物に復讐するため、はやく一人前の冒険者になりたがっていたのですよ」
「え? タツミは事情を知ってて、勝負したのか?」
「えぇ。他の者たちに、事前に聞いておりましたから。
そのような動機で冒険者をやるなど、最速で両親に会いに行くようなものです。
だからこそ、力の差を見せつけ、改めさせようと思ったのですが……」
「全部知った上でか……。まったく、優しいなお前は」
「そっ……、そんなことありませんよ……。
ただ、先輩冒険者としてですね……」
顔を真っ赤にしながら、早口で何か言うタツミ。
何をそんなに恥ずかしがっているのやら……。
「しかし、親切心とはいえ、伝わらなければ意味なきことじゃ」
「ふぁっ!? 出たな、長老!!」
「そう、人を妖怪のように扱うでない」
「実際、長老は気配読めなくて怖いんだよなぁ……。
それより、試合を決着させてくれよ」
「嫌じゃ」
「なんでだよ」
「なんでもじゃ」
本気で何考えてるかわからんやつだな……。
しかし、それほどまでに、さっきの試合はお気に召さなかったのだろうか。
「では、私が負けを宣言させていただきましょう。
それで全て解決するのですから」
「大人の対応じゃな。じゃが、それで良いと思っておるのか?」
「と、申しますと?」
「確かにお主の言うように、冒険者を続けれられなくなるほどに心を折ってやれば、あやつはもっと安全な職を選ぶじゃろう。
しかし、その心に引っかかりを持ったまま、生涯過ごさせるのは、本当に優しさと呼べるかのう?」
「…………」
「ワシはな、大成するか否かは才能の有無ではないと考えておる。
才能がなくとも、真に据えるブレぬ目的がある者こそ、大きく育つと考えておるのじゃ。
たとえそれが、復讐というものであったとしてもな」
「…………」
タツミは、ただ静かに長老の言葉に聞き入る。
その表情は真剣で、何か思うところがあるのだろう。
「空を目指さぬ若木は、ただただ朽ち果てるだけよ。
たとえ、周りに敵わぬほどの木々が生い茂っていようと、空に手を伸ばす者こそが、大樹となるのじゃ」
なーんか、それっぽいこと言ってるだけで、適当に誤魔化そうとしてないか?
まぁ、実際目的を持たない奴ってのは、すぐに諦めるし、すぐ折れる。
だから、俺も長老の言うことは納得できるんだけどな。
「人間の一生など、おぬしにとっては一瞬じゃ。
せめてその一瞬を、輝かせてやってはくれんかのう?」
長老によるただの若造イビリの可能性も微粒子レベルでナントカ。




