47 持ち越し
「仰りたいことは、よくわかりました」
タツミは、静かに長老に一礼する。
って、あれ? 長老なんで……。
「イーナム様、ご迷惑をおかけするやもしれませんが、私のわがままに付き合ってはいただけませんでしょうか?」
「へっ? あ、うん。それはいいが……。俺に何かして欲しいのか?」
「いえ、そうではありませんよ」
優しい微笑みと共に、それだけを俺に告げ、タツミは皆にあやされる少年の元へと向かった。
近づく絶対的強者に、取り囲んでいたやつらは、恐ろしいものを見るかのように道を開ける。
そりゃ、さっきの的の爆破見せられたら、普通は怖がるわな。
「興が削がれたわ。今日のところは見逃してやろう。さっさと目の前から去れ」
ただ冷たく、言葉を放つ。
けれど、彼はそれでも引く気はないようだ。
涙声ではあるが、必死に言い返す。
「うっせぇ! 俺は絶対負けなんて認めねえからな!!」
「好きにしろ。私は失礼する」
その言葉を残し、タツミはギルドの建物へと向かうが、それでも彼の言葉は止まらない。
「待てよ! 逃げんのかよ!!」
「なんだ? まだやる気か? 立てもしないくせに」
「うっせえ! 絶対にお前を……」
「ならばいつでも、何度でもかかってくるがいい。
なに、この試合の制限時間は無制限なのだろう?」
その言葉だけを残し、タツミは建物の中へと入っていた。
いやぁ、さすがに無制限だからって……。
まぁいいか、タツミがそれでいいってんなら。
「って! ちょっとーーー!?
それって、ウチに奇襲に来るってことじゃないですか!?」
「あ、そっか。そうなるよな。だから迷惑がかかるって言ってたのか」
「旦那様!? そんなの許しちゃダメですって!!」
「まー、いいんじゃない? 俺が戦うわけでもないし」
「のんきすぎるっ!!」
ルーヴの激しい抗議が湧くが、俺も構わないって言ってしまった手前、いまさらナシにもできないしなぁ……。
ま、タツミが適当にあしらうだろうし、何か不都合があるわけでもないだろう。
「ふぉふぉふぉ……。あの子のこと、頼んだぞい」
「俺に言われてもな」
「それでおぬしら、なんのためにギルドに来ておったんじゃ?」
「あっ! 忘れてました! 薬の売り込みですよ!」
「ははは、なんやかんやで俺も忘れてたわ」
俺とルーヴは、タツミを追うようにギルドへと戻る。
そして、負傷者がいないかと、冒険者たちに聞いてまわったのだった。
ま、みんな熟練冒険者だし、普段からそんなに危険な仕事があるわけでもない。
なので、薬草採取の時に面倒がってグローブをしていなかったため、草で指を切った程度の奴しかいなかった。
そんな怪我、特製軟膏の効果を確かめるには、少々軽すぎる傷だった。
おかげで、ルーヴはご機嫌ナナメだ。
「こんなことなら、さっきの試合で多少怪我させた方が良かったのに」
「おいおい、そんなこと言ってやるなよ」
「しかし、これでは普通の軟膏であっても、同じような効果ですね。
今からでも奇襲し、私が瀕死の重傷を……」
「マジで冗談でもやめろ」
クスクスと笑うタツミと、口をへの字にさせるルーヴ。
まったく、妙なところで意見の一致を見せないで欲しいもんだ。
「ま、遅れて戻ってくる奴もいるだろ。
そいつらを待ってからでも遅くないし、何より……」
俺は、ちらりと周りの奴らを見る。
皆一様にそわそわし、俺たちの作業が終わるタイミングを見計らっていた。
当然それは、あの伝説の英雄タツミが、本人であるか聞きたいというものだ。
やっぱ冒険者の間では有名人なんだなと思いつつ、いままで俺はその視線を背に受けていた。
「どうするんだ? 本人とは言えんだろう?」
「ふむ……。適当に誤魔化しますね」
にこりと笑い、そう答えるタツミ。
俺が答えるよりはマシだろうけど、ちゃんと誤魔化せるのか心底心配だ。
勝負の行方はうやむやに。うにゃむにゃ。




