45 勝負のゆくえ
俺の叫び虚しく振り抜かれた拳は、まさに爆発魔法でも発したかのごとく、周囲に爆風をもたらした。
風は周囲の者たちの髪をかき上げ、実際に中には乗せていた髪を攫われ、吹き飛ばされた者もいたが、それに気付いたのは少数だったのが、不幸中の幸いだろう。
そのような威力の打撃を受けたなら、どんなに頑丈な人間だってひとたまりもない。
しかし、奇跡的に相手の少年は無事だった。
もちろん、それは作られた奇跡なのだが……。
「あ……、あぁ……」
何かを言おうとしながらも、言葉にならぬ少年は、二、三歩後ずさり、へたりと尻餅をつく。
「ふむ……。もう数ミリ切り込めたな……。
やはり練習せねば、少しばかり加減がわからぬ」
そんなことを言いながら、手をふるふると振って感覚を確かめるタツミ。
なんだかんだ、俺が言うまでもなく、当てる気などなかったんだろう。
当ててしまったら、大惨事だったろうしな。
しかし、俺が名を叫んだことで、別の問題が発生していた。
「タツミって、まさかあの伝説の……?」
「いや、まさか……。文献には、ウチの村との関りなんてないぞ?」
「それに、男だって書いてなかったか?」
「けどよ、英雄の名を付けるなんて恐れ多いこと、普通はしないだろ……」
「たしかに。名前負け確実だしな……」
ざわざわと周囲が騒がしくなる。
そういえば、タツミは結構な有名人だって自分で言ってたっけ?
だが、名前被りくらい普通にありそうなもんだが……。
「タツミって……、まさかお前があの英雄タツミ様なわけないだろ!!」
「ほう、このようなへんぴな村にも、名を知る者が居たか……」
「そっ……、そうやって英雄の名で取り入って、悪いことたくらんでんだろ!!
だからわざわざ、あのガキとグルになって、俺に喧嘩ふっかけてきたんだろ!!
だいたいさっきのだって、風魔法かなんかで……」
へたりこみながらも、まだ口は回るようだ。
しかし、そのくらいの負けん気のなさがなけりゃ、冒険者なんてやってられないし、こうやって問題起こすこともなかっただろうな。
そんな負け犬の遠吠えを聞きながら、タツミの表情は変わらない。
相手に対し、なんの感情もないといった表情だ。
だが、俺の方をちらりと見て、少し顔を綻ばせ、色気を感じさせるしぐさで、耳元に垂れた髪をかき上げた。
そしてゆっくりとへたり込む少年へと歩みよる。
「なっ、なんだよっ……!」
その言葉に答えることはない。
ただ静かにゆっくりとかがみ、地面に落ちる小石を拾い上げた。
その時の少年の視線が、胸の谷間へと吸い込まれていたのは、気付いていてもスルーしてやろう。
健全な男の子なら仕方ないよね。うん、仕方ないシカタナイ。
だが、そんな下心は即座に爆発四散する。
拾い上げられ、親指と人差し指でつまめるほどの、小さな、小さな石ころによって、
それは目にも留まらぬ速さで剣の訓練用の的へと投げられ、人の胴体ほどの太さのある丸太でできた的を爆破したのだ。
「ふむ、やはり道具を介すと加減がわからぬな。
では、第二試合へといこうか。次はお望み通り、木刀を使い、本気で相手してやろうではないか」
「あ……、うぅ……」
にこりと笑い発されたその言葉に、少年は我に帰ったのか、涙目でガクガクと震えている。
そして、かわいそうなことに、その座り込んだ地面に無様な水溜りを作るのだった。
その様子は、言葉にしなくとも勝敗が決したと誰もが分かった。
「しょっ、勝者、タツミ様……!」
受け継げ嬢の宣言に、周囲の見物人たちの歓声が上がる。
だが一人、いまだに動物のモノマネをやっている老人がいた。
「待つのじゃ。まだ負けを認めておらんじゃろう」
「長老、これ以上は、さすがに悪趣味だぞ?」
「しかし、ルールはルールじゃ」
俺の言葉にも、まるで駄々をこねるガキのように、つっけどんな反応だ。
権力を持ったボケ老人ってのは、ホントやっかいなもんだな。
長老への対応が悪い系主人公。




