0『閑話・サラーティカ』
大勢の人の中でも一際美しく咲くカナリーイエローのドレス。非常にシンプルなデザインが少女の愛らしさを最大限に引き立てて、見る者の視線と心を奪う。主役である私よりも皆の注目を集めていて、忌々しい事この上ない。
思えば、最初から気に入らなかった。
初めて会ったのはあの子の五歳を祝う誕生会。
興味はなかった。私の関心はオルディアスお兄様の事だけ。
それにお母様がいつも言っていたもの。
あの子は、伯父様と伯母様の本当の子供じゃないって。
お父様はあり得ないって言うけれど、今まで人前に出た事もないって聞くし、よっぽど恥ずかしい子なんだと思った。
私とは違って、きっと家族の誰にも大切にされていないのね。この誕生会だってただ形だけのものでしょう?
そう思っていたのに。
輪の中心が、あの子だった。
伯父様も伯母様も、誰もが皆、あの子を中心に幸せそうに笑っていた。
そして、オルディアスお兄様が、私にはただの一度だって──いいえ、他の誰にも見せた事のない笑顔で、蕩けるように優しい眼差しで、あの子だけを見つめていた。
私がどれだけ渇望しても決して手に入れられない、お兄様の愛情を。
独り占めするあの子が。
憎らしくて堪らない。
だから言ってやったの。
『髪も、瞳も、へんな色ね。あなたってだれにも似ていないのね』
そうしたら酷く傷付いた顔をして、泣き出しそうだったのに我慢するから苛々して。
思いっきり怒鳴ってやれば今度こそ顔をくしゃっと歪めて私の前から逃げ出して、ああ……清々としたって思ったのに。
どうして私が、伯母様に頬をぶたれなくてはいけないの?
全部、あの子の所為だわ。
大っ嫌いよ、あんな子。
『あら、ごめんなさいね?』
テラスに独り佇むあの子に、私は手にしたジュースを背後からぶちまけた。紅く滲むオルディアスお兄様の瞳の色のリボンに、私の胸で渦巻くのは昏い愉悦。
ざまあみろ。
傷付いて、泣けばいい。
けれど振り返ったあの子の顔に、私は息すら忘れてしまう。
言葉を失う程に美しい。
暗くて重い筈のピアニーの髪は丁寧に結い上げられて、巧みに取り込んだ空気のお陰で羽のように軽やか。
少し伏せ目がちのヘーゼルブラウンの瞳には星が瞬き、長く整った睫毛が年齢に適わない色香を醸し出す。
完璧な美貌はまるで精巧に造られた人形のようなのに、赤味の差すその頬は生命の輝きに満ち溢れていて。
『ごきげんよう、サラ』
ため息が出る程、素晴らしい所作と大人びた微笑。一瞬だけ私を見て、すぐに背を向けた。拍子抜けするくらいに、何もない。
『……待ちなさいよ!』
お祝いですって? 嘘つき、昔から私になんてこれっぽっちも興味ないくせに。いつもそうやって、私に無関心なくせに。嘘つき、嘘つき。嫌いよ、あんたなんか、大嫌い!
狂ったように叫ぶ令嬢達の声を背に、私は自分の震える手と蹲り動かないあの子を交互に見た。
心臓が痛いくらいに暴れて、呼吸を荒くする。私は悪くない、悪くないのだと自分に言い聞かせても鼓動は耳をつんざき、その罪の重さを私に突き付ける。
その瞬間、ざわり──と、重々しい何かが私の四肢にまとわりついた。
『──ひっ!?』
あの子が見た、私を、見た。
その、光輝く、金色の瞳で。
ざわり、ざわり。
あの子の周りに渦が生まれた。最初は小さな、次第に大きく、そして激しく。
それは尋常ではない魔力の奔流。荒々しく渦を巻き私への害意へと形を成す。その強過ぎる魔力に中られたのか、私の後ろで意識を失ったのだろう、何人か倒れた音が聞こえた。
──化け物だ……どうしてあの子に魔力があるのか分からない。だけどあれは化け物だ、私はあの化け物に……殺される。
怖い。恐ろしい。気持ち悪い。臓腑を内から喰い潰されるような、喉笛を噛み千切られるような、逃れられない恐怖が迫り上がる。
嫌だ。怖い、怖い。怖い!!
なのに、身の毛もよだつ程におぞましいのに、そのなんと輝く程に美しい姿よ──
やっぱりあの子は排除するべきだ。
そうと決めたら早かった。
『お休みなさい、良い夢を……』
心配しなくても大丈夫よ?
目が醒めたら全てが終わっているのだから──




