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千年の時を越えて  作者: 月影 咲良
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エピローグ

 こんこんこん、と軽くドアを叩く音がして、年若い青年が顔を出した。


「ハコル様。ロリー様がおいでになりました」

「そうか」

 私は机から顔を上げて声の主を振り返り、思わず顔をしかめた。


「アニエル、まだそんな格好をしていたのか」

「申し訳ございません、ハコル様。

 何か至らない点が御座いましたか」


 主からの叱責にしれっと答えるアニエルに、私はため息をついた。


「何か、ではないよ。今日は君の姉君の祝の席だろう。

 今日の君は使用人としてではなく、博士の弟として出席するように、と言ったはずだか?」

「お言葉を返すようですが、ハコル様。

 私はそのような場所に客人として出られるような育ちではありません。

 それに私はハコル様の従者として誇りをもっております」

「アニエルならどこに出しても遜色無いと思っているんだがね。

 私の従者を侮ってもらっては困るな」


 さあ、早く着替えてきなさい。そう促すとアニエルは渋々と言った風に了承した。

 まったく、この姉弟は本当に似ている。

 華やかな所が苦手な所や、意外と頑固な所なんかそっくりだ。

 私は今日の主役に思いを馳せた。

 ふと気づくと部屋を退出するアニエルと目があった。

 するとアニエルはふっ、と挑戦的な微笑みを浮かべた。


「ハコル様、本当に宜しいのですか?

 弟として出席したら、姉の交遊関係に私、物申してしまうかもしれませんよ……」

「いいから早く行け」


 アニエルは ふふふと笑いながら「仰せのままに」と今度こそ退出した。

 普段にはあまりない反抗的な態度に「全く……」と悪態をつきながらも何だか段々可笑しくなってきて、私の口も自然と笑ってしまった。


 さあ、お迎えにいきますか。






 エントランスにつくと馬車からロリーが降りてくるところだった。


「やあロリー!

 しばらく見ない間に一段と美しくなったね。

 君の輝く金の髪の前では太陽も霞んでしまうよ」

「ごきげんよう、ハコル。

 貴方もたいがいお口が伯父様に似てきましたわね」


 私の挨拶にロリーもにっこりと笑って返す。

 ロリーに腕を差し出しエスコートすると、その後ろに隠れるように馬車から降りてきた黒髪の少女が視界に入った。


「君は……サララナだね?」

「は、はい」


 顔をあげた少女は緊張した面持ちで挨拶をした。


「本日は姉のためにこのような会を開いていただいて……」

「ああ、堅苦しい挨拶は後で沢山するからいい。

 今日はとても可愛らしいね。

 ロリーの見立てかな?赤いドレスが君の黒髪に映えて綺麗だ」


 そう誉めると、サララナは真っ赤になって「あ、ありがとうございます」とうつむいてしまった。

 すると隣でロリーが避難がましい声をあげる。


「ハコル、うちの子を たらしこまないでくださらない?」

「たら……っ、酷いな、どこでそんな言葉を覚えたんだい」

「ハコルは無駄にキラキラしいんですもの。

 たちが悪いわ。

 サララナ、アニエルの所へ行っていなさいな」

「はい、ロリー様」


 私の抗議をものともせず、ロリーがサララナに告げる。

 サララナは嬉しそうに はにかむと、一礼して屋敷の奥に急ぎ足で向かった。


「ところでハコル、今日の主役が見当たらないのだけれど?」


 サララナを姉のような眼差しで見送ってから、ロリーが僕に向き直って尋ねた。


「そろそろ着くと思うんだけれどね」


 私はそう口にしながら、もしかしたらもう着いているのかもしれないな、と思った。




「ところで……」と応接室に移ってくつろぎ始めたロリーが口を開いた。


「あの子とはどうなってるの」

「うん?変わらないよ、何も」

「変わらない?」


 ロリーは森色の瞳を大きく見開いて私を見た。


「15年も何をやってたのよ。

 無駄に手紙で干渉したり王都に上がったり休日を二人で過ごしたりしていたんでしょう?」

「なんだ、知ってるじゃないか」


 無駄に、は余計どけれどね。


「あの子に聞いたのよ。それなのにいつまで経っても婚約の発表すらないんですもの。

 貴方、あの子をオールドミス・ババアにでもするつもりなの?」


 剣呑に眉を潜めて文句を言うロリーに、私もため息をつく。


「そうだね、できることなら私も婚約発表にこぎ着けたいと思っているよ。

 けれど彼女はその実、研究が恋人らしくてね。

 手紙を書いても内容は研究の事。理由をつけて王都に行っても話せるのはホンの少し。帰省を義務付けても仕事を持って帰ってくる。

 これでは婚約どころじゃないだろう?

 ……ああ、彼女の名誉のために言っておくと、持って帰る仕事は彼女が仕事が出来ないからではなく、自主的に作っている物のようだよ」


 私が大仰になげいて見せると、「ハコル……貴方本当にそのキラキラしいのを無駄にしてるのね……」と同情された。


「でももう、今回の事で約束は果たされたわけだし、ハコルも長年粘着した成果を見せるべきじゃなくて?」

「言われようが酷いけど……でも、そうだね。そのつもりだよ」


 ロリーの指摘に私は決意も新たに窓の外を見た。






 裏庭に出ると、屋敷の影を利用して美しく整えられた裏庭がある。

 今日は昨日の雨が嘘のように良く晴れて、少し暑いくらいだ。

 瑞々しい緑の薫りが辺りから立ち上ってくる。

 少し離れたところでコナー爺が庭の手入れをしていたが、私に気づいて頭を下げる。

 その隣で少年がキョトンとした顔でこちらを見る。

 それをコナー爺が慌てて頭を小突いて下げさせた。

 彼は最近見習いとして働き始めたコナー爺の孫だ。

 私は何だか微笑ましく思って手で仕事を続けるよう促し、そのまま庭の奥へと進んだ。



 馬屋の奥、少し開けたところにでると石造りのアーチ。

 そして、ミルクティー色の石畳の中央には……



「アーリサ」


 声をかけると、石柱の前にいた女性が振り向いた。

 柔らかな日差しを浴びた艶やかな黒髪がさらりと揺れる。


「ハコル……戻りました」

「おかえり、アーリサ」


 微笑むアーリサに目を細める。


「ここにいるんじゃないかと思ったんだ」

「ええ。コーフスネルに戻ったらここへ来るのが癖になってしまったみたいです」

「シロが喜ぶよ」


 アーリサの近くに歩み寄ると、石柱には薄紫の花が手向けられていた。


「これはガザザムイ病に効果のある花です。

 やっと作り上げたこの花を、シロさんにも見ていただきたくて」

「そのおかげで君も晴れて術博士だ」

「はい。こんなに早くなれるとは思っていませんでしたから、少し戸惑ってしまいますが。

 でも博士になってコーフスネルへ戻るというお約束は果たせてほっとしています」


 はにかみながら言うアーリサに私は、言うなら今だろうと思った。


「それで、最初の目標は達成したわけだけれど、今後はどうする予定?」

「今後……ですか?」


 アーリサはキョトンとした後、うーんと考え込む。


「あまり考えていませんでしたけれど、コーフスネルに貢献できればと思っています」

「ならこの屋敷を拠点にすればいい。

 もうここは君の家なのだから」

「そういう訳にはいきません」

「遠慮はしなくてもいい。

 ……ああでも、もし君が気に病むのなら、良い方法がある」

「え?あ……」


 私はアーリサの手向けていた薄紫の花を一輪だけ手に取ると、アーリサに差し出した。


「私と結婚すれば良い。そうすれば君はここで心置きなく暮らせる」


 アーリサが目を見開いた。

 これは……いける、のか?

 しかしもう後には引けない。


「私と結婚してください。アーリサ」


  もう一度 口にすると、アーリサもやっと状況を理解したようで、みるみる顔が赤くなる。


「あ、でも……私は、身分が……」

「それは今日から問題ないよ。術博士になったのだから」


 そのために長々と時間をかけた。まあ、無理なら無理で、私の遠縁の貴族の養女にしてもらえば問題はないのだが。

 それはアーリサがあまり喜びそうにないのでこちらの手段で通せて良かった。



「あ、でも……あの」


 戸惑いに瞳を揺らすアーリサに、私の胸に断られる不安が過る。


「アーリサは、私の事が毎日顔を会わせるのも嫌なくらい嫌い?」

「そんなことはあり得ません!」


 悲しそうに言ってみると、アーリサがぱっと顔をあげて力強く言いきった。


「ありえないんだ?」


 私が思わずにんまりとほほを緩めて言うと、自分の言動に気付いたアーリサが私の顔を見てむっと顔をしかめた。


「もう!ハコルはいつも……」

「うん。じゃあアーリサは、私の事が好き?」

「!」


 真摯に聞き直す。

 彼女のどんな言葉でも受け止めるつもりで。


 アーリサは顔をますます赤く染めて、しばらくあちこちを見やったが、やがて観念したように私の方を見上げて小さな声で告げた。


「好き、です。でも……」

「でも?」


 思わず断られる場面を想像して警戒する私に、アーリサは悪戯っぽく笑って私の差し出す花を指差した。


「その花は素手で触るとカブレるので受け取れません」

「どうりで手が痒いと思ったよ」


 アーリサがハンカチを広げたのでその中に花を置く。

 それをアーリサが大切そうに包んだ。


「祝賀会で婚約発表もしてもいい?」

「そ、それはもう少し後にしませんか?

 弟妹たちにも話していませんし」

「アニエルもサララナもだいたい察していると思うけれどね」

「ええ!そうなんですか?」


 差し出した手を照れながらアーリサがとる。

 屋敷に向かって歩いていくと、遠くから私たちを呼ぶロリーの元気な声がした。

 アーリサは満面の笑みを浮かべてロリーに向かって駆け出す。

 ロリーの後ろにはアニエルとサララナの姿もあった。

 日差しが高くなり、私たちを幸福に包む。


 私はふと、今来た方を振りかえる。



 シロ。


 僕は幸せだよ。




 語りかけると、日だまりの中 シロが微笑んだ気がした。



「ハコルー!」


呼ばれて私も足を踏み出す。

千年の、思いを背に。

新たに紡がれる時に向けて 。




以上で完結となります。

お付き合い下さった皆様に感謝を。


今作は課題の多い作品に成りました。

上手くいかず、何度心が折れそうになったことか……

それでも書けたのは ひとえに読んでくださる方々がいてくださったからです。


本当にありがとうございました。



次は今回の反省を生かし、完結させてから投稿する予定にしています。(とここに書いて怠け者の己を追い込んでみる)


また次作でお会いできれば幸いです。



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