# 第六話 ## 「休みの日の、静かな戦争」
# 第六話
## 「休みの日の、静かな戦争」
日曜日。
久しぶりに予定のない朝だった。
……はずだった。
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「なんで休みの日のほうが忙しいんだよ」
雨宮悠人は、
洗濯物を抱えながら呟いた。
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白石雫はキッチン。
子どもはリビング。
そして——
全部が同時に動いている。
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「悠人さん、それ干すの逆です」
「え?」
「裏返し」
「今言う!?」
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白石は淡々としている。
でも目の下は少しクマがある。
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子どもは床で暴れている。
おもちゃを全部出す。
散らかす。
泣く。
笑う。
また泣く。
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悠人は思う。
(これ休みか?)
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## ― 午前 ―
掃除。
洗濯。
買い出し。
オムツ補充。
ミルク準備。
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一つ終わったら、
次が出てくる。
終わりがない。
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悠人が言う。
「なぁ」
「はい」
「俺たち、これ休日って言っていいの?」
白石は即答。
「ダメです」
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少し笑う。
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でもその笑いも、
すぐ現実に戻る。
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子どもが牛乳をこぼす。
床。
白い海。
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「うわぁぁぁぁ」
悠人が叫ぶ。
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白石は無言で布を持ってくる。
プロ。
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## ― 昼 ―
やっと落ち着く。
子どもは昼寝。
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リビングに静けさが戻る。
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白石がソファに倒れる。
「……生きてる」
「同意」
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沈黙。
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悠人が言う。
「婚活してた時、
こんな未来想像してなかったな」
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白石は少し笑う。
「私もです」
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少し間。
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「でもさ」
悠人は続ける。
「思ってたより悪くないな」
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白石は横目で見る。
「どこがですか?」
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悠人は考える。
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「ずっと誰かのことで動いてるの、
意外と嫌いじゃない」
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白石は少し黙る。
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そして小さく笑う。
「変わりましたね」
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「そうか?」
「かなり」
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## ― 午後 ―
子ども起床。
復活。
フルパワー。
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「パパー!」
ダッシュ。
悠人に突撃。
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「重い重い重い!!」
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白石が笑う。
「さっきまでの静けさ返してください」
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## ― 夕方 ―
散歩。
三人で外へ。
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空は少しオレンジ。
風が気持ちいい。
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子どもが走る。
転ぶ。
泣く。
でもすぐ立つ。
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白石が見て言う。
「ほんとこの子、
悠人さんに似てますね」
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「どこがだよ」
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「倒れてもすぐ立つとこ」
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悠人は少し黙る。
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そして笑う。
「それ褒めてる?」
「褒めてます」
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## ― 帰り道 ―
子どもが手をつなぐ。
左右に二人。
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沈黙。
でも心地いい沈黙。
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白石がぽつりと言う。
「ねぇ、悠人さん」
「うん」
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「私たちさ」
「うん」
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白石は少し笑う。
「ちゃんと親やってますかね」
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悠人は即答する。
「知らん」
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白石が笑う。
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悠人は続ける。
「でもさ」
「うん」
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「子どもはちゃんと育ってる気がする」
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白石は少しだけ空を見る。
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「それなら十分ですね」
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## ― 夜 ―
寝かしつけ。
成功率30%。
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今日も長かった。
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リビング。
二人だけ。
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白石が言う。
「疲れましたね」
「毎日言ってるなそれ」
「事実です」
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沈黙。
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悠人は天井を見る。
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「なぁ」
「はい」
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「俺たちさ」
「うん」
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少し間。
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「ちゃんとした親じゃないけど」
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白石は黙る。
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悠人は続ける。
「でも、ちゃんと一緒にやってるよな」
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白石は少し笑う。
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「それでいいと思います」
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遠くで子どもの寝息。
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静か。
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でも確かにそこにある。
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“また会いましたね”はもう言わない。
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代わりに二人は思う。
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(今日も、ちゃんと一緒にいた)
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それだけで、
日曜日は終わっていく。




