# 第三話 ## 「ママ友という名の戦場」
# 第三話
## 「ママ友という名の戦場」
季節は少し進み、保育園生活にも“慣れ”というものが出てきた頃。
慣れた、はずだった。
雨宮悠人は思う。
「慣れたと思ったら、次のイベント来るの何なんだよ」
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今日は保育園の“保護者交流会”。
名前だけ聞くと平和。
だが実態は——
**静かな圧力会場**だった。
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教室。
丸いテーブル。
笑顔の保護者たち。
服装はやけに整っている。
悠人はスーツではない。
作業服でもない。
一番中途半端な“普通の服”だ。
それが逆に浮いている気がする。
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隣で白石雫が小さく言う。
「雨宮さん」
「うん」
「今日、戦わなくていいですからね」
「何と?」
「空気と」
「もう負けそう」
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先生が明るく言う。
「今日は自由にお話ししてくださいね〜!」
自由。
一番怖い言葉だった。
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早速始まる。
* 「うちの子もうひらがな読めて〜」
* 「習い事はピアノと英語で〜」
* 「夜泣き全然なくて〜」
悠人のHPが削られていく。
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小声で白石に言う。
「ここ、婚活より無理ゲーじゃない?」
「同意です」
即答だった。
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そこへ、隣のママが話しかけてくる。
「初めてですか?」
「はい」
「どちらにお住まいなんですか?」
来た。
これは“普通の会話”に見せた情報戦。
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悠人、警戒。
「この辺です」
「まぁそうですよね〜」
圧。
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白石が自然に会話へ入る。
「まだ慣れてなくて」
その一言で空気が少し柔らかくなる。
さすが白石雫。
婚活を生き抜いた女は違う。
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その時。
子どもの話題になる。
「お子さん、よく泣きます?」
悠人、正直に言う。
「めっちゃ泣きます」
一瞬静まる。
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終わったかと思ったその時。
白石が笑って言う。
「うちもです」
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すると空気が少し変わる。
“仲間認定”された瞬間だった。
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ママの一人が言う。
「うちも夜泣きすごくて〜」
もう一人も。
「分かります〜」
一気に“共感ゾーン”に入る。
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悠人、小声。
「これ婚活と同じシステムだな」
白石。
「気づくの遅いです」
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交流会終了後。
廊下。
解放感。
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悠人はため息。
「疲れた……」
「お疲れ様です」
白石は普通に笑っている。
この人だけ耐性が違う。
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帰り道。
夕方の風。
子どもを迎えに行く途中。
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白石が言う。
「ねぇ、悠人さん」
「うん」
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「さっきの人たち、
ちゃんとしてましたね」
悠人は笑う。
「ちゃんとって何だよ」
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白石は少し考える。
「でも私たちって、
ちゃんとしてない側ですよね」
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悠人は一瞬黙る。
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そして言う。
「そうだな」
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少し間。
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でも続ける。
「でもさ」
「うん」
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「ちゃんとしてない同士で、
ちゃんと家族やってるの、
ちょっと面白くない?」
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白石は少し驚いて、
それから笑った。
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「たしかに」
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## ― 保育園の夕方 ―
子どもを迎えに行く。
先生が言う。
「今日はお友達と一緒に遊べましたよ〜」
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悠人は思う。
(社会性、育ってるのか……?)
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子どもが走ってくる。
全力。
泣いてない。
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白石が少し驚く。
「今日泣かなかったですね」
悠人も驚く。
「え、進化?」
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子どもが言う。
「ママー!パパー!」
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その瞬間。
白石と悠人、同時に笑う。
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白石が小さく言う。
「なんかさ」
「うん」
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「ちゃんとしてる家庭っぽく見えますね」
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悠人は即答する。
「見えるだけな」
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白石は笑う。
「それでいいです」
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夕日。
三人の影。
少しだけ長い。
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悠人は思う。
(婚活してた頃の俺が見たら、絶対信じないだろうな)
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でも今は違う。
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「また会いましたね」
その言葉はもうない。
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代わりにあるのは、
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「ただいま」と「おかえり」と、
泣き声と笑い声の中で続く日常だった。




