第二話 ## 「保育園デビューと社会の洗礼」
# 『また会いましたね、雨宮さん ― 子育て編 ―』
## 第二話
## 「保育園デビューと社会の洗礼」
朝。
戦場。
それが、雨宮家の新しい日常だった。
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「オムツよし! 着替えよし! ミルクよし!」
白石雫の声は、もはや軍隊だった。
雨宮悠人はパジャマのまま立っている。
「俺、何もしてない気がする」
「してます。そこにいるだけで邪魔じゃないです」
「それ褒めてる?」
「褒めてます」
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今日は保育園の初日。
人生の新ステージ。
だが悠人の心境は——
「婚活初回より緊張してる」
だった。
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子どもを抱く。
小さい。
軽い。
でも暴れる。
「お、おい落ち着け……!」
完全に現場作業より難しい。
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白石が冷静に言う。
「雨宮さん、力入りすぎです」
「これどうやって力抜くんだよ!」
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なんとか保育園到着。
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そこは“社会の縮図”だった。
* 余裕のあるママ
* 完璧なパパ
* ブランド服の子ども
* 明るい先生
悠人は思う。
「ここ、婚活会場より怖い」
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先生が笑顔で言う。
「初日ですね〜」
白石が丁寧に挨拶。
「よろしくお願いします」
完璧。
一方悠人。
「ど、どうも……雨宮です……」
声小さい。
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隣のパパが話しかけてくる。
「初めてですか?」
「はい」
「うちもですよ〜」
優しい。
でもなぜか比較されている気がする。
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その時。
子どもが泣く。
突然。
全力で。
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悠人、固まる。
「え、今の何スイッチ?」
白石が即座に抱く。
「眠いだけです」
「万能すぎない?」
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先生が言う。
「ではお預かりしますね」
その瞬間。
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離れる。
子どもが。
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悠人の胸が、
少しだけぎゅっとなる。
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白石が横で小さく言う。
「大丈夫ですよ」
「いや分かってるけどさ」
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保育園を出る。
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外は静かだった。
さっきまでの騒音が嘘みたいに。
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悠人が言う。
「なんかさ」
「うん」
「婚活の時も思ったけど」
「うん」
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「“社会”ってずっと評価される場所だな」
白石が少し笑う。
「今さら気づきました?」
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悠人は苦笑する。
「遅い?」
「遅いです」
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でも白石は続ける。
「でも、今はちょっと違います」
「何が?」
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白石は空を見る。
「評価されなくても、
一緒に帰る人いますから」
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悠人は少し黙る。
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そして言う。
「それ、結構でかいな」
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## ― 夜 ―
保育園から電話。
「今日はよく泣いてました」
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白石と悠人、同時にため息。
「ですよね」
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帰宅。
静かな部屋。
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白石が言う。
「疲れましたね」
「疲れた」
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ソファに座る。
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白石がぽつりと言う。
「ねぇ、悠人さん」
「うん」
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「私たちってさ」
「うん」
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白石は少し笑う。
「ちゃんと親やってますかね」
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悠人は少し考えて言う。
「分かんない」
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「でもさ」
「うん」
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「ちゃんとじゃなくても、
今日も終わったな」
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白石は小さく笑う。
「それで十分ですかね」
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悠人は頷く。
「たぶん」
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遠くで、
小さく泣き声がする。
また始まる気配。
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でも二人は立ち上がる。
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白石が言う。
「いきますか」
悠人が答える。
「いくか」
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そしてまた、
“また会いましたね”が、
泣き声の向こう側で続いていく。




