# 第二十二話 ## 「“ちゃんとしない日”の朝」
# 第二十二話
## 「“ちゃんとしない日”の朝」
朝。
目覚ましは鳴っているのに、誰もすぐ起きない日。
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雨宮悠人は、布団の中でぼんやりしていた。
隣では白石雫がまだ目を閉じている。
珍しい。
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リビングから音。
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「パパー」
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陽翔はもう起きている。
元気だけはいつも通り。
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悠人はため息をつく。
「……休みでも容赦ねぇな」
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## ― 何もしない朝 ―
白石が布団の中で言う。
「今日、何します?」
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悠人は即答できない。
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「……何もしたくない」
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白石は少し間を置く。
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「珍しいですね」
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悠人は笑う。
「たまにはな」
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そしてその日。
雨宮家は“ちゃんとしない日”になった。
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## ― 午前 ―
テレビ。
お菓子。
床に座る。
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いつもなら動いている時間。
でも今日は動かない。
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陽翔は最初だけ不満そうだったが、
すぐ慣れる。
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「パパ、これ」
おもちゃを持ってくる。
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悠人は適当に返す。
「それ、勝手に遊べ」
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白石は横で笑う。
「雑ですね」
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悠人は即答。
「今日はそういう日」
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## ― 外に出ない世界 ―
白石がぽつりと言う。
「なんか……変な感じですね」
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悠人は天井を見る。
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「何が」
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「何もしてないのに、ちゃんと回ってる」
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悠人は少し黙る。
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そして言う。
「それでいいんだろ」
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白石は少し驚く。
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## ― 陽翔の世界 ―
陽翔は床で遊んでいる。
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ブロック。
車。
謎の組み合わせ。
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そして突然言う。
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「パパ、みて!」
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悠人は適当に見る。
「おう」
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陽翔は満足そうに笑う。
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「できた!」
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白石が小さく言う。
「ちゃんと見てますね」
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悠人は少しだけ真面目になる。
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「こういうのだけはな」
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## ― 昼 ―
みんなで昼寝。
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リビング。
布団。
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奇跡的な静けさ。
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白石が小さく言う。
「これ、いいですね」
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悠人は目を閉じたまま言う。
「毎日これでいい」
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白石は笑う。
「社会が許しません」
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## ― 午後 ―
少しだけ外へ。
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公園。
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でも“頑張る公園”じゃない。
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ただ歩くだけ。
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陽翔は走る。
転ぶ。
笑う。
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それだけ。
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悠人はベンチに座る。
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「なぁ」
「うん?」
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「これ、何の意味あるんだろうな」
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白石は少し考える。
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「意味、必要ですか?」
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悠人は黙る。
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そして笑う。
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「いらねぇか」
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## ― 夕方 ―
帰り道。
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陽翔が言う。
「たのしかった!」
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それだけで終わる。
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悠人は少し驚く。
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(それだけでいいのか)
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白石が言う。
「たぶん、それでいいんですよ」
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## ― 夜 ―
寝かしつけ。
成功率高い日。
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リビング。
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白石が言う。
「今日、何もしてないですね」
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悠人は頷く。
「してないな」
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白石は少し笑う。
「でも、ちゃんと一日でした」
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悠人は天井を見る。
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「変な話だな」
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白石は続ける。
「“ちゃんとしない”のも、ちゃんとですね」
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悠人は笑う。
「ややこしいな」
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## ― ラスト ―
夜。
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ベランダ。
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静か。
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白石が言う。
「ねぇ」
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「うん」
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「こういう日、必要ですね」
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悠人は即答しない。
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少し考えてから言う。
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「必要っていうかさ」
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「うん?」
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「これが普通でもいい気がする」
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白石は空を見る。
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そして小さく笑う。
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「じゃあ、普通ですね」
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陽翔は寝ている。
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世界は何も解決していない。
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でも雨宮家は、
少しだけ“力を抜くこと”を覚え始めていた。




