# 第二十一話 ## 「“普通”に戻るまでの時間」
# 第二十一話
## 「“普通”に戻るまでの時間」
朝は、昨日の続きみたいに始まる。
でも、完全には同じには戻らない。
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雨宮悠人は、台所でコーヒーを入れていた。
いつも通りの動き。
でも少しだけ静かだった。
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白石雫はリビングのソファに座っている。
まだ完全には元気じゃない顔。
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陽翔は、何事もなかったようにおもちゃを並べている。
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「……普通だな」
悠人がぽつりと言う。
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白石が小さく笑う。
「普通って、昨日一回壊れましたけどね」
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## ― 壊れた翌朝 ―
空気は少し変わっていた。
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昨日の涙は消えていない。
でも、なかったことにもできない。
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白石が言う。
「私、昨日ちょっと恥ずかしいですね」
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悠人は即答する。
「どこが」
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白石は少し間を置く。
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「全部です」
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悠人は笑う。
「俺も似たようなもんだったけどな」
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## ― 陽翔という“回復装置” ―
陽翔が突然言う。
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「ママ、もうないてない?」
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白石は少し驚く。
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「うん、もう大丈夫」
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陽翔は満足そうにうなずく。
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「よかった」
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それだけ。
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その一言で空気が少しだけ軽くなる。
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悠人は思う。
(こいつ、たまに核心つくよな)
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## ― 保育園 ―
送り。
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先生が普通に笑う。
「おはようございます〜」
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世界は昨日を知らない顔をしている。
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白石は少し戸惑う。
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(あれだけのことがあったのに)
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でも、世界は続いている。
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悠人が小さく言う。
「なぁ」
「うん?」
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「昨日のあれさ」
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白石は少し身構える。
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悠人は続ける。
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「別に終わった話じゃなくていいよな」
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白石は黙る。
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悠人は言葉を探す。
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「ずっと“ちゃんとしよう”としてたけどさ」
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「うん」
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「たぶんそれ、ずっと無理なんだろ」
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白石は小さく笑う。
「今さらですか」
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## ― 変化 ―
悠人は続ける。
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「でもさ」
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「うん」
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「無理なままでも回ってるなら、それでいいんじゃね」
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白石は少し驚く。
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その言葉は、諦めじゃなくて受け入れだった。
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## ― 夜 ―
帰宅。
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陽翔は元気。
完全復活。
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「パパ!」
「ママ!」
いつも通り。
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でも、どこか違う。
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白石がぽつりと言う。
「昨日より、ちょっと楽ですね」
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悠人は笑う。
「壊れたあとだからな」
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白石は続ける。
「壊れても戻るんですね」
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悠人は少し考える。
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「戻るっていうかさ」
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「うん」
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「別の形で続いてるだけじゃね?」
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白石は黙る。
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そして小さく笑う。
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## ― ラスト ―
夜。
ベランダ。
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風は少し涼しい。
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白石が言う。
「ねぇ」
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「うん」
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「ちゃんとしなくてもいいって言われると、
ちょっと怖いですね」
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悠人は笑う。
「分かる」
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少し間。
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悠人は続ける。
「でもさ」
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「うん?」
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「ちゃんとしてないままでも、
ここにいるじゃん」
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白石は空を見る。
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少しだけ静かになる。
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そして言う。
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「……ほんとですね」
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陽翔はもう寝ている。
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世界は相変わらず不安定で、
でも確かに続いている。
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そして雨宮家は、
“完璧じゃない日常”を受け入れ始めていた。




