# 第十九話 ## 「“普通の朝”が戻ってきた日」
# 第十九話
## 「“普通の朝”が戻ってきた日」
翌朝。
目覚ましは鳴っていないのに、目が覚めた。
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雨宮悠人は、まずベビーベッドを見る。
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陽翔は寝ている。
静かに。
顔色も悪くない。
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「……生きてるな」
思わず口から出る。
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白石雫が隣で小さく笑う。
「物騒な確認ですね」
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でもその言葉にも安心が混じっていた。
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## ― 朝の温度 ―
昨日の夜が嘘みたいに静かだった。
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陽翔は少しだけ弱っているが、
普通に朝を迎えている。
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白石が体温計を見る。
「36.8」
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「勝ちだな」
悠人は即答する。
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白石は笑う。
「戦いじゃないです」
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## ― 何でもない朝 ―
パン。
牛乳。
小さなスプーン。
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陽翔はまだ少しぼーっとしている。
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でも、ちゃんと食べる。
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その姿を見て、
悠人は妙に安心する。
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「普通って、すげぇな」
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白石が横で言う。
「昨日があるからですね」
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悠人は頷く。
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## ― 保育園 ―
登園。
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先生が言う。
「もう大丈夫そうですね〜」
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白石は軽く頭を下げる。
「ご迷惑おかけしました」
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悠人は少しだけ周りを見る。
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(昨日、あんな夜だったのに)
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今日は普通に戻っている。
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この“戻る力”に、
少しだけ驚く。
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## ― 昼 ―
現場。
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鬼塚が言う。
「昨日休んだって聞いたけど」
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「ちょっとな」
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坂本が笑う。
「子どもか?」
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悠人は即答する。
「子どもだよ」
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少し沈黙。
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そして、坂本が笑う。
「正直でいいじゃねぇか」
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## ― 夜 ―
帰宅。
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「パパ!」
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いつもの声。
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もう熱の夜の影はない。
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陽翔は走る。
元気すぎるくらいに。
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悠人は少し笑う。
「復活早いな」
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白石が言う。
「子どもってそういうものです」
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## ― 夕飯 ―
三人。
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普通の食卓。
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昨日とは違う。
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白石がふと聞く。
「ねぇ、悠人さん」
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「うん」
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「昨日のこと、もう怖くないですか?」
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悠人は少し考える。
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「怖いは怖いけど」
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「うん」
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「ずっと怖がってても仕方ねぇなって思う」
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白石は静かに聞く。
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悠人は続ける。
「結局さ、また同じように夜は来るし」
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「うん」
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「そのたびにやるしかないだろ」
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白石は少し笑う。
「現場みたいですね」
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「人生な」
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## ― 夜の小さな会話 ―
陽翔は眠い。
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小さな声で言う。
「パパ……」
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悠人は反応する。
「ん?」
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「だいじょうぶ?」
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一瞬止まる。
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「……お前の方が心配されてた側だろ」
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陽翔は分からないまま笑う。
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そして寝る。
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## ― ラスト ―
夜。
リビング。
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白石が言う。
「ねぇ」
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「うん」
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「普通って、ありがたいですね」
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悠人は頷く。
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「ほんとな」
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少し間。
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悠人は続ける。
「でもさ」
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「うん?」
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「この“普通”も、全部積み重ねなんだな」
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白石は静かにうなずく。
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窓の外は静か。
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でもこの家の中では、
確かに“普通”が生きていた。




