# 第十八話 ## 「熱、ふたたび」
# 第十八話
## 「熱、ふたたび」
夜中だった。
静かすぎるくらいの静けさ。
その中で——
泣き声が、急に空気を裂いた。
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「……っ」
雨宮悠人は一瞬で起きる。
体が先に動いていた。
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白石雫も同時に起きる。
もう慣れている動きだった。
慣れてしまっているのが少し怖いくらいに。
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「陽翔?」
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ベビーベッド。
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陽翔は顔を赤くして泣いていた。
呼吸が荒い。
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白石が額に手を当てる。
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「熱い」
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悠人の背中が冷える。
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「またかよ……」
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## ― 深夜の戦闘開始 ―
体温計。
水。
解熱シート。
タオル。
全部が同時に動く。
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「38度……」
白石の声は落ち着いているのに速い。
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悠人は子どもを抱く。
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「大丈夫、大丈夫……」
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言いながら、自分が一番落ち着いていない。
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陽翔は泣きながら、悠人の服を掴む。
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その小さな力が、
妙に重い。
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## ― 病院かどうか問題 ―
白石が言う。
「朝まで様子見でもいいかもしれません」
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悠人は即答する。
「いや無理だろ」
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白石は少し黙る。
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「私もそう思います」
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即決。
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## ― 夜の車 ―
外は真っ暗。
信号だけがやけに明るい。
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後部座席。
陽翔はぐったりしている。
でも泣いている。
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悠人は運転しながら、
何度もバックミラーを見る。
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(大丈夫だよな)
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白石が静かに言う。
「前より、少し慣れましたね」
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悠人は苦笑する。
「慣れたくねぇけどな」
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白石も小さく笑う。
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「でも、動けてます」
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その言葉が少しだけ救いになる。
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## ― 夜間病院 ―
診察は早かった。
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「風邪ですね。よくあるやつです」
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その一言で、
肩の力が一気に抜ける。
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悠人は思わず言う。
「……それだけ?」
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医者は笑う。
「それだけです」
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白石が小さく息を吐く。
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「よかった……」
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## ― 帰り道 ―
車内。
少し静か。
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陽翔は眠っている。
熱は少し下がっている。
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白石がぽつりと言う。
「ねぇ」
「うん」
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「毎回、怖いですね」
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悠人は頷く。
「慣れねぇな」
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白石は少し笑う。
「慣れたくもないですね」
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## ― 家 ―
布団。
タオル。
水。
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陽翔はすぐ寝た。
今度は穏やかに。
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その寝顔を見て、
二人はやっと息をする。
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## ― リビング ―
ソファに座る。
沈黙。
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白石が言う。
「さっきさ」
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「うん」
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「病院でちょっと思いました」
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悠人は聞く。
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白石は続ける。
「この子がいなかったら、
こんな夜なかったんだなって」
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悠人は少し黙る。
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「そりゃそうだろ」
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白石は少し笑う。
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「でも」
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「うん?」
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「怖いのに、嫌じゃないんですよね」
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悠人は天井を見る。
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「わかる」
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少し間。
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## ― ラスト ―
白石が小さく言う。
「ねぇ、悠人さん」
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「うん」
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「また“パパ”って呼ばれる夜でしたね」
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悠人は笑う。
「呼ばれすぎだろ」
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白石も笑う。
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外では夜が続いている。
でもこの家の中だけは、
少しだけ明るいままだった。
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そして雨宮家は、
また一つ“怖さ”を越えていく。




