# 第十七話 ## 「保育園の“お手紙”」
# 第十七話
## 「保育園の“お手紙”」
夏の終わりが近い。
でも雨宮家の暑さは、まだ終わっていなかった。
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「……これ」
白石雫が、テーブルの上に一枚の紙を置く。
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雨宮悠人は、嫌な予感しかしない顔でそれを見る。
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「何それ」
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白石は少しだけ間を置く。
「保育園からのお手紙です」
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その瞬間、悠人の背中が少し固まる。
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(お手紙=だいたい良くないやつ)
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## ― 内容 ―
白石が読み上げる。
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「“お子さんが最近、少しお友達との関わりが強くなってきています”」
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悠人はすぐ反応する。
「いいことじゃね?」
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白石は続ける。
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「“良くも悪くも積極的なため、トラブルも増えています”」
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沈黙。
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悠人。
「やっぱダメな方か?」
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白石は冷静に言う。
「まだ断定されてません」
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## ― 夜の会議 ―
リビング。
家族会議状態。
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陽翔は遊んでいる。
当事者なのに自由。
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悠人は腕を組む。
「で、どうするんだこれ」
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白石は紙を見ながら言う。
「“叱る”より“伝える”が大事みたいです」
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悠人は即答。
「俺、叱る担当?」
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白石は笑う。
「やめてください、怖いので」
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少し間。
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悠人は陽翔を見る。
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(こいつ、社会性バグってるんじゃないか?)
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## ― 翌日 ―
保育園送り。
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陽翔はいつも通り元気。
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だが今日は違う。
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先生が言う。
「陽翔くん、今日はどうしましょうかね〜」
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その言い方が優しい。
逆に怖い。
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白石が丁寧に頭を下げる。
「すみません、家でも少し話してみます」
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先生は笑う。
「大丈夫ですよ〜、成長ですから」
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悠人は横で聞いている。
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(成長って便利な言葉だな)
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## ― 帰り道 ―
白石が言う。
「ねぇ」
「うん」
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「陽翔ってさ」
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少し考える。
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「ちょっと“人間すぎる”んですよね」
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悠人は笑う。
「それ褒めてんの?」
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白石は真顔。
「褒めてます」
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## ― 夜 ―
帰宅。
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陽翔は今日も元気。
おもちゃを取り合う。
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その瞬間。
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白石が静かに言う。
「陽翔」
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ピタッと止まる。
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珍しい。
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白石はしゃがむ。
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「どうしてお友達のおもちゃ取っちゃうの?」
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陽翔は少し黙る。
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そして小さく言う。
「ほしいから」
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悠人は横で思う。
(昨日と同じじゃねぇか)
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白石は続ける。
「でも、お友達はどう思うかな?」
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陽翔は少し考える。
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「……かなしい?」
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白石はうなずく。
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「そうだね」
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静か。
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## ― 小さな変化 ―
その後。
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陽翔はぽつりと言う。
「じゃあ……かえす」
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悠人は少し驚く。
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白石も少し目を見開く。
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「今、自分で考えた?」
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陽翔はよく分からない顔。
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でもおもちゃを戻す。
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その瞬間。
空気が少しだけ変わる。
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## ― 夜のリビング ―
寝かしつけ後。
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白石が小さく言う。
「今日、ちょっと成長しましたね」
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悠人は頷く。
「だな」
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白石は続ける。
「叱るより、話す方がいいってこういうことなんですね」
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悠人は笑う。
「俺、完全に出番なかったな」
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白石も笑う。
「怖いからです」
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## ― ラスト ―
ベランダ。
夜風。
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白石が言う。
「ねぇ、悠人さん」
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「うん」
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「この子ってさ」
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少し間。
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「ちゃんと“人間”になってきてますね」
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悠人は笑う。
「最初から人間だろ」
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白石も笑う。
「そうですけど」
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遠くで虫の声。
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陽翔の寝息。
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そして二人。
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白石が小さく言う。
「またひとつ、会話が増えましたね」
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悠人は頷く。
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「増えすぎだろ」
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でもその増えた分だけ、
この家は少しずつ“家族”になっていく。




