# 第十六話 ## 「パパ、かっこいい」
# 第十六話
## 「パパ、かっこいい」
夏。
暑い。
現場は地獄だった。
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「雨宮ぃ!!」
鬼塚の怒鳴り声。
「はい!!」
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汗。
騒音。
照り返し。
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悠人は思う。
(人間が働く環境じゃねぇ……)
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でも今日は少し違った。
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昼前。
スマホに通知。
白石からメッセージ。
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【今日、陽翔が“パパの仕事見たい”って言ってます】
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悠人は止まる。
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「……は?」
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## ― 夜 ―
帰宅。
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「パパー!!」
陽翔が走ってくる。
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抱きつく。
汗臭い。
でも気にしない。
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陽翔が目を輝かせて言う。
「パパ、おしごと!」
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悠人は苦笑する。
「仕事?」
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「みる!」
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白石が後ろから説明する。
「保育園で“お父さんのお仕事”の話になったみたいで」
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悠人は少し嫌な予感。
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「で?」
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「“パパはたてものつくってる”って、
すごい自慢してました」
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悠人、固まる。
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「……え?」
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白石は笑う。
「かなり誇らしそうでしたよ」
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## ― 数日後 ―
休日。
現場近く。
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本当は危ないので中には入れない。
でも外から少しだけ見せる。
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巨大な建設中の建物。
クレーン。
鉄骨。
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陽翔、完全に目が輝いている。
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「おおおお……!」
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悠人は少し恥ずかしい。
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「別にすごくないぞ」
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陽翔は聞いてない。
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「パパ、ここ!?」
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「まあ……ちょっとだけな」
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白石が横で小さく笑う。
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「すごいですね、悠人さん」
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悠人は苦笑する。
「いや、普通の仕事だろ」
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白石は静かに首を振る。
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「でも、この子には
“パパが作ってる場所”なんですよ」
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その言葉が、少し胸に残る。
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## ― 帰り道 ―
陽翔は興奮している。
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「パパ、おおきい!」
「パパ、ガガガってしてた!」
説明が雑。
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悠人は笑う。
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「まあ、そんな感じ」
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陽翔は突然言う。
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「パパ、かっこいい!」
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時間が止まる。
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悠人の歩き方が一瞬変になる。
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白石、吹き出す。
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「弱っ」
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悠人は動揺。
「いや急に来るなって!!」
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陽翔は笑っている。
本気だ。
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## ― 夜 ―
寝かしつけ後。
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リビング。
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悠人はソファに座っている。
放心状態。
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白石がコーヒーを置く。
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「まだ効いてます?」
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悠人は即答。
「効いてる」
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白石は笑う。
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「“かっこいい”ですもんね」
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悠人は顔を覆う。
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「人生で一番効いたかもしれん……」
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白石は少し静かになる。
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そして言う。
「でも、あの子から見たら本当にそうなんですよ」
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悠人は黙る。
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白石は続ける。
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「毎日働いて、帰ってきて、
遊んでくれて」
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「ちゃんと“パパ”なんです」
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沈黙。
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悠人は天井を見る。
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昔。
婚活会場で。
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「結婚したら人生変わる」
そう思っていた。
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でも本当に変わったのは、
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“誰かに必要とされる側”になったことだった。
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## ― ラスト ―
夜。
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陽翔が寝言を言う。
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「……パパ」
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悠人は少し笑う。
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白石が隣で言う。
「呼ばれてますよ」
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悠人は小さく頷く。
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「……悪くないな」
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白石は笑う。
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窓の外では夏の風。
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そして雨宮家の夜は、
静かに続いていく。




