# 第十五話 ## 「初めての“友達の家”」
# 第十五話
## 「初めての“友達の家”」
土曜日。
朝から落ち着かない空気だった。
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雨宮悠人は玄関で靴を見つめている。
「これ、必要か?」
手には小さな紙袋。
中身はお菓子。
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白石雫が即答する。
「必要です」
「即答すぎない?」
「社会です」
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横では陽翔がそわそわしている。
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「今日は“友達の家”に行く日」
保育園で仲良くなった子の家。
初めての“外の世界の個人宅”。
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悠人は小さく言う。
「なんかさ」
「うん?」
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「婚活パーティーより緊張するんだけど」
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白石は笑う。
「分かります」
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## ― 移動中 ―
電車。
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陽翔は窓に張り付いている。
「でんしゃ!」
「くるま!」
「ビル!」
全部新鮮。
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悠人は少しだけ安心する。
(こういう時はまだ子どもだな)
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白石が小声で言う。
「ちゃんと挨拶できますかね」
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悠人は即答。
「俺の方が怪しい」
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白石は笑う。
「そこは自信持ってください」
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## ― 友達の家 ―
到着。
マンション。
きれい。
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玄関。
ピンポン。
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「こんにちは〜!」
明るい声。
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出てきたのは、同じくらいの子どもとその母親。
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空気が一気に“社会”になる。
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## ― 中 ―
おもちゃ。
お菓子。
子ども同士。
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最初はぎこちない。
でも3分で崩れる。
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走る。
笑う。
取り合う。
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「これが……子ども界か」
悠人は呟く。
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白石は横で言う。
「人間の原型ですね」
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## ― 大人の時間 ―
リビング。
母親同士の会話。
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「どこの保育園ですか?」
「仕事は?」
「お休みの日は?」
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見えない情報戦。
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悠人は端でコーヒーを持つ。
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(これ、また婚活の別バージョンだろ)
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白石が小声で言う。
「無理しなくていいですよ」
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「もうしてない」
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## ― 子どもたち ―
突然静かになる。
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見に行くと、
一緒に積み木をしている。
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さっきまでの争いは消えている。
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悠人は少し驚く。
「さっきの戦争は何だったんだ」
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白石が笑う。
「それが子どもです」
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## ― 帰り道 ―
夕方。
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陽翔は疲れて寝ている。
ベビーカー。
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悠人は押しながら言う。
「なぁ」
「うん?」
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「世界ってさ」
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少し考える。
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「案外狭いな」
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白石は首をかしげる。
「どういう意味ですか?」
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悠人は続ける。
「保育園で出会って、家に行って、
また保育園で会う」
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「全部つながってる」
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白石は少し笑う。
「人間関係ってそういうものですよ」
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## ― 夜 ―
帰宅。
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陽翔はすぐ寝る。
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リビング。
静か。
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白石が言う。
「今日どうでした?」
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悠人は少し間。
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「疲れた」
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白石は笑う。
「正直ですね」
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悠人は続ける。
「でもさ」
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「うん」
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「ちょっとだけ、楽しかった」
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白石は少し驚く。
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「友達の家ですか?」
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悠人は頷く。
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「なんかさ」
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「この世界、広いようで狭いんだなって思った」
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白石は静かに聞く。
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悠人は続ける。
「その中に、ちゃんと俺たちもいるんだなって」
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白石は少し笑う。
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「それ、いい感想ですね」
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## ― ラスト ―
夜。
ベランダ。
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風。
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白石が言う。
「ねぇ、悠人さん」
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「うん」
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「私たちってさ」
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少し間。
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「ちゃんと“外の世界”に入ってきましたね」
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悠人は笑う。
「今さらだろ」
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白石も笑う。
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「でも実感が遅いんです」
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悠人は空を見る。
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「まあ、それでいいんじゃね」
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白石は小さくうなずく。
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遠くで、陽翔の寝息。
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世界は広い。
でもこの家は、
その中の“ひとつの場所”になっていた。




