# 第十四話 ## 「保育園からの“呼び出し”」
# 第十四話
## 「保育園からの“呼び出し”」
それは、仕事中に鳴った。
スマホの着信。
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白石雫から。
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雨宮悠人は嫌な予感がした。
こういう時の電話は、だいたい“良くないやつ”だ。
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「もしもし」
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白石の声は、少しだけ早い。
「悠人さん、今ちょっと」
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そこで一拍止まる。
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「保育園から電話きて」
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心臓が一段下がる。
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## ― 保育園 ―
到着すると、空気が違った。
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先生がすぐ出てくる。
「すみません、陽翔くんなんですが……」
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悠人は固まる。
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(やらかしたか?)
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先生は続ける。
「お友達と少しトラブルがありまして」
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一瞬、頭が真っ白になる。
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白石は静かに聞いている。
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先生は慌てて付け加える。
「大きなケガではなくて!」
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その言葉で少しだけ息が戻る。
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## ― 内容 ―
どうやら、
おもちゃの取り合い。
押した。
泣いた。
止められた。
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よくある話だった。
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でも「よくある」だけで片付けられないのが親だった。
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悠人は陽翔を見る。
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陽翔は少ししょんぼりしている。
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でも、どこか納得していない顔。
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白石がしゃがむ。
「陽翔」
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「……うん」
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「どうして押したの?」
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少し沈黙。
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陽翔は小さく言う。
「ほしかった」
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それだけ。
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白石は一瞬黙る。
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そして静かに言う。
「そっか」
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## ― 帰り道 ―
三人で歩く。
空気は重い。
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悠人が言う。
「ダメなことはダメだけどさ」
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白石が少し見る。
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「でも、気持ちは分かるよな」
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白石は少し驚く。
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悠人は続ける。
「欲しいもん取られるのって、ムカつくし」
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白石は小さく笑う。
「大人の言い方じゃないですね」
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「大人だって同じだろ」
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## ― 家 ―
帰宅。
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陽翔は静かに座る。
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白石が言う。
「ちゃんと謝ろうか」
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陽翔は小さく頷く。
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電話。
保育園。
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「ごめんなさい」
白石と一緒に言う。
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終わる。
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## ― 夜 ―
寝かしつけ後。
リビング。
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悠人はため息。
「今日さ」
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「うん」
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「ちょっと焦った」
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白石は頷く。
「私もです」
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少し間。
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悠人は言う。
「でもさ」
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「うん?」
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「こうやって“社会”に出てくの、
始まってるんだなって思った」
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白石は静かに聞く。
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悠人は続ける。
「俺たちの中だけじゃなくてさ」
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「うん」
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「外とぶつかって、覚えていくんだなって」
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白石は少し笑う。
「大人になってますね」
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悠人も笑う。
「親な」
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## ― ラスト ―
夜。
ベランダ。
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風が少し冷たい。
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白石が言う。
「ねぇ」
「うん」
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「今日のこと、失敗でした?」
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悠人は少し考える。
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「失敗っつーか」
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「経験だろ」
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白石は笑う。
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「前向きですね」
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悠人も笑う。
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「じゃないとやってられん」
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少し間。
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白石が小さく言う。
「でも」
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「うん」
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「ちゃんと育ってますね、私たち」
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悠人は空を見る。
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「たぶんな」
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遠くで子どもの寝息。
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また一日が終わる。
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でもこの家は、
少しずつ“世界の中”に入っていく。




