# 第十二話 ## 「パパって呼ばれるのが、当たり前になった日」
# 第十二話
## 「パパって呼ばれるのが、当たり前になった日」
あの日の「パパ」は、たぶん偶然だった。
そう思っていた。
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雨宮悠人は、まだ少しだけ疑っていた。
「たまたまだろ、あれ」
朝の歯磨き中に、ぼそっと言う。
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白石雫は鏡越しに答える。
「たまたまでも呼ばれたんですよ」
「それはそうだけどさ」
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隣の部屋から声がする。
「パパー!」
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悠人、固まる。
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「……おい」
「今日も呼ばれてますね」
白石は普通に言う。
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## ― 朝の現実 ―
もう一度。
「パパ!」
今度ははっきりしている。
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悠人はため息をつく。
「これ、固定された?」
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白石が笑う。
「固定ですね」
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悠人は少し考える。
「俺の名前どこいったんだよ」
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白石は即答。
「それは私もです」
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「え?」
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「ママで固定されてます」
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沈黙。
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悠人は笑う。
「社会システムじゃん」
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## ― 保育園 ―
送迎。
いつもの道。
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陽翔は元気。
「パパ!いく!」
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周囲の親が一瞬見る。
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悠人は少し恥ずかしい。
「やめろってそういうの……」
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白石が小声で言う。
「もう遅いです」
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先生が笑う。
「仲良しですね〜」
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悠人は小さく会釈する。
「どうも……」
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(俺、なんかキャラ付いてない?)
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## ― 昼 ―
現場。
坂本が言う。
「お前さ」
「うん」
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「最近、なんか雰囲気変わったな」
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悠人は工具を持ちながら言う。
「そうか?」
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「前より柔らかい」
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悠人は少し黙る。
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「……そうかもな」
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坂本がニヤニヤする。
「家庭パワーか」
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悠人は即答。
「うるせぇ」
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でも否定はしない。
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## ― 夜 ―
帰宅。
ドアを開ける。
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「パパ!」
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即。
秒速。
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悠人は苦笑する。
「玄関入って一秒かよ」
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陽翔が走ってくる。
抱きつく。
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白石がキッチンから言う。
「おかえりなさい」
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悠人は少しだけ止まる。
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(あ、これだ)
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昔は「ただいま」だった。
今は「帰る場所」になっている。
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## ― 夕飯 ―
三人で食べる。
騒がしい。
こぼす。
笑う。
怒る。
全部混ざっている。
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白石が言う。
「ねぇ、悠人さん」
「うん」
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「パパって呼ばれるの、慣れました?」
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悠人は少し考える。
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「いや」
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「まだちょっと変な感じする」
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白石は笑う。
「でも嬉しそうですよ」
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悠人は少し黙る。
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「……まあな」
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## ― 夜の静けさ ―
寝かしつけ後。
リビング。
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白石が言う。
「最初のパパって、覚えてます?」
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悠人はすぐ答える。
「覚えてる」
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「びっくりした」
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白石は笑う。
「私もびっくりしました」
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少し間。
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悠人は天井を見て言う。
「でもさ」
「うん」
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「今の方が、ちゃんと“パパ”って感じする」
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白石は少しだけ黙る。
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そして言う。
「じゃあ、育ってますね」
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悠人は笑う。
「俺が?」
「はい」
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## ― ラスト ―
夜。
静か。
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遠くで小さな寝息。
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白石が言う。
「ねぇ、悠人さん」
「うん」
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「この子ってさ」
「うん」
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少し間。
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「ちゃんと“家族”にしてくれますね」
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悠人は少し笑う。
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「違うだろ」
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「え?」
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「もうとっくに家族だろ」
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白石は黙る。
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そして小さく笑う。
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「ですね」
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外では風が吹いていた。
でもこの部屋だけは、
ちゃんと“帰る場所”だった。




