# 第十話 ## 「パパ、ちょっと来て」
# 第十話
## 「パパ、ちょっと来て」
朝はいつも、戦争の延長だ。
だが今日は少しだけ違った。
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「悠人さん」
白石雫の声が、いつもより低い。
「うん?」
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キッチンで、白石が子どもの服を畳みながら言う。
「保育園の面談、今日です」
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雨宮悠人は固まる。
「……今日?」
「はい」
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終わった。
心の中でそう思った。
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## ― 保育園 ―
面談室。
机。
椅子。
先生。
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この並びは、なぜか人を緊張させる。
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先生が笑顔で言う。
「お二人ともお忙しい中ありがとうございます〜」
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白石はいつも通り丁寧。
「こちらこそよろしくお願いします」
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悠人は遅れる一拍。
「ど、どうも……」
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この時点で負けている気がする。
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## ― 面談開始 ―
先生が言う。
「お子さん、すごく元気ですね」
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白石が笑う。
「はい、元気だけは」
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先生も笑う。
平和な空気。
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だが次の一言で変わる。
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「少し、“お家での関わり”についてなんですが」
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空気が変わる。
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先生は悪気なく続ける。
「お子さん、少し“甘えが強い傾向”がありまして」
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悠人の心が少しざわつく。
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(それ、ダメなやつ?)
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白石は静かに聞いている。
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先生は続ける。
「お母さんもお忙しいと思うんですが……」
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その瞬間。
白石の指が少し止まる。
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悠人が横を見る。
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(今の言い方、ちょっと刺さるやつだ)
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## ― 帰り道 ―
外。
曇り。
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二人無言。
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子どもはベビーカーで寝ている。
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白石がぽつりと言う。
「私のせいかな」
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悠人は即答する。
「違うだろ」
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白石は続ける。
「でも“関わりが足りない”って」
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悠人は少し止まる。
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そして言う。
「じゃあ俺がやる」
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白石が顔を上げる。
「え?」
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悠人は少し考えてから言う。
「俺、もっと関わる」
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白石は少し驚く。
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「仕事大丈夫ですか」
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悠人は笑う。
「知らん。なんとかする」
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白石は少し黙る。
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そして小さく笑う。
「無責任ですね」
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「今さらだろ」
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## ― 夜 ―
帰宅。
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子どもは寝る。
早い。
疲れていたのかもしれない。
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リビング。
静か。
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白石が言う。
「今日の話、気にしてます?」
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悠人は少し間。
「ちょっとな」
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白石は続ける。
「でも、ああいうのってどこまで気にすればいいのか分かんないですね」
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悠人は頷く。
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「正解ないんだろ、たぶん」
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白石は少し笑う。
「婚活と同じですね」
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悠人も笑う。
「またそれか」
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## ― 小さな決意 ―
悠人は立ち上がる。
キッチンへ行く。
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「明日さ」
「うん?」
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「俺、朝やるわ」
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白石は少し驚く。
「何をですか」
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「保育園の準備とか、全部」
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白石は黙る。
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そして小さく言う。
「できるんですか?」
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悠人は笑う。
「知らん」
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白石も笑う。
「じゃあ見ます」
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## ― ラスト ―
夜。
ベランダ。
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風。
少しだけ冷たい。
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白石が言う。
「ねぇ、悠人さん」
「うん」
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「今日さ」
「うん」
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「ちょっとだけ、親っぽかったですね」
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悠人は笑う。
「ちょっとだけな」
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白石も笑う。
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遠くで街の音。
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子どもは寝ている。
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でもその小さな存在が、
二人の背中を少しだけ押している。
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白石雫が小さく言う。
「また明日も、やれますかね」
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雨宮悠人は答える。
「やるしかないだろ」
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そして少しだけ笑う。
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「家族ってそういうもんだろ」
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夜は静かに続いていく。




