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逃亡378 僕は未来を目指すべきだと思います!

 有無を言わせたくないときはよく喋る。


◇ーーーー◇


『聞こえないの?カニ飯まだ残ってないの?』


 ルーデンスが呼ぶので振り返る。大量のカニを湯がいております。


『カニ飯は残ってないの?リリス様がどうせまずいと言ってるわ』


「え、それは心外ですね。残ってないとは思いますけども…。」


 大きいカニは大味でおいしくない。そんなことはないはずである。小さなカニが風味豊かとは限らない。


「ありました。出てきてました。これでも食べて待っててください。採りすぎは生態系を壊しますから適度なところで止めます。少々お時間ください」


「まずいなんて言ってないよ。鶏めしの方が絶対おいしくない?って聞いただけ」


「そこは食べて判断してください。カニ飯は特産品だったんです。でも在庫切れで、このチャンスは逃したくないんです。お待たせして恐縮ですけど、だいたい収獲量がプラトーに達して減少に転じたら撤収しま…。」


 リリスさんに貴重品のカニ釜飯を渡したらトラックサイズのカニが揚がってきた。急いで誘導壁を補強します。石材を積み上げて…。


 バッカァーン!と大きなハサミで破壊していく。


 そんなトラックサイズのカニがわらわら揚がってくる。


「うん。撤収します!これは食材じゃないです。人類の危機です!」


「そんなのわかってたでしょ?」


「いま気がつきました。カニ飯に目がくらんでました。すいません」


 加熱プレートとコンベアは回収して砕かれていく石材は諦める。茹で上がったカニも一部は諦める。


 実にもったいない。トラックガニが食べてくれるとは思うけど。


「お待たせしました!さて逃げましょう。マイマイはどこです?」


『合流地点よ。忘れたの?』


「あ、そっか。そうでした。走らなきゃ。えっと、リリスさんが肩車、アユさんがおんぶですよね。さ、どうぞ。ルーさんは僕の身体を操って超人モードでお願いします!」


『結局、人任せなの?』


「ルーさんへの信頼です!身体を預けられる信頼関係の賜物です。いつもは強制的に操ってくるじゃないですかぁ」


『はいはい。わかりました。カニには一声かけなくていいのね?』


「あ、そうですね。どんな相手にも一声かけるが信条でした。おんぶしたら一声分だけお願いします!」


 女性二人を担ぎます。リリスさんは肩車、アユさんはお姫様抱っこになった。この状態で石材を砕いてるトラックガニと対話する。


「カニのハサミってキチンですよね?石より硬くなることってありえます?どうやって砕いてるんですかね?砕く魔法?」


『いいから早く声かけしなさい!』


「あ、すいません。それでは…」


 大きく息を吸い込んで。


「もしもーし。言葉はわかりますかー?もしもーし」

「もしもーし。言葉はわかりますかー?もしもーし」

「もしもーし。言葉はわかりますかー?もしもーし」


 みんなこっちを見た。聴こえてはいるらしい。


「もしもーし。言葉はわかりますかー?もしもーし」

「もしもーし。言葉はわかりますかー?もしもーし」

「もしもーし。言葉はわかりますかー?もしもーし」


 ハサミを振り上げこっちにくる。言葉はわかってません。返事がない。


「ルーさん!走って!」


『わかってるわよ!』


 身体に力が満ちて地面や蹴る。飛ぶように跳んで砂浜を走ります。


 ん?


 砂浜を走るんでいいの?合流地点ってどこなんだ?


「うぁ〜。速いね!」


 リリスさんは喜んでらっしゃる。


 まぁ、ルーデンスに任せておけば大丈夫。


『囲まれたわね。どうする?』


「え?どうするんですか?」


『あなたがちんたらしてるからよ!』


「えぇ。一声かけるか聞いたのはルーさんですよ?」


『私は一言と言いました。あなたは六言、声かけしたの』


「20秒くらいですよ?一言と六言の差は数十秒です。…そうじゃなくて!囲まれた。次はどうします?」


『あなたが考えなさい!』


「だって、どういう原理で囲まれたかもわからないんですよ?リリスさん。邪神パワーでどうにかできないんですか?」


「ん~~。邪神じゃないから無理」


「すいません。女神様パワーでどうにかできないんですか?」


「ん~~。私は飛んで、ばいばい」


「僕たちも!僕たちも飛んで連れてってください!」


「ん~~。自分で飛べるでしょ?」


「あ、そうだ。パラグライダーがありました。翼を展開します。スペースを確保して…。ぇ…。」


 トラックガニに囲まれました。パラグライダーを展開するスペースがない。リリスさんは一人で飛んでった。


『跳ぶわよ!アユはしっかり捕まりなさい!』


 ルーデンスが叫ぶと身体がすんごく跳ぶ。筋肉がぶちぶちいってるのがわかる。カニのハサミを避けながらお姫様抱っこで甲羅の上を跳んでいく。我が守護霊様は人形の扱いを心得てらっしゃる。限界を超えた力が出てます。


 ぴょんぴょん跳んで、ぬるついた甲羅で足を滑らせて捻挫して、捻挫した足で跳ぶ激痛で悶絶してたら包囲を抜けました。


『ふぅ。走るわよ!もたついてたらまた包囲されるわ』


「い、一服。ポーションを一服させてください。足首が腫れて動きません」


『急ぎなさい!』


 とにかく、いいポーションを飲みます。眠気覚まし用でなく、裂傷用でもなくて、ぶっかけたら生き返るくらいのを飲みます。


 すると力の入らなかった筋肉にも力が湧いてきた。感覚が戻ってきた。


『ちっ。また囲まれたわ。もたもたしてるからじゃないの!』


「そんなこと言ったってルーさんの身体の使い方が荒いんですよ!全身脱力満身創痍ですよ!」


 足の速いソファサイズのカニが先回りして足場をなくして追いついてきたトラックサイズが囲んでくる。


「なんで?なんで豚野郎神様を追いかけないでこっちにくるんですか?リリスさんは豚野郎神様にけしかけたんじゃないんですか?」


「ん~~。……謎」


「謎じゃないでしょ!なんとかしてくださいよ!」


「ん~~。邪神じゃないから無理」


 こいつなんなんだ?なんで意地悪するんだ?


 なんで自分は大漁大漁と喜んでいたんだ?早く逃げるべきだった。


 トラックサイズが道を開け、その倍くらいあるカニが現れた。ボスだ。いわゆる逃走し野生化したダンジョンボスである。


「みなご苦労。やっと見つけたぞ。今度は逃さないからな」


 ボスガニがしゃべった。


「すいません。誰に言ってます?」


「お前に言ってます。私をこうして、一人にして去ったあなたに言ってます」


「もしかして、いつぞやのカニさんですか?大きくなりましたね。こちらに敵意はありません。多少の食欲があっただけなんです」


「子供たちが半分くらい茹でられたって怒ってるよ。それ食べながら怒る子供たちもどうかと思うんだけどさ」


 ボスガニの背から女の子が降りてきた。カニ娘って感じの美少女である。


「どこかでお会いしました?」


「私を暗い部屋から出してくれたのはあなた。私がこうなったのもあなたのせい」


 カニ娘さんが手足を伸ばして、五体満足なのは自分のせいだという。


「えっと…。カニ型からヒト型になったと。甲殻類から哺乳類になったと。外骨格から内骨格になったと。であるならば、きっと僕のせいであるのは間違いありません。一時期、美少女量産機能が働いておりました。もう落ち着いたと思いつつ、本日も一声かけさせていただきました」


「本日?ずっと探してたんだけど?神出鬼没でようやく捕まえたんだけど?」


「すいません。僕も自分がどこにいるのかよくわかってないんです。地図が読めないし、移動は一瞬だし。もう深く考えずに問題なければそれでいい派なんです。…探しました?」


「探しました!ずっと探してました!この子たちと西へ東へ旅してました!」


「そうですか。いい思い出ばかりだといいんですけど」


「大変でした!途中でヘビに襲われる。タコに襲われる。クジラに襲われる。人魚に襲われる。大変だったんだぞ!この責任どうとってくれるんだ!」


 カニ娘さんがビシッと指す。犯人はお前だと。


「えっとぉ…。責任は認めます。責任の取り方ですよね。安住の地が必要とのことでしたら一緒に探すお手伝いはできます」


「よし。必ずね。みんなが安心して暮らせるところね。それで私はどうなるわけ?」


「えっとぉ…。この流れは新しいキープ主にご登録ということですよね。それは心構えや実地研修も含めて体制が整ってございます。その前に、みなさんの希望を伺いたいです。カニ型の方々は筆談は可能ですか?」


 可能でした。あいうえおを砂浜に書いてくれる。


 超知的な生命体である。


「あぁ〜。すごいですね。旅をしながら習ったんですか?」


 そうそうという。ある日、降りてきたんだそうです。それ以来ちゃんと話し合うようになったそうです。


 でも子供たちは言うこと聞かない。なんでも食べちゃう。若い世代は共食いあり。降りてきた世代は共食いなし。若いもんの価値観にはついていけないという。


「なるほどぉ。多様ですね。僕はカニは食べられなくなりました」


 いいのいいの。こっちもヒトを食べるから。姉御とは弱肉強食の掟で結ばれてるからという。


「なるほど。人間は捕食対象ですか。それだと共存は難しいですね。どうしようかな。人間だけ禁食してくれたら人里近くで共生社会を目指せるんですけど。方舟においでませとか言えちゃうんですけど」


 弱い人間を食うな?


「そうなんです。人間って一人一人は弱いけど、集まると強いじゃないですか。だから弱い個体を食べると集団で報復する。終わりなき種族間争いの始まりです」


 うちもそうだぞ?一人一人は弱い。でも数が集まればタコにも勝てる。


「うーん。確かにそうですね。でも人間は科学技術や魔法を開発してまして、強さが数に比例するんじゃなくて指数関数的に強くなるんですよ。本当に指数関数かはおいといて、数の効果がもっと効くんです。違うか。時間も増幅因子になってるって言えばいいのかなぁ?」


 魔法は使えるぞ?


 トラックガニがハサミをぱかっと開く。そこからレーザーみたいに水が出てきた。


「ウォータージェットですか。すんごいな。火事のときの消火作業が楽になりますね。そっか。まずは消防団活動をしてみますか。カニとヒト。消防団を結成してお互いに一つの歴史を歩めるか社会実験する。すべてのカニとヒトが共に歩めなくてもいいんです。お互いに尊重して歩める者同士が歩めたら素敵じゃないですか」


 カニとヒト?


「そうですそうです。カニとヒトの共生社会。素敵じゃないですか?実はもう実現していて先輩がいるんです。スライムとヒトは立派な共生社会を形成しています。モモンガとヒトもうまくいきました。ガーゴイルとヒトはまだ課題がありますね。悪魔な姿だと人間がビビるんです。でも人間を模していれば大丈夫。安全指導を担ってもらっていて安全活動を一緒にやってもらっています。うまくいけば警察的な機能もお願いできるかもと思ってるんです。ガーゴイルくんって怠惰で無欲なんです。横領なんてしません。怠惰で強欲な衛兵よりも百倍いいという世論に押されて一日警察署長から始められないかと思ってるんですよ。モモンガは郵便、スライムは下水処理、カニは消防団。こうして考えると人間中心社会を維持しながらも社会の随所に共生関係を組み込める。そうして人間どもを依存させる。共生抜きでの社会なんて成り立たないように思わせる。そこまでいけば種と種を超えてお互いに尊重できませんかね?いいアイデアだと思いませんか?」


 うーん。わかんない。


 トラックガニはわからない。消防団がイメージできないらしい。


「大丈夫!やってダメだったら安住の地を探せばいいんです。いえ。安住の地はすぐに確保しましょう。いわゆるダンジョンです!」


 さっそく電話します。


「もしもーし。マチルダさーん。聞いてました?空きダンジョンあります?大きなカニが暮らせるようなところです。水辺がいいと思うんです。生態系が豊かで周りで火事が起きやすいところです」


「カニとヒト。迷言が全国放送されてるわよ。あの国王代理、実はやべぇんじゃないかってみんな言ってるわよ」


「本当ですか?でもそんなものですよ。新しい価値観を提示されたとき、まずは拒絶反応が出ちゃうのが人間というものです。それは自然なことです。大事なのは信用せずに聞く耳だけ持っておくことです。安易に受け入れず、激しく拒絶もしない。とりあえず様子を見る。安全や大事な価値観を守った上でです。腑に落ちることがあったら、徐々に歩み寄ればいいんです。新しい価値観の方も一緒で変化しますから、そのうちいい感じになじみますよ」


「そうやって既成事実化して洗脳するんじゃないのかって言われてるわよ」


「うーん。徐々に事実化は進みます。でも、それは成功体験です。大丈夫!仮に僕がやべぇやつでも、みなさんがいますから。やべぇと思ったら止めてください」


「いま、やべぇと思ってるんだけど?そもそもハルマゲドンはどこにいったのよ?避難解除していいの?」


「あ!そうでした。カニ飯で嬉しくなったあたりから、本日の目的を見失ってました。すいませーん。カニのみなさん。豚野郎神様は見かけませんでした?意気揚々と進軍してた方々です」


 あー、いたね。タコに食べられてたね。


 いたいた。ヘビにも食べられてたね。


 目撃証言が複数あるということはそういうことなんでしょう。


「なんで神様がタコに負けるんですかね?セクメトさんが鍛えたはずなんですけど。やっぱり睡眠学習って身につかないのかな?おかしいですね」


 溺れてたからね。


 普通にね。溺れてたよね。


「なるほど。泳げないのに変な自信を付けちゃったのかなぁ。睡眠学習って危ないのかもしれないですね。やっぱり客観的俯瞰的総合的に見て判断しないといけませんね。……もしもし。ハルマゲドンの危機は去りました。避難訓練は終了です。お疲れ様でした」


「おい!それでいいのかよ!」


「はい。問題ありません。睡眠学習は危ない。自信過剰は危ない。謙虚に静かに生きていこうという教訓です。これは豚野郎神様からのメッセージです」


「おかしいだろ!」


「教訓は教訓です。他人のふり見て我がふり直せですよ。それに僕たちは一切関わってません。僕たちが関わったのは豚野郎神様の愛を応援して出発するところまでです。案内役の亀を間違えたのは彼ら、タコにケンカを売ったのも彼ら。僕たちは知り合いとの再会を喜んでただけです」


「カニ飯カニ飯喜んでただろ!」


「紆余曲折はありました。だけど、いまはカニヒト共生社会に向けて大きな一歩を踏み出すときなんです!大事なのはどっちですか?豚野郎神様が失踪した過去か。カニヒト共生社会への未来か。僕は未来を目指すべきだと思います!」


「うーわぁ。ダメだ。こりゃダメだ。これ、全国放送されてるんだぞ?ダンジョンの場所は教えるから当分帰ってくんなよ。いま帰ってきても吊るされるだけだからな」


「僕は国王代理です!権力にしがみつくつもりなんてさらさらないんです。処刑するなら結構ですよ。僕の方から辞めてやりますよ。でもいいですか?いま権力を排斥するような方々が権力を握ったら反対勢力や国民を排斥すると思いますけどね!」


「だからぁ。いま民主主義を説明して回ってんだろ?一戸一戸巡って説明してんだろうがぁ!」


「あ、ありがとうございますぅ。ぜひお願いいたしますぅ。とにかく。僕が国王代理として権力を放棄してる間に国民のみなさまは権力を取り戻してください。国民のみなさまの総意のもとに権力はあるべきです。もちろん。これまでの権力者のみなさんの中には英才教育を受けてすんばらしく優秀な方々がおられます。そうした方々を信頼して託すもよし、自ら政治参加を望むのもよしです。王都や領都で仕組みが変わってもよしです。正しいガバナンス構造なんてありません。いろんな形を試して修正して後世にいいものを残していきましょう。その苦労話は後世の糧になります。未来志向で歩んで参りましょう!」


「適当なこと言うな!なにが未来志向だ。目の前の現実を見ろ。権力闘争で大変なんだぞ!」


「ダイジョブダイジョブ。その苦労話は必ず誰かのためになります。そうやって社会は進んでいくものです。安易に昔の仕組みを否定しない。新しい仕組みを取り入れるときは慎重に。そして時には大胆に。みなさんならやれますよ。食うものに困るような状況はなくします。食うものに困ったらとりあえずユーペンを訪ねてきてください。近くのロードローラーに乗せてもらってください。仕事はないけど学びがある。それがいまのユーペンです!」


「お前が言うな!どんだけ大変かわかってないだろ!」


「ダイジョブダイジョブ。その苦労話は必ず誰かのためになります。僕は全力で応援します!」


「応援じゃなくて働け!当分帰ってくんな!」


 マチルダさんがぶち切れて向こうでなんか叫んでる。それを収める声と、とにかくカニヒト共生社会は外でやれというメッセージとともにダンジョンの地図が送られてきました。


「よし。次の目標が決まりましたね。みんなでダンジョン攻略に向かいましょう!」


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