逃亡379 あとは仲良くやってください!
みな慣れました。
◇ーーーー◇
「あー。弱肉強食って恐ろしいですねー」
干潟のダンジョンにきました。サギやシギ、ぬたぬたしたお魚さんがカニさんにむしゃむしゃ食べられてます。
カニって鳥を食べるんだと思いました。このダンジョンは足場の悪い干潟でサギやシギなどの空を飛ぶ魔物と戦うというコンセプトだったみたいです。だけど鋭いクチバシもカニの甲羅は通らない。大きなハサミで近づいた鳥からたたき落とされてむしゃむしゃ食べられる。鳥の餌だったぬたぬた魚もむしゃむしゃ食べられる。
「弱いと食われる。しょうがないよ」
こちらのカニ娘はスキュラさん。いつぞやの座礁船に閉じ込められていたカニで、解放されて外に出て一晩したらカニ娘になっていた。その後、力で一族をねじ伏せて再度頂点に立って、あのときの間抜け面を探していたらしい。
「うーん。カニヒト共生社会を目指しているんですけども。…こういう暴力を見ると拒否反応が出ちゃうと思うんですよね。よくないなぁ。暴力ってよくない」
「このダンジョン攻略するって決めたのキーぷんだろ?」
「そうですけども。暴力を見せつけられると拒否反応が出ちゃうんですよね。怖いなぁ。恐ろしいなぁ。この暴力が自分に向いたら大変だなぁって」
「弱いと食われる。しょうがないよ」
「うーん。僕も僕の顔をお食べよと言えるほど強ければいいんですけど。弱い人間なんです。恐ろしいなぁ」
『この人は懸念を並べて満足してるだけよ。スキュラは強くありなさい』
ルーデンスはこういうことを言う。この辺りのアンデッドの頂点に立っているので帝王学的なことをいうようになった。日々、人を統べる責任を感じておられるらしい。
「もー。僕だって真剣に考えてるんですよ?カニ一族の繁栄を考えてのことなんです。サギとシギには申し訳ないですけど。でもなぁ。カニサギシギ共生社会を目指すべきじゃないのかなと思うんですよ。全部食べちゃダメだと思うんですよ」
『どんどん逃げてるから大丈夫よ。むしろサギとシギが食いつくしてきた生き物が増えるわ』
「うーん。だといいんですけど。…あ、ボスですかね」
大きくてきれいな鳥が飛んできた。クチバシがドリルみたいに見える。ヒットアンドアウェイ型のボスらしい。すごい勢いでこっちに向かってくる。
それをカニたちが一斉に放水してたたき落とす。よってたかってむしゃむしゃ食べる。自分はボスガニの上からそれを見ています。
「うーん。弱肉強食とは無慈悲ですよ。もう少し対話というものを志向すべきだと思うんです」
『無理よ。相手は鳥よ?三歩歩くと忘れて襲ってくるのよ?』
「それは偏見です。科学的じゃないですよ。動かず三歩に一週間かければ僕よりも記憶力いいってことになりますよ」
『あなたは4分で忘れるものね。ここにきた目的は?』
「あえて言います。カニサギシギ共生社会の実現です!」
『違います。カニの安住の地を確保すること。ここを基点に火の国の力を削ぐことよ』
「え?二つ目の目的、初めて聞いたんですけど?クリスティナさんたちは納得してるんですか?そんなの一線を越えてますよ」
『納得するはずないじゃない。でも必要なことと認識してます。それにあの鳥たちに手を焼いてたのは確かなの。それが減るなら喜ばれるだろうと言ってるわ』
「ん?どっちなんですか?力を削ぐのか、面倒事を片付けるのか」
『いまは片付けるの。だけど将来はもっと面倒になるでしょうね。未来のことはわからないわ』
意訳すると、あの鳥たちは干潟の外にも飛んでって悪さをしている。家畜を食べるとかそんなことだ。退治するためには干潟で戦わないといけなくて、歩くとずぶずぶ。飛んでくとブスブス。とにかく被害が大きいので放置されていた。
カニによって鳥の数が減るなら周辺住民にとってはいいことだけど、水魔法を使うカニが溢れたら火の国としてはより面倒なことになる。歩くとずぶずぶ。飛んでもブシャーになる。
「うーん。でもカニは干潟から出ませんよ?迷惑かけないんだからそっとしておいてくれればいいのに」
『干潟があれば干拓したいと思うじゃない』
「あ、それ、罠です。超大変な問題になりますよ。干潟は海の豊かさを支えています。漁業権と耕作権の戦いになります。これだけ立派な干潟は触らない方がいいです。自然に任せて栄養を垂れ流してもらう。それが海のためです。おいしい魚を食べたいじゃないですか」
『と言ってるわ。セレスティナはどう思う?』
「うーん。どうでもいい。どーぞ」
『そうね。クリスティナは?』
「私はカニ飯食べたい。どーぞ」
『ということで反対意見はなくなりました。さっさと片付けなさい』
本当に反対意見なんてあったの?自分は懸念を表明してましたけど。
とにかくダンジョンのコントロールルームを探します。手分けして地面をつついていく。変な音がしたら報告するようにいってあります。
「たぶんボス部屋の近くにあると思うんですよ。ボス部屋はどこですかね?」
「全部だよ。この干潟全部」
スキュラさんはわかるらしい。
「その根拠は?説明できますか?」
「だって部屋なんてないじゃん」
「ぁ、そっか…。」
「いまボス倒したし」
「でも、中ボスだった可能性もあります。大きな干潟ですから中ボスエリアとボスエリアがあってもおかしくないですよね?」
「あの逃げてったやつがボス?」
指した先で黒くて大きい鳥が飛んでいた。確かに黒い鳥ってボスっぽい。
「うーん。そうですね!ボスエリアはあの鳥が飛び立った辺りです。さっそく探しましょう!」
結果としてはなにも見つからなかった。半日探しても、ただただ干潟が広がってるだけでお腹いっぱいになったカニたちは動きが緩慢になってる。食べ過ぎで気持ち悪いらしい。
「うーん。どうしようかな。全部剥いで回る暇はないんです。でもコントロールルームさえ押さえれば、住みやすいように調整できるんですけど…。」
『見つかったらまたきたらいいのよ。入植はできたんだから十分でしょう』
「うーん。あれですかね。コントロールルームなしの自然発生型ダンジョンですかね?人々がダンジョンと呼んでるだけの魔物の巣」
『そうなんじゃない?もう興味ないわ。鳥たちは逃げていったもの』
「確かに。ボスが放棄するダンジョンなんてコントロールルームを設けて難易度調整するタイプではないですね。いいのか。つまり純粋な弱肉強食に基づく生態系があるだけで、それ以上でも以下でもないと」
『初めからそう言ってます。スキュラ。次は消防団よ。人間を食べるのを我慢できて放水できる個体を選抜してちょうだい』
「はーい。お試し期間は一週間ね」
そんなカニはいないと思うことなかれ、四匹のトラックガニが選抜された。ボスガニは黒いサギが帰ってきたときに備えて残るそうです。
ん?ボスガニでいいのかな?代理ボスガニかな?
もやもや考えてる間にカニ四天王は家族に挨拶して、父ちゃん母ちゃん行ってくる。がんばってきてね。ハサミいっぱいの人間を狩ってきてね。とかいっている。このご子息は出禁だな。
「では参りましょう。ディメンショんんん~」
「ディメンションワープ!」
口を封じられて、スキュラさんが呪文を唱えたらマイマイに乗って帰ります。
「もー。舌を噛んだじゃないですか!」
「言ってみたかったの。無意味な呪文。私は魔法は使えないからね」
そうなのです。スキュラさんは魔法でなく物理でカニたちを従えてきた。単純にパンチが重いのだ。グーパンチが甲羅を貫通するらしい。甲羅が硬いものと認識してなかった。そしてチョキパンチは何でもグシャリとやっちゃう。切断でなく圧壊させます。そして身体は頑丈。見た目はぷにぷになのに。硬くてなんでも弾く。カニという特性を無理やり人体に詰め込むとこうなる。
「そもそもですよ?カニの要素ってハサミと甲羅だけじゃないじゃないですか。ハサミと甲羅だけだったらエビと変わらないです。もっとふんどしとか横歩きとか、そういう形質を引き継ぐべきだと思います」
「ん?なにが言いたい?私をエビ女と言いたいのか?」
「いや、そうじゃなくて天界の安易さに、それどうなんだと思ったんです。スキュラさんは健康でいいなと思ってます。でもですよ。今後エビ娘さんが登場することになったら、どうするんですか?やっぱり硬い身体に強烈なハサミでいくんですか?」
「私に聞くのか?それにエビのハサミは弱々だぞ?爪が2本あるだけでカニのハサミとは全然違うからな」
「へー。そうなんですか。オマール海老とかいかついハサミのイメージですけど」
「あれはザリガニだ!エビと一緒にすんな!」
「へー。よくご存知ですね」
「常識だぞ。エビの巣は喰らい尽くしてきたからな」
海底をさまよってるときにエビダンジョンをつぶしたらしい。ボスエビがどうなったかわからないけど、営巣地が一つ壊滅した。ダンジョンボスが逃げると生態系がぶっ壊れる。
反省しないといけないなぁ。
干潟しかりエビの巣しかり。
こんな話をしてたら裏プリに着きました。厳戒態勢で迎えてくれた。
「お疲れ様ですぅ。新人キープ主のスキュラさんと消防団四天王ですぅ。エラが乾くと窒息するので定期的に水をかけてあげてください。でも魔法で水を出せるから砂漠でも生きていけるんです。すごい方々なんですよ。生命の奇跡です」
こう紹介するとカニ四天王は照れちゃう。俺たち奇跡だってよ。わかってんなこいつ。へらへらしてるだけじゃないな。なんていってます。
「奇跡でもなんでも、でかすぎやしないかい?どこに住むんだい?人は襲わないと保証できんのかい?なにを食べるんだい?」
「はい。前向きなご質問ありがとうございます。クードさんの質問に一つ一つ答えて信頼と実績を積み重ねて参ります。まず、でかすぎる問題ですね。僕もその通りだと思います。今後もっともっと大きくなります。少なくとも倍にはなります。この目で確認しました。でかすぎるはイエス。もっとでかくなるもイエス。そういうことでよろしくお願いします」
「そりゃ困るじゃないか」
「次がどこに住むんだ問題ですね。水辺です。砂漠にも住めますが、魔法なんて使わないに越したことがないです。ここ裏プリには貯水池があります。生活用水と分ける必要があれば別に作ります。ケトル湖でもいいかもしれません。ただし、消防団活動をしてもらいたいです。木造建築が多い街で訓練していただきたい。月に一回は防災訓練と消防訓練をしたいです。そのためには…。ケトル湖から出張してもらうのが現実解ですね」
「そんなん許されないよ」
「次はヒトを襲わないのか問題です。これは襲う襲わないの二択ではありません。一緒に暮らして信頼関係を築くしかないです。なぜなら襲われたら防衛しなきゃならないです。争い事が起きてから、どっちが先に手を出したか証拠を集めるのは困難です。つまり一緒に暮らしてから考えましょう」
「つまり魔物と暮らせと言うのかい?」
「はい。もう暮らしてます。大丈夫です。モモンガくんは郵便、スライムくんは下水処理…。」
「それはわかってるよ。うちにはラミアもゴーレムもいるんだ。ドライアドだっている。だがみな話が通じるだろ?このカニはどうなんだい?」
「えっとぉ。筆話ができます。おはじきは難しいかもですが、こっくりさんはできます。犬なんかより、よっぽど賢い方々ですよ。ただし人間社会に慣れてません。初めて見るものばかりです。畑の作物と森の実りの区別がつかないかもしれないです。例えば養殖のマスと自然のマスの区別がつかない可能性は大いにあります。どれは食べていいか、どうすればもっとおいしくなるか、こういうことは対話し教え学び合うことで種族の壁を越えられると信じています!」
「そういう薄っぺらな言葉はいいんだよ。誰がその教育係をするんだい?」
「こちらのスキュラさんです。超頑丈。超パワフル。カニより強い神童です」
「ん?私の話?」
「そうそう。こちらのおばさまたちに認められたら、人間社会のどこでもやっていけます。スキュラさんの人間社会教育係にして人生の先輩たちです。ご挨拶をお願いします」
「ん。そういうこと。キープ主の頂点を目指してます」
「あぁー。そういうこと言うと。セクメトさんっていうやばい人に声かけられるから控えてください。最強とか一番とか。そういうのを匂わすと上下関係をはっきりさせたい方々に囲まれてぼこぼこにされますよ」
「ん?私、神童でしょ?大丈夫だよ。負けたことないし」
「あぁー。……まぁ。まずはおはじきからですね。スライムくんたちは挫折をやさしく受け止めてくれますから。その次は到達度テストですね。3桁のかけ算が案外難しいんです。間違いないか見直すときに悶絶しますよ。でも計算間違いは誰にでもあることですから」
「計算なんて私はやらないぞ。部下にやらせればいいんだからな」
トラックガニたちがハサミを振って、そんなの当たり前だろ的なことをいう。姉御に面前な仕事を押し付けたらダメだという。
「え?みなさん九九できるの?」
当たり前だろ。そのくらいできなくて、どうやって生き延びるんだ?といっている。
「へー。九九も降りてきたんですか。神託の誤配信ですかね?もし大規模に配信されてたらみんな賢くなって大変なことになりそうです」
カニをバカにしてんのか?
「あ、すいません。僕の中の偏見が出てきました。申し訳ないです。でも人間ってこんなやつばっかりだと思ってください。いちいち怒ってもしょうがないので、周りをバカだと思ってるサルくらいに捉えていただけると幸いですぅ」
サルはカニの仇だぞ?
「あ、さるかに合戦も降りてきてましたか。うーん。……でもそれでいいと思います。人間とサルって大して変わらないですよ。戦場にいくとサルに失礼なくらい野生剥き出しのおバカさんたちがいっぱいいます。そういうことも含めて人類の愚かな歴史を学んでみなさんの反面教師にしてもらえると幸いです」
「つまり、このカニたちも教室で学ぶのかい?教室に入るのかい?」
「あー。クードさんのおっしゃる通りですね。教室入れないですよね。青空教室でやるしかないんじゃないですかね」
「一緒に机を並べなきゃ友情なんて芽生えないんだよ!ちゃんとやりな!」
「はい!承知しました。すぐ発注します。二階ぶち抜きの講堂を注文します。…もしもし。ということなので、よろしくお願いします。採寸にきてください」
「あいよーー。ガーゴイルちんが飛んでくから。…やっぱ歩いてくみたい」
「マイセルさん。ありがとうございます。…ふぅ。はい、これで新生活はスタートできますね。それではみなさん、よろしくお願いいたします」
「まだ答えてないだろう!なにを食べるんだい?給食作ってるのは私らなんだよ!」
クードさんが木べらでべしべししてくる。
「すいません。これまでなにを食べてきました?基本生食ですよね?」
カニ…。
エビ!
クジラ!タコ!
「おぉ~。タコを喰い返してきたんですか。強者ですね。…たこ飯がいいと思います。せっかくだから、たこパーやりますか。たこ焼きパーティー。歓迎会をすべきだと思うんですよ。消防団としても結成式が必要ですし」
「まったく。たこ焼き食べるカニなんて聞いたことないよ!そういうのは言ってくれないとわからないだろ!…それで?この子らはなんて呼べばいいんだ?カニじゃダメだろ、何ガニなんだい?」
「えっとぉ…。魔物としての名称はあると思いますけど、一緒にしてほしくないです。なのでトラックガニ。略してトラガニでどうですか?タイガー&ドラゴンならぬ、タイガー&トラガニです」
わーぉ。ドラゴンと一緒だって。こいつ頭悪いけど、いいやつかも。
だねだね。
「気に入りました?」
竜騰虎闘!蟹騰虎闘!
「おぉ、頭いいですね。天に竜、地上に虎、海に蟹!」
海に蟹!
海に蟹!海に蟹!
海に蟹!海に蟹! 海に蟹!海に蟹!
海に蟹!海に蟹! 海に蟹!海に蟹!
海に蟹!海に蟹! 海に蟹!海に蟹!
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相当気に入ったらしい。スキュラさんも呆気にとられてる。
海に蟹!海に蟹! 海に蟹!海に蟹!
海に蟹!海に蟹! 海に蟹!海に蟹!
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海だけでいいのかな?川にも砂漠にも進出する時代がきたんだけど。
まぁいいのか。まだ海しか知らないだけだ。
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海に蟹!海に蟹! 海に蟹!海に蟹!
「よし!一件落着ですね。ここにカニヒト共生社会への第一歩が始まったことを宣言します!あとは仲良くやってください!」
クードさんたちはため息ついてたけど、人類にとっては大きな一歩です。




