逃亡375 そうそう。愛ゆえに
姫がさらわれたから救い出す。ゲームみたいなトレーニングをしてました。
◇ーーーー◇
『はい。豚が起きた?すぐ向かいます。オプティウム様は大丈夫なのですね?』
「ダイジョブダイジョブ。完璧に仕上がったよ。マインドセットは整いました」
『従順な僕になったのですね?』
「そこまでじゃないよ。相手は神様だよ?従えるなんてできません。愛に生きる愚かさを受け入れただけ。愛の力でね」
守護神様が守護霊様に豚野郎神様の洗脳が完了したと報告してます。恐ろしい世の中です。
『それでは竜宮城へ送りますか』
「その前に神様選考会だよ。それが目的なんだから」
『詳しくはお会いしてうかがいます。発言にはお気をつけください』
「あ、ごめんごめん。ダイジョブダイジョブ。誰も聞いてないから。聞いてるのは共犯者だけだから」
『共犯ではありません!』
「あ、ごめんごめん。見守ってるだけね。二人の愛の行く末を陰ながら応援してるだけね」
『とにかく。すぐ向かいます。不用意な発言や言動は控えてください』
「はーい。静かに待ってまーす」
『あなた!いつまで食べてるの!聞いてたでしょう。早くいくわよ!』
「むぐぅ。…はい。飲み込みました。お待たせしました。すぐいきます。えっとぉ…。」
怖い怖いと思ってたら、こっちに降ってきた。即行動します。
「はい。えっと、すいません。念のため本日はお休みにしましょう。いつでもハルマゲドンが起こってもいいように避難できるようにしておいてください」
豚野郎神様が暴れ出したら大変だと思うのだ。うちの守護神様は当てにならない。完璧とか言ってるし。
「どこに避難するの?地下のだんじょんには入り切らないよ?」
「ネルさんのおっしゃる通りです。だからこそ、避難訓練をするんです。ハルマゲドンが起こりました。さぁどうする。と災害が起きてから避難場所を探すようでは生き残れませんねと痛感してもらうんです。そうすると自主的に避難計画を立てるよう…。」
『早くしなさいって言ってるでしょ!うんちく垂れて逃げ遅れる典型よ!』
「はぃ。申し訳ありません。すぐにいきましょう」
ルーデンスは答えを待たずに身体を走らせる。
『今日はお休み。防災訓練でもしといてちょうだい。ハルマゲドンになったらどこに逃げても助からないわ』
そりゃそうだよね。だけど天海大戦争では地上にも被害が出るのだろうか。巻き込まれないと思うんだけど、どうなんでしょう。適当にハルマゲドンとか言ったのがよくなかったかも。
身体は守護神様に任せて何か考えよう。
ー◇ーーーー
「それは天界を裏切るということだよなぁ?違うなら辞表を置いてけ!」
豚野郎神様たちの隔離部屋に着くとセクメトさんが部下たちに迫ってた。
辞表で辞められるんだ。退職代行サービスでも始めようかな。
豚野郎神様の部下なので天使か準神様か、ちょっと偉い人であるはずだ。力はあるはずなのに苦渋の表情で一筆一筆したためていく。愛に目覚めた訳ではないらしい。
辞表ができたら豚野郎神様が集めていく。
解雇代行サービスか。退職を強いてるんだもんなぁ。
「手間をかけさせたな。これで心置きなく助けに迎える。感謝する!」
「おう。必ず助けだせよ。トレーニングの結果を見せろ」
「無論だ。さぁ。ゆくぞ!乙姫を救えばすべて解決なのだ。空と海、長きにわたる対立を超えて、いまこそ手を結ぶときなのだ!」
どういう理屈かわからないけど、とにかく豚野郎神様は納得しているらしい。自分が海底から乙姫様を救い出せば、天界と人魚たちとの争いが終わる。
そのためには辞表を出す必要がある。みんなで…。
とにかく、そう確信しております。
夢の中ではセクメトさんにひたすら狩られてたはずだ。どうやったらこうなるんだろう。骸骨騎士たちのトレーニングの相手にさせられて、何度も何度も殴り殺されてた。
ダメだ。疑問を呈したら負けだ。
うん。そもそも恋愛ものって理屈じゃない。とにかくそういう物語を書いて、何度も何度もトレーニングしたんでしょう。
「ちょっとちょっと。その意志は自分で伝えてからにして。でないと、本当の裏切り者になっちゃうよ」
「無論だ。…天への扉よ。いざ開かれん!」
豚野郎神様が、ぷわーっと光って浮いたら消えてしまった。
瞬間移動だ。こんなこともできるんだ。地上に降臨するときは何メートル以上の高さから、とかルールがあったはずだ。いまのでOKなのかな?神がかってたけど、なんでもありになっちゃうやつじゃないのかな?
『オプティウム様、これは無事成功ということでしょうか?』
「まだまだ。たぶんいまごろ天界で揉めてるよ。急に辞表をたたきつけて人魚側につくって宣言するんだからね」
『救い出すのでは?』
「ルーさんや、救ってどこに出すのよ?竜宮城から引っ張り出したら天界にでも住まわせるの?誰が望むのよ?」
『なるほど…。』
「愛の力だよ。好きな者同士が結ばれ一緒に住む。これが在るべき姿だと思っちゃう。愛ゆえに」
『愛ゆえにですか…。』
「そうそう。愛ゆえに」
『それで次は、どうしたら?ヒイラギたちに亀を用意させますか?』
「亀ね。亀も案内したくないでしょう。…もしもしヒイラギ?神様御一行を竜宮城まで送迎してほしいんだけど可能?…無理。だよね〜。…あ、でも誘導ならいいのね。迎撃準備してあんのか。…そう。…そう。いいじゃん。完璧じゃん」
『不用意な発言は慎んでください』
「ダイジョブダイジョブ。これ全部キーぷんに命令されて仕方なしにやってることだから。メリウスたちを人質に取られてやらされてるだけだから」
『そんな詭弁が通りますか?』
「通すんだよ。いまこの瞬間も記録は改ざんされてるわけ」
『でしたら我々の関与自体を消してください。オプティウム様も関与自体をなかったことにしてください』
「ダイジョブダイジョブ。そうなってるから。だけど本人たちが証言したら、あれじゃん。さすがにあれじゃん。そういうときの保険もかけてあるの。この神様選考会の発議の正統性を保証しなきゃならないからね。みんな共犯なの」
これは聞かせるために言ってるのか。神様になりたかったら潰すなと。共犯だぞと。
そんなの言わない方がいいように思えるけども。選考会が終わった後で、後ろから刺されそうだ。お前も神様辞めて席を空けろと落選した天使に言われると思う。それか強請られる。
あ、そっか。神様になった後も強請るための仕組みか。私たち一蓮托生だよね?と正統性を盾に握るのだ。
「僕は応援します!みなさんが満足すればそれでいいです!」
「なに言ってんの!キーぷんが欠片も役に立たないからこうなったんだよ?本来、あの豚野郎を抹殺して神様に空席を作るのが転生者の務めなんだよ?」
「そうなんですか?」
「当たり前だろ。なのに夢の中では瞬殺、瞬殺、まったく刃が立たない。どうなってんだよ。新陳代謝が働かないよ。大問題だよ!」
「転生者にそんな役割があるなんて初めて聞きましたよ」
「転生者ってのは最強を求めるものなんだよ、本来は。最強ってなに?誰?神様でしょ?無理に転生させた神様を逆恨みして神殺しするまでが転生者でしょ!そういうものでしょ!」
「うーん。そういうケースも過去にあったと。それがめんどいから、四陣営に分かれて戦争しとけと。そういう解釈でいいですか?」
「そういうこと!何度言ったら覚えるんだよ。物覚え悪過ぎ!」
「だって僕、何度も死んでるじゃないですか。雷で記憶が飛んでるんです。そもそも、そんな転生者を僕にしてるのはオプティウム様ですよぉ?」
「そうだよ?だから多くは望んでません!ちゃんとわかってます。だけどキーぷんの不甲斐なさが危ない橋を渡らせてるの。これはちゃんとわかってほしいね」
「そんなこと言ったって…。」
「みんなにリスクを背負わせてる自覚を持ちなさいと言ってるの。責任なんてとれやしないんだからさ」
「うーん。がんばります。でもこれで晴れてメリウスさんが神様になったら全部解決ですよね?僕の長いお勤めもおしまいですよね?」
「んなわけないでしょ。なに言ってんの?キーぷんはみんなのキープくんだよ?お勤めじゃなくて、キープされてんだから一生尽くすんだよ。その前に戦争を平定するって約束でしょ?そのくらい成し遂げてよ!」
「あまたいる転生者がバトルに興じてきたんです。僕は経済的に疲弊させて厭戦感情を煽るくらいしかできませんよ」
「そのやり方でもいいけど。キーぷんだって贋金を差し押さえたでしょ?同じようなことはみんなやってんの。経済的な破綻でバトルがなくならないよう調整されてるって、なんでわからないかなぁ」
あ、そうだよね。当然だよね。
そもそもこの国の通貨流通はメダル落としが支えてたのだ。あの意味のわからん仕組みで通貨というシステムが成り立ってた。
「うーん。難民受け入れだけじゃ弱いと?」
「とぉぅぜん。当然だよ。せめて転生者どもを葬り去ってほしいね。最強を目指すバカどもをさ」
「最強信者は消えてなくなればいいと思うんですけども。……考えます。そっちはなにかきちっと貢献したいとは思ってるんです」
「そうしてよ。いつまでも助けてもらえると思わないでよ!」
「はい。がんばりますぅ」
はぁ。世の中って厳しい。他の転生者は自由なんだろうか。最強を目指すくらいは暇なんだろうけど。
あぁ。チートなんてもらうんじゃなかった。とりあえず豚野郎神様を片付けてなんか考えよう。
「…あ、ハルマゲドンに巻き込まれてみんな居なくなるってどうですか?」
「本気で言ってるの?」
「いえ、ふと思い付いたことが言葉になって出ていきました。大変失礼いたしました」
「まぁ、それでもいいけどね」
「いやいや、すんごい数の人が巻き込まれます。絶対ダメです」
「まぁ、当たり前だよね」
「はい。大変失礼いたしました」
うーん。
でも案外悪くないのかもしれないな。避難訓練がうまくいけば被害は出ないのかもしれないし。
なにより天界が問題を片付けてくれる。自分がなにかやらなくて済む。
うーん。
不慮の事故でどうにかならないかな。




