逃亡374 難しいことは考えてもわからん
みなさんを信頼してます。
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「誰が面倒見んだい?」
「みんなで見ましょう!」
「誰が飯を作るんだい?」
「みんなで作りましょう!」
「誰が許可したんだい?」
「許可って…。必要ですか?」
「当たり前だろう?王様にでもなったつもりかい?」
「いえ、申し訳ないです。許可はいただいておりません。でも見てください。どこにも行き場がないんです。まともな仕事には就けません。彼らをほっといたら野垂れ死にしますよ。これは人道的措置なんです。何卒ご理解ください」
裏プリに贋金工場のおじさんたちを連れてきました。死んだ目でメダル落としに興じてたおじさんはきっと野垂れ死ぬと思うのです。
「ここには男が近くにいるだけで動けなくなる娘もいるんだよ!」
「すいません。隔離します!従来通り、隔離です。男性は男性の自由が約束されたエリアと男女混合エリア。女性専用エリアは立ち入り禁止。しっかりルールを守ってもらいましょう」
「誰がルールを守らせるんだい?」
「みなさんです。世の中の上下関係というものを教えてあげてください」
「わかった。いつもの新人教育でいいんだね?」
「はい。でもいまは自尊心を再獲得した直後ですので、お手柔らかにお願いします。それに立派な贋金職人さんなんです。みんな技術を磨いてこられた方なんです。…技能か。技能を磨いてこられた方なんです」
「ふん。贋金工場に詰め込まれてただけの受刑者だろ。この世のクズばかりじゃないか」
クードさんは手厳しい。おばさまに囲まれて締め上げられてます。
「クズの中でもまじめな方々です。不まじめな方々はとっくに逃げたそうです」
「のろまって言うんだよ。混乱に乗じて逃げることもできなかったんだからね」
おばさまたちは厳しいです。
「贋金なんて作ってどうするんだい?またただ飯ぐらいが増えただけじゃないか」
「贋金を本物に変える装置は確保しました。大丈夫です!」
「その装置だけで十分だろ!」
「そうなんです。一方で贋金作りも放置できないじゃないですか。贋金は普通に使われてて流通してるんです。僕たちが本物を供給するだけじゃなくて贋金もコントロールしないといけない。僕たちじゃなくて、国としてです。国として、流通を管理できないといけません。そのためには通貨の品質を上げなきゃいけない。本物と贋金で圧倒的な技術格差を作らなきゃいけないです。排除じゃなくて成長。ともに成長するビジョンが大切なんです」
「また処罰したくなくて、連れ帰ってきただけじゃないか!そんなふうだから犯罪者が増えるんだよ!」
「それ差別ですよ。前科があったらなんなんですか?償ったらいいんですよ。産業競争力になってもらったらいいんですよ」
「前科はいいんだよ。いままさに贋金を作るなんて犯罪を犯してるだろ!」
「ですから。贋金も技術レベルが上がって大量供給して流通したら本物と一緒です。普及させてから贋金は偽物ですとアナウンスして市場から駆逐するんです。急に贋金は使うなってアナウンスしたら経済が大混乱ですよ?そうなっていいんですか?ダメですよ。だったら贋金もレベルアップさせて徐々に変えていく。それにですよ。高品質通貨が生産できるようになったら、国外から生産受託できるかもしれないじゃないですか。そしたら産業になります。むしろチャンスなんです」
「国をあげて贋金作りをしようってこったな?」
「誤解です。贋金は作ります。ですがレベルアップさせます。そして本物になります。いまは移行期間なんです。トランジションです。贋金とわかってて作る期間もある。それだけです」
「何年かかるんだい?そのレベルアップとやらに何年かかるんだい?」
「ただ飯ぐらいの期間ですよね?それはやってみないとなんとも言えません。そもそも開発計画もないんです。必要な技術の洗い出しからです」
「わかった。3年でやりな」
「無理無理。絶対無理です。10年はかかります」
「だったら追い出しな。いいじゃないか。工場は取り上げてきたんだろ?このまま世に放てば野垂れ死ぬさ。勝手に贋金を作られることもないだろう」
「そうなんですけどぉ。実際はそうなるんですけどぉ。これから面接して技術を握ってた方々と、手伝ってた方々を分けて、職能レベルでも分けて、進路の希望も聞きとって、競争力のない方々は義肢トレーニングを授けたら放逐します。贋金作りは情報管理が命です。関係者は絞ります。贋金工場は一度広げますけど、大事な金型とかそういうのを没収したら元の土地に戻して、普通の金物工場として運営します」
「誰が?」
「えっとぉ…。うちの人たちが経営を学ぶいい機会になると思うんです。テストベッドですね。倒産させてもいい工場っていろいろ便利じゃないですか?実地研修しましょう。経営を勉強しましょう」
「つまり働かない男は容赦なく首を切っていいってことだね?」
「はい。処刑はダメですけど、解雇はできます。お給料は払えませんので贋金を渡しときましょう。そうすれば贋金のレベルを上げなきゃって思いますよね。相乗効果です。…当面はですよ?」
「いいじゃないか。すばらしいじゃないか」
クードさんは納得した。周りのおばさまも、それならばとうなずいてくれた。
「よかったですぅ。これなら大きな体制変更なしでいけますよね。あとは開発責任者を誰にするか…。」
「それはこっちでやるよ。いい娘がいるんだ。ちょうどいいからキープしてもらいな」
おばさまの後ろでおどおどしてた娘が前に出される。
「私はあなたをキープします!よろしくお願いします!」
ぺこりとしたら後ろに下がっていった。
「よろしくお願いします。最近、あれなんです。遠くでなんか言ってるなぁと思って振り向くと宣言されてたりするんです。あれってどうなんですか?」
「第808夫人だよ」
「そういうシステムなんですか?」
「知らなかったのかい?」
「いえ。そのうち扶養家族で国ができるんじゃないかと思っております」
「もうできてるよ。お前さんは二重国籍だからね。そっちもうまくやるんだよ」
「ん?そういうシステムなんですか?」
「建国は済んだって聞いてないのかい?この国が承認して後ろ盾になってんだよ」
「へぇ〜。みなさんはどちらにご所属で?」
「どっちもだよ。便利な方さ」
「あ、その時々で使い分けると…。新しい国なんか作っても、利点はあるんですか?信用がないじゃないですか」
「ここにいるみんなが元老院さ」
「へぇ〜。そういうシステムなんですかぁ。へぇ~」
聞かなかったことにしよう。
「あ、だったら通貨の製造を請け負わせてくださいよ。最初の顧客が大事なんです」
「そんな無駄金払うつもりはないよ。いまはね。キャッシュレスの時代だよ」
元老院のみなさんがコンパクトを出してふりふりする。
「それ、僕が言ってたやつ…。」
「誰が言ったっていいんだよ!お前さんはバカみたいに贋金作りを始めたんじゃないか。キャッシュレスを語るんじゃないよ!」
「だって、コンパクトを持ってない方もいるじゃないですかぁ。男性は使えないんです。貿易だってしないといけないし。そもそも贋金作りを止めないといけないから始めたんです」
「贋金を止めに行って自分で始めるんだろ?まったくどうかしてるよ」
「うーん。否定できませんけども。でも決済権を女性が独占するってどうなんですか?男性の基本的な権利が侵害…。」
「そのために贋金を作るんだろう?いいじゃないか、それで」
……いいのか?
悪いのか?
いいのか。
…まぁ、いいのだ。
だけど、どんな経済になるんだろう?
うーん。難しいことは考えてもわからん。
「男性はお小遣いをもらって生きる社会になるのだろうと薄々感じるんですけども。それでデモとか抗議活動とか反体制派が出てきたらどうするんですか?」
「小遣いもらってる男どもが鎮圧するんだよ」
へぇ〜。世の中って進んでるなぁ〜。
「財産管理は女性のものですか。確かに男が独占するよりはマシなのかなぁ。家庭のために使ってくれそうです。義務教育とは相性がよさそうではありますね」
「そういうことだ。胃袋金玉袋と一緒さ。女が握るからみな幸せになれるんだ。お前さんが証明しただろう?」
「あーー。なるほど」
難しいことは考えてもわからん。
「まぁ…。とにかくよろしくお願いしますよ。贋金製造班…。じゃなくて造幣班の方々をよろしくお願いします。女性と話すのは久しぶりだから舞い上がっちゃうと思うんです」
「舞い上がるどころじゃないだろう。嫌らしい目で品定めしてたよ」
「あー。みなさん犯罪者ですし、ちょっと乱暴だと思うんですよ。偏見なく接してほしいんですけど、気を付けてください」
「わかってるよ。粗相があれば容赦しないよ」
うーん。セクハラしたおじさんが徹底的にたたきのめされる未来が見える。
まぁ、いいか。セクハラするおじさんに人権なんてない。とにかく、贋金問題は技術開発に取り組んでもらうという名目で先送りします。元老院の監督の下で職人の選別を進めて、優秀な人は隔離して偽造防止技術の開発、大部分の人は金物工場で働いてもらう。刑期の間に手に職を付けてもらいたい。
まぁ、どうにかなるでしょう。我々は受刑者さんたちの社会復帰を全力で応援します!と心の中で叫んで目をつむろう。




