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逃亡373 ニコニコ男爵を見る。ニコニコしてる。

 光でペカーっとサポートします。


◇ーーーー◇


「それより、この贋金をどうすんだ?元を断たなきゃダメだろ」


「贋金ですか?」


 造幣局に来たらおじさんたちがメダル落としをやってました。狭い部屋に詰め込まれてました。メダル落としを取り上げられた後もぶつぶつ言ってます。目は死んでます。


 マイセルさんはおじさんたちには興味がない。


「この魔道具は贋金を本物に変えるんだろ?贋金を作ってるやつがいるってことだろ?」


 あ、なるほど。


 そういえば、聞いた気がする。王族か貴族か、偉い人が贋金作ってるって。


「そうでした。だからもう触らんとこうと思ったんでした。確か偽造してるの王族だったと思います。でもそれ、王族が偽造してるなら正規の通貨ですよ。本物か偽物かという概念をどうにかしないと…。」


「贋金を放置するってことか?」


「いえ、贋金含みで成り立っている経済を尊重するということです。下手に触るとどういう影響が出るかわからないので現状維持するってことです」


「贋金作ったやつが得するんだろ?誰もまじめに働かなくなるぞ」


「いえ、贋金を作ってる方々はまじめに贋金を作ってるはずです。その姿勢を尊重しましょう。問題は通貨量をコントロールできなくなることと通貨への信用を失うことです。だけどそもそも信用してないんですよね。僕が…。便利だから使ってますけど…。」


「でも重罪だろ?」


「はい。一般に通貨偽造は罪が重いです。大事なのは通貨への信用です。信用が壊れることは防がないといけません。こんなコイン、何枚あってもパン一つ買えないとなるとみんなが困るわけですよ。実態は酷いものですよ?でもそれを公にすべきかどうかは慎重に議論すべきです。多くの人が困らない解決策が見つかってからです。解決策が見つかるだけじゃなくて実行計画を立ててうまく移行できそうであると確信できてからです。それが国民の命と財産、暮らしを預かる者の使命です」


「こんな偽物コインでも、この魔道具を通せば本物になるんだろ?没収だ。こんなもん。ふざけんな」


「マイセルさんこそ、なんの権限があって没収するんですか?経済が混乱してもいいんですか?」


「私はお前の親方だぞ!忘れんな。こんなまじめに働かなくなるものは没収だ!」


「お、親方ぁ。横暴ですよぉ」


「だったらどうすんだ?贋金作りを続けさせんのか?」


「贋金ですが、本物として流通してます!贋金が気に入らない相手のために本物にしてるだけで、実際に贋金は大量に流通してるんです!」


「そうなのか?」


「そうですよ。だって両替したとき大量に混ぜられましたもん。いちいち本物に直すのも面倒なくらい流通してるってことです。ミスティアさんがいたから本物と交換してくれましたけど…。」


「それは確かめたのか?」


「確かめたら国庫が崩壊しますよ。未払いの年金だってあるんですよ?確認したら終わりなんです。曖昧なまま次の国王様に引き継がないといけないんです。僕は国王代理なんです!責任があるんです!」


「だったらちゃんとやれよ。親方として命令だ。ちゃんとやれ!」


「親方〜ぁ。現実を見てくださいよ〜ぉ。経済とか財政再建とか、難しいこと言ってる場合じゃないんですよ。マイセルさ〜ん」


「ダメだ。ちゃんとやれ!贋金を作れなくして、いまある贋金を本物にするだけだろうが」


「誰がやるんですか?僕は嫌ですよ。あの死んだ目のおじさんにはなりたくないですよ」


「だから。機械に変えるって言ってるだろ!国王代理は贋金作りの犯人を捕まえろ!」


「だから〜ぁ。偉い人がやってるんですって。下手したら、またクーデターですよ。命を狙われるのは僕なんですよ?」


「どうせ死なないんだからいいだろ。いいからちゃんとやれ!親方命令だからな!」


「そんな〜ぁ。………もぉ」


 心を入れ替えます。


 深呼吸します。


 吸ってーー。吐いてーー。


「すいませーん。いまの話、聞こえてました?贋金作ってんの誰ですか?どうせリスト作ってますよね?帳簿出してください。素直に協力してくれたら共謀の罪は問いません。よろしくお願いしますぅ」


 銀行の事務員さんにお願いする。するといつぞやの中途半端に偉い人が薄い本を出してくれた。いつかこんな日がくると思ってたみたいです。


「ありがとうございます。それでは関連する記録はすべていただきます。国庫の贋金も本物も一旦お預かりしますね。すいません。親方の命令なんです」


 とにかく机もイスも書棚も全部差し押さえます。これらはユーディットさんたちに精査してもらう。まずは記録として取り込んで丁寧に見ていくことになる。


 どんだけ人がかかるんだろ。その給料は誰が払うんだろ。なんかもうやだ。


「では、よろしくですぅ」


 向こうにはエデルさんがいるはずなので、調査をまるっとお願いする。


 自分もなんかやらないと…。


「さて…。リストの上から当たってくしかないかぁ。すいませーん。まずは、このなんとか男爵のところにお伺いします。誰か偽造現場まで案内していただけませんか?」


 中途半端に偉い人はニコニコしてる。


 ニコニコしてるだけで何も言わない。


「もしかして、あなたが男爵ですか?」


 ニコニコしてる。表情は変わらない。


「うーん。そうだとしたら、司法取引で無罪!正直に明かしてくれてありがとうございます」


 ニコニコしながらうなずいて、どうぞこちらへ、と促された。この人なにも認めないつもりかも。言質を取られたくないのかな?


 促されるままついてきます。司法取引とか言ってみたものの。そんな仕組みあるんだろうか?そもそも国王代理にそんな権限あるんだろうか。司法と王様の権力は独立しているべきなので、ノリで失言しましたと謝らないといけないな。


 うーん。案内してもらってからかな。男爵もニコニコしてるだけだし…。


 馬車に乗ってガタゴト進む。マイマイがいかに優れているか実感する。マイセルさんがディメンションワープと叫んでマイマイの中に消えたんだから、それで移動しましょうと言ってくれてもいいはずなのに…。


 うーん。お尻が痛い。


 馬車が止まる。ニコニコ男爵がどうぞこちらへと促す。


「ありがとうございますぅ。……無口ですね。普段からそうなんですか?」


 ニコニコしてらっしゃる。


 答える気はないらしい。


 うーん。お尻が痛い。


 促されるままついてくと鋳金工場につきました。片目の潰れたおじさんや片腕のないおじさんたちが働いてらっしゃいました。


「受刑者を使ってるんですか?職業訓練は大事ですよね。社会復帰の第一歩です」


「こいつらが社会に出るわけないだろ。ここで死ぬんだよ」


 ニコニコしてない男爵が出てきた。関係者らしい。プンプン男爵かな。


「お疲れ様です。贋金鋳造所を見学にきたんです。こちらの責任者さんですか?」


「責任者は舌を抜かれたよ。そこで笑ってんだろ」


 え。…まじすか。


 ニコニコ男爵はニコニコしてる。少し悲しいニコニコだ。この人きっと男爵じゃない。


「舌を抜かれてるのに出血多量で死なないものなんですか?止血できませんよね?抜いちゃったら」


「生きてんだろ。魔法かなんかだろ」


 へー。そんな魔法あるんだ。沈黙効果のやつかな?魔法が発動しなくなるんじゃなくて、唱えられなくなるのか。話せないって副作用が大き過ぎる気がする。


 あーん。としてもらう。確かに舌がないように見える。暗くて霞がかってる。


「歯石がすごいですね。そっちが気になります。歯医者さんでとってもらった方がいいですよ」


 ……。


「………あ。そうじゃなくて、贋金の製造方法を教えてほしいんです。通貨の流通コントロールって国にとって重要なんです。なので協力いただかないといけなくて、これまでの利権者さんも含めて、どうやって健全化するか考えないといけなくて、そもそも贋金の存在を認めていいのかどうかも悩んでます。ご相談させてください!」


「お前が国王なんだろう?勝手に決めやがれ!」


 え、いいの?


「あ、ありがとうございます。それでしたらみなさん、まずは義手義足の訓練を受けてもらいたいです。生活の自立度を高めると同時に後進を育成してください」


「はぁ?」


「はい。もちろん無料じゃないです。有料です。義肢装具は購入していただきます。ですがトレーニングはかなりリーズナブルに提供できます」


「どういうこった?」


「はい。疑問に思うのも当然です。トレーニングがリーズナブルかどうかは態度次第です。気に入られなかったらトレーニングなんてしてもらえません。そこは人間関係なので諦めてください」


 プンプン男爵がいぶかしむ。


「差し押さえにきたんだろ。違うか?」


「はい。そうなんです。当然差し押さえさせていただきます。贋金作りは辞めてもらいます。ですが鋳金技術は大変評価されるべきものです。なので本物を作ってほしいんです。管理下で」


「お前の下で贋金を作れってこったな?」


「いや。…いえ。…まぁ、それでもいいんですけども。通貨の信用がなくならなければいいんですよ。それに権力者が通貨を濫造して経済をぶっ壊すこともあるわけです。僕は王様から独立した組織がやるべきだと思いますね。第三者機関がやるべきです」


「お!つまり俺たちは無罪放免ってこったな?話がわかるじゃねえか!」


「いや。…まぁ、それでもいいんですけども。社会には秩序が必要なわけで、無罪放免とはいきません。刑期は務めあげていただきます。それに刑期明けに贋金を濫造されたら困ります」


「結局なんなんだ?俺たちはこれしかできねぇんだ。見てわかんねえのか?」


「片腕、片脚だからですかね?そこはトレーニング次第ですよ。それに贋金作りが儲かるのかもしれませんけど、今後は取り締まりが強化されます。とはいえ、みんな贋金でも気にせず使うと思うんですけど。……そもそもですけど、贋金作りって本当に儲かってるんですか?材料の金属だって安くないですよね?」


「知るか!俺らは命令に従ってるだけだ!」


 …ですよね。


 ニコニコ男爵を見る。ニコニコしてる。


「どうなんでしょう?」


 ニコニコされてます。


「うーん。責任者というか、もっと偉い人はおらんのですか?」


「お貴族様がこんなとこまでくるわけねえだろ!」


 プンプン男爵が教えてくれる。この人が実質責任者なのかな?


「放任主義なんですか。うーん。そのお貴族様の元に案内してほしい…。とお願いしたところで、もう逃げられてるか。捕まえたところで揉めるだけだし。はぁ〜。ぃやだぁ。面倒だぁ」


 しょうがない。コスト分析するか。製造プロセスは見せてもらえるので、ちゃんと見積もろう。


 あとは金相場、銀相場、鉄くずの相場を調べなきゃ。金貨、銀貨は純度いくつなんだろう?銭貨に至っては鉄と銅、どっちもある。今後も贋金は野良で作られるはずだ。金の含有率なんて極限まで減らされるだろうし。採算ラインも人件費で変動するよな。


 そもそも作って儲からない通貨を流通させるなんて不可能だ。通貨も贋金も黒字で動いているはずだ。やっぱり取り締まりしなきゃダメか…。


 誰が?誰が取り締まるの?


 兵士?貴族?絶対、癒着する。


 サラリーマン?誰がその人件費を持つの?通貨発行して稼げっていうの?税金を徴収しろっていうの?


 税金持ち逃げされるに決まってる。


 この国に公共なんて概念はない。


「…うーん。なのでぇ……。」


「無罪放免ってことだな?俺たちは逃げずに残ってたんだ」


「あ。なるほど。もう逃げちゃった後なんですか。主犯格は…。」


「当たり前だろ!俺たちはこれしかできねえんだ!」


「そんなことないですよ。それは違います。人生100年時代が迫ってます。死んでも死なない不死の時代さえ試行が始まってるんです。どんな人だって、何歳であっても新しいことを始められるんです。挑戦すべきなんです。老いも若きも学び続けねばならない!生涯教育、リカレント、リスキリング。なんでもいいから勉強してください!学び続けること。それこそが生きる力です!」


「お前、なんなんだ?宗教か?」


「宗教に失礼ですよ?教育です!違う。授けるものじゃなくて、自ら学ぶ学習です!」


「とにかく。俺たちは命令に従ってただけなんだ。無罪放免でいいな?今後はお前のために贋金を作ればいいんだよな?」


「あ。なるほど。転職志望だったんですね。そっかそっか。そうですよね。悪いことしてる自覚があった方々は逃げてしまって、残っているのは善良な職人集団。いろいろあって障害をお持ちであると。そういうことですか」


「おぅ。そういうことだ。無罪放免ってことだな?」


「いえ。話がわかりました。状況が飲み込めました。それなら次の職場を紹介します。贋金なんかよりももっと儲かるものを作ってほしいんです。造幣みたいな大量生産大量消費なお仕事は人手でやってちゃダメです。装置産業にしなきゃ。つまり、造幣装置を開発していただいて、手作りの品とは圧倒的な品質の差を生み出していただきたい。正直、いまは偽造防止用の技術を開発するなんて言える技術レベルじゃないですよ。まずは品質の作り込みから始めましょう。贋金に対してデマケを始めるのはその後です。デマケじゃないか。ネガティブキャンペーンか。うんうん。ようは技術を開発したらいいんですよ。現状を嘆いてないで、技術開発して学び続けて挑戦すればいいんですよ。それが社会を変えるってことです」


「つまり、なんだ。無罪放免ってことだな?」


「いえ。刑期はまっとうしてもらいます。贋金作りの分の罪も指示に従っていただけだと証明していただく必要がございます。…すいませーん。集まっていただけますか!今後の方針を説明します!…その前に贋金作りしてる工場ってここだけですか?」


 ニコニコ男爵は首を振る。


「承知しました。それでは集まってもらって方針を説明します。あわせて刑期の記録を一人一人照会しましょう。刑務所って無法地帯ですから、とっくに刑期明けの方もいるわけです。そもそも限りなく冤罪の人もいる。まずは本当にその罪を償う必要があるのか、そこからちゃんとやりましょう」


「つまり無罪放免ってことだな!」


「ですから。それを一人一人確かめるんです。時間はかかると思いますよ。でもその間は社会復帰支援、職能開発に当てましょう。まずは学び続ける強い意志を持ってもらいます。いまみたいなやらされ仕事じゃ困るんです。せっかくの手仕事なのに品質も温かみも伝統もないじゃないですか。それで職人と言えますか?匠なんてなれないですよ。それじゃ困るんです。経済的自立は仕事に魂を込めることからですよ。これ俺の仕事だって自慢したいじゃないですか。まずはそこですよ」


「俺はもともとの刑期なんて明けてんだ。無罪放免ってことだな?」


「それを証明しましょう。僕は国王代理です。あと何日権力を持ってるかもわかりません。だからいまの内に証拠を作るんです。次の権力者がお前ら犯罪者は贋金作れと言ってきたときに、贖罪は完了した。いまは優秀な技術者です。って言いたいですよね?今度は高く雇え。って言いたいですよね?」


「んぁ…。なんだ。罪は押し着せられるものだからな。ケンカしたら暴行だのなんだの」


「ケンカは口でするものです。論破しましょう。そうですよ。論理的思考のカリキュラムも用意しましょう。大事なのはゴール設定です。相手とどうなりたいのか決めてから、それに必要な意思決定の材料を並べて、自分の意思で選んでもらうんです」


「それ説得だろ?論理的なのか?」


「そう!その通り!いまのは論理の飛躍がありました。よく気が付きました!これが大事なんです。批判的思考です。疑問はちゃんと口にする。これが変な説得に流されない、騙されないための一歩なんです。大事です。その疑問。ですからその姿勢を大事にして無実を勝ち取りましょう!罪は認めてさっさと償いましょう!そして匠になりましょう!現代の名工として表彰されるようになりましょう!まずは挑戦する意志ですよ。我々ならできる!こんな劣悪な労働環境でまじめにがんばってきたんです。これからも贋金工場はできて、出来を比べられて、競争させられます。ですが挑戦する意志があれば必ずや勝てる!外国で国をあげて贋金を作られたって圧倒的品質で勝ってみせる!その次は通貨を輸出すればいいんです。高品質通貨を輸出して本物を塗り替えてやりましょう!そしたら黒字確定!目指すは巨大国際市場です!」


「「うぉおおお!おおおおーー!」」


 なんか響いた。


「や、やったる!やったるで!」

「やったるよな?」

「やったる!やったるぞ!」


 なんでだ?


 一緒にやったるやったると騒いで聞いてみると、贋金工場ごとに比べられてたたかれてたのは本当らしい。国内向けでなく、国外向けに仕向けたのもよかったらしい。罪悪感的なものが薄らいで、匠とか名工とかで社会的にも肯定されたらしい。


 なにより自由が目の前にある。贖罪なんて終わってる人が大半なのだ。この日は贋金工場を回ってみんな焚き付けました。やったる!と叫べばうまくいきました。


 まとめるとコミュニケーションスキルってすごい。


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