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20:助っ人がやってきました

「さぁて、覚悟は出来ているんだよね?」


 目の前に、良い笑顔を浮かべた悪魔……もとい、魔王が立っている。

 リレイは、痺れの残る体で半身を起こし、敵から距離を取った。


「なんのこと? タウザー達は無事なんでしょうね?」


 娼館の床にリレイが倒れてから、ジンは逃げ出したタウザーと奴隷達を追っていたのである。

 その間、動くことの出来ないリレイは、床にじっとしていることしか出来なかったのだが……


「彼等なら、気絶させて三つ子に引き渡したけど? その後のことは知らないなあ。そんなことよりも、今は君だよ……本当に懲りないよねえ? 約束、覚えてる?」

「逃げ出したら性奴隷ってやつ? 私は逃げ出していないし、無効じゃないかしら?」


 一刻も早く、この娼館内の部屋を抜け出して、リレイはタウザー達を助けたかった。

 しかし、今は目の前に立ちはだかる魔王のせいで、それも叶わない。


「でも、俺の仕事を妨害したよね?」

「アンタ達が、外道なことばかりするからじゃないの。タウザーはいい人なのに」

「リレイちゃん……少し、黙ろっか?」


 その言葉が紡がれるのと同時に、リレイは小さく息を呑んだ。

 ジンの周囲から、もの凄く冷たいオーラが漂ってきていたからだ。


「悪い奴隷には、お仕置きが必要だね」

「……!!」


 言うや否や、ジンは部屋の中にリレイを押し倒す。


「幸い、ここは娼館だし? ちょうど良いよね?」

「ふざけんな! 離せ、魔王! 貴様は爬虫類でも相手にしていろ!」

「こんなに可愛い女の子が目の前に転がっているのに、どうして爬虫類なんて相手にしなきゃならないの」

「そこを退け! やめろ、やめ、やだっ、離してよ!」


 リレイは泣きそうな顔でジンを見上げたが、生憎魔王には泣き落としなんて通用しなかった。

 魔王は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、自分の下で弱々しい抵抗を繰り返す獲物を観察している。


 彼の手が、リレイの首へと伸ばされそうになったその時、上階でバリバリと大きな音が鳴り響いた。

 咄嗟に、ジンがリレイを抱き上げて部屋の隅へと移動する。


 その直後、天井を突き破って「何か」が部屋の中に落ちてきた。

 木で出来た床板と共に落ちてきた「何か」は、ちょうど部屋に用意されていた寝台の中へと落下する。


「……な、なんなの?」

「さあ? なんだろうね?」


 体に受けた電撃のせいで動きのおぼつかないリレイは、おそるおそる寝台へと近付く。


「痛たた……なにが、「安全に移動させる」だよ。こんな無茶な送り込み方をするなんて……!」


 寝台の中で悪態をついているのは、一人の人間のようだ。


(それにしても、なんだか懐かしい声だわ……)


「もしかして」


 リレイがそう口にすると同時に、寝台の中の人影がむくりと起き上がる。

 まっすぐな、紺色の髪に金色の瞳の青年が、驚いた表情でリレイを見つめた。


「リレイ……?」

「あなた……ケイトよね? 本物なの?」


 ケイトは、リレイの問いに答えない。

 その代わりに、両手でリレイを強く抱き締めてきた。


「良かった、リレイ……無事だったんだな。もう、会えないかと思った」

「どうして、ケイトがここに?」

「女神様が……」


 ケイトの言葉に、リレイは少し前の記憶を手繰り寄せる。


(そういえば……)


 夢の中で、女神は「助っ人を送る」などと、勝手なことを言っていた。


(それが、ケイトなの?)


「ところで、リレイは、どうしてこんな場所に? ここって、その、見た感じ娼館じゃ……」


 ケイトは、僅かに赤い顔でリレイにそう尋ねる。


「私、今は奴隷にされていて、ここへは仕事の手伝いで来たの。とりあえず、ケイトはここから逃げた方がいいわ」

「奴隷って……!?」


 気色ばんだケイトは、リレイの首に付けられた印を見つめた。


「誰なんだ、リレイにこんなことをした奴は! 許さない……」


 奴隷にされた本人よりも悲痛な表情を浮かべるケイトに向かって、少し離れた場所に立っていた魔王が語りかける。


「俺だけど?」

「……お前が?」


 リレイの背後を見るケイトの目は、完全に据わっていた。


「ケイト、気をつけて。こいつは、魔王の生まれ変わりなの。こっちと元の世界とは、微妙に時間軸がずれているみたい……」

「魔王の生まれ変わりだって!? そんな馬鹿なことが……」

「この世界では魔法が使えないから、魔法使いのケイトは魔王よりも不利だわ」

「……リレイを見捨てて逃げるなんて出来るわけがないだろ。やっと、会えたのに」

「こいつに捕まれば、奴隷にされるのよ。私みたいに」


 切羽詰まった会話を繰り広げるリレイとケイトに、不機嫌顔のジンが口を挟む。


「……ちょっと、二人だけの世界に入らないでくれるかな。なんだか無性にイライラするんだけど。リレイちゃん……なんなの、その男は」


 何故か機嫌の悪そうなジンに、リレイは首を傾げながら尋ねる。


「魔王……ケイトのことは、覚えていないの?」

「言ったよね、こちらに来てからは記憶の欠落があるって。その男のことは知らないよ」

「……そうなのね」


 詳細について魔王に知らせない方が良いと判断したリレイは、それ以上は口を噤むことにした。


「心配要らないからな、リレイ。俺は女神様から「ギフト」を貰っているし、この世界についても事前に調べてある。あんな男の一人くらい、どうとでもなるさ」


 ケイトの発言に、リレイは彼の方を凝視する。


(女神様、私もギフトが欲しかった……そして、この世界に来るまでに学習期間が欲しかった)


「こちらの世界では魔法が使えないらしいけれど、俺は使える。ただし、使える魔法に制限があるけどな」

「制限?」


 リレイの言葉に頷いたケイトは、ジンに聞こえないように小声で囁く。


「最低限の補助魔法しか使えない」


 それを聞いたリレイは、すぐにケイトに向き直って言った。

 もちろん、ケイトと同じく小声でだ。


「やっぱり、逃げた方がいいわ。あの鬼畜魔王には、そんな魔法くらいで太刀打ちできる気がしない……今の私は、体に埋め込まれた「ちっぷ」とやらのせいで戦力にならないし」


 補助魔法は、味方の能力を上げたり、敵の能力を下げたりする魔法だ。

 敵に状態異常を与える魔法もこれに含まれる。


 ただし、状態異常を引き起こす魔法には欠点がある。「魔法の掛かりにくさ」だ。

 雑魚敵には一定の確率で効くが、ボスクラスにはまず効かないのが状態異常の魔法である。

 これらの魔法は、魔王の手下を生け捕りにする際に使用するのだが、戦闘ではほぼ使わない。

 しかも、ケイトは「最低限の補助魔法」と言っていた。


(おそらく、あまり役には立たない内容の魔法なのよね)


 あの女神のすることだし、その可能性も充分に考えられる……

 リレイが考え込んでいると、不意に近くにケイト以外の人の気配がした。

 頭で考えるよりも早く体が動き……

 気付けばリレイはケイトを庇って、懐からナイフを引き出している。

 すぐに、ナイフ同士がぶつかる甲高い金属音が鳴った。


「だからぁ、二人の世界に入らないでってば。それに、思い出したぁ……その顔」


 ジンが、今までになく低い声を出すのを聞いたリレイは、ケイトを隠すようにジンに向き合う。


「ちょっと、魔王。いきなり、刃物持って突っ込んで来ないでよ!」


 しかし、ジンの視線は……

 そんなリレイを通り過ぎ、奥にいるケイトへと向けられていた。


「君……俺を殺しにきた集団の中にいたよねぇ?」


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