第七十七章:風吹く荒野と、新たなる足跡
絶望の迷宮が灰と化し、ギルムの街に再び活気が戻ってから数週間が経過していた。
街を覆っていたどんよりとした空気は晴れ、酒場には冒険者たちの笑い声が戻りつつある。しかし、レイたちパーティーの姿はそこにはなかった。
ギルムの正門前。
朝靄が薄っすらと残る中、旅装を整えたレイ、アレン、シェリアの三人が立っていた。
レイの背中には、彼自身の背丈ほどもある漆黒の大剣『封魔の黒鋼』が、分厚い革帯でしっかりと固定されている。その圧倒的な質量は健在だが、今のレイの立ち姿に、かつてのように重さに振り回されているような危うさは微塵もなかった。
「……本当に行くんだな、お前ら」
見送りに来たのは、ギルドのまとめ役としてすっかり板についたボルグだった。
失った右腕の袖は空のまま風に揺れているが、残された左手で腰に帯びた長剣を叩き、豪快に笑ってみせる。大盾を持てなくなった彼は、今ではギルムの若手冒険者たちに「前を張る覚悟」を教える教官として、新たな生き方を見出していた。
「はい。あの迷宮の『核』は確かに壊しました。でも、あんなものを生み出した本当の元凶が、この世界のどこかにまだ潜んでいるかもしれない」
レイは真っ直ぐにボルグの目を見て答えた。
「レオンさんが命を懸けて護ってくれたこの世界を、今度は僕たちが自分たちの足で歩いて、確かめたいんです」
「言うようになったじゃねえか。……アレン、シェリア。このバカ力の世間知らずを頼んだぞ」
「任せな。こいつがまた重い鉄塊振り回してへばったら、俺の双剣で尻を叩いてやるさ」
アレンが軽口を叩きながら笑う。
「ええ。私たちの知恵と速さで、彼の大剣が届く道を作りますわ」
シェリアもまた、魔導銃の純白の結晶を撫でながら力強く頷いた。
ボルグは満足そうに鼻を鳴らすと、最後に大きな左手でレイの頭をガシガシと乱暴に撫で回した。
「行け、レイ。お前のその背中の重さは、お前が護るものの重さだ。二度と手放すんじゃねえぞ」
「……はいっ!」
三人はボルグに深く頭を下げると、朝日に照らされた荒野へと歩き出した。
レイの腰のポーチには、布に包まれた『ひしゃげた銀の大剣』の欠片と、『折れた細剣』が大切にしまわれている。
恩人の遺志と、己の原点を決して忘れないために。
乾いた風が吹き抜ける荒野に、重く、しかし確かな足音が響く。
ただの鉄塊が真の『盾と矛』となり、無力だった少年が本当の冒険者となるまでの第一の試練は終わった。
だが、彼らが歩む道の先には、まだ見ぬ強敵と、世界の深い謎が待ち受けている。
若き大剣使いの新たなる旅が、今、静かに幕を開けた。
最後まで『大剣の冒険者』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
ここからレイたちの新たな旅(第二部)が始まります。第一部の絶望と喪失を乗り越え、少しだけ大人になった彼らの背中を、引き続き見守っていただけますと幸いです。
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