1252 おじさん件の勲章の前に試作品を作ってみる
その日の夕食の席である。
今日のメニューは煮込みハンバーグだ。
デミグラス系のソースでしっかり煮こまれている。
これは王国では伝統的な料理だ。
トッピングに半熟卵。
サラダは温野菜が使われたものだ。
冬にはあったかい野菜がいい。
ケルシーはコーンスープをぐびっといく。
多少熱いくらいでは怯まないのだ。
蛮族は。
「そうそう」
と父親が口を開く。
視線はおじさんに向いている。
「先日、リーに伝えておいた勲章の件なんだけど。ようやく資料がそろったよ。後で渡すから参考にして作ってくれるかい?」
「承知しました。それにしても随分と時間がかかりましたわね」
べつに嫌みで言っているわけではない。
本当に時間がかかったのだから。
おじさんの功績に見合う褒賞がない。
先日の大公云々と話がでる前のことだ。
爵位を与えるわけにはいかず、さりとて官職も上がない。
となると――苦肉の策で新たに勲章を作ることになったわけだ。
王国でも初となる勲章である。
当然だが、当代随一の職人に作ってもらうべきだとなった。
その職人として、王国上層部が白羽の矢を立てたのがおじさんだ。
勲章をもらう本人が、その勲章を作る。
どうにもおかしなことになってしまった。
しかし――選択肢が他にない以上は仕方がない。
そこで父親はおじさんに頼んでいたのだ。
勲章を作ってくれないか、と。
返ってきたのは、意匠がかぶらないように図案が欲しい、という返答だ。
そこから時間がかかっていたのである。
なぜかと言うと、意匠画が紛失していたから。
もうかれこれ数百年以上は前の話である。
その当時の意匠画がなくなっていても仕方がないだろう。
と言うことで、だ。
現状、下賜されていないストックから、意匠画を起こしていたのだ。
それに時間がかかったのである。
「ん~実は勲章の意匠画を探したところ紛失していてね。なので、一からすべての意匠画を作り直していたんだよ」
「……ほおん。そうなのですか。あとは、わたくしの好きに作ってもいいのですよね?」
一応だが確認をとっておくおじさんだ。
それに対して、鷹揚に頷く父親である。
既に国王からも許可をもらっているのだ。
「好きに作ってくれてかまわないよ」
「では、そのように」
父親に対して、軽く頷くおじさんであった。
そんなおじさんの袖を引いたのは妹である。
「ねーさま」
「どうしたのです?」
「そにあもくんしょうがほしい」
ふふ、と思わず笑ってしまうおじさんだ。
なんとも愛らしい妹である。
やはり妹力対決で聖女が勝つのは難しいだろう。
「……あーしもほしー!」
バクバクと食べていたケルシーが言う。
こういうところでは、必ず絡んでくるのだ。
「いいですわよ。作ってあげますから」
もちろん、正式な勲章とはいかない。
おじさんが作った私的なものになる。
まぁ遊びの範疇で作るものだ。
「ぃやっふううううう!」
妹と喜ぶケルシーであった。
しばらくして夕食を終えるおじさんだ。
その足で侍女とともに地下の実験室へと向かう。
王国で既に使われている勲章の意匠を最初に確認しておく。
基本的には王国の象徴とされる剣がモチーフになっている。
加えて、魔法を象徴する杖や勝利を意味する月桂樹なども使われていた。
ざっと確認したおじさんは、まず妹とケルシー用の勲章から考える。
ケルシーのはさほど悩むまでもなかった。
聖樹をモチーフにするのがいいだろう、と思ったからだ。
なにせエルフだから。
妹の場合は、大好きなモフモフたちをデザインにしようと考える。
盾の形をして、四分割で猫や犬を配置してみた。
まずは紙に書いてみる。
なかなかいいデザインかもしれない。
「さて……素材はどうしましょうかね」
「お嬢様、実際の勲章に使われている金・銀・銅は避けた方がよろしいかと」
侍女からのアドバイスが入る。
確かにそうだ。
誤解を招かないためには、そうした配慮もいるだろう。
「ん~ではミスリルを使いましょうか。ケルシーのは大聖樹の素材を使います」
「よろしいかと」
……よろしくない。
どちらもより希少な素材だから。
ただ、おじさんたちにそういう考えはない。
なにせ大量に素材を持っているのだから。
「まずはソニアの分から作ってしまいましょうか」
嘘つきトカゲの背中から錬成したミスリルだ。
ぱぱっと錬成魔法を使って、勲章を作ってしまう。
ただ、ミスリルだけだとちょっと地味だ。
なにせ銀色だけだから。
だから、おじさんは宝石をいくらか使ってみる。
細かくして、敷き詰めるのだ。
パヴェと呼ばれる技法である。
「ん~これはよくできているんじゃないでしょうか」
なんだかお子様がつける遊びのものとは思えない。
一流ジュエリーのような勲章ができあがってしまった。
「大変よろしいかと思いますわ」
侍女も侍女でオーケーをだしてしまう。
あまりこちらの方面には強くないからだ。
「では、ケルシーの方も」
大聖樹の化身からもらった幹の一部を使う。
こちらは円形にしてみた。
円の中に大聖樹が描かれているというシンプルなデザインだ。
浮き彫りにしているので、立体感がある。
「こっちは宝石でギラギラとさせるとおかしいですわね」
「ん~確かにそうかもしれませんわ」
あ、と思いつくおじさんだ。
ここは漆を使おうと。
漆器と螺鈿という形でいく。
螺鈿は貝殻の真珠層を使った装飾だ。
錬成魔法を使うとあっという間にできてしまった。
「にゅふふ。こちらもいい感じですわね」
「はい! ケルシーにはもったいないかもしれません」
「まぁ……この半年がんばったご褒美ですわね」
「お嬢様は甘やかしすぎですわ」
厳しくない口調で言う侍女であった。
とりあえず、二つの勲章ができあがる。
「ん~まずはケルシーとソニアに渡しましょうか」
侍女と二人して実験部屋をでる。
そのまま妹の部屋へ。
おじさん的にはさほど時間はかけていなかったつもりだ。
しかし、妹はもう寝る準備に入っていた。
「ねーさま!」
ぎゅっと抱きついてくる妹だ。
抱き上げてから寝台におろす。
「ソニアにご褒美ですわ」
おじさんが勲章を渡してやる。
盾の中を四分割して、デフォルメされた動物が描かれているものだ。
パヴェが使われていても、とても豪華である。
それにリボンをつけて、首からかけられるようにしたのだ。
妹にかけてやるおじさんだ。
「ほわああ……」
妹には少し大きめサイズの勲章だ。
それを手にとって、妹が目を丸くしていた。
「すてき……ねーさま、ありがとう!」
「どういたしてまして。気に入りましたか?」
「とっても! ねーさま、だいすき!」
とんでもなく喜ぶ妹だ。
おじさんに抱きついて、ぐりぐりと顔を押しつけてくる。
「さ、今日はもう眠りましょう。お父様、お母様、メルテジオには明日の朝に見せてあげてくださいな」
「うん! たのしみ!」
ちょっと興奮気味の妹である。
これは寝つけないかもしれないと、おじさんは魔言を使う。
「ソニア、おやすみなさい。良き夢を」
「うん……おやすみなさ……い」
ふわあとあくびをする妹である。
横になると、二匹の剣歯虎が妹を守るかのように移動してきた。
「ソニアのこと頼みましたわよ」
「にゃ!」
愛らしい返事をする剣歯虎たちであった。
次はケルシーだ。
二号も既に部屋に戻っているとのこと。
「ケルシー、入りますわよ!」
「ん~」
なんともやる気のない返事をする蛮族だ。
もう眠いのだろう。
「ケルシーはもう寝ていますわね。なら、枕元にでも置いておきますか」
「……ええと? リーお嬢様?」
ケルシーの代わりにクロリンダが答える。
「ああ、先ほどケルシーと約束した勲章ですわ」
「え? もうお作りなったのですか? うちのお嬢様のせいで申し訳ありません」
「いいえ、ケルシーもこの半年ほどがんばってきましたから。そのご褒美ということで。起きてから渡してあげてくださいな」
「わざわざありがとうございます」
ちなみにケルシーの勲章は箱に中に入れてある。
だから、クロリンダも中は見ていないのだ。
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
しっかりと頭を下げるクロリンダであった。
明けて翌日のことである。
「どえええええええ! なにこれええええええ!」
蛮族の大声がタウンハウスに響き渡るのであった。




