1251 おじさんたちは今日も賑やかに対決を見守る
「ちょっと待ったあああ!」
学生会室にアルベルタ嬢の声が響いた。
「かわいい妹を決めるのなら、ここにいる全員に参加資格がありますわ!」
どどーんと言い放つ。
ただまぁこの場には相談役もいる。
その内、二人は男子だから参加資格はない。
強いて言うのなら、キルスティ。
彼女はおじさんよりも年上だから妹ではない……。
ただそれはルール上、おじさん基準かどうかによる。
おじさんが基準でないのなら参加資格はあるだろう。
「いや、その前にルールを確認した方がいい」
セロシエ嬢が言う。
「ルール? っていうか、なんなのさ? アタシとパティのタイマンじゃん」
「タイマン?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるセロシエ嬢だ。
そこにおじさんが割って入る。
「一対一の勝負ということですわね」
「……なるほど。ありがとうございます、リー様」
おじさんにぺこりとお辞儀をするセロシエ嬢。
ただ、聖女を見てすぐに口を開く。
「と言うかね、そもそもかわいい妹対決をすると言うのなら、誰が審査をするんだい?」
まずはそこからである。
おじさんか、それともこの場にいる誰か、か。
「そんなのリーでいいじゃん」
聖女が即答する。
まぁおじさんは中の人がおじさんだ。
つまり、男心もわかるという話ではある。
が――そのことは誰も知らない。
聖女でさえも。
「いや、エーリカ。そもそもの発端をよく考えてほしいんだ。最初はコントレラス侯爵家の兄君たちに言われたのだろう。もっとかわいいと思ってたって」
「……そうね」
「だったら、リー様ではなくてシャル先輩とヴィル先輩に審査してもらった方がいいんじゃないかな?」
セロシエ嬢の言葉に押し黙る聖女だ。
それは正論だと思ったから。
ただ、蛮族の魂はそうすんなりと了承しない。
なにせ本音は遊びたいだけなのである。
そこまで本格的にどうとか言われても、という話だ。
ノリと勢いでこのまま押し切りたかったのである。
「あーしもやりたい!」
ここへきてもう一人の蛮族が参戦要求をしてくる。
「アリィたちはどうするんだい?」
セロシエ嬢が聞く。
「私たちは……」
アルベルタ嬢を筆頭とする狂信者の会も黙る。
彼女たちはおじさんが審査員だと頭から決めていた。
話の流れ的には、そう考えてもおかしくないだろう。
なにせ、おじさんにべったりくっつく蛮族たちが許せなかったから。
そこで思わぬ方向に話がそれた。
パトリーシア嬢からの言葉で妹対決の流れになったから。
ちらりとおじさんを見るアルベルタ嬢だ。
今も蛮族たちがくっついている。
それがうらやま……けしからん。
「私はお姉さまが審査員でなくともいいのです!」
パトリーシア嬢は誰が審査員でも良かった。
イラッときたから話を振ったのである。
いわば売り言葉に買い言葉。
ただ、引っ込みがつかない状況になっただけだ。
蛮族が話を広げるから。
そこで、おじさんが口を開く。
「いいでしょう。今回はエーリカとパティが発端ですので、二人を参加者とします。テーマは妹らしい謝罪といきましょうか」
「リー! あーしもやりたい!」
蛮族二号がおじさんの裁定に文句をつける。
「ん~ケルシーは対決しなくてもかわいい妹属性ですわね」
おじさんの一言に、むふんと鼻息を荒くするケルシー。
腕組みをして言う。
「やっぱりなー。そう思ってだんだよなー。あーしは妹だもん! なー」
にははは、と笑う。
「では、こうしましょう。ケルシーが審査員をやってください」
「おー! それも楽しそう!」
「パティとエーリカの二人、どっちがかわいいかを決める役ですわね」
「にははは! そういうことならあーしが審査する!」
ルールが決まった。
審査員はケルシーだ。
「ちょおっと待ったああああ!」
今度は聖女から物言いがつく。
「リー! ケルシーが審査員できると思うの?」
「できますわよ。だって、今回はどっちがかわいいかを決めるだけでしょう? なら、ケルシーがかわいいと思った方の名前を言うだけですもの」
「う~ん。それもそっか!」
あっさり掌を返す聖女だ。
本当にそう思ったから。
「ってことで! パティちゃん! 勝負よ!」
「パティちゃんはやめるのです。力が抜けるのです」
「にはははは! パティちゃん既に敗れたり!」
「なにを根拠にそんなことを言うのです?」
聖女がにやりと笑った。
「徹底的にたたきのめしてやるッ! それも正々堂々とな!」
ずごーんとパトリーシア嬢を前に変なポーズで立つ聖女だ。
仮面の力で吸血鬼にでもなったかのようだ。
「のぞむところなのです!」
二人が盛り上がりだした。
妹対決なのに。
「テーマは妹らしい謝罪。いいですか、ではエーリカから」
おじさんが仕切った。
そうしないといつまで経っても始まらないから。
「むっふっふ。このエーリカ、謝罪は最も得意とするところ! 見さらせ! これがかわいい妹の謝罪じゃあああ」
ケルシーの前に行く。
そして――おもむろに聖女は言った。
「かわいすぎちゃって、ごめーんね!」
まったく謝罪になっていない。
というか、ケルシーはイラッときた。
「リー。エーリカは謝ってないんだけど」
「そうですわね」
苦笑するおじさんだ。
「にははは、今のは余興! 余興というやつよ。本番はこれからだ!」
聖女が宣言する。
しかし、おじさんが遮った。
「やり直しはできませんわよ」
「なぁにいいいい! やっちまったかー!」
「まったく。エーリカでは話にならないのです」
今度はパトリーシア嬢が前に進む。
ケルシーを前にして立つ。
ニコニコしているケルシーを見た。
「お姉さま、私が悪かったのです。……許してくれる?」
……お姉さま。
パトリーシア嬢の言葉が、ケルシーの胸にずぎゅううんと刺さった。
人生で初めて言われたからだ。
ちょっと心臓がどきどきする。
お姉さま……素敵な響きだ。
ケルシーは村で最年少であった。
つまり皆の妹だったのだ。
だからこそ――この言葉が効いた。
「パティの勝ち! かわいかった!」
ケルシーが宣言した。
ここに妹対決は終結したのだ。
パトリーシア嬢の圧勝であった。
「なんだとー!」
聖女が物言いをつける。
「アタシもかわいかったじゃんかよ」
「エーリカのはイラッときた」
「なにいい!」
ハデに驚く聖女だ。
「……お姉さま、アタシが悪かったわ。……許してくれる?」
丸パクリだ。
恥ずかしげもなく、聖女は丸パクリをした。
「エーリカの勝ち!」
お姉さま。
その言葉にケルシーが弱い以上、こうなる。
新しい方が常に優先されるから。
「ちょっと待つのです! 今のはダメなのです」
「なんでさー?」
首を傾げるケルシーだ。
ふぅと息を吐く、パトリーシア嬢。
「お姉さま、私のことが嫌いになったの?」
「パティの勝ち!」
「リー! ケルシーがポンコツ過ぎて話にならない!」
「誰がポンコツだー!」
「お前だよ!」
たぶん全員がそう思っていた。




