1250 おじさんは学生会で新たなる大会が始まるのを目撃する
明けて翌日のことである。
学園にて聖女が言う。
「ねーねー聞いて、聞いて」
「どうしたのです?」
パトリーシア嬢が聖女の話にのってやる。
他の面々も興味はあるようだ。
「でゅふふ……昨日さー」
「おっはよー!」
聖女が話し始めたタイミングでケルシーが入ってきた。
おじさんもいる。
同時に全員が席を立ち、おじさんに挨拶をする。
「ごきげんよう」
おじさんはこの挨拶が苦手だ。
いや、挨拶そのものが苦手なわけではない。
ただ皆が起立するのが、ちょっと心苦しいのだ。
「……まったく、いいところで邪魔が入ったわ」
「聞いてー聞いてー」
今度はケルシーだ。
皆にむかって宣言する。
「昨日さー!」
「このお話泥棒猫!」
「なんだとー!」
蛮族たちが揉め始めた。
おじさんは、つい苦笑してしまう。
だって、二人とも話したいことは同じなのだろう。
昨日のライブのことだ。
「はいはい。二人とも……」
と、おじさんが声をかけたときである。
既に侍女が動いていた。
ごちーんといかれる蛮族たち。
「みぎゃあああああ!」
ぽてん、と倒れる二人である。
「まったく。お嬢様の前で見苦しい」
おほ、おほほ……と苦笑いのおじさんであった。
その日の放課後である。
学生会は忙しくしていた。
なにせビブリオバトルも大詰めである。
決勝大会にむけての打ち合わせを重ねていたのだ。
当然だが、蛮族たちは戦力外である。
今回はなるべくおじさんも口をださない気だ。
皆には少しでも経験を積んでほしいから。
進捗状況は把握しているが、相談役の三人が巧くやってくれている。
さすがに学生会の中核メンバーだけだったことはあるだろう。
「でさー。クソ兄貴が言うわけよ」
と、聖女の話が続いている。
おじさんはこちらに意識を戻した。
「妹ってもんはもっとかわいいと思ってたってね! 失礼しちゃうわ!」
ぷんすこといった感じで怒る聖女だ。
昨夜の話らしい。
養家のタウンハウスに帰った聖女だ。
そこで二人の兄とケンカしたとのことである。
きっかけは些細なことだったらしい。
以前の件があって、聖女の養家であるコントレラス侯爵家のルールが緩くなったのだ。
今までは聖女を教育しようと、がっちがちだったのである。
それが礼儀作法もできるということで、家では落ち着けるようにと緩くなったのだ。
だが――そうなると調子にのるのが蛮族である。
いや、調子にのらずして蛮族と言えるだろうか。
――言えないのだ。
「あたしゃあ、もう悔しくって。悔しくって! こんなに美少女聖女なのに、妹がかわいくないんだって!」
「うう~ん。それはよろしくありませんわね」
蛮族がかわいいかどうかは人によるだろう。
よって、そう思ってしまうのは仕方ない。
ただ面と向かって本人に告げるのはよくないと思うのだ。
そこは人間関係というものである。
角が立つようなことを――安易に言うべきではない。
おじさんはそう思うのだ。
「だったら、エーリカがかわいい妹なんだぞってところを見せてあげればいいじゃありませんか?」
「……どうやって?」
聖女がじとっとおじさんを見る。
さて、これにはおじさんも困ってしまう。
なにせ前世は一人っ子だった。
いや、他にも兄弟がいたのかもしれないけど……。
おじさんは知らない。
そして――今生では長女である。
上にはいないのだ。
「ん~うちのソニアの真似をしてみますか?」
おじさんの最も身近な妹。
あの愛くるしい妹のことを思いだす。
「そーちゃんは確かにかわいいわね」
うん、と納得する聖女だ。
「……かわいい」
もぐもぐと焼き菓子を食べているケルシーも同意する。
少し目を閉じて、聖女は考えこむ。
少しして、くわっと目を見開く。
「ねーさま! だっこして!」
聖女は妹の真似をしたのだ。
ちょっと声色をかえて。
そして――おじさんに抱きつく。
「いいにおーい!」
「ちょっと、エーリカ。くすぐったいですわ」
「うほほーい! あーしもだー」
反対側からケルシーも抱きついてくる。
にははーと笑いながら。
きゃっきゃうふふとしているおじさんたち。
「ちょっと! 一号! 二号! さすがにそれは看過できませんわ!」
がたっと椅子を鳴らして、狂信者の会が立ち上がった。
我慢ならなかったのだろう。
一度ならぬ、二度までも、と。
「にははー! リーはいいにおいだなー」
「だなー!」
無意識に煽りにく蛮族たちだ。
「ちょっと! 離れなさい! リー様から!」
蛮族たちの腕をとる狂信者の会の三人である。
ぎゅうと引っ張る。
「いやーだもんにー」
よりおじさんにくっつく蛮族たちだ。
「ムダムダムダムダムダあ!」
聖女が言う。
「なにせアタシたちは昨日、あの大盛況のライブをやった仲! そうかんたんには引き裂けないってもんよ!」
にはははーと高笑いをする聖女だ。
しかし、そこで油断してしまった。
かんたんに引き剥がされてしまう。
「なにー!」
「エーリカ、そのライブってどういうことなのです?」
結局のところ話そびれていたのだ。
パトリーシア嬢が気になったのか、問いただす。
なにせ薔薇乙女十字団のバンマスなのだから。
「んとなー昨日ね、リーんちの競馬場あるじゃん。あのおっきいの」
身振りを交えて話す聖女だ。
今度はそっちに注目が集まった。
「あそこでライブやったんだー! すっごい盛り上がってさ。もう地鳴りみたいな歓声で! すっごい気持ちよかった!」
「よかった!」
「ぐぬぬ……ずるいのです! 私もそんな大きなところでやりたいのです!」
「お先にやっちゃって、ごめーんね!」
指でハートマークを作る聖女だ。
その姿にイラッときたパトリーシア嬢である。
「エーリカ、そのポーズはやめた方がいいのです」
「なぜ?」
「……まったくかわいくないからなのです! 逆にこうイラッとくるです!」
「なんだとー! 戦争かー!」
「戦争かー!」
ケラケラと笑うケルシーである。
まったく緊張感がない。
「いいのです! こうなったら妹対決をするのです!」
「やったろうじゃないのー! 聖女の妹力みせつけたらああ」
「ふっ! かわいくない妹など怖くないのです」
「なんだとー!」
ここに聖女対パトリーシア嬢の妹対決が幕を開ける……かもしれない。




