1249 おじさんのライブはとんでもないことになる
リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワ。
超絶美少女である。
その人気は領都において、もはや限界突破。
リー様と言えば、猫もにゃあと鳴く。
と――もはや意味のわからない言葉まで流行る始末だ。
そんなおじさんが宴を催すというお触れがでた。
がたっと音を鳴らして席を立つ者が何人いただろうか。
後のことだが、そのがたっと言う音だけで、地震いがしたとかいう噂もある。
そのくらい人気なのだ。
おじさんは。
だから――領都に住まう民は仕事もほっぽりだした。
おじさんの元へ駆けつけるために。
リー様のために!
その熱量は大したものであった。
老いも若きも男も女も。
皆がはせ参じたのだ。
次代を担うカラセベド公爵家の長女のもとに。
「どんどとっと! いくぞー」
どんどとっと、どんどとっと!
単調ではあるが、心地よいリズムの中でケルシーが踊る。
エルフの伝統的な踊りだということは説明があった。
でっかい映像装置に映るケルシーは実に楽しそうだ。
単調なリズムだからこそ、わかりやすい。
踊るほどのスペースはない。
だが、その場で跳ねることはできる。
誰が始めたものかわからない。
ただ、いつの間にか多くの民衆がその場で飛び跳ねていた。
「アロロロロロ!」
ケルシーが叫ぶ。
一回目は訳がわからなかった。
だが――二回目からはわかる。
なにせシンプルなリズムだから。
タイミングをはかって、皆が声を合わせる。
「アロロロロロ!」
――そう。
領都の住民は大層ノリがいいのである。
客席は十分に温まった。
実にいい前座である。
適当なところで切り上げる聖女だ。
このドラムは彼女が叩いていたのである。
ケルシーが時間を稼いだからか。
既に競馬場は満員御礼の状態だ。
いや、入りきらない民衆は競馬場の外にまでいる。
結果として騎士までも駆り出されて、警備員をする有様だ。
「で、リー。どうするの?」
「ここからが本番ですわね! エーリカは演奏しますか?」
「ん~やめとく。今回は賑やかしでいいや。ってか目立ってやるもんに!」
「もんに!」
ケルシーも元気いっぱいのようだ。
というか目立ちたがりだから。
「お嬢様、ここは四天貴族からがよろしいかと」
あれは盛り上がる。
異論はないおじさんだ。
「では、そうしましょう。皆も準備はよろしいですか?」
はい、と元気のいい返事があった。
このような大観衆の前で演奏ができるのだ。
それは初めての経験である。
が――実にやりがいがあると全員が思っていた。
ちなみに薔薇乙女十字団が演奏できるものは、すべて使用人たちも演奏できる。
おじさんが楽譜を共有していたからだ。
「よろしい。心を掴みにいきますわよ! 総員、奮励努力せよ、ですわ!」
おじさんがバイオリンの魔楽器を持つ。
最初はゆったりとしたワルツのようなイメージ。
「ぎぃいいいいやああああああ!」
おじさんの登場に競馬場全体が揺れる。
少し離れた場所にある領都にまでその声は轟いたという。
「リー様ああああああ!」
にこりと微笑むおじさん。
その表情に思わず、昇天しそうなものがでるくらいだ。
おじさんのソロから入る。
前奏の部分が終わると、各楽器が入ってきた。
一気にテンポもアップして、切なくて哀愁のあるメロディーが響く。
「み・な・ぎ・っ・て・きたー!」
聖女とケルシーが叫んだ。
二人が舞台の前に踊りでる。
なんだかよくわからない踊りをしている二人だ。
どんどこ曲は進んで、競馬場は大賑わいである。
「リー、そろそろ歌ものいこうよ」
聖女が提案する。
「エーリカが歌いますか?」
「うんにゃ! ダメ! 今日は歌わない! 月下のノクターンいこう!」
聖女のリクエストに頷くおじさんだ。
ものすごくゴシックな曲である。
ボーカルは当然だがおじさんだ。
聖女とケルシーが手を取り合って踊る。
くるくる回りながら。
「次、火の鳥!」
聖女からリクエストがでる。
即座に対応できるカラセベド公爵家の使用人たちも大したものだ。
いくら楽譜が頭に入っているとしても。
なんだかんだで全十五曲。
すべてが終わって、おじさんが言う。
「皆、楽しめましたか?」
「は~い! 最高でしたー!」
観客席から声が返ってきた。
なんだかそのノリの良さに笑ってしまうおじさんだ。
「では、今日はもうおしまいですわ。ありがとう!」
深くお辞儀をするおじさんだ。
そして――蛮族たちを呼ぶ。
使用人たちもだ。
おじさんを中心に右にケルシー、左に聖女。
さらにその先には使用人たちが手を繋いで、横一列に。
「いいですかー! 皆も隣の人と手を繋いで」
せーの、で跳びますわよ。
その声で観客が隣の人と手を繋いでいく。
「せーの!」
高く、高く跳ねるおじさんだ。
ちょっとテンションが上がっていたのである。
その高さにちょっとついていけない蛮族たちだ。
「ちょっと、リー。跳びすぎ!」
「跳びすぎ!」
「あら、ごめんあそばせ」
おほほほ、と笑うおじさんだ。
そして――ぱちんと指を鳴らす。
舞台が暗幕に包まれたようになる。
その上で転移した。
「リー様ああああああ! 最高に楽しかったあああああ!」
ぱちぱちと拍手が鳴る。
地鳴りのような声が何度も響いた。
それは歓喜の声だ。
おじさんに対する感謝の声でもある。
公爵家の私的スペースだ。
転移してきたおじさんたちを出迎えた祖父母が笑っていた。
「いい演奏じゃったな」
「これまでの王国にはない新しいものだったけど……それが良かったね」
祖父母はおじさんを褒める。
そして――使用人たちにも言う。
「皆、ご苦労じゃった。素晴らしい演奏であった。後ほど褒賞をとらせよう」
「ありがたき幸せ」
というより他はない。
本音では褒賞など要らないと思っていた使用人たちだ。
だって、自分たちもすごく楽しめたのだから。
あんな大観衆の前で演奏ができただけではない。
自分たちの演奏に聴き入ってくれた。
そして――ものすごい歓声が届いたのだから。
充実感というか、達成感というか。
中には楽団への所属を考えていた者もいるのだ。
それは諦めていた夢を達成できたことにある。
少し形はちがったとしても。
心に満ちる感情は嘘ではなかった。
「いやーえがったなあ」
なぜか訛る聖女だ。
ソファにどすんと座る。
汗だくだ。
ケルシーも汗だくになっていた。
ソファに座って、くぴくぴと水を飲んでいる。
「大満足!」
聖女も納得できたようである。
「それは良かったですわね」
「うん。リーのお陰、ありがと」
「どういたしまして。わたくしも楽しめましたから」
うんうん、と頷く祖母である。
そして――言った。
「リー、次の演奏会はどうするんだい?」
「え?」
「え?」
おじさん予想外のことを言われてしまった。
祖母もそんな返答になるとも思っていなかったのだ。
なにせここまで巻きこんだイベントになったのだから。
「第二回もあるのですか?」
「そりゃあそうだよ。もうやらないなんて言えるかい?」
……。
今もまだ観客は残っている。
そして――リー様、リー様と声は続いているのだ。
「それに……その服とか売りにだしたら大儲けじゃないか」
「がっぽがっぽ!」
聖女がケタケタと笑う。
ケルシーも続く。
「がっぽがっぽ!」
「よくわかってるじゃないか、二人とも!」
「いえええぇええええい」
久しぶりに褒められて、ムダにテンションが上がる蛮族たちであった。




