1248 おじさんは蛮族たちのテンションを上げてしまう
聖女は唖然としていた。
おじさんの鶴の一声で一気に話が動き出したから。
そのスピード感たるや、すさまじいものがあった。
従僕、侍女。
集まった者たちの意思が見事に統一されていたのだ。
お嬢様の願いを叶えるということに。
「領都の競馬場で演奏をします」
おじさんのこの一言で優秀な面々は一気に動く。
打ち合わせなどというものはしない。
せずとも明確な役割分担ができていた。
そして――おじさんと侍女は優雅にお茶を嗜む。
もちろん聖女とケルシーもだ。
てきぱきと動く使用人の姿を見て聖女は言った。
「はええええ……しゅごい」
「なにがですの?」
「だって、あの人たちすごいじゃない。リーの一言で」
くすくすと笑うおじさんだ。
それは聖女だって同じはずだから。
今までは見えていなかっただけだろう。
おじさんも最初はなれなかったのだ。
遠慮して、できるだけ自分でやろうともした。
だけど、それはダメだと怒られたのだ。
母親に。
彼や彼女たちは誇りをもって仕事をしているのだ、と。
そんな彼らから仕事を奪ってはいけない、と言われたのだ。
だから、少しずつ頼みごとをするようになった。
ようやく慣れてきたといったところだけど。
「何を言っているのですか。お嬢様のために私たちが動くのは当然のこと」
侍女がふんすと鼻を鳴らす。
それが矜恃なのだから。
「エーリカ、あなたの家の人たちも同じですわよ。ですから、今度労ってあげるといいですわ」
「ん~そういうものかしら。うちの人たちってもっとのんびりしてるような」
「それはそれでエーリカに気を使わせないようにしているのかもしれませんわよ」
「そっかー。じゃあ、聖女バーガーでも振る舞うか!」
「それがいいですわ」
にこりと微笑むおじさんだ。
なんだかんだ言っても、聖女にとっては養家である。
生まれ育った家ではない。
しかも、貴族。
平民の村で生まれ、前世の記憶を持つ聖女からすれば、違和感があったのだろう。
おじさんちに居つくのは、そういう理由があるからか。
いや、単に気軽に前世のことを話せるおじさんがいるのも大きいだろう。
転生した、なんて言ったらおかしい子扱いされてもおかしくないのだから。
いや、もう蛮族認定はされているかもしれないが……。
そんな他愛のない話をしていると準備が整ったようである。
「では、行きましょうか。皆も演奏を楽しむのですよ」
おじさんの言葉に首肯する使用人たちである。
人前で演奏する機会など滅多にない。
身内で楽しむことはあっても、だ。
なので、非常に楽しみなのである。
「おっと。その前に! 今回の演奏会に参加する者は全員集まっていますわね」
肯定の意思を示す使用人たち。
おじさんは微笑み、指を鳴らした。
錬成魔法を発動したのである。
使用人たちの衣装が一気に替わった。
黒に近い藍色をベースにした軍服調のものである。
女性はスカート、男性はパンツ。
縁取りには金糸が使われていて、なかなか格好良い。
胸には公爵家の紋章まで入っている。
「おお! ……素晴らしい!」
「その衣装はそのままお持ちなさい」
「……ありがとうございます! お嬢様!」
カラセベド公爵家演奏隊。
後にそう呼ばれることになる舞台の初陣であった。
ちなみに、この場にいる七人の使用人たち。
彼らはオリジナル・セブンと呼ばれることになる。
では、と競馬場に転移するおじさんだ。
あちらに祖父母の魔力を感じたからである。
「リー、なかなか素敵な格好じゃないか」
「うむ。よく似合っておる」
祖母と祖父がおじさんを褒める。
競馬場にある公爵家の私的スペースでのことだ。
「やっふううう」
ケルシーが祖父のところへ行く。
その腰に抱きついた。
意外と気に入っているのだ、祖父のことを。
「うむ。ケルシーも似合っておる」
「でしょう」
ぐりぐりとケルシーの頭をなでる祖父である。
「リー。もう少し開演は遅らせてもいいかい?」
「なにかあるのですか?」
「いや、通達をだしたばかりだからね。どうせなら人が多い方がいいだろう?」
「その方が楽しめますわね」
ニコッと微笑むおじさんだ。
聖女は窓の外を見ていた。
ここから競馬場内が一望できるのだ。
もう既に平民用の席は埋まりつつある。
今回は貴族用の席も有料で開放するとのことだ。
平民用の席はいつものように無料である。
聖女はバンギャであった。
小さなライブハウスからドームまで。
様々なライブに足を運んできた経験がある。
野外ライブと言えば、やはり野球スタジアムを思いだす。
あれは暑かったし、寒かった。
だけど、とっても良かったという思い出もある。
「ねぇねぇ……なんかスゴい人なんだけど」
「ハデでいいではないですか」
「いや、そりゃそうなんだけど……」
まさか自分が憧れのバンドと同じようなステージに立つなんて。
思いもよらなかった聖女だ。
「う~ちょっと緊張してきたかも」
「エーリカらしくないですわね」
「いや、そりゃするでしょうが!」
「エーリカはドラムを叩くのでしょう?」
「うん? 今日は賑やかしでおなしゃーす!」
「叩かないのですか?」
「いやいやいや、さすがにこれだけの人の前だと……」
恥ずかしいとは言えない聖女だ。
「無理強いをする気はありません。ただ、少し叩いてみませんか?」
「え? どういうこと?」
「今からステージに魔楽器を設置しますので、そのチェックということで」
魔楽器にチェックもなにもない。
音響機器と楽器が一体化したようなものだから。
魔力一つでどうとでもできるのだ。
「ん~ちょっとくらいなら」
「あーしも行く!」
ケルシーが祖父の膝から飛び降りる。
膝の上に座って、お菓子を頬張っていたのだ。
「では、そうしましょうか」
ぱちんと指が鳴らす。
次の瞬間、おじさんたちはステージ上にいた。
以前に作ったものだ。
ここは演説するようにも使われる。
高台になっている舞台だ。
「うおおおおお! リー様! リーさまあああああ!」
周囲から雨のように声が飛んでくる。
それはものすごい歓声だった。
再度、指を弾く。
ステージ上が暗幕をたらしたように見えなくなった。
「なんでええええ! リー様ああああああ!」
おじさんの人気はスゴいのだ。
だが、そこはスルーして魔楽器を設置する。
センター奥にはドラム。
他にもギター、ベース、ピアノ、バイオリンなど。
「さ、エーリカ! 音をだしてみてくださいな」
……お、おう。
と、椅子に座る。
スティックを握って、振り下ろす。
「うおおおおお!」
たった一発の音に大きな反応が返ってくる。
痺れるような感覚に、聖女は酔った。
元来、お祭り好きなのだ。
テンションが上がってきたのである。
リズムを取りながら、適当なフレーズを叩く。
観客からの声を聞きながら。
それは聖女が知らない感覚だった。
「リー! すっごく楽しい!」
満面の笑みをうかべる聖女だ。
「あーしもやる! エーリカ、どんどとっと!」
「そっち! 楽器の演奏やないんかい!」
思わず、ケルシーにツッコむ聖女であった。




