1247 おじさん蛮族たちに頭のネジが外れてる認定をうける
「リー!」
放課後のことである。
学生会室に集まった中で、聖女が声をあげた。
「どうしましたの?」
にやっと聖女が笑う。
「演奏したい! このままじゃ腕がなまっちゃうわ!」
「なまっちゃうわ!」
ケルシーも乗っかってくる。
「と言っても……今はビブリオバトルの真っ最中ですし」
そう闘技場はビブリオバトルの会場として使われている。
あちこちで野良バトルが行われているので、区別するために学生会主催のものは闘技場で行なうようにと通達したのだ。
「ん~それはそうなんだけど!」
なにか言いたいことがあるのだろうか。
はて、と首を傾げるおじさんだ。
「なんかこうハデに音だしてやりたいの!」
「やりたいの!」
こうなったら言うことをきかないのが蛮族だ。
さて、とおじさんは考える。
「アリィ……どのくらい余裕がありますか?」
キャパシティ的にということだ。
その意図を察して、アルベルタ嬢は考える。
正直なところ、あまり余裕はない。
おじさんちでのんびりしすぎたというのもあるから。
こういうときに誤魔化しても意味がない。
だから正直に告げる。
「申し訳ありません。余裕がありません」
ぺこっと頭を下げるアルベルタ嬢だ。
おじさんは微笑む。
「よろしい。では、エーリカとケルシーはこちらで引き受けましょう」
ん? と顔をあげるアルベルタ嬢だ。
「エーリカ、ケルシー。うちに行きましょう」
「いぃやっっふうううう!」
蛮族たちは事務仕事が苦手だ。
というより、完全に戦力外である。
そのうち騒ぎ出すので、隔離した方がいいだろう、という判断だ。
「アリィ、キルスティ先輩。あとは頼みました」
「畏まりました」
「それとシャル先輩」
「ん?」
事務仕事を手伝っていたシャルである。
意外とそういう仕事も地味にできるのだ。
この辺りが蛮族とのちがいである。
「良ければ、先日言っていた迷宮での鍛錬にきますか?」
「ん~いや、今日はいいや。こっちの作業がたまってるからな。会長、心遣いだけ受け取らせてくれ」
「承知しました。うちの者には通達をだしていますので、空いている時間にでもお越しくださいな」
「ありがとう。助かるよ」
少しやりとりをして、おじさんは蛮族たちを見る。
こっちの話は聞いていなかったようだ。
「早く、早く~」
と急かしてくる有様であった。
「では、いきましょうか」
蛮族二人を引き連れて、颯爽とでていくおじさんだ。
今回は転移ではなく、馬車で帰る。
おじさんちである。
「うぇいうぇいうぇーい!」
今日もテンションが高い蛮族たちだ。
「たっだいまんもーす!」
「……お帰りなさいませ、お嬢様」
いつものように家令が出迎えにくる。
「ただいま戻りました。アドロス、早速で悪いですが手の空いている侍女、従僕の中で楽器の演奏が得意な者を集めてもらえますか」
「畏まりました。サロンでよろしいですか?」
「ええ、そのように。お願いしますわね」
スッと一礼して下がっていく家令だ。
「いきますわよ! エーリカ、ケルシー」
侍女たちに愛想を振りまいていた蛮族たち。
年上からは可愛がられるタイプなのだ。
同じ年代だと微妙だけど。
「がってんだー!」
てててとおじさんの後ろについてくる。
今日はまだ時間が少し早い。
弟や妹はまだ勉強をしているのだろう。
「にーははははは!」
サロンで腰を落ちつかせると、聖女が笑う。
「やっぱり実家は落ちつくなー!」
「いつからエーリカはうちの子になったのですか」
「にーははははは! 知らなかったの? もうとっくの昔よ」
なんともまぁずうずうしい蛮族である。
「さて、うちで手の空いている者を集めてもらっていますから。さすがに三人だと演奏もハデにというわけにはいきませんからね」
「ん~まぁ三人でもいいんだけどね!」
と言ってもだ。
おじさんは何でもできるが、聖女はドラムでケルシーは笛。
どうにもバランスが悪い。
「そういや師匠は楽器の演奏はできるの?」
聖女が侍女に問う。
「なにを言うのですか。もちろんです。私もお嬢様の薫陶を受けし者ですよ」
「サイラカーヤも楽器の演奏は上手ですわよ」
「へえ……そうなんだ」
「魔楽器の演奏も手こずりませんでしたし」
なんか意外という感じで侍女を見る蛮族たちだ。
「……なんですか、その目は?」
「ん~いや、リーんちにいる侍女さんとかスペック高くない?」
スペック? と首を傾げる侍女だ。
ケルシーはニコニコしている。
こういうときはわかっていない。
「まぁそうですわね。皆が優れていると思いますわよ」
そもそも公爵家に仕える人材なのだ。
優秀な者が多くて当然である。
「ま、そんなことよりもエーリカ、ケルシー。二人は演奏の腕がなまっていませんか?」
「ふっふっふ! やったらああ!」
威勢の良い蛮族たちだ。
しかし、それは最初だけであった。
いざ楽器を用意して演奏してみるが、ボロボロである。
少し触らなかったら、こんなものだ。
「あれ? こんなはずじゃ……」
「二人とも舞踏会の後で楽器に触っていましたか?」
「うんにゃ……触ってない」
苦笑するおじさんだ。
「それでは人前では演奏できませんわね」
「え? 人前ってどういうこと?」
聖女が疑問を口にする。
べつに人前でなくとも構わないのだ。
要はセッションをしたかったのだから。
「いえ、どうせでしたらうちの競馬場で演奏でもしようかと」
げえええ! とハデに驚く蛮族たちだ。
おじさんちの競馬場なら行ったことがある。
学園の闘技場よりも、よほど規模が大きい。
満席でなくとも、それなりに人はいるのだろう。
さすがにそこまでの規模は考えていなかったのだ。
「にへへへ……リ、リー」
少し声を震わせて、聖女が言う。
「それってやりすぎなんじゃないのかなー」
「ハデにやりたいと言ったのはエーリカでしょうに」
「確かに言ってましたわね」
と、侍女まで参戦してくる。
「い、いや……ケルシーが言ったんだって!」
「もが?」
お茶菓子を頬張っていたケルシーが目を見開く。
「もがんがもがんがー!」
「口にものを入れたまま話さない!」
ごちんとケルシーの頭に鉄拳を落とす侍女だ。
もがんがー! と悶絶するケルシーである。
「ええっと……それって決定事項?」
もちろんですわ、と笑顔になるおじさんだ。
聖女は思う。
――ぶっ飛んでいる。
蛮族とかそういうレベルじゃなくて。
頭のネジが外れとる、と。
「さ、そろそろ集まってきますから、演奏する曲を決めましょうか」
ニコッと微笑むおじさんだ。
超絶美少女のそれに聖女は初めて戦慄を覚えたのであった。




