1246 おじさん蛮族たちから抗議される
「あへあへうひはあ……」
聖女とケルシーは床に寝転がっていた。
ダメージが大きかったのだ。
ちなみに入室の作法はキルスティがクリアした。
このままでは埒が明かないと判断したのだ。
次に出現したのは挨拶の作法であった。
挨拶をする相手の身分に応じて、礼をする角度が異なるのだ。
ここではカーテシーをぶっ放そうとして失敗した蛮族たちである。
「得意だもんに!」
と言いつつ、盛大に失敗したのだ。
そして――侍女の幻影にゴツンといかれてしまった。
ここはパトリーシア嬢がなんなく攻略する。
さすがに御令嬢だ。
そして――三つ目の問題に進む。
これがまた難問であった。
なにせ課題は謝罪の作法なのだから。
状況としては目上の相手を軽く怒らせたというものだ。
実に蛮族たちが苦手なシチュエーションである。
「……なんで謝らないといけないのよ!」
聖女がそう言った瞬間だった。
侍女の幻影が現れて、タイキックが炸裂したのだ。
「あ゛い゛~~~!」
その場で崩れ落ちる聖女である。
リアクションは本物だった。
ぜんぜんやっていない。
「そっちが謝って! ギャルのケルシーに謝って!」
ケルシーも謝罪ができないタイプだ。
またもや侍女の幻影が出現する。
ケルシーにもタイキックが炸裂した。
「み゛ぃや゛~~」
ケルシーはお尻を押さえて転がった。
そして――やがて動かなくなる。
痛すぎたのである。
「先輩、どうするのです?」
「どうしようもありませんわね」
優等生組は顔を合わせていた。
ダンジョン攻略といっても何もしていない。
ただただ蛮族たちが作法を無視して痛めつけられただけである。
「せっかくの新しい階層なのです。もっと楽しみたかったのです」
ふぅと息を吐くパトリーシア嬢だ。
キルスティとともに、壁際にある椅子に座っている。
テーブルの上にはお茶のセット。
この二人はなんだかんだで自分の宝珠次元庫を持っている。
そこからお茶のセットをだしたのだ。
「少しずつ難易度が高くなっているわね」
「そうなのです。実に計算されているのです」
同意だと言わんばかりに、パトリーシア嬢が頷く。
「謝罪の作法ね。言い訳はダメ、過度に謝るのもダメ、相手の面子が立つようにするという点は押さえておきたいわね」
ちょっと声を大きくするキルスティだ。
蛮族たちにヒントをだしたのである。
だが、その蛮族たちは床に寝転がったままだ。
「まぁ謝罪の作法は難しいのです。本来なら衣服から考えないといけないのです。それに手土産にも配慮がいるです」
ちらりと蛮族たちに視線をむけるキルスティだ。
まだ、ダメなようである。
「そういったところを排除しているのだから、まだ優しいとも言えるのだけど」
ふっと笑うキルスティだ。
眼鏡のツルをくいとやる。
「あの子たちだとダメかもね」
完全に挑発である。
蛮族たちの心に火をつけようとしたのだ。
平時であれば、ここで蛮族は立ち上がっただろう。
できらぁ! と。
しかし、今は完全に心を折られていた。
幻影の侍女が容赦なかったからだ。
「ん~仕方ないのです」
アルルと使い魔を喚ぶパトリーシア嬢だ。
アルラウネのアルル。
まだ手乗りサイズの精霊である。
「あら、かわいらしいわね」
「そうなのです! とっても愛らしいのです!」
パトリーシア嬢が人形を抱くようにアルルを胸に。
「植物系の使い魔は回復が得意なのでしょう?」
「ですです! この子は回復も得意なのです!」
床に下ろしてやるパトリーシア嬢だ。
アルルはとことこと歩いて蛮族たちの元へ。
その小さな掌を蛮族たちにむける。
アルルの掌から蔓が伸びて、蛮族たちの身体に触れた。
淡く、優しい光が漏れる。
治癒の魔法を使っているのだ。
「とはいっても聖女であるエーリカには及ばないのです。もちろんお姉さまにも」
「まぁそこは仕方ないわね。エーリカはあれでも本物の聖女なのだもの」
「……以前、お姉さまが仰っていたのです。精霊も成長する、と。なので、アルルにはおっきくなって欲しいのです!」
ふんすと鼻息を荒くするパトリーシア嬢だ。
そうね、と言いながらもキルスティは少し苦笑いである。
蛮族たちの回復を待ちながら、他愛のない話をする二人だ。
意外とこの二人は相性がいいのかもしれない。
「ふっかーつ!」
お茶のおかわりを楽しんでいた優等生組。
そこへ蛮族たちの甲高い声が響いた。
どうやら元気になったらしい。
「にへへへへ! やったる、やったるもんに!」
聖女はまだやる気のようだ。
「エルフに負けの二文字はないもんに!」
ケルシーも元気いっぱいのよう。
やっぱり蛮族は蛮族なのだ。
「いったらあああ!」
ちょ、待つのです! と言うパトリーシア嬢の忠告も聞かず。
ぶぅんと中年男性の姿をした貴族が見える。
落ちついた低音のボイスが響く。
「キサマ、なにをしにきたのだ?」
「ふふーん! 謝りにきたんだってばよ!」
「それが謝罪する態度か!」
「ごめーんね!」
指でハートマークを作る聖女だ。
ちょっと上目使いになっているのが嫌らしい。
「で、ででで……でてけー!」
「おおん!? なんでそうなるんじゃあ! かわいいだろが! ええ、おい!」
貴族男性に掴みかかろうとする聖女だ。
しかし、その姿が一瞬にしておじさんちの侍女に変わった。
「げええええ! ち、ちが……し、師匠! ちがうんだってば……」
よおおおおおおお、と聖女が叫んだ。
お仕置きされたのである。
ごちーんと盛大に。
ばたん、と倒れる聖女だ。
ぷくくく、と笑うケルシーである。
「よっしゃあ! あーし出番だもんに!」
ケルシーが一歩前にでた。
貴族男性が言う。
「キサマはなにをしにきた! 私を怒らせたのを忘れたのか?」
「!」
直角に上半身を曲げるケルシーだ。
「ごめーんね! とでも言うと思ったかー! お前はあーしを怒らせた!」
上半身を曲げたまま、頭突きで突進するケルシーだ。
当然だが、その無防備な頭に正拳突きを合わされてしまう。
幻影の侍女によって。
「ばばばばばばば……」
はぁとため息を吐く優等生組だ。
なぜ謝りにきて、ケンカを売るのか。
その神経がわからない。
謝罪の作法だと言われているのに。
「まったく……パティ、治癒はできる?」
「もちろんなのです。でも、このままの方がよさそうなのです」
「……かもしれないわね」
二人はまたもや重苦しい息を吐いた。
そこへおじさんが姿を見せる。
見かねて転移してきたのだ。
「お姉さま!」
「リーさん!」
「ごきげんよう。キルスティ先輩、パティ」
ニコッと微笑むおじさんだ。
ついでに指を鳴らして、治癒魔法をかけてしまう。
むくりと身体を起こす蛮族たちだ。
「リー! どーゆーこと!?」
聖女が言う。
ケルシーは腕組みをして、うんうんと頷いている。
「ん? なにがでしょう?」
首を傾げるおじさんだ。
「私はヒリつくようなダンジョンがいいって言ったの!」
「言ったの!」
「だから、ヒリつくような仕掛けを作ってみたのですけど」
「ヒリつくの意味がちがう! こっちはたんこぶがヒリつくだけじゃない!」
「だけじゃない!」
ふんす、と鼻息を荒くする蛮族たち。
その姿を見て、おじさんはふふっと笑ってしまうのであった。




