1244 おじさんは迷宮作りのアドバイザーを得る
おじさんのてへぺろに悶絶する御令嬢たち。
そんな彼女たちを置いて、おじさんは一足先に迷宮に転移していた。
「さて……」
どうしようかと考えるおじさんだ。
『こにちは! ましゅたー』
「はい。こんにちは」
ディーパが声をかけてくる。
学園迷宮のコアだ。
まだアミラたちの様にアバターを作ることができない。
幼いのである。
そのため他のコアたちがディーパに構っていることが多い。
特に最近は引きこもりのコア、デメテルがよくきている。
今日ももちろんデメテルはいた。
が――おじさんにぺこりと会釈をして、少し遠くにいるのだ。
まだ人見知りは治らないらしい。
おじさんは治さなくてもいいと考える。
それもまた個人が持つ個性だと思うから。
前世のおじさんだって本当は人見知りだった。
ただ、生きるためにはその個性を消す必要があっただけである。
そのために、おじさんは人と関わるときはスイッチを入れた。
いや、どちらかと言うと仮面をかぶることが多かったのだ。
それで他人になったかのように振る舞った。
だが、完全に切り替えられるわけではない。
どこかでムリがでる。
そうした歪みを鉄の精神力でもって押さえつけたのだ。
とってもしんどい作業であった。
そうした苦労を知っているから、おじさんはデメテルに優しい。
ムリをしなくていいと思うのだ。
「どういうダンジョンにしましょうかね。ひりつく感じと言われても……」
おじさん的にはバトル以外で、となるとギャンブルしか思いつかない。
さすがに学園生が利用するのだ。
ギャンブルをギミックとして組みこむわけにはいかないだろう。
ん~と頭を悩ませているおじさんだ。
『今日はどうしましゅか?』
「そうですわねえ……」
と、おじさんはコアルームを訪れた目的を話す。
新しい階層を作りたいと考えていること。
そして、その階層をどう作るかという話だ。
『ひりつく……むずかしーです』
「ですわよねえ」
完全に同意するおじさんだ。
おほほほと笑っていると、デメテルが手をあげた。
「ん? どうかしましたか? 言いたいことを言ってくださいな」
「あ、あの……そういうの得意……です」
「ほう! 得意ですか!」
実に嬉しそうな表情になるおじさんだ。
ぱちぱちと拍手する。
デメテルは何度か首肯してから言った。
「心理を揺さぶって……みるといいと思います」
「ふむ。心理ですか」
具体的には? と返すおじさんだ。
こくんと頷いてから、デメテルが返す。
「例えば……部屋に入るとでるためには……等価交換が必要とか」
「ん~それはあれですか。次に続く扉を開けるためには何かを差しださないといけないという感じですか?」
またもや首肯するデメテルだ。
自分の話が通じて嬉しいのだろう。
ちょっと笑顔になっている。
「例えば……物とか、記憶とか、寿命とか、感情とか」
おうふ……。
随分とエグいことを考えるデメテルだ。
「最初は軽いけれど……先に進めば進むほど差しだすものが……重くなります」
物ですむのならいいだろう。
だが、記憶や寿命とか感情とかになると……。
おじさんは想像してみる。
『エーリカ! なぜ物を選ばないのです!』
『ばっかね! 物を選んだら報酬がなくなるでしょうが!』
『記憶がなくなるよりマシなのです!』
『大丈夫だって。これから思い出ってやつはいくらでも作れるんだから!』
実にありえそうな話だ。
蛮族である聖女とケルシー。
他の御令嬢たちで思い切り揉めそうである。
『ふふーん! 嫌な記憶ならなくなった方がよくない?』
『そりゃあケルシーは嫌な記憶ばっかりかもしれないですけど』
『なんだとー! 戦争かー!』
うん。
こっちのパターンでも揉めそうである。
「デメテル。他にもなにか案はありますか? 学生たちを相手にするのですから、そこまで本格的だと困りますわね。とってもいい仕掛けですが、それはデメテルの迷宮を作るときにとっておきましょう」
「確かに……マスターの仰るとおりかも」
『デメテルねーさま、しゅごい!』
ディーパに褒められて、でゅふふふと奇妙な笑い声をあげるデメテルだ。
どうにもものすごく嬉しいらしい。
頬がピクピクと引き攣るように動いている。
きっと笑顔なのだろう。
「例えば……」
またもやデメテルが思いついたようである。
「部屋をでるための仕掛けを解くには……二人必要。だけど、報酬は一人分しかでない……とか」
ああ――と納得するおじさんだ。
人数は変えてもいいだろう。
要はあれだ。
狩人を題材にしたマンガであった、レアアイテムを手に入れるには十五人必要だけど……ってやつである。
協力するしかないのだけど、誰が報酬を手に入れるのか。
そのことで必ず揉める。
誰を信用するのか、という話になってくるわけだ。
いや、最初に報酬に対して明確なルールがあったとしても、である。
そのルールが守られるのか微妙なところだ。
お宝が希少なものであればあるほど、ルールを守らない可能性がでてくる。
……ひりつく。
確かにひりつくのだけど、これまた強烈な心理戦になるだろう。
なるほど。
デメテルはこっち系が好きなのだ。
『しゅごい、しゅごい!』
純粋なディーパが褒める。
でぅふふふとにやけるデメテルだ。
「これはとっておき!」
ちょっとデメテルの声が大きくなった。
「フロアの形を……正方形にします。その中をさらに正方形の部屋で……区切っていきます」
ふむ、と頭の中でイメージを作るおじさんだ。
図面的には方眼紙のようなものである。
「扉は四方にひとつずつついています。どこの方向にも進めます。でも、扉を進んだ先も同じ部屋です。ただし、少しずつ内装がちがいます」
……ほう。
これはちょっと今までとはちがう形だろうか。
「その内装のちがいが正解へとたどりつく手がかりです。ただ、誤った道に進んでしまうと……」
「……どうなるのですか?」
「ちょっとだけ記憶に影響がでます」
「具体的には?」
「仲間の名前を思い出せなくなったり、部屋の内装のちがいがなんだったかわからなくなったり……」
デメテルが詰まらずに話せるようになっている。
得意分野の話だと調子よくいけるのだろう。
「ん~こう正常な感覚が失われていくというような感じでしょうか」
「そう! 自分が正しいかどうかわからなくなる!」
デメテルは繊細なのだろう。
だからこそ、引きこもっていたのだ。
ただ、世の中には蛮族がいる。
蛮族とは違和感など気にしない。
その方向性だと、ほとんどダメージを負わなそうである。
では、逆に蛮族たちがひりつくにはどうしたらいいのか。
ちょっと発想を変えてみたおじさんだ。
「ああ! そうですわ! こういうのはどうでしょう?」
ひそひそと話すおじさんだ。
それに頷いているデメテルである。
「どう思いますか?」
「マスター。それは……知ってる人には楽勝」
「でしょうねえ。では知らない人にとっては?」
「ものすごく効く!」
にんまりとするデメテルである。
「他にも何をするのも多数決をとるというのもいいかもです」
「多数決ですか」
「右に行くのか、左に行くのか。宝箱を開けるのか、開けないのか」
ヒヒっと少し引き笑いするデメテルだ。
「パーティの人数は偶数しか認めません」
実に意地が悪い。
奇数なら多数決でかんたんに決まる。
しかし、偶数なら揉めたときに同数になってしまう可能性がでる。
つまり、どうでもいいことで揉め続けることになるだろう。
『じゃあ、宝箱を開けたい派! ケルシーとアタシね』
『私とパティの二人は開けない派ですわ!』
『けっ! 優等生が!』
『なんと言われようと、この宝箱は怪しいですもの!』
このパターンだ。
絶対にまとまらない。
デメテルに任せきりにはできないだろう。
ただ、アドバイザーにはピッタリである。
ちょっと嫌らしい系の迷宮。
おじさんは、にやりと微笑むのであった。
誤字報告いつもありがとうございます。
助かります!




