1236 おじさんちの侍女も偶にははっちゃけたい
引き続き、おじさんちのサロンである。
ウドゥナチャから衝撃の発言を聞いた直後だ。
「うーちゃん、その辺りを詳しく」
ちょっと意外なところで繋がった。
そのことに好奇心を抑えられないおじさんだ。
「ん~正確なことは覚えてねえんだけどさ。オレが邪神の信奉者たちを抜ける直前にやったのがそれなんだよね」
それ――とは違法煙草のことである。
「なぜ、そんなものを作ったのです?」
「ん~そもそも当時の邪神の信奉者たちって資金が不足しててさ。で、手っ取り早く資金を作ろうと思ったんよ」
「となると……確か五十年前の話とか言ってましたわよね?」
うん、と頷くウドゥナチャだ。
そのことに目を丸くするガイーアである。
見た目だけなら、年下のウドゥナチャ。
それが想像していた以上に年上だったらしい。
「そうそう。そのくらい前かな。ただまぁ完全に開発できたかって言うと疑問でさあ。ほとんど霧草と変わらなかったんだよ」
霧草――正確には夢見草という名のものだ。
煙草のようにして吸うのだが――合法である。
医療目的にも使われるものだから。
「だからさ、それなりの中毒性があるってことはあいつらが改良したんだろなって。ガイーアが十年くらい前からあるって言ってたから、その辺りの時間のずれは開発にかかったと考えるのが自然かな」
「うーちゃん以外で、そういうのが得意な人材はいなかったのです?」
「ん~確か一人いたんだよな。確か――むーみんやんとかなんとか」
いまいち記憶力に定評がないウドゥナチャである。
イシドラのこともすっかり忘れていたようだし。
正解はミームーヤン。
学生会室に居ついている猫のことだ。
おじさんの魔法によって浄化されて、猫になってしまった。
とは言え――その事実をおじさんは知らないが。
「では、十年前に流行ったのは邪神の信奉者たちの仕業ということですね。今回は――どう思います?」
「ん~お嬢が潰しちまったからな。あいつらはかかわってないと思う。たぶんだけど――」
記憶力に定評がないウドゥナチャの評だ。
つまり――自信がないのだろう。
「まぁいいでしょう。シャル先輩から取引場所は聞いています。王都の平民街、東門近くにある神殿の裏だということですわ」
「あ~あそこかあ」
今度はガイーアが口を開く。
おじさんが説明しろと目で促す。
「いや、誤解しないで欲しいんですやすがね。あっしらもまぁ話には聞いてたんですよ、裏の取引をするなら神殿の裏だって」
「ほおん……情報の出所は聞かずにおきましょうか。それって神殿が関与しているかもという話ですか?」
であるのなら由々しき事態である。
神殿も一枚岩ではないのだろうか。
「いえいえ、そういう話じゃなくってですね。ええと、お嬢様は王都のことはあんまりご存じでない?」
「そうですわね。そもそも、わたくし家から出ませんし。学園には馬車で行きますので、王都を散策したことはありませんわね」
ほええとなるガイーアだ。
「家から出ないとかうそだー。お嬢、あっちこっ……ぐはああ」
侍女のきれいなアッパーカットが炸裂したのである。
まったくその動きが見えなかったガイーアだ。
「余計なことを言わずともよろしい」
「……はい」
ぶるるっと身体が震える。
言われたのはガイーアではない。
なのに、答えてしまっていた。
「あなたではありませんよ。そっちのうつけ者のことです」
侍女がにぃと微笑んで見せる。
その笑顔がたまらなく怖いガイーアだ。
「さて、その神殿が関与していないということですが、どういう確証があるのですか?」
おじさんの問いに、深呼吸をしてから答える。
「神殿の裏ってのは密売人って意味なんですよ。符丁? 隠語? って言うんですかね。さっきの話でもでた霧草なんかは神殿の扱いでしょう? なので正規の場所っていう意味なんです」
「おお、なるほど! つまり、正規の裏で密売人という意味ですか!」
なんかそれっぽい、と思うおじさんだ。
ちょっと、こういうのがわかると嬉しいのはなぜだろう。
「そのとおりでさあ。なんで東門にいる密売人から買ったってことになりやす」
「そういうことですか」
納得したという表情のおじさんだ。
では、と考える。
本当なら自分で動きたいところだ。
ちらりと侍女を見る。
が――侍女は首を横に振った。
まぁさすがにそれはムリがあるか。
自分で取引の現場に赴くのは。
「ということで、あなたたちが行ってきてください」
侍女がおじさんの言葉を代弁する。
こうしたことは言いにくいだろうから。
「それは……かまわねえんですがね」
「なにか懸念でも?」
「いや、冒険者組合が動いてるって話なら、もうその東門の密売人は捕まってるかもしれやせんよ」
「……それもそうですわね」
「かちあっちまうと面倒なことになりそうなんで……しばらく様子を見た方がいいかもしれやせんよ。幸いにもっていうか、オレも兄貴も冒険者なんで」
「ん~そうですわね。こちらが一気に介入すると面倒そうですわね。二人には組合で情報を探ってもらいますか」
「畏まりやした」
「ったくよー。誰だよ、空落ちなんて今さら持ち出したのは」
愚痴るウドゥナチャである。
それでも素直に腰をあげた。
「お嬢、温泉の約束忘れないでくれよ?」
「任せておきなさい」
「……お嬢様、私もひとついいですか」
侍女が口を開く。
「どうかしましたか?」
「少し考えていたのですが、シャルワール殿についてです」
「聞きましょう」
「お嬢様が推薦状をだされましたから。少し私が鍛えようかと」
「ほおん……」
「まぁ今のままでも優秀ではありますが、お嬢様に恥を掻かせることになりかねませんので」
「お好きになさってくださいな。ただし、シャル先輩の了承はとってからです」
「もちろんですわ」
にこりと微笑む侍女だ。
そして――言った。
「断る道理などありませんもの。私も少し冒険者組合に顔をだしてきます」
「……なるほど。いいでしょう」
仁義をとおしに行くのだと、おじさんは解釈した。
だから快く返答したのである。
「さ、行きますわよ。ついてきなさい、ポンコツたち!」
当然ながら、ウドゥナチャとガイーアのことだ。
ディ=ロンジョ再来である。
「誰がポンコ――ぐはああ」
ガイーアは思った。
もうなにも言うまい、と。




