1235 おじさん意外なことを知らされる
タウンハウスへ戻り、そこからマディ宅へと転移したおじさんたち。
なんだか人の気配が多い。
「ん~」
侍女が先頭に立つ。
多くの人がいるから警戒したのだ。
これまではマディと暗黒三兄弟の三人。
合わせて四人が基本だったから。
そこにゲストがいたとしても、せいぜいが十人もいかない程度。
だが、今は十人以上の気配がある。
警戒しても当然だろう。
「……賑やかですわね」
「あ? お嬢は知らないの?」
「なにをです?」
「いや、ほら。バベル師匠がさ、マディをイトパルサに連れて行ったんだよ」
ほおん、と声をあげるおじさんだ。
「事務仕事をやる人間がいねーってことで、商業組合に勧誘しにいったって」
「そういうことですか。で、組合の会頭たちに人材を紹介してもらった、と」
「そういうこと。なんかここ数日で人が増えてるらしーぜ。ガイーアが言ってた」
それでも侍女は警戒を緩めない。
マディ宅の地下から地上へ。
「お、お嬢様?」
最初に顔を合わせたのはガイーアだった。
偶然、通りかかったのだ。
「壮健そうですわね」
「お陰様で。姐さんに御用ですかい?」
「いいえ、今日はあなたに用があってきましたから」
「オレに?」
首を傾げるガイーアだ。
「ここでは少し他聞を憚ることなので」
「あ~そういうことですかい」
裏の仕事だと察しがついたガイーアである。
「少し待っていてくださいやすか。姐さんのところにこの書類を持っていきますんで」
両手に抱えている書類を軽く持ち上げるガイーアだ。
「いいでしょう。ここでは手狭ですから、うちのサロンにきてくださいな」
「かしこまりやした」
一端、おじさんたちはマディ宅を辞する。
ふぅと息を吐く、ガイーアだ。
どうも緊張してしまう。
未だにおじさんの前では緊張するのだ。
それは超絶美少女だからというわけではない。
おじさんの持つ魔力の底が見えないからだ。
「姐さん、ちょっといいですかい?」
「ん? ああ、書類ならそこに置いといて」
指示どおりにするガイーアだ。
「いや、今お嬢様がこっちにいらしたんですよ。で、少しあっちの仕事の件で用があるって話なんでさ」
「……ほおん。リー様が……」
「だもんで、ちょいと行ってきやす」
「ちょっと待ちなさい!」
マディから声が飛ぶ。
「プエチ会頭たちから預かったお土産を持っていって」
「あ~すっかり忘れてやした」
「それと……これはヴィー様に渡して欲しいんだけど」
「なんです?」
「新しい組織図。人材が確保できたから」
「なるほど。でも、そっちは姐さんが行った方がいいんじゃねえんですかい?」
眉根に皺を寄せるマディだ。
「できたらそうするけど、めちゃくちゃ忙しいの!」
「ご愁傷様でやすね」
けらけらと笑って、ガイーアは出て行く。
このままだと良くない。
きっとまた不満が爆発するだろうから。
「仕事が回るようになったらなったで、もっと忙しくなったんだけど!」
ガイーアの背にマディの声が届いたのであった。
「ほへええ」
公爵家のタウンハウスにも、なかなか慣れないガイーアだ。
何度かマディのお供でこっちにきたこともある。
ただ、いつも圧倒されるのだ。
そのスケール感と質の良い造りというものに。
決してハデではない。
だが、見る者が見ればわかるのだ。
作りの良さというか、なんというか。
「あの、リーお嬢様に呼ばれてきたんですけど」
近くにいた従僕に声をかけるガイーアだ。
何度か言葉を交わしたことがある顔見知りである。
「ああ――サロンでお待ちですね。ご案内しましょうか?」
「お願いします」
サロンにも足を運んだことがあるが、正直どこへ行けばいいのかわからない。
なにせとっても広いのだから。
「あ、これを奥様にお渡し願えやすか?」
先ほどマディから預かった書類である。
「魔道具開発局の新しい組織図でさあ。説明にあがりたいところですが、御要望のあった魔道具の開発で……とりあえず先に書類だけでもってことで」
「……なるほど。そうですか、承知しました。後ほど奥様にお渡ししておきます」
「マディもがんばっているようですね」
「ええと……姐さんのことはご存じで?」
「私はマディの二つ上ですから」
公爵家のタウンハウスなのだ。
そこで働く者は原則として、身元が確かな貴族の子弟である。
つまり、ここには関係者がたくさんいるのだろう。
「どうぞ」
他愛のない話をしていると、いつの間にかついたようだ。
「……で、兄さんはなんでそんなことに?」
ガイーアの目に飛びこんできたのは、ウドゥナチャが大の字になっているところだ。
「いででで……」
と、上半身を起こすウドゥナチャだ。
「おう、ガイーア」
「なんでそんな爽やかな笑顔なんすか」
「ま、ちょっとした手合わせてってところだな」
「ふん。なにが手合わせですか」
侍女が殴っただけの話である。
無礼なことを言うから。
ガイーアが席に落ちつく。
「さて、ではこちらの用件を伝えましょう。ガイーアは王都で違法煙草が流行っていることはご存じですか?」
「ああ――空落ちのことですかい? ええと……ブラッドなんとかって銘柄の」
「知っていたようですわね」
おじさんは笑みを深める。
「ああ――いや、王都で流行っているってのは初耳なんで。空落ちはもう十年くらい前からありますから」
「ほう? そんなに前から?」
頷くガイーアだ。
「え? ちょい待ち!」
ウドゥナチャが割って入る。
「お嬢の言ってた違法煙草って空落ちのことなの?」
おじさんが頷く。
さっきの説明では違法煙草としか言わなかった。
銘柄は関係ないと思ったから。
「うーちゃん、なにか知っているのですか?」
あーと頬を掻くウドゥナチャだ。
「知ってるもなにもなー。それ最初に作ったのオレだもん」
なんだってーと声をあげるガイーアであった。




