表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1267/1268

1233 おじさんのシリアスも長くは続かない


「うぷぷぷ……」


 聖女がソファに寝っ転がっている。

 そのお腹がぽこんと膨れるくらいには食べたのだ。

 お久しぶりのインスタントである。

 

 今生に至っては初めてのことだった。

 あのジャンクさの塊みたいなカップ焼きそばを頬張ったのだ。

 多少の失敗はあったが……ご愛敬というものである。

 

 その隣のソファーでケルシーも寝っ転がっていた。

 なにか天井を見て、ブツブツと言っている。

 

 こちらのお腹もぽこんと天を衝いていた。

 もはや小山である。

 平原の民の憧れであった丘の民、その丘を越えた小山のお腹だ。

 

「……よくもまぁ食べましたわね」


 嫌みではない。

 それは素直な賞賛であった。

 おじさんは感動していたのである。

 

 前世も食が細かったおじさんだ。

 晩年にはカップ焼きそばなら半分も食べれば十分だった。


 いや、それ以上は食べられなかったのだ。

 体調が悪くなるから。

 

 そして――今生は別の意味で少食だ。

 ものすごく燃費がいいから。

 

 サロンの中を見渡す。

 ぐでっとした薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)たちがいる。

 皆がお腹いっぱいだったのだ。

 

 特に男子たち。

 彼らはよく食べた。

 

 もちろん成長期ということもあるだろう。

 だが、馴染みのないジャンクの味にハマったのである。

 気づけば、フォークが止まらなかったのだ。

 

 あれこれと食べ、満腹の上限といったところだろう。

 ただ、彼らは蛮族ではない。

 貴族のお子様である。

 

 蛮族のように今すぐにでも横になりたい。

 しかし、ここは公爵家のタウンハウス。

 そんな姿を、おじさんに見せられない。

 

 いや、令嬢たちの前で見せることはできないのだ。

 貴族の男子たる矜恃というやつである。

 

 死屍累々だ。

 そんな様子をニコニコしながら見守るおじさんがおもむろに言う。

 

「そろそろ甘味の時間ですが……さすがに今日はいいですかね」


「はい!」


 と手をあげたのは侍女である。

 

「どうかしましたか、サイラカーヤ」


「私はいただきたいです!」


「元気でよろしい、ですわ」


 と、おじさんが在庫の中からケーキをだす。

 一口サイズの小さなものだ。

 

 お茶会用にと作ってもらっていたフルーツカードのタルトである。

 以前、母親の実家であるラケーリヌ家で食べたものだ。

 

「いただきます! これ、好きです!」


 パクッと一口でいく侍女だ。

 ただ、蛮族とはちがう。

 きちんとナイフとフォークを使うので、お上品なのである。

 

「ん~美味しいですわね」


「でしょう? このタルトは自信作ですからね。料理長と副料理長がよくやってくれました」


 壁際に控えている侍女や従僕たちも頷いている。

 彼女たちも気に入っているのだ。

 

「リ゛~、リ゛~」


 ゾンビのような声をだす聖女だ。

 うなり声のようにおじさんを呼ぶ。

 

「だ~べ~だ~い゛~」


 こっちはケルシーだ。

 さすがに蛮族である。

 無謀なことに挑む蛮勇を持つから蛮族なのだ。


「落ちついてからでいいでしょうに」


 お腹が破れてしまいますわよ、というおじさん。


「や゛~ぶ~れ~うううぷ」


 口を押さえる聖女だ。

 よくもまぁこの状態で食べたいというものである。

 

「ま、いいでしょう」


 ぱちんと指を鳴らす。

 眠りの魔法を使ったのだ。

 広範囲で。

 

 さすがに身動きがとれない中で、食べると言われてもだ。

 なので――強制的に眠りに落としたのである。

 

「さて、サイラカーヤ」


「……むぐぐ」


 急に声をかけられて、喉にタルトを詰まらせる侍女だ。

 おじさんがコップを渡してやる。

 ぐびりと飲み干して、侍女は苦笑いだ。

 

「わたくしの庭を荒らしている者を排除しますわよ」


 にこりと微笑むおじさんだ。

 ただ――その笑顔には迫力があった。

 

 いや、そう感じてしまったのだ。

 側付きの侍女以外は。

 だから、使用人たちは自然と膝をついていた。

 

「そうですわね。違法煙草の件といい、調子にのってますね」


「なら、決まりです。誰でもいいので、お母様に報告をしておいてくださいな。では行きましょうか」


 指を鳴らす。

 同時に姿を消す、侍女とおじさんであった。

 

「……お嬢様に貫禄がでてきたと思うんだが」


 従僕の一人がぼそりと呟く。

 

「そうなのよね。まるで奥様や御裏方様を前にしているような気がするわね」


「いいことじゃない。カラセベド公爵家――いえ、王国は安泰だわ」


 だよねーと全員が頷く。

 おじさんがいれば、王国の未来は明るい。

 公爵家の使用人たちの思いは一致しているのであった。

 

「えええ? お、お嬢?」


 ウドゥナチャである。

 今は廃都ン・デストに構えている拠点にいたのだ。

 

「うーちゃんの魔力はもう完全に捕捉していますからね。逆召喚も召喚もお茶の子さいさいですわね」


 むふふと微笑むおじさんである。

 

「ええと……」


 状況が飲みこめていないウドゥナチャだ。

 まだ目を白黒している。

 

「ん~殺風景ですわね」


 ただの部屋である。

 石造りの。

 

「いや、だってよ。べつにここの拠点は……」


「決めました! まずはここの改装からですわ!」


「ちょ……お嬢。なにを言って……」


「うるさい。お嬢様の望みを邪魔しない!」


 どん、と踏みこむ侍女だ。

 そのまま頭を振って、左の拳をだす。

 ――とフェイントを入れてから、反動を使って右フックを入れる。

 

 ……ぐはあ。

 

 侍女の動きに下手についていけるウドゥナチャだからこそきれいに決まった。

 常人なら最初のフェイントに反応できないのだから。

 

「ちょっと外に出ますわよ」


 颯爽と出て行くおじさんだ。

 廃都ン・デストの中では一般的な家なのかもしれない。

 

 まぁ廃都というだけあって、半ば崩れたものも多いのだ。

 その中では比較的にマシという建物である。

 小ぢんまりとしていて、なかなか趣はあるのだが……。

 

 廃墟と言っても差し支えがない。

 つまり、撤去してしまってもいいだろう、と。

 

 建物そのものを陰魔法で収納してしまう。

 一瞬で土地が更地になった。

 

「……」


 ウドゥナチャは無言であった。

 陰魔法なら当代随一という自負があったのだ。

 

 しかし、建物一棟を丸ごといくか、と。

 目の前で見せられたことが、半ば信じられないのだ。

 だって陰魔法でそんなことができるとは思っていなかったから。

 

「なにを呆けているのですか」


「いや……だってよ。建物丸ごと陰の中に入れちまったんだぜ?」


「なにを言っているのです。学園の旧闘技場だって収納したのですから、この程度のことは雑作もないのです。さすが、お嬢様と言うべきですわね」


 侍女の言葉に絶句するしかないウドゥナチャであった。

 

「ん~オクターナ、ちょっと木を融通してくれませんか?」


『承知』


 この地の統治者であるオクターナに声をかけると、すぐに返答があった。

 見ていたのだろう。

 おじさんは気づいていたのである。

 

 地面からにょきにょきと木が生えてきた。

 それなりの大きさの木だ。

 

 さて、どうするのか。

 

 木の構造をいかして、そのまま拠点としてしまおう。

 そう決めたのである。


 いわゆるエルフっぽい家の作りだ。

 一回作ってみたいとは思っていたのである。

 

 おじさんの前世で言えば、ツリーハウスが近いだろうか。

 

「にゃああ!」


 構想が決まったのだろう。

 ぱちんと指を弾くおじさんだ。

 

 地面から生えた巨木。

 だいたい高さは十五メートルくらいだろうか。

 それが変形していく。

 

「ま、こんなものですかね」


 木の洞の中に部屋が、枝の上にも部屋が。

 なんだか秘密基地のような雰囲気がある。

 もちろん、そのままでは狭いので空間拡張を使ってもいるのだ。

 

「うへえ……」


 おじさんとはそれなりに付き合いがあるウドゥナチャ。

 だが、目の前でこうも見せられると……。

 

「うーちゃん。あとで好みの家具を入れてくださいな」


「うい。ありがと、お嬢」


「どういたしまして」


 ニコッと微笑むおじさんだ。

 ウドゥナチャの顔は完全にひきつっていたが。


「ソファとテーブルくらいは用意してさしあげますわね」


 だって、なければこれからのお話ができないのだから。

 ずんずんと進んで行くおじさんと侍女である。

 

 完全にペースを握られてしまった。

 ウドゥナチャは、ほええと声をあげながらツリーハウスを見上げるのだ。

 

「うーちゃん、なにをしていますの!」


「はいはい! 今、行くってばよー」


 とたたと小走りをしながら思う。

 この木の家、なんか良い感じだ、と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ