1230 おじさん不在の冒険者組合で血塗の乙女は畏れられる
王都にある冒険者組合の一角である。
壁際にはいくつかのテーブルと椅子が置かれているのだ。
そこに座るのはシャルワール。
蒼天六騎という冒険者のヴォイドとダウリング。
そして――見習い冒険者だ。
シャルワールに声をかけたのが運の尽きである。
巻きこまれて、無理やりここに座らされたのだ。
どのみち違法煙草の話などは聞いておいて損はない。
いわゆる注意喚起というやつだ。
「で、こいつは?」
ヴォイドが見習いを見て、声をあげた。
見習い冒険者は実に肩身が狭そうである。
確かにシャルワールのことは羨ましいと思った。
偉そうなヤツだとも思った。
恵まれているヤツだとも。
そんないらだちをぶつけただけなのだ。
ただ、いざ金級冒険者たちと話をする機会を設けられると萎縮してしまう。
それが当たり前なのかもしれない。
シャルワールはちがうだけだ。
なにせ、おじさんという規格外を知っているのだから。
「いや、違法煙草ってことなら聞かせておいてもいいだろう? 組合の初心者講習では聞いてない話だし」
実に正論を言うシャルワールだ。
がしがしと頭を掻いて、ヴォイドが言う。
「まぁそりゃあそうなんだけどよ……」
じっと見習い冒険者を見る。
「お前……手ぇだしてねえよな?」
ぶんぶんと首を横に振る見習い冒険者だ。
そもそも王国では煙草を購入できる年齢が定められていない。
明らかなお子様が寄るような店でもないし、ある程度の大人しか嗜まないからだ。
わざわざ決めなくてもわかるだろう? 的なのりである。
ただまぁ支払えるだけのお金があり、かつ冒険者的な姿であれば売ってはくれるのだ。
「あ~まぁ見習いだと手をだすカネもないだろう? まぁあれか先輩に言われて、店に行くことくらいはあるか?」
ダウリングが言う。
今度は首を縦に振る見習い冒険者だ。
見習いの仕事は安い。
食っていくのにもギリギリといったところである。
「つかよー違法煙草ってくらいだから煙草店じゃ売ってないんじゃないの?」
またもや正論を吐くシャルワールだ。
「ま、それもそうなんだけどよ。出所は不明、ブラッドカールって銘柄の煙草だ。聞いたことあるか? 吸ってるヤツの間じゃ空落ちなんて呼ばれてるらしいけどよ」
「……空落ち。聞いたことねえ」
腕組みをし、ふんと鼻から息を吐くシャルワール。
見習い冒険者に視線を向ける。
「お、おれは……」
少し顔が青ざめている。
その様子を見て、シャルワールは軽く笑った。
「なあ、知っているならここで言っといた方がいいぞ」
「……なんでだよ?」
ふぅと息を吐く。
バカにしたわけではない。
説明するために、少し頭を回したのだ。
「第一にここにいる金級冒険者が調べてるってことだよ。そもそもな、そんな害のある煙草を初心者講習で言わないどころか、組合全体でも注意喚起してねえだろ。ってことは、だ」
シャルワールの説明を見習い冒険者はしっかり聞いている。
「ある程度、冒険者組合の方でも広まってるって考えた方がいいんだよ。で、その内実を調べてるのが、ええと蒼天六騎の人たちな。だから注意喚起って形をとってオレたちから情報を得ようと近づいてきたわけ」
「え? ええ?」
シャルワールの言葉に驚く見習い冒険者だ。
「金級の冒険者が動くってことはそれだけ組合も大事だって認識なんだよ。この手の話は単独で動くよりも人手を確保したいはずだから、恐らく信頼がおける金級冒険者の複数に話がいってる」
くわっと目を見開く見習い冒険者だ。
心底、驚いてしまったようである。
そして――シャルワールではなく、蒼天六騎の二人を見た。
ヴォイドとダウリングの二人は深く首肯する。
「かあああ! まったくこれだから。勘の鋭いお子様は嫌いだよ」
「うるせえよ。つか、わかりやすく近づいてくるから余計なことまで疑われんの! しっかりしろよ、金級冒険者」
シャルワールの言葉に、つい笑ってしまうダウリングであった。
まさかこんなにかんたんに見抜かれるとは、と。
「うーるせえ。お前が特殊なだけだ。さすがに学園で学生会出身だけはあるな」
「ってことで、知ってるなら話しとけよ。確かにその先輩だっけか? お世話になってんのかもしれねえよ。だけどな、このままだとお前も、お前の仲間も組合から追放される可能性だってあるんだぜ?」
組合はセーフティネットでもある。
そこから追放されたとなると、碌な仕事がない。
もちろんコネとかがなければという話ではあるが……彼にはないだろう。
「残念だけどな、そいつの言うとおりだ。おれっちも平民、見習いからのたたき上げだからよ。お前らの繋がりってのも理解できる。だけど、義理だなんだといって道理を曲げちゃいけねえんだ」
ヴォイドが少し声のトーンを落として話す。
「いいか、組合ってのは真面目にやってるヤツにはなんだかんだで手を差し伸べてくれるんだよ。だけどな、道理から外れたヤツにはその手は届かねえんだ。オレっちの言ってることわかるな?」
懐から煙草を取りだして、火を点けるヴォイドだ。
ふぅと煙を吐く。
もちろん違法ではない、正規品だ。
「……何回か買いに行ったことがあります」
「ほおん……その話を詳しく聞かせてくれ。ただ、誰に頼まれたってのは言わなくていい。お前は関係ない。いいか、わかったか?」
ヴォイドの言葉を聞いて、あからさまに息を吐くシャルワールだ。
「あのな、そいつわかってねえぞ。つか、なんでそんな言い方するんだよ。伝える気がまったくねえじゃねえか。こいつ、この話が終わったら、その先輩ってところにいって注意するだろうよ。金級冒険者が動いてるって」
なに!? とヴォイドが目を丸くする。
実に居心地が悪そうにしている見習い冒険者だ。
まさに図星だったのだろう。
「関係ないってことは、これから関係を持つなってことも含まれてるんだよ。いいか、その先輩とはなるべく顔を合わせるな。お前、仲間はいるのかよ?」
こくんと頷く見習い冒険者である。
「ってことで蒼天六騎で面倒みてやってくれよ。あんたら後ろ盾についたら、そいつも、その仲間も言い訳ができるだろ?」
「先回りして言うんじゃねえよ! オレっちがこれから言おうと思ってたのによ!」
このやりとりを見て、ダウリングは笑っていた。
「……で、どこに、何回買いに行ったんだよ?」
シャルワールは華麗にスルーを決めて、話を進める。
ここら辺は蛮族たち相手に鍛えられたのだ。
話にのると終わらないから。
「王都の平民街、あの……東門近くにある神殿の裏。創造神様の週に入る前くらいから、三回くらい買いに行った……あの! 本当に面倒を見てくれるんですか?」
「おう……このままじゃお前らもヤバいことになりそうだからな。とりあえず事件が解決するまではオレたちが後ろ盾になってやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ん。じゃあ、オレはこれで」
スッと席を立つシャルワール。
もう聞きたいことは聞けたし、これ以上の話も聞けそうにないから。
あとはお好きにどうぞという感じだ。
「ちょっと待てええい! お前だって後ろ盾が……」
はあともう一度、息を吐く。
そして――言った。
「オレの後ろに誰がいると思ってるんだよ?」
「ああん? おまえ、もう紐つきなの?」
少しぽりぽりと頬を掻く。
そして――言った。
「血塗の乙女」
「はあああああああん!?」
「マジで言ってんのかよ!?」
ヴォイドとダウリングの二人が大声をだした。
この二人は知っているのだ。
暴君と言われたあの侍女の若き頃を。
「稽古もつけてもらったし」
嘘ではない。
おじさんちで何度か組み手をしてもらった。
ただただ叩きのめされただけではあるが。
「……わかった。あいつの関係者には手をださねえ」
「だな。もう蹴られるのはイヤだからな」
うんうんと頷くヴォイドとダウリングであった。
二人ともなぜか股間を守るように、内ももを閉めていたけど。
「ってことで、お先。おつかれっした!」
そんな二人の冒険者の様子には気づかず、シャルワールは爽やかに組合を出て行くのであった。




