1223 おじさんは蛮族たちに相談する
おじさんたちがサロンでメンコ遊びをしていた頃である。
妹は目を覚ましていた。
隣をまさぐるがおじさんはいない。
その代わりといってはなんだが、モフモフがいた。
この手触りは剣歯虎たちだ。
少しモフモフを楽しんでいると、妹の身体に長いしっぽが絡んでくる。
ぬくもりを感じながら、妹はむくっと身体を起こす。
お手洗いに行きたくなったのだ。
部屋には侍女たちがいる。
「ソニアお嬢様、お手洗いですか?」
「……うん」
目をこすりながら寝台から降りる妹だ。
転ばないように侍女が一人、手を繋いでいる。
お手洗いを済ませて、ふわあとあくびをする妹だ。
「ねーさまは?」
「リーお嬢様ならサロンにいらっしゃいます」
「ん~ケルちゃん? エーちゃんもいるのかな?」
なんとなくそう思った妹だ。
子どもならではの直感というところだろうか。
あるいは別のなにか。
「お二方ともいらっしゃってますわね」
侍女が妹を抱きかかえて、寝台へと戻す。
「ソニアお嬢様、まだ少し熱があるようなので休まれた方がいいですわ」
「ん~」
と言いながらも剣歯虎たちをもふる。
相当大きい二頭だから寝台の上には乗れない。
ただ、妹の側に侍るように寝台の両サイドから上半身をのっけているのだ。
「承知しました。では、リーお嬢様にお伝えしてきますので」
ぐずっている訳ではない。
ただ、侍女は妹の気持ちが理解できたのだ。
なにせ姉が大好きなのだから。
少しの間でも一緒にいて欲しいのだろう。
病気のときは心細くなるものだから。
「ほんと!」
嬉しそうに声をあげる妹であった。
少しして、おじさんが顔を見せる。
その後ろには蛮族たちもいた。
「そーちゃん!」
聖女が妹の側に寄る。
「うん。顔色も良くなってるし、もう大丈夫そうね!」
でも、と聖女は妹に手をかざす。
ぺかーと光る聖女の手だ。
「あーしもやる! そーちゃん、元気になれー!」
ギャルのケルシーの手も光った。
「ありがと! エーちゃん、ケルちゃん」
「ふふーん。水くさいこと言うなってば。友だちなんだからね!」
「なんだからね!」
なんだかんだで蛮族たちは妹をかまう。
いつの間にか友だちになるくらいには仲が良いのだ。
「ねーさま」
おじさんを見て、にこっと微笑む妹だ。
まだ髪の毛が細く、柔らかい頭をなでる。
「少しまだ熱っぽいようですわね。ソニア、こちらをお飲みなさい」
おじさんが母親にも渡している栄養剤だ。
風邪のときはなんだかんだ言っても栄養をとって寝るのがいちばんである。
小瓶の蓋を開けて、妹に飲ませてやるおじさんだ。
「おいしー」
「でしょう? 王蜜水桃を使っていますからね」
ぎゅうと妹をハグする。
そして――眠りの魔法をかけてしまうおじさんだ。
安らかな寝息を立てる妹である。
そのまま寝台に寝かせ、おじさんは言う。
「ソニアのことは任せました。あなたたちも風邪が移らないように、こちらをお飲みなさい」
侍女たちにも栄養剤を渡すおじさんだ。
ついでに空気を浄化しておく。
「ありがとうございます。お嬢様」
深く深く頭を下げる侍女たちだった。
妹の部屋を後にして、おじさんと蛮族たちは私室に移っていた。
サロンではなく、おじさんの部屋だ。
「ん~あっちもいいけど、こっちも落ちつくわね」
どっかりとソファに腰掛けた聖女が言う。
ふわっと身体が包まれるような一人用のソファだ。
その対面にあるソファにはケルシーが腰掛ける。
「さて、少し確認しておきたいことがあります」
おじさんが話を振る。
「明日からわたくしも学園に行きますので、また野営訓練をしようと思うのです」
おじさんたちのクラスはほぼほぼ勉強ができる者が多い。
蛮族と脳筋三騎士という一部を除けばの話だが。
なので、座学よりも実践を重視したいおじさんである。
「野営料理でもするの?」
首を横に振るおじさんだ。
「今回は実戦とともに天幕を立てたりとかそちらを」
「あーなるほどなー」
テントを立てるのもコツがいる。
一度や二度やっただけでは覚えられないだろうから。
「エーリカは従軍経験があるでしょう?」
「うん。リーの魔道具の前は自分たちで天幕を立ててた!」
「ん~そうですわよね。今回はいつもの魔道具というわけにはいきませんね」
その確認をしたかったのだ。
「ケルシーはどうですか?」
「あーしも天幕は立てられるよ! でも、こっちの天幕がどんなのかしらにゃい」
その問題があったかと思うおじさんだ。
原則としてこっちの世界でもティピーテントが使われている。
いわゆるワンポールテントと呼ばれるものだ。
おじさんの前世では歴史あるテントと言えば、これになる。
数千年の歴史があるから。
世界中の遊牧民たちの間で、形こそちがえど使われていた。
いわゆるテントらしいテントが、キャビン型あるいはロッジ型だ。
原型が19世紀末から20世紀初頭というのだから、いかにティピーテントが使われていたかがわかるだろう。
おじさんが聖女に渡したテントの魔道具はパップテントだ。
こちらは幌馬車につけられていた犬用のテントが原型になる。
ちなみにパップとは子犬ことだ。
設営がかんたんで実用性が高い。
それを魔道具化したわけだ。
ただ、実践的な訓練を行なうのなら、旧式の方がいい。
いざというときにティピーテントの構造と立て方を知っているか、知らないかでは大きなちがいがでるから。
「ん~ちょっと下見に行きますか。うちの騎士団が天幕も持っていますから」
「おお!」
聖女とケルシーが元気よく立ち上がった。
やはり身体を動かすのが好きなのだろう。
おじさんも腰をあげた。
「お嬢様、私が騎士たちに先触れをしてまいりますので」
と、侍女が部屋を先に出て行く。
さすが安定の侍女である。
「わたくしたちも行きますか」
おじさんたちはゆっくりと騎士団寮に向かうのであった。
「ん~これが騎士たちの天幕ですか」
おじさんたちの前にの天幕が立てられていた。
小ぶりの個人用のものと、大きめのものの二つだ。
おじさんは知っている。
だって夏休みに領都へと行ったときは騎士たちが同行していたから。
ただ、よくは見ていなかったのだ。
軍で使っている天幕もティピーテントだった。
帆布を使ったもので、個人用の天幕は比較的に立てやすそうだ。
「お嬢様、とりあえずよく使われる天幕はご用意しましたが」
ゴトハルトがおじさんに言う。
侍女から話を聞いて、急遽用意したのだ。
「明日、学園の講義で天幕を立てる訓練をしようかと思っていまして」
「……なるほど。では、うちから教官をだしましょうか」
気が利くのだ。
隊長のゴトハルトは。
「その方が良いかもしれませんわね」
きゃほーい、と蛮族たちの声が響く。
いつの間にか立てられたテントの中に入っていたのだ。
蛮族らしくないが、ちゃんと靴を脱いでいる。
「意外と中は広いわね」
「うん。でも、これだとうちで使ったのと似てる!」
「神殿も同じよ。軍務のときにはこの天幕だったもの」
「ほおん……」
聖女もケルシーもこの形なら立てられそうだ。
「ゴトハルト、男性を一人、女性を三人用意しておいてくださいな」
「畏まりました。手配しておきます」
さて、とおじさんは口にだす。
「エーリカ、ケルシー。帰りますわよ。いつまでもいては騎士たちの邪魔になりますからね」
「ちょっと、リーも寝てみ? 意外と寝心地は悪くないわよ」
「わよ!」
「……仕方ありませんわね」
なんだかんだいっておじさんも興味があったのだ。
そもそも知識だけのキャンパーだけど。
体験できるものならしておきたい。
決して他意はないのだ。
たぶん……きっと。
誤字報告いつもありがとうございます。
助かります




