1224 おじさんのテント設営訓練が始まる
明けて翌日のことである。
妹はすっかり良くなっていた。
咳もしていなければ、熱っぽくもない。
朝から元気であった。
蛮族たちの手かざしが効いたのか。
あるいは、おじさんの栄養剤か。
はっきりしたことはわからない。
ただ、元気になったのは事実である。
それを見届けて、おじさんたちは学園に登校した。
蛮族たちを引き連れて。
宣言どおり、おじさんは野営訓練をスタートさせた。
本日は行き慣れているミグノ小湖の湖畔だ。
ここで宿泊するというわけにはいかない。
が、テントの設営訓練を行なうのだ。
おじさんたちが転移したときには騎士たちが既に準備を整えていた。
「ん? ゴトハルトがきてくれたのですか」
おじさんは隊長でゴトハルトがいたことに驚いてしまう。
「こうした訓練は下手な者に任せられませんので。最初こそが肝心ですから」
「ありがとう、助かりますわ。皆、こちらはうちの護衛騎士隊長のゴトハルトです。それとアストリッドたちはもう知っていますわね?」
そこにはおじさんちの訓練で顔見知りの女性騎士たちがいたからだ。
「お嬢様、天幕はこちらで用意しておりますので」
「……なるほど。いいでしょう」
おじさん、実はティピーテントも用意はしていた。
もちろん錬成魔法で作ったものだ。
「では男子班と女子はいつものように三班に分かれてくださいな!」
はい! と学生たちの良い返事だ。
なんだかそこに初々しさを感じてしまうゴトハルトである。
「男子班はゴトハルトに任せます。女子班はアストリッド初め、各女性騎士たちが一人ずつついてくださいな」
指示に従って、てきぱきと動いていく騎士たち。
さすがにその隙のない動作は見事という他はない。
「うほほーい!」
テンションが上がる蛮族たちが声をあげた。
「いいですか、ではかんたんに手順を説明していきます」
おじさんの講義が始まる。
「エーリカ、最初にすることはなんですか?」
「場所選びね!」
「正解ですわね!」
そう最初は場所を選ぶところからだ。
ミグノ小湖の湖畔は平地である。
また、大きな石や岩などもあまりない。
最初に選ぶのはそうした場所だ。
おじさんの説明を受けながら、騎士たちが手慣れた様子で場所の選定をする。
その様子を解説していく。
「まず、ざっとでいいので見た感じで決めていいです。あと、ここのように草のある場所は石がないか確認してください。意外と痛いので」
経験があるのだろう。
アストリッドが苦笑いしながら説明する。
さすがの蛮族たちも大人しく聞いている。
こういうのは座学よりも楽しいらしい。
「地面の小さな傾きなんかは寝て確かめてみるのが確実ですわね。どうしても斜めになっているのなら、高くなっている方が頭で低くなっている方に足を置くといいです」
御令嬢たちは初めてのことなので、実に真剣に聞いている。
「魔力に余裕があるのなら、魔法で地面を均してもいいですけどね」
この辺りがおじさんの前世とはちがう。
「場所を決めたら、まずはこの下に置く帆布を敷きます。位置決めをしたら、これで地面に固定していきましょう」
ペグである。
大きな釘みたいなものだ。
今回は三人から四人用の天幕である。
六角形の帆布、その角の先端にそれぞれループがついていた。
そこに紐を通して、ペグで打ち付けていく。
「ここまでできたら、次にこの屋根になる部分を重ねます」
ささっと動く女性騎士たち。
「そして――この中央に立てる柱を差しこんで立たせる。床に置く方はこの受けをはめてください」
小さな円形の台座のことだ。
その中央に穴が開いていて柱になる棒を固定できるようになっている。
ちなみにこの柱になる棒は連結式だ。
その方が持ち運びに便利だから。
ぐっと柱を入れて立たせる。
それで六角錐の形をした天幕ができあがった。
「おお!」
ほんのわずかな手順でもう天幕の形ができあがってしまったのだ。
それに感動して声をあげる御令嬢たちである。
「で、ここまできたら、さっきの屋根になる部分の帆布の裾についている輪っかを、さっき地面に打ちこんだ杭に引っかけておきます」
ぱちぱちと拍手が響く。
女性騎士たちは少し嬉しそうだ。
こんなことで褒められるなんてと思っているのかもしれない。
「さて、これで基本的には完成なのですが風の強い場所なんかでは飛ばされてしまう可能性があるので」
屋根になる帆布の中程についている輪っかに紐をとおす。
それをグッと引っ張って地面にペグで固定する。
「こうやって置けば風が強いときでも安心です」
見た目は三角形のこぢんまりとしたテントの完成だ。
見た目がちょっと可愛らしい。
「ああ、こんな感じになってたのね!」
聖女が言う。
「エーリカは軍に随行することもあるでしょうに。自分では立ててなかったのですか?」
おじさんが確認をとる。
昨日はそんなことを言ってなかった、と。
「まぁ実はそうなんだよね。アタシ、どっちかっていうと天幕の設営より料理係だもん」
なるほど、と首肯するおじさんだ。
お付きの神官が十人くらいいると言っていたはずである。
なら、役割分担をした方がいい。
「ケルシーはどうですか?」
「んとね、だいたい似てた! でもちょっとちがう!」
「ほおん、どんな感じなんよ?」
聖女が聞く。
「エルフが使ってるのは、棒がいっぱいある。こう――」
とケルシーが説明をするが、どうにも要領を得ない。
ただ、おじさんは理解できていた。
要するに、だ。
パスタを茹でる時にひねってお湯に入れるときの形状である。
床になる布の周囲に細い棒をさしこみ、上の方で束ねる。
そこに天幕をかけるという形だ。
おじさんが小さな棒を何本か使って実演してやる。
こういうのは口で説明するのが難しい。
だから見せた方が早いのである。
「リー様、この形状だと雨が降ってきたときに中に入りませんか?」
セロシエ嬢だ。
なるほど、とおじさんは頷いた。
「大丈夫ですわ。この場合、雨は棒を伝って地面に落ちますので、中には入ってきませんの」
「ほええ」
感心するセロシエ嬢であった。
「あとね、ここの真ん中のところで火が燃やせるようにする」
ケルシーが床になる布の中央部分をさして言う。
センターにポールを立てるテントだと、なかなかそうもいかない。
その辺は形状によるちがいだろう。
「では、自分たちで設営してみてくださいな。ゴトハルト、頼みます」
「畏まりました」
説明は一段落だ。
余り難しい構造をしていない。
なので、御令嬢たちも手順は理解したようである。
「最初に地面にこっちの布を敷いて……」
プロセルピナ嬢たちが布を手にして置こうとする。
が、リーダーであるケルシーがとめた。
「そこはダメ!」
「ん? どうしてだい?」
セロシエ嬢が理由を聞く。
「だって、そこはうんこが落ちてる!」
え? となる御令嬢たちだ。
そうここは短いが草が生えている場所である。
目視しにくいのだ。
しかも湖畔である。
動物や魔物も水を飲みにくるだろう。
当然だが、そうしたこともある。
「うんこ、どかす?」
ケルシーが聞く。
早い話がそうだ。
どかしてしまえばいい。
「べ、べつの場所でお願い!」
ニネット嬢が言う。
「そっかー! わかった!」
にぱっと笑うケルシーだ。
さすがに蛮族の経験は伊達ではないようである。
「にゃー! うんこー!」
一方で姦しい声があがってきた。
聖女だ。
「エーリカ、うんこって言わない!」
アルベルタ嬢から注意が飛ぶ。
「アリィだって言ってるじゃん!」
「言ったらダメなものはダメですわ!」
賑やかだ。
男子たちは意外と静かだった。
ゴトハルトが見張っているからだろうか。
わからないところは確認をとっている。
真面目だ。
「……天幕ひとつで大変ですわね」
侍女がぼそりと言う。
「サイラカーヤはどうしていましたの?」
「私ですか? 私は面倒なのでハンモックを使うことが多かったですわね」
「ほおん……そうなのですか」
「雨でも降らなければ、冬以外はそれでいけますから。さすがに冬は厳しいですけど」
「ん~ワイルドですわねえ」
ジーンズの短パン、ジーンズのベストを着た芸人さんを思いだすおじさんだった。
誤字報告いつもありがとうございます。
助かります。




