1222 おじさんちでメンコを楽しむ蛮族たち
うぇいうぇーい!
夕方である。
公爵家に姦しい声が響く。
蛮族たちが帰ってきたのだ。
もはや聖女はここが実家の如くである。
余りこちらにばかりこられても、だ。
その対応が面倒臭い。
なにせ養家には養家の面子があるのだから。
「リー! そーちゃんは元気になった?」
おじさんの周りをぐるぐるとしながらケルシーが聞く。
まるで落ち着きがない。
「今は寝ていますわね。でも、少ししたら元気になりますから」
「そっかー。早く元気になるといいね!」
屈託のないギャルのケルシーだ。
ニコニコとしているから、つい頭をなでてしまうおじさんである。
「ま、今日も色々あったのよ。その報告にきたのよ」
聖女が補足する。
「報告するほどのことがあったのですか?」
少し驚くおじさんだ。
なにがあったのだろう? と。
「いやまぁ……」
頬をぽりぽりと掻く聖女だ。
その姿を見て、ピンとくるおじさんであった。
ただの口実か、と。
本当に報告すべきことがあったのなら、アルベルタ嬢たちもきているだろう。
それがきていないということは、そういうことだ。
「ま、サロンでお話しましょうか」
場を整えるおじさんだ。
いつものサロンでお茶を飲む。
今日はコーヒーだ。
おじさんはいつものブラック。
聖女たちはコーヒー牛乳だ。
それもかなり甘い。
「で、どうしましたの?」
口火を切ったのはおじさんだ。
「それがさー聞いてよ、リー!」
ばくばくと茶菓子をつまんでいるケルシー。
それを無視して話をする聖女だ。
「リーに作ってもらったメンコあったじゃん。あれをお披露目してきたんだけど、いまいちでさー」
「いまいち!」
なんの話かさっぱりわからないおじさんだ。
メンコで遊んできたということ以外はわからない。
「いまいち? 評判がよくなかったということですか?」
うんにゃと首を横に振る聖女だ。
「めっちゃ楽しんでた! みんなけっこう夢中になってたのよ!」
「なってたなー」
うんうんと頷く蛮族たちだ。
「では、なんの評判が良くなかったのです?」
「んとね……」
少し口ごもってから、聖女がカードホルダーをだす。
「このさーこだわり抜いたカードがよくわかんなかったみたい」
聖女の前世でいうカードゲームをモチーフにしたものだ。
それはわからないだろう。
そもそもこちらにいる魔物でもないのだから。
「それもそっかー。青目の方ばっかり人気でさ、赤目は人気なかったもん」
「そうなのですか……わたくしはどっちも格好良いと思いますが……」
「でしょー!」
そこで侍女が割って入ってきた。
「お嬢様、それはもう皆様がこちらの青目を選ぶのは当然ですわ」
ホルダーの青目白銀竜を指さす侍女である。
「サイラカーヤは理由がわかりますの?」
「だって、こちらはお嬢様の色ですもの」
あーと言われて気づくおじさんたちだ。
蛮族たちも思わず唸っていた。
そこは盲点だった、と。
人の髪色や瞳の色。
それは大事なパーソナルカラーだ。
だから、贈り物をするときなどにも参考にされる。
ただ、おじさんたちはそうした点が抜けていたのだ。
前世の感覚があるから。
相変わらず無自覚なおじさんだ。
侍女はそんなおじさんを愛おしく思う。
「それにしても」
と、おじさんが話を変えてしまう。
「そんなにメンコが人気だったのですか? あまり受けないと思っていたのですが……」
「それがさーアリィもパティも声を張り上げて楽しんじゃってさ!」
「楽しんじゃってさ!」
ギャルのケルシーは言いながらも、ケーキを食べている。
「そんなに人気でしたら、もう少し量を作りましょうか。一度作っているので、手間はさほどかかりませんし」
「その方がいいかもしれないわね。意外と広まっちゃうかも」
にひひ、と笑う聖女だ。
「あーしもほしー」
ケルシーが笑う。
最近はすっかり、あーしと言うのが気に入ったようだ。
「でしたら一式作ってしまいましょうか」
ぱぱっと素材をだして錬成していくおじさんだ。
相も変わらず神業の如き魔法である。
一瞬にしてカードの山ができあがった。
次にカードホルダーもできあがっていく。
「おお……」
思わず、声をだしてしまう聖女たちだ。
「なんか数が多くない?」
「いえ、うちの使用人たちにも試してもらおうかと思いまして」
「なるほどなー」
「エーリカ、ケルシー。このホルダーにカードを入れていってくださいな」
「ほい、きたー。まかせとけ」
「まかせとけー」
こういうことなら素直に言うことを聞いてくれる。
ちなみに今回作ったのは、あのカードゲーム抜きのバージョンだ。
あれは聖女だけが持っていればいい。
「お嬢様、これはどうやって遊ぶものなのです?」
侍女が聞く。
その言葉を聞いて、蛮族たちがにやりと微笑む。
「それなら今からエーリカとケルシーが実践してくれますわ」
よっしゃああと声を荒げる蛮族たちだ。
血が騒ぐのかもしれない。
床にカードを二枚置く。
聖女のものと、ケルシーのものだ。
「こうやって……ここからはケルシー、あんたが先で良いわよ」
「むふふ。後悔するなよなー」
と、ケルシーが自分のメンコを一枚だして腕を振り上げる。
どっせええええええい!
ばちこーんと床にカードを叩きつけた。
だが、メンコはひっくり返らない。
「ちくしょおおおお」
「ま、今みたいに投げるわけよ。そんで……」
しゃがみこんで、メンコをひっくり返す聖女だ。
数字が描かれた面がでてくる。
「こうやって裏返ったら、その札をもらえるって寸法よ」
「……なるほど。では、お互いの札がなくなったら終了ということですか」
「まぁなくなるまでやらなくてもいいけどね」
「……ふむ。理解しました。では、私もやってみても?」
「もちろん」
聖女が頷く。
侍女がメンコを一枚、横に置く。
そして――もう一枚のメンコを取りだした。
瞑目して集中する。
「いきます。はいやー!」
――ぱぁんと破裂音が響いた。
え? と目を丸くする聖女だ。
なにが起こったのか理解できなかったから。
だって、侍女が叩きつけたはずのメンコがなかったのだ。
そして――猛烈な風が起こって、場に置かれたすべてのメンコが裏返っていた。
「お? お?」
ケルシーも理解できていないようだ。
そのときである。
頭上からひらひらと花びらが舞うように紙片が落ちてきた。
聖女の掌の上に。
「ええと……これって……さっきのゴブリンのカード?」
「ですわね」
同意するおじさんだ。
「お、おお、お嬢様!」
侍女が言う。
「この札が脆すぎます!」
「……そうですわね」
ケルシーは思った。
師匠はすごい、と。
侍女の周りをぐるぐるしながら言う。
「すごい! あーしもやりたい!」
「あの程度のことはすぐにできるようになります」
ふんすと鼻を鳴らす侍女だ。
やっふううと喜ぶケルシーである。
その様子を見て聖女は思った。
――できてたまるか、と。
やっぱりこの家の人たちはふつうじゃない。
メンコが破裂するって……。
またしても風評被害が生まれる公爵家の使用人たちであった。




